あの夢の中にいたような興奮に包まれた日本GPから早くも1週間が過ぎ、あっと言う間に今日はマレーシアの予選である。

今日たまたま訪れたお台場で開催されたモータースポーツジャパンのG+の催しで、宮城さん、高橋国光さんの生解説による予選のパブリックビューイング行われており、奇しくも2週連続でナマ宮城さんの解説を聞く事ができた。

小中クラスは大方タイトルの行方が定まった形であるが、唯一逆転タイトルに向けてまだ一縷の望みを残すモトクラスの行方を占うこの重要な予選を、こんな恵まれた環境で観戦できるとは実にラッキーである。

だがその前に、まだ興奮の余韻が冷めやらない日本GPのレポートを残さなければならない。

毎年そうなのだが、とにかく日本GPの3日間はあまりにも色んな体験が沢山ありすぎて、頭の中が飽和状態。

あれもこれもと書く事が沢山ありすぎて、それが時間をかけて書いているうちにだんだん疲れてしまって、つい最後まで書ききれなくなってしまう。

今年もどこまで書ける事やら。

まずは決勝レースについてのコメントから。

３クラスのそれぞれが、2012年のシーズンを象徴したような内容であった。

■モトクラス

逆転タイトルに向けて、もう少しのミスも許されないダニ。

悪夢のようなサンマリノのアクシデントから立ち直り、とにかく目の前の１戦１戦に全力をかけるひたむきな姿が胸を打つ。

２連勝に続いて迎えたモテギでのフリー、そして予選。

特に集中した時に見せるダニの速さはここ日本でもそのままだ。

コントロールタワーのてっぺんから上位には常に２６番が記されている。

しかししかし。

予選の終了間際に、まるでこの瞬間を演出する為にそれまで息を潜めていたかのようなロレンソが、まさかの４４秒台という驚異的なタイムで逆転ポールを奪う。

好調さを維持して、日本でもポール間違いなし・・と我々の目に映っていたダニに対し、やっぱりロレンソなのか・・とため息をつかせるような強さを見せつけられた。

だが、我々の意に反してダニは冷静を保っていた。

いつものようにロケットスタートを決めるダニ。

しかし、昔よくＦ１でシューマッハが見せたような大胆なアウトからの被せるように前を阻む走りでロレンソがダニの先行を阻みホールショットを奪う。

そして、他車とは圧倒的に異なるペースでグングンと後続を話して行くロレンソ。

ここまでは予選からの流れで予想していた展開。

しかし今年のダニは一味違う。

落ち着いた走りでロレンソとの間隔を保ち、しっかりとマークして離れない。

そして中盤にかけて先行するロレンソとの間をジリジリと詰めていく。

シフトミスか？一瞬ロレンソのスピードが緩んだ瞬間を見逃さず、ズバっとトップを奪うダニ。

そこからのダニは強かった。

後ろを振り向く事もせず、ひたすら自分の走りに集中し予選タイムに匹敵する４５秒台を連発。

ロレンソを振り切り最後には独走態勢を築いて逃げ切った。

いいぞ！ダニ！

詰まるポイントはたったの５点だが、ロレンソに与えたプレッシャーは計り知れない。

いよいよタイトルの行方はわからなくなった。

■モト２クラス

２００８年に１５歳でGPデビューを果たした時、マルケスの身長は１５０ｃｍにも満たず、KTMを駆るその姿はヘルメットがやたら大きく見えてまるで桶川で見かける小学生ライダーのようだった。

その姿が可愛らしいのと、走りの美しさに魅了され、以来ずっと応援してきた彼は今や押しも押されぬ大スターに成長し、来季はＧＰトップチームのレプソルホンダの看板選手である。

