僕が煙草を取りにロッカールームの仕切られたカーテンをくぐるために、
右手で布を端に寄せると、僕の手の更に上でカーテンを押さえる何者かが居た。


僕が斜め上を見ると、見知った顔。


「こんばんは」


彼は斜め下を見ながら恥ずかしそうに笑った。


「あれ、モンさん」


カーテンを押さえたその大きい手には、繊細な長い指がついている。
僕は振り返りその手を取りながら、彼をロッカールームへ引き入れた。


「モンさんいつ来たの?気が付かなかった」


細くて長い手足。僕の好きな月みたいな色合いの白い肌。下を向いた長いまつげ。
ツンツンした髪型は嫌いだけど、彼のはバランスがいい。顔立ちにも合っている。
僕の手に手を重ねたまま、所在なさげに彼が言う。


「いや、ついさっき」


「ついさっきでこんな格好なの?」


彼は既にバスタオル一枚だった。


「気合入れたほうがいいって店員さんに脱がされた」


僕がにっこり笑うと、彼もつられたようにへへへと笑った。
彼は僕の手を握り返して引っ張り、身体を反転させてロッカーに押し付けた。

ガシャン

何個か残っているキーが背中に痛い。
顔をゆがめて目をつぶると彼がすくい上げるようにキスしてきた。
僕の手を握ったもう一方の手は、首筋から背中を流れ身体をフォローした。


顔を二、三度交互に傾けて交わすと、彼はロッカーにもたれていた僕の身体を
垂直に戻した。僕は背伸びをして一度彼の首にしがみつくようにしてから、
煙草を
取るよといって彼から離れた。


ロッカーの鍵を開けると、彼が後ろから腕をまわして首筋を舐め始めた。
彼の熱心さにウケながら

「くすぐったいよ」

と彼の耳に指を突っ込んだ。彼は動揺する様子も無くこう言った。


「・・・こないだ楽しかった。会えて嬉しい」


僕は彼の耳を引っ張り背中から引き剥がすと、彼の美しい手にキスをした。


「あたしも楽しかった。席に戻ろ」





彼はロッカーのすぐ近くの場所に座っていた。通りかかるとき何故気がつかな
かったんだろう。
少しだけ、と思い隣の席に座ろうとすると、彼は僕の腰を両手で抱くと自分の
膝の上に無理矢理引き寄せた。


彼のか細い太ももの上に僕の大きなお尻ではどうもバランスが悪い。
骨が折れるか肉離れするか、ともかく医者の治療無しには居られまいと思い
咄嗟に腰を引いた。


「だめだめだめだめ、足折れちゃうよ」


彼は手を緩めてくれない。何言ってるの大丈夫だよと10mの高さからメディシング
ボールを自分の腹筋に落とそうとしている。僕は根負けした。


「わかったわかった、ちょっとだけ。長い時間はダメだよ」


結局僕は腰を浮かせながら彼の膝に座って、満足そうな彼の顔を眺めた。
なんだか幸せそうな顔をしているなあ・・・自分の足が壊死しかかってると
いうのに。

僕が半立ちしている足が限界を迎える頃、彼が言った。


「こないだほんと時間無かったよね」


口を尖らせて残念そうだ。
今日も楽しく遊びたい、と簡単に言えるほど彼は器用ではない。
ロッカーでキスをするのも、ここで僕を膝に抱くのも、彼は勇気を振り絞ってして
いることだろう。


彼は不憫だが、今日はそうもいかない。
僕は悲しい宣告を彼にしなければいけない。


「そうだね。もっとゆっくり遊びたいね。でも今日はダメなんだ。友達の前では
ハプニング起こせない」


僕は彼の膝からようやく立ち上がって隣の席へ座った。
そっか、と彼は納得し、こう続けた。


「じゃあ少し喋ろうよ」


高校生くらいまでなら見覚えのある、澄んだ瞳で彼は言った。
彼の口角が下がっているので、口をへの字に曲げているみたいに見える。
僕は両手でその口角を押し上げて 「笑って」 と言った。


すると彼はくるみ割り人形みたいに目を見開いて、パカッと笑った。


僕は膝を叩いて笑い、冷たいビールを彼の顔に押し付けた。





(落とし穴 3へ続く)



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