私の名前はoku。
一介の鬱登山家である。
一つ一つの山を踏破しては次の山。
山が無くなったと思えば違う山がやってきた。

見事昇進を果たした元適障の山は、
今は鬱の山というらしい。
一層重みは増え、言葉数も増えた。
私に思い立ったことがあれば、必ず反対の提案をし、
行動を起こそうとするとその重みで動けない。
ならばもう動かない方が得策であろう。
私は動くのをやめた。

私には妻と子がおり、それは私にとっての心の支えとなっていた。
また有り難いことにこのような男にも友人がおる。
それらは私の身を案じ、心配そうな目を私に向けた。
しかしこの状況はというと、
何から話せばよいのか、どのように話せばよいのか、
どのような状態であるかなど、
そもそも自分自身が説明できない為、
この有り難い存在にさえ理解を求めることは困難を極めた。
鬱状態の最大の試練と言っていいだろう。
その結果、相手を困らせることになる。
「私にはわからないけど」と前置きをされ、
言葉を選んで進言を受けたりする。
いや、全くもってその通りである。
どのような状態かもわからない相手に贈る言葉など存在しないのだ。

結果、誰にも上手く説明できない上、
誰からも理解されないという孤独に襲われる。
それがたまらなく辛い。
結果、自問自答の日々が続くことになるが、
鬱の山の耳打ちのせいで正しい解答が出せなくなり、
いよいよ八方塞がりとなる。

端から見た場合、
ずっと籠城続きである為、
いったいコイツはこそこそ何をしているのだ、
とにかく表に出てこい!と浴びせたくなるだろう。
しかしそれにも呼応せず、籠城を続ける。
たまったもんではない。
諦める者が現れるのも時間の問題である。

しかし私の友人はというと、
「そんなことよりパチンコに行こうぜ」
「そんなことより俺の話を聞け」
「そんなことよりどこかに良い女はいないか」
などとクズ発言を連発し、
私の言葉など全くと言っていい程に欲していなかった。そういう奴なのだ。
しかし私にはそれが天啓のように聞こえ、
今なお彼を神の使いであると信じている。
そのような時はそれで良いのかもしれない。

そんなこんなで数ヶ月が過ぎた頃、
徐々に不安が溜まった妻と口論になることも増え、
これでは共倒れ、oku家は大黒柱もろとも倒壊の恐れが出てきた。
このままではまずい、漠然とではあるがこの状況を直視し始めたのだ。
当の私は徐々に落ち着きを取り戻しはしたが、
結局復職はできずにおり、
職場の社長含め上司や同僚は私が復職できるよう、
ご飯のお誘いやこまめな連絡など、
私にあらるゆる手段で尽力してくれてはいたが、
どうしても会社へと向かう恐怖心に打ち勝つことができずにいた。
私自身、一転発起で極太大黒柱となるべく飛び込んだ世界、そう簡単に離れたくはなかったのだが、
とにかくあのビル群に向かうことを考えると足が震えた。
とはいえ、このままでは細りきった大黒柱は完全に折れ、家族は下敷きとなる最悪なシナリオは目前に迫っている。
脳内のアラートは爆音だ。

私はまた決断を下す。
これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。
退社し、新天地を探すしかない。

またしても私は転職活動をすることとなったわけだ。
鋼鉄のケツを私は持ち上げた。