前向き加速度0.047Gは噴出流で得られるのか



報告書.付録6

DFDRに基づく事故機の飛行状況】参照

「異常事態発生の18243570に前向きの加速度0.047Gが記録され、11 tの前向き外力が作用した。APU防火壁部の断面積を5800平方インチとして4.2psiの圧力差がAPU防火壁部で機体尾部を離断させ、前向き外力を発生させたと考えられる」とある。


■ 果たして機体尾部からの噴出流による推力でこの事象が起きるのかを検証する。

DFDR前後方向加速度(LNGG)には35″4535″70に有意な前向き加速度が生じて0.047Gが記録された 

0.5秒間(32ワード)の内に最大0.047Gの増加を記録したことになる.


【単位の変換】

1ポンド▷0.4536kg

1kg(旧.力の単位)▷9.80665N(現.力の単位)

1.0G=9.80665m/s²

1psi ▷0.145kPa

1インチ▷0.0254m


事故調の計算】修正

先ず123便の離陸重量527333ポンド

▶︎239198kg と加速度+0.047Gから

1.0G9.80665m/s²より

0.047Gを加速度a≒0.461m/s²と変換して

Fma (ニュートンの運動方程式)を適用し

F 239198kg×0.461m/s²110270 N ★

の力が働いたことになる


また1kg(力の単位)9.80665 Nから

110270N ▶︎ 11.24 t (事故調の採用単位)の力が働いたことになる。


次に5800平方インチ▶︎3.741(APU脱落後の機体尾部開口面積)から

110270 N ÷3.741() 29476(N/)

29.476(kPa) 4.27psi(差圧)★ と算出


単位の変換により報告書の数値と少々差はあるが、事故調は11.24t の力を差圧4.27psiに相当させたことが判るこの見解が誤りであることは後述する。


補足ここでの差圧はAPU脱落時の機体最後部である6(APU防火壁部)の圧力と、大気圧5.70psiとの差圧4.27psiということになる。 

APU防火壁の耐圧基準値4.00psiで付録4.付図4(c)図①の読み取りでは4.02psiである。基準値ならば差圧4.27psiに達する前にAPUは破壊されたことになるが、補正係数0.71.3の誤差範囲内としたようである。 

(この補正係数には根拠が示されていない)


図① 付録4.付図4(c)

6: APU防火壁部 0.051秒時に最大差圧4.02psiを記録し. APUは破壊された


■ 噴出流による推力を算出する


APU防火壁は0.051秒時に破壊されてAPUは脱落した。この時の噴出流による推力は0.050秒時の計算数値を用いると近似する。

検証の記録35()にて

0.050秒時の隔壁を通過した直下の縮流部に於ける噴出流速は217m/s(亜音速)、噴出空気流量は364.5kg/sであった

以降はどちらも減少の一途である。

補足0.050秒時は与圧部の臨界圧力51.4kPa (97.3kPa×臨界圧力係数0.52851.4kPa)よりも隔壁直下流部の背圧72.9kPaが高いので亜音速流になる


事故調はAPU防火壁部の差圧(4.2psi)と同部開口面積(3.741)を推力(APU防火壁部で機体尾部胴体を離断させ、更に前向きの加速度を与えた力)としたが、差圧4.2psi(静圧)は外部推力としてAPU防火壁部で機体尾部胴体を離断させた力に過ぎない

推力=内部推力+外部推力

であるから、機体に前向きの加速度を与えた力は噴出流の内部推力である

噴出源は圧力隔壁破断部であり、突出した前向き加速度に対比させるならば噴出源に於ける噴出流の内部推力を算出しなければならない

外部推力▶︎流体が外壁に働く圧力など

内部推力▶︎流体が管内に及ぼす推力


この噴出流が垂直尾翼の点検孔やプレッシャー.リリーフ.ドアには向かわず、隔壁直下流部水平尾翼貫通部▷APU防火壁部を直通し、機体尾部から噴出したとして最大推力値を求める。

補足0.051秒のAPU脱落時は非与圧部各室の圧力は急上昇中であり、APU開口部に向かう空気流は隔壁破断部からの噴出流の何割かのみである。また隔壁通過後に縮流部で臨界流速(0.913×音速)に達することのない亜音速流は、隔壁直下流部で流路が急拡大すると確実に減速し、再加速する可能性は皆無である。



⚫︎計算方法

図②  縮流部を先細ノズルに見立てた図を参照

先細ノズルの出口はタンクオリフィスの縮流部に相当する

背圧(圧力隔壁直下流部)は与圧部の臨界圧力より高く亜音速流になる。この場合、ノズル出口(縮流部)の圧力Pe=背圧Pbとなることに注意

Ae.出口(縮流部)の面積  P₀. 与圧部圧力  Pe.出口の圧力  Pb.背圧  Me.質量流量  Ue.流速  として衝撃関数から導かれる式で推力を求める

()衝撃関数


日航機を事故調と同様にタンクオリフィスに見立てると上式の左辺 I 推力Fになり、右辺を変形させると

 (Me×Ue) + (Pe−Pb)Ae となる。


⚫︎計算結果

推力FMe×Ue + (Pe−Pb)Ae

PePbから右辺右項の外部推力は0となり

最大推力Me×Ue(内部推力)

364.5kg/s×217m/s

 79097 N

と算出され、実際に機体を押し出した前向き外力110249 Nに及ばない機体に与え得る加速度は

Fma 及び1.0G9.80665 m/s²から

79097N239198kg×a  a0.3307m/s²

0.3307÷9.80665 ▶︎ 0.034G となった。



【補足説明ジェット推進

ジェット推進は噴射口から噴き出す気体に働く作用に対する反作用として説明される。

反作用の力: F は推力と呼ばれ、噴射気体への作用は単位時間に排出する気体の運動量、すなわち気体の質量流量 と有効排気速度 uの積で計算できる

(宇宙科学研究所.ロケット弾道学から引用)



 まとめ

計算結果により、機体尾部からの噴出流の推力による前向き加速度は最大でも0.034Gとなり、フライトデータ上の0.047Gで機体を加速させる推力は得られないことになった。よって機体に前向きに作用した力は内部からの噴出流に因るものではない

異常事態発生の18243570にフライトデータに記録された前向きの加速度+0.047Gの原因は、内部の作用でなければ外部からの作用と推察する