APU防火壁への初期荷重

▶︎解法に難あり  (前編)



報告書によれば、圧力隔壁破断により与圧室空気が非与圧側へ流出し機体尾部各室の圧力が急激に上昇した結果、垂直尾翼は耐圧値を超えて損壊したとされた。解法数値計算は理想気体の静的な状態変化という前提で行われた。

但し報告書.付録4.4では圧力隔壁が破断し開口した直後の過渡的現象について検討し、その結果は付表6に提示されている。

【引用】

⚫︎「与圧室空気が非与圧側に流出し、その前面に衝撃波が発生する

⚫︎「隔壁開口面積からはるかに拡大すること、流路に障害物がたくさんあることから衝撃波がそのままの強さでAPU防火壁に衝突するとは考えられない」と前置きしながらも、

⚫︎「障害物をすべて無視してAPU防火壁に加わる荷重を求めた」として付表6 (図③)に示した。


■ 事故調は衝撃波の直撃による荷重の検討は行なっていない。(検証の記録34参照)

ここでは初期の過渡現象に於いてAPU防火壁に加わる荷重の解法と数値計算を検討する



🔲 先ず、日航機の客室最後部の圧力隔壁が破断開口した際の状態変化に於ける事故調の設定を下図①に提示する。


図① タンクオリフィス(タンクの端に開けられた穴から流体を噴出させるもの)

噴出空気流は隔壁破断部直下で開口面積2.5㎡よりも縮流(チョーク)して流れの断面積は1.8と設定された。図①のように開口部に先細ノズルを付けたものと同様になる。


(a)非与圧部の圧力(背圧)Pbが与圧部の臨界圧力より高い場合流速は亜音速になる

出口の圧力=Pbである


(b)非与圧部の圧力(背圧)Pbが与圧部の臨界圧力と等しいか低い場合流速は臨界速度(0.913×音速)になる

出口の圧力=臨界圧力P✴︎(与圧部圧力×0.528)である圧力差に関わらず出口は臨界圧力P✴︎を維持する

 隔壁開口直後はこの(b)のケースになるが微小時間である。



🔲 次に事故調の解法を分析する図②.

計算式の記載はないが以下の方法である。 

図②  付録4.付図1


[ケース1] 衝撃波APU防火壁部入口面積(1.228)に相当する部分が全く減衰せずにAPU防火壁に衝突し、その反射衝撃波の背後に生じる圧力によって加わる荷重


▶︎事故調の計算 

衝撃波の一部が全く減衰せずにAPU防火壁に衝突し..に関する数値計算はしていない。反射衝撃波背後の圧力による荷重のみである。

 

与圧部圧力と非与圧部圧力との比を98.997kPa/39.282kPa2.52 (初期圧力比). また反射衝撃波背後の圧力と非与圧部圧力との比を2.454として39.282kPa×2.45496.398kPa反射衝撃波背後の圧力とし、96.398−39.28257.116kPaの圧力がAPU防火壁部の入口に加わり、APU防火壁入口面積との積で57.112kPa×1.228 70.1 KN✴︎ の荷重とした。


[ケース2] 噴流のAPU防火壁入口面積に相当する部分が全く減衰せずにAPU防火壁まで流れ、そこが噴流のよどみ点圧力になった場合の荷重


▶︎事故調の計算  

与圧部圧力と非与圧部圧力の差にAPU防火壁部入口面積を積して(98.997−39.282)kPa×1.228 73.3 KN✴︎

の荷重とした。


図③  付録4. 付表6

【補足】付表6の不確定な数値について

⚫︎衝撃波マッハ数1.227 ▷検証の記録39より非与圧部の気温を−42.5℃とし機体尾部がラバーノズル様に噴出空気流を有効的に加速させた場合の計算値とほぼ一致した。

⚫︎反射衝撃波背後と初めの圧力との比2.454 ▷解析対象



🔲 事故調の解法と計算に於ける問題


 [ケース1] 先ず衝撃波の衝突による荷重を試算することなく加算していない 。これは止むを得ないとしても、反射衝撃波背後の圧力による荷重の算出に於いて解法に難がある。反射衝撃波背後の圧力と非与圧部圧力(初めの圧力)の比を2.454としたのは、ショックチューブ(衝撃波菅)に関する式で算出した数値と判明した。▶︎ 中編で分析する

⚫︎荷重70.1KN✴︎は本来の数値より大幅に下方修正したものと思われる


 [ケース2] は第2.5(隔壁直下流部水平尾翼貫通部)間の仕切(障害物)を取り払い1つの室として、噴流がAPU防火壁部入口面積分のみに加えた荷重を算出している。しかし噴流が全く減衰しない場合とはいえ臨界圧力P✴︎を考慮しなければならない

そして障害物を全て無視したのであれば2.5.6室を1つの室として、[(98.997kPa×0.528)−39.282kPa]×APU防火壁の面積3.71㎡≒48.2KNの荷重とするのが妥当といえる。

⚫︎73.3KN✴︎は❶[ケース1]の荷重を控えめに印象付ける紛らわしい数値であり、過渡的現象としては意味の無い数値といえる。


  反射衝撃波背後に生じる圧力は如何程か

解法.数値計算の更なる分析及び実際にAPU防火壁に加わる荷重は【中.後編】で検討する。