ここ数年は毎年々々イベントとして盛り下がる事ばかりを気にかける８耐であったが、今年は近年で最も期待できそうな顔ぶれが揃い、久しぶりに味わうワクワク感に満たされながら今日の日を迎えた。

筆頭はTSRの秋吉と、去年の８耐を大いに盛り上げてくれたジョニー。

それに対抗するは清成と高橋巧に、何とＷＳＢ参戦中の青山を加えた豪華な布陣となったハルクプロ。

そして嬉しい事に自分にとっての８耐の英雄、芳賀がヤマハに帰ってきてくれた。

そのチームメイトには好調の中須賀がいて、久しぶりに本気で８耐に臨むヤマハの気概が感じられる。

トップ１０トライアルではその中須賀が６秒８４５という驚異的なタイムを叩き出し、今日の戦いが壮絶なものとなることを予感させる。

昔から勝負の方程式として、ホンダ対ヤマハが均等なパワーバランスで対峙しなければ名レースは成り立たないのだ。
本当に何年振りかのお膳立てが完成した訳だ。

ヨシムラはウォーターズが宣篤仕込みの走り込みにより苦手だったシケインを克服して絶好調だし、他にも加賀山や井筒、玉田・・とスターが勢揃い。

加えて完全なプライベートではあるが、高橋裕紀までが参戦している。

天候が崩れそうな気配もなく、過去と比べて暑さもほどほどと言った感で、レースに向けてのコンディションは最高。

ここまで充実した期待感に溢れた中、今年も自分はウェルカムプラザ青山でそのスタートの瞬間を迎える事が出来た。

スタート直後、ＴＳＲのジョニーが若干出遅れたが、予想に違わず清成と中須賀、ウォーターズがスプリントレース張りのハイスピードバトルを繰り広げる。

清成の序盤の快走はいつも通りの異常なスピードだ。

いつもならば見る見る間に後続を引き離し、序盤に独走態勢を築いてしまうところだが、今年の８耐は一味違う。

昨日のスーパーポールで見せた走りがフロックでない事を証明するかのように、中須賀が清成を追撃する。

そして、清成を捉え、更には引き離しにかかった。

ところが今日の一つ目のドラマがここで待ち受けていた。

１８週目の高速１３０Ｒで、中須賀が大クラッシュ。
転がり宙を舞ったＲ１はクラッシュパッドに突っ込み大破してしまう。

その後２位以下をグングン引き離しにかかる清成の走りに、この時点で早くも勝負あったか・・と思わされる。

しかし、ライダー交代を終え、清成から青山に。ジョニーから秋吉に交代したところでその勢力が一転する。

久しぶりに国内で走りを見せる青山にはとても期待していたのだが、今一つ走りに冴えがなく、一方大怪我から復帰したばかりの秋吉は快走を見せ、その差はグングン詰まり、遂には逆転を許してしまう。

ＧＰのチャンピオンライダーを意にも介さず追い詰めてしまう秋吉が宇宙人と言われるのにはつい頷きたくなるところだ。
どことなく迷いながらマシンを寝かし込む青山に対して、秋吉の倒し込みには躊躇がなく、一発一発、狙ったバンク角どおり気持ちよくスパスパと倒し込んでいて、実に気持ちよさそうだ。

だが、ＧＰチャンピオンのプライドを地に落とすリスクを顧みず、格下レースの８耐に揚々とチャレンジする青山は立派だ。
どんなライダーでもコンディションや様々な条件から思い通り走れない事は重々有り得る事なのだ。
ここは他のＧＰのＯＢ達にも是非見習って欲しいところ。

その後、ハルクプロは清成が、ＴＳＲは秋吉が、両エースが走るタイミングでトップが入れ替わるという一進一退の攻防が続く。

５時間を経過して、５回目のライダーチェンジで、ＴＳＲは秋吉に交代し２位ハルクプロとは１０数秒のアドバンテージ。
ハルクプロはその差を詰めるべく青山から巧ではなく清成へとライダーチェンジを行う。

その直後、信じられない光景が目に飛び込んだ。

本日、やたらと転倒が多かったデグナーで、轟々と炎を吹き散らし、回転しながらもんどり打ってグラベルに叩きつけられる姿が映し出されたのは、何と６３４号車の清成であった。