今季、このマルケスに唯一対抗しているのはポル・エスパロガロ唯一人。

マルケスも好きだが、多少ライディングスキルでは見劣りするものの、その熱い走りで果敢に勝負を挑むエスパロの応援に今年はどうも力が入ってしまう。

そのエスパロがモテギではとても好調で、チームメイトのラバトとともにフリーから予選にかけて常にコントロールタワーのトップに８０番と４０番のゼッケンが刻まれていた。

しかし、決勝はまるでマルケスのデモンストレーションのショーのようなレースとなってしまった。

昨年にもマルケスはペナルティで最後尾スタートを余儀なくされ、しかしそこから驚異の３６台抜きを果たして３位表彰台を獲得する・・という離れ業を見せた事があったが、今回のレースは当にその再現であった。

もはやMOTO2には敵なしのマルケス。

そのあまりのゴボウ抜き加減は観ていて爽快ではあるが、一人だけが強すぎて自分的にはこういうレースはあまり好きではない。

マルケスには更なる高みを目指してモトクラスでの活躍を期待することにしよう。

■モト３クラス

さて、今年最も自分が楽しませてもらっているのがこのクラス。

日本GPでも最も観たかったのがモト３であり、パドックで会いたかったライダー達もモト３の選手達である。

注目はコルテセとビニャーレス。

昨年のレース展開から推測するに、今年はビニャーの圧倒的な勝利とばかり思っていたのであるが。

ここまで予測を覆されたその要因のひとつはKTMのパフォーマンス。

シーズン序盤でKTMの優位性は顕著であったが、途中からホンダの開発も進み、ニューキットを組んだNSFが一度はKTMに追いついたように見えた。

だがしかしKTMは更にそれを上回る開発を進めており、イコールコンディションとなったのは束の間で、その後は圧倒的なパワー差を見せつけられ、毎レース、ホンダエンジン搭載車は常に苦戦を強いられるようになってしまった。

KTMもホンダも両方所有する自分としてはどちらかに肩入れする気はないのだが、ロード界ではまだ歴史が浅いKTMの台頭はまだまだ「２０年早い！」と言いたくなる気持ちで、どうもホンダユーザの方に気持ちは傾く。

遂にデリバリー開始されたKTM GPRが500万円という価格を考えても、レースの裾野を広げる為に頑張ってNSFを１００万円台でリリースしているホンダと比べて「おい！おい！」と突っ込みたくなるところだ。

と、話が反れたが、しかし正直コルテセがここまで強くなるとは想像していなかった。

自分的には２０１０年にマルケスのチームメイトだった時の印象が強いのだが、同じマシンに乗りながらマルケスは常にトップ争いをし、１０勝を上げているのに対し、コルテセは常にセカンドグループ以降にいたように思う。

予選ではよくマルケスに引っ張ってもらっており、仲がよかったかどうかは解らないが、パドックでもマルケスとよく一緒にいる姿を見て、沢山アドバイスをもらっているだろうに成績に繋がっていないのは才能に恵まれない証拠なのだ、というようにしか見えなかった。

またその闘い方にしても、レース中にバトルをしながらトップから離されていくシーンでバトル相手に「オレの後ろに着いていろ」とジェスチャーを示すのを度々目にするが、そういう事ができるのは縦列走行によりトップに追いつくスピードがあるライダーに与えられる戦術であるにも関わらず、結局トップに追いつけない、はたまたバトル相手にも抜かれ順位を下げる等、自分が頭の中で組み立てたシミュレーションを実現できないダメライダー的なレッテルを貼られた（もちろん私が個人的に思ってるだけだが）選手であった。

２０１２シーズンは序盤戦からコルテセは好調で、その牽引力はチーム体制とマシンのポテンシャルに依存したものであり、彼のライディングスキルや、勝利に結びつかない戦術は依然として変わらぬままのように思えた。

