APU防火壁への初期荷重

▶︎解法に難あり (後編)



【課題】

圧力隔壁破断直後の過渡的な現象がAPU防火壁に加える荷重について


中編では事故調の解法と数値計算が実験設備のショックチューブ(衝撃波管)をモデルとしたものであり、初期荷重の算出には不適当であると指摘した。

後編では、実際に圧力隔壁が2.5(縮流断面積1.8)の規模で破断し、与圧空気が非与圧側に流出した場合に起こり得る過渡的な現象について検討する


🔲 状況設定と数値計算


🔳 過渡的な現象を以下に設定する

隔壁破断部からの噴出流が臨界流速と境界線を保ち、減衰せずにAPU防火壁に到達した瞬間に流路をバルブで閉鎖した状態   

1.


⚫︎ 噴出空気流はAPU防火壁に衝突し高圧縮されて「逆向きの伝播衝撃波」が発生し、その背後の圧力は看過できないものとなる

【注記】圧力隔壁破断が報告書通りの規模で、噴出流がAPU防火壁に到達する迄にその面積3.71㎡まで膨張拡大した場合に限る。


1. バルブの閉鎖に伴う伝播衝撃波

【設定】先ず右を正の向きとして.

 1.(a) 観察者静止の座標系の場合

 上流噴出空気流.速度u₁

 下流逆向きの伝播衝撃波背後.速度u₂0


次に噴出空気流の臨界速度のマッハ数0.913(与圧部気温25℃)を非与圧部の気温(DFDR−15℃)で補正して

(音速)a√(γRT). マッハ数M=0.913a から

0.913×[√(25+273.15)/√(−15+273.15)]

0.980  u₁ のマッハ数M₁0.980✴︎とする.

また. 逆向きの伝播衝撃波のマッハ数をMr. 速度をUr.  低圧側の初期圧力39.282kPaとする.


そして 1.(b) 衝撃波静止の座標系数値計算に用いるため以下に変換する.

上流状態1として速度 u₁ ▷u₁+Ur

下流状態2として速度u₂ ▷Ur  


【計算手順】

Mr.から圧力比P₂ / P₁ (逆向きの伝播衝撃波背後の圧力と初期圧力の比)を求めAPU防火壁に加わる荷重を導く

1.(b)に示す[衝撃波静止の座標系] 2. [定常な断熱流れに於ける基礎式]を基に関係式を提示する


2. 定常な断熱流れに於ける基礎式

数値計算

先ず逆向きの伝播衝撃波の速度u₁+UrとなりMr(u₁+Ur)/a₁M₁+Ur/a₁ となる.

次に基礎式 [連続の式運動量の式エネルギー式] u₁▷ u₁+Ur  u₂▷ Urを代入して組み合わせると下式(1)(2)が得られる.

P₁ :非与圧部の初期圧力39.282kPa  P₂ :逆向きの伝播衝撃波背後の圧力  APU防火壁部入口面積:1.228  APU防火壁の面積:3.71APU防火壁耐圧基準値:4.00psi.


(3)M₁ 0.980✴︎を代入するとMr1.748が求まりこれを式(2)に代入してP₂ / P₁ 3.398となるよって

P₂−P₁[(P₂/P₁)−1]×P₁ 

(3.398−1)×39.282kPa94.20kPa

の圧力がAPU防火壁部入口に掛かり

94.20kPa×1.228㎡≒115.7KN 荷重となる防火壁に加わる平均圧力(差圧).

115.7/3.71㎡≒31.19kPa(4.52psi)★に達し.

隔壁破断後瞬時にAPU防火壁の耐圧基準値を超えることになる



🔳 ..後編のまとめ

⚫︎事故調は圧力隔壁破断後の過渡現象(衝撃波など)について、APU防火壁に加わる荷重をショックチューブ(衝撃波管)をモデルとして過小に評価した上でAPU防火壁を破壊しないと考えられるという見解を示した

「報告書に於いて[..と考えられる]としたものはエビデンスレベルが高くないことを示す」


⚫︎過渡現象として衝撃波が発生したとしながら、その発生や伝播の過程機体尾部へ及ぼした直接的な影響について何一つ具体的には提示できなかった。それでも日航機に関与する衝撃波の記録が存在するからには、非合理でも機体内部で発生したものと結論付けた


⚫︎仮にも圧力隔壁の大規模な破断で2.5(縮流部断面積1.8)開口して噴出流の前面に衝撃波が先行したなら、その衝突による衝撃応力でAPU防火壁は瞬時に破壊されたであろう。また初期衝撃波が発生しない場合でも、条件は限られるが噴出流がAPU防火壁に衝突後に発生する伝播衝撃波背後の圧力でも容易に破壊するだけの力がある

内部には衝撃波の発生は無かったと考察するが、発生し得る条件を想定し検討した結果、いずれも隔壁破断直後の微小時間にAPUは脱落して垂直尾翼は内圧上昇による損壊を免れるという見解となった


🔳 結語

検討の結果、報告書が提示した圧力隔壁の大規模な破断とその過渡的な現象としての垂直衝撃波及びその反射衝撃波の発生はなかったものと推測する。