ある秋の夜、私は部屋で前に政宗からもらった文(ふみ)を読み返していた。

(こうやって想いを形にしてもらうのって、やっぱり嬉しい・・・・・・私の宝物だよ)
勢いのある筆跡をそっと指でなぞったその時、天井からカタっと小さな音が響く。

(この音は・・・・・・!)

佐助「久しぶり、ゆうさん」

「佐助くん!こんばんは」

天井裏から顔を覗かせていた佐助くんは、音もなく飛び降りて口元の布を下げる。

佐助「最近どうしてるかと思って様子見に来てみたけど、読み物の邪魔をしてしまったかな」

「ううん、大丈夫だよ。これは前に政宗からもらった文だから、実は何回も目を通してるんだ」

佐助くんは感心したように、私の手元の文を眺める。

佐助「伊達政宗の文? それはすごいな。もしかしたら後世に残るかも」

「えっ」

佐助「戦国武将の中でも、伊達政宗は筆まめなことで有名なんだ。自筆の書状は現代でも数多く保管されてる」

(そういえば、政宗がよく家臣の人たちとか知り合いの大名に文を書いてるの見るな)

「書いた手紙が、後世まで残ってるってすごいね」

佐助「プライベートな書簡から軍事上の秘密文書まで残ってるから、当時を知る上で重要な資料だ。変わったものでは謝罪文とか」

「謝罪文⁉︎  そんなものまであるの・・・・・・」

佐助「豊臣秀吉に宛てた、二度目の遅刻の言い訳をする書状が発見されたって、ニュースになったこともある」

「へえ・・・・・・。政宗らしいエピソードだな」

(秀吉さんへの謝罪文なんて、政宗はどんな顔で書いたのかな?)
想像するとおかしくて、くすりと笑いが漏れる。

(それにしても、そんなことまで後世に残っちゃうなんて・・・・・・戦国武将も大変だ)
そのあとも、しばらく他愛ない会話を交わし、佐助くんは再び天井裏から帰っていった。

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翌日、私は政宗に呼ばれて部屋を訪れた。

「政宗、入るね」

政宗「ああ」

襖(ふすま)を開けると、机に向かっていた政宗がこちらを向く。

(あ、また文を書いてる)

政宗「もう少し待ってろ。すぐ終わるから」

「うん」

私は大人しく少し離れた場所に座って、政宗を見守る。
(真剣な顔して、なに書いてるのかな?もしかして、この手紙が後世に残るのかも・・・・・・)

そう考えると見慣れた光景が特別なものに思えて、なんだかドキドキする。

政宗「気になりますって顔しすぎだろ。もっとそばにきて読んでみろよ」

「えっ、いいの?」

政宗「大した内容の文じゃないし、お前に見られて困るものなんて俺にはねえよ」

きゃー!政宗、素敵 
 現代の男たちはね、見られて困るものたらけだよ。。。 それを『携帯電話』っていう鉄の小さい機械の中にしまってんの!で鍵かけてるんだよー!

「じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・」

嬉しくなって政宗のそばに近寄ると、
(わっ)

政宗は笑みを浮かべて、私を引き寄せる。

政宗「ほら、読んでみろ」

「うん・・・・・・!」

政宗の隣に寄り添うように座り、わくわくしながら文を覗き込むと・・・・・・

『別に用はないけど、雨が続いたから退屈していると思って筆を取った・・・・・・』

(なにこれ、可愛い)
本当に他愛ない一文が目に入って、思わず吹きだしてしまう。

政宗「なんだよ」

「ううん、なんでもないよ」

(有名武将とか関係なく、政宗は政宗だな)
政宗は慣れた様子で、すらすらと文に筆を走らせていく。

「ねえ、政宗ってどうしてそんなにたくさん文を書くの?」

政宗「しばらく顔見てないやつがいると、近況が気になったりするだろ。誰かの顔が思い浮かんだら、気軽に文を出すようにしてる」

「・・・・・・そういうのって、なんだかいいね」

政宗「ん?」

「毎日のように逢える環境にいて贅沢なのはわかってるけど、政宗から文がたくさんもらえるのは羨ましいな」

私は少し照れながら、政宗の顔を見上げる。

「私は政宗から文をもらうと、その日一日幸せな気分になれるから」

政宗「・・・・・・この文には、文末に『読んだら燃やせ』って書いておこう」

「え、なんで?」

政宗「お前にそばにくっつかれて可愛いことを言われたから、文章がまとまりそうにない」

政宗は筆を硯の上に置き、私の唇を素早く掠め取る。

「ん・・・・・・っ」

ちゅっと小さな音を立てて唇が離れ、胸が甘く疼く。

「・・・・・・いつもいきなり口づけするんだから」

政宗「口づけしてほしいって顔してるからだろ」

笑いながら抱きしめられて、ドキドキと胸が高鳴る。

「もう・・・・・・っ」

(反論できない・・・・・・。こんなに嬉しいなんて重症だな、私)

政宗「拗ねるな。お前が俺に構われたくてしょうがないってことはよくわかった」

政宗「ゆう、明日、空いてるか?」

(明日?)

「うん。特になにもないけど・・・・・・どうして?」

政宗「明日一日、城を離れてお前だけに構ってやる」

「えっ、本当に?」

政宗「ああ、最近天候が崩れてたけど、やっと安定したみたいだからな。ちょうど気晴らしに遠乗りしたいと思っていたところだ」

(久し振りの外デートだ。嬉しいな・・・・・・)

「ありがとう、政宗」

政宗「ああ」

政宗が満足そうに笑って、もう一度私に口づけようとした時・・・・・・

???「政宗、いるか?」

(この声・・・・・・秀吉さんっ?)

秀吉「おっと、いちゃついてるところ悪いな」

襖が開いて、秀吉さんが部屋に入ってくる。

政宗「悪いと思ったら遠慮していいぞ、秀吉」

政宗は私を腕の中に閉じ込めたまま、平然と秀吉さんに言い返す。

「ちょっと、政宗・・・・・・っ」

(この状態で普通に話を続けないで・・・・・・っ)

慌てて政宗から離れると、秀吉さんが苦笑いしながら口を開く。

秀吉「三日後の会合の件で、政宗に話がある」

「会合?」

秀吉「ああ。新しく織田傘下に入った大名達の処遇を決めるために、安土城へ招集したんだよ」

「なんだか、重要そうな会合だね」

政宗「ただの退屈な集まりだ」

鼻で笑う政宗を見て、秀吉さんの眉間にしわが寄る。

秀吉「信長様の天下統一の布石となる、重要な会合だ。少しはやる気を出せ」

政宗「わかった、わかった。なにかすることがあるなら、今日中に頼むぞ。俺は明日一日、ゆうと遠乗りだ」