信玄「君のためならば、譲ってやらないこともなかったんだが・・・・・・あいにく俺も買えなかった」
「えっ⁉︎」
信玄「どうやらこの近辺で、何者かが金平糖を買い漁ってるらしい」
(せっかくここまで探しに来たのに・・・・・・)
信玄様の話に、ショックを受けて肩を落とす。
謙信「くだらん。たかが菓子だろう」
信玄「これが梅干しでも同じことが言えるか?」
謙信「そんな不届き者が居れば、斬って捨ててくれる」
(それは物騒すぎる・・・・・・!)
謙信様の発言に内心ひやひやしていると・・・
商人「武将様方・・・・・・金平糖を売っている者をお探しなんですか?」
商人が遠慮がちに口を挟んだ。
「他にもまだいらっしゃるんですか?教えてください!」
商人「いや・・・・・・確証はないが、少し行った先で大きな市をやっていると聞いたので、もしかしたら、出回っているかもしれないですよ」
「信長様、可能性があるなら行ってみましょう!」
信長「そうだな」
謙信「時間も惜しい。わざわざその市まで行く気はな・・・------」
商人「あと、なんでも珍しい梅干しもあるんだとか・・・・・・」
謙信「珍しい梅干しだと?」
謙信様の瞳が、梅干しの情報で途端に輝きを増す。片や信玄様は、口元に余裕めいた笑みを浮かべた。
信玄「なるほど。それは是が非でも手に入れ、天女と金平糖を楽しまないとな」
信長「貴様、そのようなことを俺が許すと思うのか?」
(また不穏な雰囲気に・・・・・・!)
ふたたび火花が散り始めたと思うと、三人はそれぞれすぐに市の方へ向いた。
謙信「金平糖などどうでもいい。梅干しが売り切れる前に行くぞ」
信長「ゆう、乗れ」
「あっ・・・・・・!」
ふわりと信長様に脇を抱えられ、馬上へと戻される。
信玄「天女のために必ず金平糖を手に入れる」
信長「ぬかせ」
一斉に、脇腹を蹴られた馬たちが駆け出す。
(嘘でしょ・・・・・・!)
そうして、武将たちの金平糖争奪戦が始まった------
------
それからすぐに陽が傾きだした。三頭の馬が、我先に前へ出ようと速度を上げる。
信長「ゆう、振り落とされないよう、しがみついていろ」
「はい・・・・・・!」
言われた通り、信長様の腰にぎゅっと抱きつく。
(あ・・・・・・!)
隣を走る謙信様が、片手で刀を握ったのが視界の端に映った。
謙信「目障りだ、退け」
「信長様!」
襲いかかった一閃を、信長様は素早く引き抜いた白刃で弾き返す。
信長「退くのは貴様の方だ」
謙信「邪魔立てするなら容赦せん」
(わ・・・・・・っ!)
馬の速度を緩めることなく、ふたりの刀は高い音を響かせ打ち合い始める。
(ど、どうしよう・・・・・・っ)
すぐ目の前で繰り広げられる剣戟に、はらはらしていると------
(あっ、信玄様)
刀を合わせるふたりの隙を見て、信玄様の馬が一歩前に出た。
信長「貴様に、金平糖は渡さん」
先を行く信玄様を止めようと、信長様の銀閃が放たれる。
信玄「おっと。天女が同乗しているのに刀を振るうとは感心しねえな」
信玄様が自分の刀で一撃を受け止めた。
信長「そう言う貴様は手ぬるいな」
信玄「へえ、随分余裕だな。いつまでそうしていられるか見ものだ」
そのまま刃を翻し、信長様に斬りかかる。信長様が弾き返そうとしたその時だった。
謙信「女連れで戦とは・・・・・・甘いにもほどがある」
「きゃっ!」
まったく容赦のない謙信様の刃が振り下ろされ、とっさに目をつむる。
(あれ・・・・・・?)
