「ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」が最高すぎた話。 | かざえのブログ

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「ふつつかな悪女ではございますが」

ちょっと聞いてください。

何気なく読み始めて、こんなに夢中になってしまうとは思いませんでした。
ぜひ私と一緒にこの沼に落ちてください、楽しいです。

 

 

 


さて、今回も美味しそうな食べものの描写について。

美しく慈愛深く、才に長け、皇太子の皇后に選ばれるのは確実と言われ、「殿下の胡蝶」とまで呼ばれる、黄玲琳。
対して、秀でた芸はなく、嫉妬深く、「雛宮のどぶ鼠」と呼ばれる朱慧月。
この二人が入れ替わることになる『とりかえ伝』なのです、
中華風後宮を舞台としたライトノベルは昨今いろいろと面白い作品が出ておりますね。
この作品は中華風後宮を主な舞台としつつ、「雛宮」そして「黄家・朱家・金家・玄家」と言った五つの相関図が組みあがっていることで、いっそう面白くなっていると思います。陰陽五行かっこいいぃ。

誰からも愛される「胡蝶」である玲琳は、嫌われ者の「どぶ鼠」である慧月の操る道術によって、中身が入れ替わってしまいます。
そして「慧月」の体となってしまった彼女は、「玲琳」を欄干から突き落とした罪に問われ、処刑寸前の牢の中。道術の作用で入れ替わりのことを説明することもできず、あわや絶望の底に……。

と、思うじゃないですか。そうはならなかったんですよね。この鋼メンタルの姫様は。
体が虚弱なのに、反してメンタルがめちゃくちゃ強いのが、最高に素敵なところです。
飢えた獅子の檻の中に放り込まれても、一切動じない。それどころか。
罰として「廃屋と呼んで差し支えない、ぼろぼろの蔵」で暮らすことになろうとも。
誰一人入れ替わりに気づいてくれず、慧月として彼女を見る周りの人々に「悪女」と罵られようとも。
いつでもけろりとしています。それどころか「健康な体、うらやましい!!!」と入れ替わってしまった現状を最高に楽しんでいます。
そんなまさか、深窓の姫君が。虚弱でたおやかな姫君が。
不運を嘆くどころか、この境遇をとんでもなく幸運だと認識して、大喜びするなんて。
そんで大喜びで草むしりして住居を整えて畑を耕し作物を調達していく……。いやまって、さすがにびっくりだわ。

なんかこれ、たとえて言うなら、身分ある貴族の姫様が、「自由に暮らしてみたい!」と庶民の暮らしに恋焦がれて、町娘に変装してお城を抜け出そうとするとか、そういう感じなのでしょうか。
「王子とこじき」もそういう流れでうっかりお互いの服取り替えてたような気がします。

さてさて、そして元は食糧庫だった「廃屋」暮らしをエンジョイし始める、体は慧月、中身は玲琳の彼女。
食料を調達できず、側仕えの女官・莉莉が苦心しているのも知らずに、畑を整備して芋や瓜をはじめとして、多種多様な作物を入手できるようにしてしまいました。どうして初日からそんなに作物実ってるんだ!って思いますけど、元は食糧庫だったので、保管されてた食料が、勝手に周辺に自生してたんでしょうね!
この日の食事は、揚げた芋と、さっと炒めた油菜。
芋!
ここにきて玲琳、「芋」に対してただならぬ執着を見せ始めます。眼が爛々と輝いている表情が、文章を読みながら目の前に浮かぶよう。
慧月(中身は玲琳)の様子に困惑してツッコミが追い付かない莉莉に、その熱々の芋揚げを食べさせるんですよ。


*****

「ほら、莉莉。あーん」
「あふっ!」
揚げたばかりだという一口大の芋は、ひたすらに熱く、歯の先でざくりと皮を食い破れば、たちまち、ねっとりとした芋の感触が口いっぱいに広がる。多めに振られた塩が、芋の味と油の旨みにしっかり溶け込んでいて、莉莉は思わず目を見開いた。
「んう―っ! た、たまらないですわね……! これは、予想以上……!」
相手もまた、ひょいと芋を食(は)んだかと思うと、頬に両手を当ててじたばたとしている。
「ああ、幸せ……っ。油の匂いを嗅ぎつづけても、胸が悪くならないなんて! いくらでも食べられます……! いいえ、飲めます! わたくし、芋揚げを飲める!」

「ふつつかな悪女ではございますが」巻1<3.玲琳、楽園に移住する>より 
******


ざくり。
この効果音が、私の脳天を貫いてしまいました。
歯の先で熱々の揚げ芋を噛む。ざくり。

お、おいしそーーーーー!!!!