何とも恐ろしい光景。

アスファルトに広がった炎の中を転がる清成の姿に一瞬ゾっとさせられたが、彼が立ち上がり、無事であったのは幸いであった。

このアクシデントによりＴＳＲは独走の態勢となり、気付けば２位には加賀山のスズキ耐久チームが浮上していた。

耐久チームが８耐で表彰圏内に入る事は珍しいが、加賀山擁するチームとなればそれは納得の事。

ここで勝負は膠着するかに思えたが、しかし今日の８耐はそこからまだ波乱が続く。

６時間半を経過した時点で、スズキ耐久チームのフィリップがダンロップでこれまた壮絶なクラッシュを喫する。

そして２位に浮上することになったＢＭＷフランスチームにも悲劇が襲いかかる。
エンジントラブルによる後退・・。

まさにこれぞ耐久レース。

幸運により得たと思われるラッキーは一瞬の喜びに過ぎず、ライダー、チーム達を次々とトラブルが待ち受け、不運の闇が呑込んで行く。

１位の順位がほぼ確定したと思われたら、２位が次々と入れ替わり、最後に２位が巡ってきたのはＴＯＨＯレーシングの裕紀君のチームであった。

そして、２位がほぼ確定したと思ったその後、本日最後のドラマが３位争いに待ち受けていた。

ライダー達が長い闘いを耐え抜き、いよいよ夜間走行となったゴール前の残り２０分から、その壮絶な戦いの火蓋が切られた。

３位争いをしているカワサキトリックスターの出口とギリギリの判断でタイヤ交換を行ったヤマハフランスのＤ・チェカが同一周回で並んでしまったのだ。

見通しが効かず、危険な夜間走行となり、後は細かな順位よりも完走の喜びを得る為にひたすらマージンを取ってスローペースで走る車列の中を、その２台だけがまるで渋滞する高速道路を縫って走り抜けるバイクのように、異次元のスピードで駆け抜けていく。

暗闇でマシンの姿はほとんど見えないが、同じスピードで障害物のように立ち塞がる前走車のライトの輝きの中を、右に左に、時には左右同時に挟み込むようにやや青みがかったトリックスターとイエローのヤマハフランスが放つヘッドライトバルブの光が走り抜けて行く。

それは美しい光景であるが、実に恐ろしい光景でもある。

それまで大人しく観戦していた青山に集まった観衆達の気持ちはこの時間で遂に一体となり、誰もが我を忘れて一寸先の行方もわからないその危険なバトルの一瞬一瞬の動向に惑わされ、歓声を上げ始める。

毎周のようにＳ字で並びかるヤマハフランスを、トリックスターが直線で引き離す。

ヤマハのイエローバルブがブルーの光に並びかける度に、青山は大きな歓声と溜息に包まれる。

一瞬ブルーがイエローを引き離したかに見えたが、しかしタイヤのアドバンテージもあってかまた序々にイエローがブルーを追い詰め、第２シケインで背後に張り付いたイエローがスプーンでブルーに並び、そして遂にイエローの光がブルーの光の前に出た。

凄い！

それでなくても体力も気力も熱い一日の走りの中で尽き果てる寸前だろうと言うのに、この二人は後数分で迎えるゴールを直前に、今日の日の表彰台に上るという栄冠を賭けて全力でぶつかり合っているのだ。

その最後のパスで、トリックスターは力尽き、更にエンジントラブルに見舞われ８耐を終えた。

何て壮絶な終焉・・

トリックスターは悔しいだろうな・・・。

だけど、きっと彼らは諦めずにやり遂げた事による充足感に満たされているだろう。

その勝負を制したヤマハフランスチームは見事であった。

そして真夏の闇の中、輝くバイク達が放つ閃光のシャワーの中でチェッカーが振られ、熱く、長かった今年の８耐が終わった。

本当に、本当に素晴らしかった。今年の８耐。
序盤から最後まで。ずっとハラハラ・ドキドキ。

手に汗を握りっぱなしで、涼しいところで観てただけの自分もとても疲れた。

けど、何とも心地良い疲労感。

ウェルカムプラザのモニターに映し出される鈴鹿の花火が、いつもに増してキラキラと輝いて見えた、これが２０１２年の８耐。

毎年出場台数が減り、動員観客数が減り。
イベントの規模としては縮退を感じずにはいられない。

だけど、そこで繰り広げられるドラマの壮大さと観る者に与えられる感動は、全盛期の８耐と比べて何も変わる事はなく、今も、そしてこれからもずっと輝き続けているだろう。

また来年も会おうな。

素晴らしいライダー達。そしてライダーを支えるチーム達。
８耐を運営してくれるスタッフ達。
そして、８耐が好きなファンのみんな。