日本航空123便を襲った衝撃波の正体



1985.8.12  18:24′に日本航空123便の垂直尾翼と機体尾部は、超音速機が掠めたことによる衝撃波で破壊されたとした。今回は「検証の記録3」を補足する。


【機体内部の衝撃波】

確実に言えることは、伊豆半島にソニックブームとして伝わった衝撃波は日本航空123便の機体内部で発生したものではない

仮に後部圧力隔壁に1.8㎡の開口部ができてラバーノズルの働きをしたとすれば規模の小さな衝撃波は生じるだろう。しかしながら、真後ろのAPU防火壁に衝突して破壊することは可能でも、反射波は著しく減衰.干渉して方々へ散り亜音速流となって反射衝撃波は生じない

仮にAPU防火壁と機体尾部を吹き飛ばして更に超音速の衝撃波として後方に突き進むことが出来たとしても(出来ないが)、向かう方向は衝撃波の形態上、機体後方の東であり西の伊豆半島に向かうことはない。

よって機体内部からの衝撃波では有り得ないのである。

()機体と見立てたノズル流れの衝撃波


【機体外部の衝撃波】

さて、この事故の場合は超音速機の斜め衝撃波が基となって垂直尾翼上で強力な入射衝撃波と反射衝撃波が発生したとする。両者が融合したマッハ衝撃波が、接した垂直尾翼を破壊し、更に垂直で同心円状の衝撃波を形成して進行方向の前後上下に拡がったものと考えられる。(後述する)

同時刻に遥か後方の三浦半島先端の城ヶ島でもソニックブームと思しき目撃証言があった。(釣り人2名が雷の遠吠えの様な音を聞いて通報した これを考慮すると、周知の超音速機が形成する円錐状の衝撃波は後方へは伝播しないので、この事例で生じたソニックブームの原因には該当しないことになる


【考察】

先ず、超音速機は、主に機体先端と後部の2箇所で斜め衝撃波を形成する。超音速機の先端に生じる第1波の斜め衝撃波(付着衝撃波や離脱衝撃波)は後部で発生する第2波の衝撃波とやがて重なり円錐状または弓状に拡がる。だが123便を掠めた際は、近接していた為に第1.2波は分離した状態で垂直尾翼に達し. 新たに特殊な衝撃波を形成した


1 . 斜め衝撃波 

()超音速流Mが凹面で向きを変える際に発生する斜め衝撃波S₀ . 傾斜の立ち上がりが垂直尾翼の継ぎ目に相当する. 

()超音速機の先端から生じる斜め衝撃波S₁ 

この衝撃波と後方に控える超音速流が(左右向きを反転して)上図のM₁に相当し衝撃波角βのライン付近でS₀をも発生させて、入射衝撃波が強力に増幅された.

()斜め衝撃波の(a)付着衝撃波(b)離脱衝撃波の違い

bの方がθ(流れの転向角)が大きくなる.

この事例はbと推定する.


M. 超音速流  β. 衝撃波角  θ. 流れの転向角


次に、垂直尾翼の垂直安定板と方向舵の継ぎ目縦溝であり、ここがフォーカスとなる。掠めた際の入射衝撃波S₁(機体先端からの第1)S₀の発生と共に融合して増幅した後、なだらかな凹面に比べて継ぎ目では著しい減速を強いられるそこに重ねて押し寄せる超音速流は過密な圧縮波となり、更に第2波の衝撃波に押されて異常高温となって膨張が一気に反射波を強い反射衝撃波に加速させる。そして入射衝撃波と反射衝撃波が融合した強力なマッハ衝撃波を形成したと考察する。(2)


2. (超音速機の先端から生じた斜め衝撃波の入射衝撃波反射衝撃波(正常反射の場合)

()超音速流の流速. θ転向角が大きくなるとマッハ反射が生じて強力なマッハ衝撃波M.が発生する. (マッハ反射の場合)


そして、このマッハ衝撃波は垂直尾翼に極めて近接する距離でほぼ垂直に短く発生し、接する垂直尾翼の溝には局所的に破壊的に働き、また垂直方向に同心円形状の衝撃波を発生させて、地上にソニックブームとして鳴り響いたと推測する。(3)


その際の衝撃波の伝播は、北側は入射衝撃波と反射衝撃波に遮られ、南側は垂直尾翼右側面で減衰して主に123便の前後方向、西南西と東北東へ伝わったと推定する。

特に、入射衝撃波方向に伊豆半島河津町.東伊豆町が位置し、反射衝撃波方向に三浦半島城ヶ島が位置することは意味深い。また飛行経路がこの区間で報告書よりもkmという信頼性が高い検証結果が既存し、その場合は目撃証言や記録があった地点は衝撃波が減衰したソニックブームの予想到達地域とほぼリンクするのである。(4.5)


3垂直尾翼を真上から見た模式図

青斜線】マッハ衝撃波が伝播した範囲

実際の超音速機は右斜め後方から飛来とする


4. 事故調査報告書の飛行経路略図

事故発生地点と. ()伊豆半島.河津町.東伊豆町  ()三浦半島.城ヶ島


5.ソニックブームを発生させた衝撃波

黒線】事故調の飛行経路 赤線】実際の飛行経路 赤点】実際の事故地点 橙色斜線】ソニックブームの予想到達地域


【追記】

現在でも、衝撃波の破壊力(エネルギー)や伝播.反射.干渉、減衰しながら音(ソニックブーム)に変換する過程については、実現象に合う公式や計算式は確立せず、近似理論ですら実験の繰り返しで模索しながら形成されつつある段階である。

まず衝撃波の特性として、波面の前後で流速.圧力.温度.密度等が不連続に変化することが解析を妨げる要因となっている。

そして衝撃波は地形や構造物の形状や性質と織り成す様々な反射形態を呈する為、とても複雑で難解である。まだまだ未知の領域なのである。

爆破の爆風、超音速機、高速列車のトンネル通過など衝撃波の問題は対策が非常に難しく、この分野は未だ黎明期といえる。各業界における今後の研究成果で詳細が明らかにされることを期待する。