これあれだわ、フライドポテトですよね?! 玲琳!!!
めちゃめちゃおいしそう!
芋と油と塩という組み合わせって、どうしてこう、脳内麻薬分泌してしまうのでしょう。


注目したい点は、玲琳が、油の匂いで胸が悪くならないことに感動していることですね。
そう、玲琳はひどく体が弱い。なので、油っ気の強いものなんて、消化に悪いもの、今まで自分の好きなだけ食べることはできなかったということですね。なんということでしょう!揚げたての熱々の食べものを、食べたくても食べることができないだなんて! そりゃあ目を潤ませて感動しちゃいますよね!!
玲琳と入れ替わりになった慧月は、自分の生まれながらの不遇を呪って、玲琳のことを羨んでいたわけですが。
好きなものを好きなだけ食べることができる、健康な体。健康があればやりたいことは何でもやれる。それって、なんて恵まれていて幸せなことなのでしょう。
嬉しそうに揚げ芋を頬張る玲琳の姿を見ると、そのことにしみじみと気づかされました。健康、ありがたい。

揚げ芋だけでなく、さらに美味しそうなものがこのあと出てきます。
それは、はちみつ!!!

まさか深窓の姫君が、自分でハチの巣箱から蜂蜜集めるとは思いませんでした。
怖くないんですか。私だったらめっちゃ怖いですよ、ハチ。
巣箱を開ける前に、腕に大きな葉を巻き付ける動作をしてるんですが、そんな装備で大丈夫なんですか!
なんか網の垂れた帽子とか、そういうの被らなくて大丈夫なんですか。
採集したその蜂蜜を、芋揚げにとろりと絡める。読んでるだけで、最高でございました。ごちそうさまでした。
あっこれ、つまり大学芋ですよね。最高。
大学芋というと、揚げたサツマイモに砂糖と醬油を煮詰めたタレを絡めたイメージですが、黄金に輝く蜂蜜をたっぷり絡めるのも最高ですね。

余談ですが、玲琳が「揚げ芋には塩か蜂蜜か」で頭を悩ませていたのが、あまりにも幸せそうで素敵だったので。
サツマイモを大学芋風にカリッと揚げ焼きにして、半分を塩たっぷり、半分を蜂蜜たーっぷりかけて、食べ比べてみました!
いやはや、最高でした!
莉莉の「箸が休めない! 全部重い! 全部芋!」というツッコミが欲しいところですわね。
そして私の中での、揚げ芋には塩VS蜂蜜という感想なんですが。
いくらでも食べたくなって箸がずっと止まらないのは、正直なところ、塩でした!
おめでとう塩~! さすが玲琳が頑張って鷲官長様にねだった甲斐あった! 油と塩と芋の組み合わせ、本当に強い、最強。
しかしながらですね。
芋にとろ~~~りと、黄金色の蜂蜜をかけるときの、心のときめきは、とても塩をかけるときのときめきとは別格でした。
透き通った蜂蜜の美しさというのは、本当に心がうっとりとして目を引き付けられます。

高貴な姫君でありながら、何もない廃屋に追いやられても、自分で’畑を整え食料を調達して大喜びしてる、そんな玲琳の姿が素敵でたまりません。
仮に健康体であっても蜂蜜採集等々はさすがに真似できないなとは思いますが。
健康な体があれば、窮地に陥っても、ひとまず自分の足で立って、ご飯を食べて、頑張ることができる。
そんなことをしみじみと思わずにはいられない作品でした。出会わせてくれてありがとう!
今現在(2023/9/23)小説3巻まで読み終わったところなので、続きの巻もめちゃくちゃ楽しみです。



(2023/9/23)

<参考文献>
中村颯希「ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~」一迅社