身体に何の痛みもないことにすぐ瞼を開くと、信長様がすんでのところで刀を受け止めていた。
信長「・・・・・・」
謙信様の刀を、信長様が押し返したところではっとする。
信長「怪我はないな」
私の方を軽く見やった信長様の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
信長「怖がらずとも、貴様には指一本たりとも触れさせん」
(信長様・・・・・・)
自信に満ちた言葉と笑顔に、胸が熱くなる。
(どんな時だって信長様は私を守ってくれる・・・・・・だから信じられる)
「はい・・・・・・!」
信玄「おい謙信、少しは気をつけろ」
謙信「戦に女も男もない」
信玄「ったく・・・・・・俺は天女を傷つける気はないが、信長、お前は別だ」
信長「かかってこい。ゆうがいようとも、貴様など片手で遊んでやる」
信玄様の刀が鋭利に振るわれ、信長様がなぎ払う。
(わっ・・・・・・!)
その後も、いち早く商人の元へ駆けつけるための戦いは続き・・・・・・
------
私たちは、市へとたどり着いた。
信玄「さすがにここで刃を交えるわけにはいかないな」
信長「民衆を巻き込めん。刀を仕舞え」
謙信「貴様と斬り合えんのは惜しいが、同感だ」
三人は、仕方なさそうに刀を鞘に納め馬から降りる。
(よかった。誰も怪我をしてないみたいだ)
そうほっとしていると------
信玄「ここからは、早く見つけた者勝ちの勝負だな」
信玄様は、煽り立てるように信長様に薄い笑みを向けた。
信長「勝負など、最初からこちらが勝つと決まっている」
信玄「何とでも言え。金平糖を手に入れるのは俺だ」
(刀は納めてくれたとはいえ、やっぱり争いになっちゃうんだ)
火花を散らす信長様と信玄様を、謙信様は興味なさそうに一瞥だけしてすたすたと歩き始めた。
謙信「くだらん。俺は梅干しを探しに行くぞ」
信玄「それじゃあ姫、また後で会おう」
私に微笑みかけ、信玄様も行ってしまう。
信長「・・・・・・」
「信長様、私たちも早く行きましょう!」
腕を取って引っ張ると、信長様は歩き出しながら
ちらりと背後を振り返った。
信長「・・・・・・ああ」
何かを気にした様子の信長様に首を傾げる。
「信長様?」
信長「いや、なんでもない。信玄よりも先に金平糖を見つけるぞ」
「はい・・・・・・!」
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信長の視線から逃げるように、路地の陰に佐助は身を潜めた。
佐助「・・・・・・謙信様たちを連れ戻しに来たのに困ったことになった」
陰に隠れたまま、佐助はため息を落とす。
佐助「何か策を練らないと」
------
賑わう市を見回しながら、金平糖の商人を探していると------
(あれ?今・・・・・・見間違えかな?秀吉さんがいたような・・・・・・)
つい立ち止まった私の手を、信長様が取った。
信長「何を呆けている」
「今、秀吉さんに似た人がいた気がして・・・・・・」
信長「秀吉だと?」
信長様は、私の言葉に訝しげに眉を寄せる。
(そんなはずないよね。秀吉さんはきっと今頃、宴の準備を張り切っている頃だろうし)
「すいません、見間違いだと思います」
信長「・・・・・・そうか」
(何か気になることでもあったのかな)
どこか考えるようなその仕草に首を傾げ、私たちは再び歩き出した。そうして近くの露天商や買い物客に尋ねたり、歩き回ったりして商人を探し------何人に聞いたかわからなくなった頃、通りすがりの買い物客が教えてくれた。
信長「何。向こうの露店で、金平糖を売っているだと?」
客「はい。路地の手前の、小さな菓子の露店です。赤いのぼりが出ているからわかるかと」
「ありがとうございます!」
(よかった!これで信長様に金平糖を食べてもらうことができる・・・・・・!)
「信長様、行きましょう」
信長「ああ、急ぐぞ」
嬉々として、信長様とともに教えてもらった場所へと向かうと、赤いのぼりが見える。
「あっ、あのお店ですね!」
信長「ようやく見つかったか」
逸(はや)る気持ちとともに、露店に向かう足をさらに急がせた時------
謙信・信玄「・・・・・・!」
(謙信様と信玄様⁉︎)
ばったりと出くわしたふたりに、目を丸くする。
信長「貴様ら・・・・・・」
信玄「まさか、同時に店を見つけるとは・・・・・・これも運命かもしれないな。戦わざるを得ないという」
謙信「ならば、場所を移すぞ。存分に相手をしてやる」
信長「臨むところだ」
(せっかくお店を見つけたのに戦うだなんて・・・・・・!)