ところがフランスGPあたりから明らかにコルテセの走りに変化が見え始めた。

「あれ？コルテセってこんな乗り方するライダーだっけか・・」と、見ていて人間違いをしたかな？と錯覚させられるくらいの変化が如実に見え始めたのだ。

それは恐らく極度に完成されたマシンＭ３２を操る中で育てられた感覚なのではないだろうか。

またコンスタントに表彰台を獲得するようになって自信が身に着いたのであろう。

コーナーへの入り方が自信に満ちており、バンキングが速い。

躊躇なく狙ったバンク角度へスパっと寝かしこむ。

おお。この切れ味は今まで自分が観て来たライダーの中で、一流のライダーだけがこなせるスピードだ。

GPに出場するライダー達は少なからず凡人にはない才能を備えているものだが、本当の才能を開花させられるライダーは数少ない。

ロッシやダニ、ロレンソのように恵まれた才能を直線的に伸ばしていけるライダーもほんのわずかに見る事ができるが、もう一方でドカに移籍した時のストーナーや９２年に同爆NSRを得たドゥーハンのように、ある程度経験を積んだライダーが何かをきっかけ（その多くはマシンとの出会いであるが）に、覚醒するライダーがいる。

そう。

今年のＭＯＴＯ３で、コルテセはＭ３２により覚醒したのだ。

それにより、彼が今まで使おうとして空回りしていた戦術も本物になった。

レース序盤にブロックラインで後続を抑えて渋滞を作り、しかしその為に作った勝負どころの終盤のスパートで他のライダーに着いていけなくなるよう醜態を晒すレース展開は今の彼からは見られない。

ブロックラインを使う姿は相変わらずであるが、それによりレーススピードを意のままにコントロールし、他車を撹乱したうえで、最後は温存したタイヤのポテンシャルをフルに活かして勝利に繋げる。

本当の速さを身に着けた上で彼が操る戦術は今やパーフェクトである。

自分の中で、だから今年はシーズン前と今とではコルテセに対する評価が全く違ったものになった。

そして今回のモテギでは更に凄いものを見せつけられた。

このレースも今年のコルテセが手に入れた戦術シミュレーションどおりに展開されていた。

トップからは遅れながらも自らリスクを負う事になる天敵ビニャーレスを抑えながらの走行。

しかし後半はそのトップとのビハインドを意もなく詰めてしまう走り。

そう。ここまではコルテセ劇場だったのだ。

だがしかし、伏兵は同じチームにあった。

最終ラップの９０度。

何とケントがブレーキングでコルテセのインを刺す。

だが動ぜず。コルテセはクロスラインを狙い立ち上がりのラインを取る。

ここからが想定外。

そこで普段コルテセを脅かす事などあり得ないトヌッチが刺して来た。

コルテセはケントを刺し返す為に絶対に外せない脱出ラインを譲ることはできず、トヌッチと接触！

そして転倒！！

あああ！なんて事だ・・・

転倒しながら第２アンダーブリッジの下をスライドしているコルテセの身体をトヌッチのマシンが踏みつけるような感じで轢く形だ。

トヌッチの前輪が転倒してスライドが止まらないコルテセの肩に、ヘルメットにぶつかっている。

「あぶない！！」

だが、なんとコルテセは火花を散らしながらスライドを続ける愛車Ｍ３２のハンドルを死んでも離さない。

Ｍ３２が抵抗になったお陰で幸いにもコルテセの身体はトヌッチのマシンの前からすり抜けた。

コルテセ、すかさずマシンを起こして再スタートし、６位でゴール・・・・

す・・すごい。

ものすごいものを観てしまった・・

何と言う執念。

単なる才能の覚醒などという言葉だけでは言い表せない。

それは勝利への気迫！

チャンピオンを獲る者にはなくてはならない資格だ。

合格ーー！！

ワンダフル！

素晴らしいぞ、コルテセ！

自分が応援していたビニャーレスは走らないマシンに苦戦して、タナボタ２位。

しかし、昨日、マレーシアでチームとのトラブルによりＧＰ離脱。

ランキング３位のサロムとのポイント差は決定的に開いているし。

マレーシアでチャンプが決定するのはほぼ間違いないだろう。

それ以上に大切な、チャンピオンの資質。

その全てを今年のコルテセは備えている。

間違いなく２０１２年モト３のチャンピオンはサンドロコルテセ。

素晴らしい走りを観せてくれた功績を称えるとともに、あなたが今年のチャンピオンである事を、私がここに認めます。

残りの３戦。是非チャンピオンの名に恥じない走りを魅せて、２０１２年を締めくくってください。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　決勝レース中盤の走りをスタンドから撮影。