圧力隔壁破断で垂直尾翼は損壊しない(前編)
報告書は、先ず圧力隔壁の開口面積1.8㎡を基準として、与圧空気が圧力隔壁破断部から非与圧部に急激に流れ込み、機体尾部は過剰に圧力が上昇して垂直尾翼は損壊したとした。
参照
付録4【後部圧力隔壁からの与圧空気の流出の数値計算による検討】P.53〜
特に「1.検討事項(4)垂直尾翼損壊とAPU防火壁損壊」
🔲 圧力隔壁破断後の機体尾部に於ける現象の中でも、APU脱落から垂直尾翼損壊までに起こった現象に焦点を当てて検討する。
■先ず、報告書の「理想気体に於ける静的方法による質量保存法則及びエネルギー保存法則の適用」には与圧部に限り同意するが、非与圧部の圧力上昇を【静的】としたことには異論がある。
噴出流が音速を超えて衝撃波が形成されたとしたこと. 不安定現象下であったこと. 及び隔壁破断部から胴体尾部へ流路が急拡大した流れ場であったことを考慮すべきであった。
■次に、隔壁破断部からの噴出流の初期速度が超音速に達して衝撃波が発生したとするならば、直接的なAPU防火壁の破壊とAPUの脱落を綿密に検討すべきであった。
「臨界圧力は0.990気圧(客室与圧)×0.528(臨界圧力比)≒0.522気圧となり、非与圧部の背圧(=大気圧0.393気圧)の方が十分低い条件下で、事故調は衝撃波のマッハ数を1.227とした」
報告書では衝撃波の解析は不可能に近いとしながらも、以下に条件付きで計算した。
ここで重要なことは、
【ケース1】は決して衝撃波の直撃による荷重ではないことである。反射衝撃波背後の圧力上昇による荷重しか示していない。
【ケース2】は衝撃波という表現を避けて、噴出流が減衰されずに圧を加えた場合としている。これは静的で一様な圧力上昇と不安定現象の混在であることを示唆しており、決して衝撃波の衝突ではないことに注意を要す。付表-6
⚫︎補足: APU防火壁の耐圧の基準値は4.00psiと設定されたが、付録3. APU防火壁付近の強度解析では3〜4psi程度と推定された。基準値は最も厳しい値で設定された。
ケース1のイメージ図: 噴出流前面の衝撃波と後方に控える圧縮波
実現象では、不足膨張となるか又は加速した超音速の噴出流が亜音速流に減衰する領域で膨張衝撃波を形成するが、報告書の条件下では無いものとする。また、管内一杯に拡がって進む超音速流とは違い垂直衝撃波は生じない。
結局、事故調は衝撃波の衝突による荷重の解析をあたかも行ったような文面にしながら行っていない。結果的に、衝撃波の直接荷重による破壊はなく静的な圧力上昇による破壊だと強固に結論付けた。
但し「付録4. P61 衝撃波によってAPU防火壁が損壊したとしても、基準ケース に比べ0.033秒早くなるだけで他の現象に殆ど影響を与えない」と付加的な文章で結んでいるのは見過ごせない。付録4. P56の基準ケースの場合APU防火壁は0.051秒で破壊となるので差し引き0.018秒で破壊となる。計算をやり直すと非与圧部各区域の圧力のピークは大幅に下がり、衝撃波によるAPU防火壁の直接破壊では、報告書の垂直尾翼破壊のプロセスは破壌するのである。
「圧力隔壁からAPU防火壁までの長さは約7.6mであり、衝撃波のマッハ数を1.227とすると0.018秒で到達に一致する」
以下、報告書が分割した各室を区域名と数字のみ表示する. 付図-1 ❶〜❽
■機体尾部各区域の圧力上昇
報告書の解説では、圧力隔壁破断から0.051秒後にAPU防火壁が破壊されて機外へ大きく開口。その後も更に❸垂直尾翼中央部の内圧が急上昇し続けて0.326秒後に差圧4.75psiに達して垂直尾翼は損壊したとしている。
その間0.275秒間である。
非与圧部の圧力が静的に上昇したとの前提で、APU脱落後もその条件下の空気流の慣性で❸垂直尾翼の点検孔に流入し続けたと仮定して計算したようだ。
APU脱落からの0.275秒間はこの事象に於いては長時間である。
機体尾部後方は3.971㎡の断面積で大開口し、噴出流の主流は後方の機外へ放出された。隔壁の開口部1.8㎡から機体尾部胴体16.3㎡に急拡大した区域では空気流の剥離と渦流が発生したであろう。この状況で静的な圧力上昇と慣性の流れが垂直尾翼の点検孔に大量の空気流を押し込んだとは到底考えられない。図①
図① 機体尾部(模式図)
紫: 圧力隔壁 黄: 風路断面積(APU防火壁脱落.開口部3.971㎡. プレッシャーリリーフドア0.485㎡. 垂直尾翼点検孔0.208㎡) 赤: 噴出主流 黒: 水平尾翼貫通部
図② 細いノズルからの超音速流の一例
前編まとめ
◉圧力隔壁が破断して1.8㎡開口したなら. 噴出流が形成する初期の衝撃波がAPU防火壁を一瞬にして破壊した可能性が高い。
◉圧力隔壁破断後の非与圧区域❷❺❻の初期圧力は、衝撃波及び反射衝撃波の直接的な荷重に依存する。続いて衝撃波の後方から圧縮波が押し寄せて荷重を掛けるので流れ場は不安定現象下となり、静的に一様な圧力上昇とはならない。
◉APU脱落後の噴出主流は大方APU開口部から外界に放出され、❸へ向かう空気流は急速に減少する。更に、隔壁破断部から❷隔壁直下流部へ内径が急拡大することで、❷から❸垂直尾翼点検孔に向かう流れは、胴体内壁に殆ど接することなく渦流に遮られたものと思われる。よってAPUの脱落後は垂直尾翼の内圧上昇はほぼ無かったと推察する。
後編へ続く