しんと静まり返った観客席。会場に響くのはパシ、パシと、互いの竹刀の当たる音。

今は県中総体の団体の決勝戦。勝った方が全国大会に出場できる。

西藤冥は目の前の相手を見据える。2歳年上の3年生、西條中の高橋颯希。

延長が始まって、10分は経過しているだろう。さすがに、両者に疲れの色が見え始めた。


「やめ!」


主審の一言で、冥と颯希は離れあう。ここで、3分間の休憩だ。

彼らの試合は、たくさん行われる試合の中でも特に注目される。

原因はメイとサツキという名前でとあるアニメの登場人物と全く同じだから、というのもあるが、

一番はやはり、彼らの腕前だろう。

高校生とやっても負けないのではないかというくらいの腕前。颯希はまだしも、冥はまだ中1だ。

注目されるのは当然のことだと言い切ってもいい。


「冥、やるじゃねーか。あの高橋颯希とここまでやりあってるんだから。後半は強気で行け。

 たぶん、高橋の方大分参ってるはずだ。なんせ、もう10分はやってんだからな。」

「はい!」

「お前が勝ったら全国大会に出場できるんだ。大将なんだから、きっちり決めろ。

 そして全国への切符を持ってこい。いいな。」

「はい!」


ばしんと背中を叩かれ、飲み込みかけていたスポドリを吹きだしそうになる。

その様子を見て、赤い畳に控えていた冥の先輩、木内望が笑った。つられて、冥も笑う。


「冥、あんま勝とうって思って力むなよ?全国に行けなくても東北で優勝してやりゃあいいんだ。」

「はい!」

「・・・・・・3分経過しました。両者、コートに入ってください。」


さっきから返事しかしてないな、と思いながら冥はコートに入る。鳴り響く拍手。仲間からの声援。

――勝負は始まってからすぐだ・・・・・・!

礼をし、白線に合わせて蹲踞(そんきょ)する。颯希と目があった。


「始めッ!!」


双方一気に立ち上がり、腕をのばす。足を踏み込む。竹刀が相手の面に当たる。合い面。

パン、という乾いた音が拍手のはざまに響いた。


(入った・・・・・・!!)


冥は確信した。だが、それは颯希も同様だった。

ちらりと審判を見る。上がった旗の色が赤が多ければ冥、白が多ければ颯希。

赤、白・・・・・・白。

瞬間、西條中が陣取っている観客席から歓声と大きな拍手が起こった。


「・・・・・・まじか。」


冥はぼそりと呟いた。一方颯希の方は、ほっとしたような表情。

互いに竹刀を収め、コートの外へと下がっていく。冥の目からは涙が零れそうになる。

全員が自分の横に並んだことを確認して、冥は息を吸い込んだ。


「礼!」

「前へ!」


冥の声が震えた。悔しくてしょうがない。そしてなぜか、前へ、と言った颯希の声も震えていた。


「双方に、礼!」

『優勝は、前ヶ丘市立西條中学校・・・・・・』


アナウンスが聞こえた。そして、また拍手。


「冥、頑張った!よく頑張った!・・・・・・って、お前泣いてんのか!

 ったく、相手は高橋だったんだ、しょうがねえって!」

「うっ、す、すみませっ、せんぱっ・・・・・・!」

「だー!もう!泣くなって!!」


背中をさすってなんとか冥を泣き止ませようとする望だったが、

冥の涙は止まるどころか、むしろ勢いを増していった。


「す、すみませっ、トイレ行ってきていいっすか・・・・・・!」

「お、おう、閉会式までには戻ってこいよ。」

「はい・・・・・・!」


冥は駆け足でトイレへと向かった。