異常事態発生時の衝撃音分析
異常事態発生時の衝撃音は、落合証言では「パーンという高くて大きな音」と表現された。これは日常耳にする音では爆竹音(2200Hz)に近い音である。
人の外耳道の固有振動数[周波数]は約3400Hzであることから、一般的に人の聴覚では.音圧レベルが低くても 2000〜4000Hzの領域は聴こえやすく感度が高い。よって高音ほど耳障りで大きく聴こえたと考えられる。
落合さんには実際の音のスペクトログラムの中でも高い周波数領域が印象として強く残ったものと思われる。
🔳 衝撃音の分析
衝撃音は大雑把には第3波まである。
客室[気柱]後端の音源から前方へ向かう横波が多重反射して往復を繰り返す音は、客室の固有振動数[周波数]が共鳴してその領域だけが徐々に強調され、それ以外の成分はランダムな位相を持つため互いに打ち消し合って減衰する。
よって最後の第3波の最大音圧レベル(音の強さ)の820Hz付近が客室の固有振動数に近似すると推定する。
そして✴︎音の重なり合いの影響を受けない第1波のみが再現性が高いといえる。
第1波の主周波数はピーク❶. 640Hz、及びピーク❷. 1KHzであった。図①
図①
(上)CVR再生波形
(下)サウンドスペクトログラム
■ 第1波の特徴
第1波のピークA.Bは、最大音圧の周波数領域に差はあるが、8. 16. 32Hzの低周波数を含むという特徴がある。またピークAは5KHz以上の高周波数領域までの幅広い分布を示す。図②
[人の可聴域は20〜20000Hz]
図②
■ 異常事態発生時に生じた衝撃音と衝撃波 の比較
衝撃波が減衰して音に変換されると数Hz〜5KHz以上の極めて広範囲音な周波数成分を含む特徴がある。
✴︎第1波のピークAに限っては8Hzから5KHz以上までの幅広い周波数を含んでおり、衝撃波の特徴に一致する。
これは衝撃波が垂直安定板と方向舵の隙間で入射衝撃波と反射衝撃波が融合して炸裂したことで空気に強い擾乱を起こし、コクピットエリアマイクに伝播した音だと推測する。
この衝撃音は衝撃波が大気中を突き進み減衰しながら音に変換されるソニックブームとは異なり、垂直尾翼に衝撃と高熱を加えながら減衰して音に変換されたものである。
周波数はスペクトログラムから640Hz付近に最も強い音圧(音の強さ)を持つ。
以降の第1波ピークBから第2.3波にかけては破断.損壊音であり、主周波数が1KHz→940Hz→820Hzと徐々に客室の固有振動数へと変化したので、音源での周波数はいずれも初めの1KHz付近であったと考えられる。音圧レベルは多重反射による唸り音と共に減衰すること、内装に使用される吸音材は高周波数領域(1500〜4000Hz)をよく吸収することを考慮する必要がある。
また全ての音源は超ジュラルミン製の垂直尾翼や機体尾部が掻き鳴らす音なので、周波数や音圧レベルの差はあれ音色の印象的側面は金属性と推察する。
更に言及すればコクピットエリアマイクが集音した衝撃音は以下の順だったと推察する。
⚫︎第1波.ピーク1(衝撃波の衝突音)
第1波.ピーク2(方向舵破砕音及び圧力隔壁上縁破断音)
⚫︎第2波(垂直安定板の損壊音)
⚫︎第3波(APU脱落音)