私の名前はoku。
一介の鬱登山家である。
一つ一つの山を踏破していくこと、それが私に科せられた使命である。

適障の山が私の元より去り、
ようやく私の人生が軌道に乗り始めた。
幸い、出逢う仲間に恵まれ、レコード屋でのポジションも上り調子。
若さと勢いでoku号はグングン勢いを増していったのだ。
そんな30歳に差し掛かろうととした時、
妻からある知らせが飛び込んだ。

「子供ができました。」

青天の霹靂であり、驚き、喜び、不安など様々な感情が私の中に渦巻いたが、まるっとまとめて嬉しかったのを覚えている。
そして暫くして我が娘が産まれた。
男というものは産まれるまでに実感がないという。
私もそうであったし、むしろ不安が増幅したり、
何やらふわふわした心地で過ごしていたものだ。
しかしながら産まれてきた瞬間、
やっぱり泣いた。引く程泣いた。
漢たるもの表情一つ変えず、強く握った拳から滴る血が涙であると思っていた私も、この時ばかりは小2くらい泣いていた。鼻水も出た。
得も言われぬ感情が、滝のようにドッと出て、
ロールプレイングゲームでレベルが上がったように、
気が付けば責任のスキルが備わった。そんな感じであった。
私は鼻をズルズルさせながら、極太大黒柱になることを誓ったのである。

子供が産まれてしばらく経ち、その劇的な生活の変化にも徐々に慣れてきた頃、ある問題が顕在化した。
というか元々はっきり見えていた。
貧乏過ぎる。このままでは肉も満足に食えん。
実は当時のレコード屋は、致死量ギリギリに超えないくらいの安月給であったのだ。
所謂、好きだからこそ出来る仕事と言っていい。
少しでも待遇を上げる為には、全国津々浦々巡る流浪の身となる必要があった。
仕事は好きではあるが、現実問題としてのハードルが私に立ちはだかったわけである。
子持ち世帯には余りにも高く、超えれる気がせん。
私は転職をする必要性が感じるようになった。

転職活動せねばなるまい。
大黒柱なるもの、稼いでなんぼやさかい!