ミツ者「恐れ入ります、信玄様。ご報告が・・・・・・」

信玄「どうした?」

ミツ者「はっ、小太郎の母親が見つかりました」

信玄「そうか。案内してくれ」

信玄様が立ち上がり、私も小太郎くんの手をぎゅっと握りながら後に続いた。ミツ者の人に案内され、信玄様と共に小太郎くんの家に向かう。家のすぐ傍まで来たところで------

女性「や、やめてください・・・・・・っ」

(誰か襲われてる⁉︎)

信玄「行こう」

声の方へと急ぐと、そこには男性が女性を強引に連れていこうとする姿があった。

男「金を借りたのはあんただろ。払えねえなら、身体で返しな!」

女性「必ず返しますから!お願いです、あと数日待っ------きゃあ・・・・・・!」

信玄「・・・・・・」

小太郎「おかーしゃん!」

繋いでいる手をするりと外し、小太郎くんが女性の元へと駆けていく。

「あっ・・・・・・!」

信玄「小太郎・・・・・・!」

小太郎くんは女性を助けようと、男性に体当たりする。けれど、小さな身体は簡単に弾き飛ばされた。

男「何だ、こいつッ」

女性「小太郎⁉︎どうしてここに・・・・・・!」

男「お前の子か。一緒に売り飛ばしてやるっ」

「やめてください・・・・・・!」

思わず飛びだそうとしたとき、信玄様に肩を引き留められた。

信玄「君はここに」

そう言ったかと思うと、信玄様は素早く前へと駆け、男性の腕を掴んで捻り上げる。

男「痛たたっ!な、何だ!」

信玄「女性に手を上げるとは、風上にも置けないな」

男「この野郎っ------・・・ぐあっ!」

もう一度腕が捻られ、男性の身体は反転し、赤子のように地面に転がった。そこに信玄様の腰から抜き去られた白刃が、男性の喉元に突き付けられる。

信玄「金は正規の金額をきちんと後で払わせる。もう二度とこの女性に近づくな」

転がったままの男性へ、低く威圧のある声が有無をいわさないとばかりに放たれた。

男「わ、わかった・・・・・・わかったから刀をさげてくれっ」

信玄「行け」

刀を引いたと同時に、男性はよろめきながら、立ち上がり逃げていく。刀を静かに収め、信玄様は女性に向き直る。

信玄「怪我はないか?」

女性「あなたは、信玄様・・・・・・っ」

どうしたらいいかわからないといった様子の女性に、信玄様が頭を下げた。

信玄「すまなかった」

女性「え・・・・・・」

(信玄様?)

信玄「彼が亡くなって、君にも小太郎にもずいぶん苦労をさせてしまったようだな。家臣の妻子が不自由なく暮らせるよう配慮するのは、将としての勤めだったのに本当に申し訳ない。小太郎を俺の元に預けたのは、生活苦ゆえのことだったんだろう?」

女性「も、申し訳ございません・・・・・・!夫が亡くなり、おっしゃる通り生活が苦しくどうにもならず・・・・・・せめて小太郎だけでもと・・・・・・信玄様はお優しく懐が深い方だと聞いていたので、小太郎を放り出すようなことはしないと思ったのです」

(そうだったんだ・・・・・・)

女性「でも何故、私たちのことがわかったのですか・・・・・・?」

信玄「着物に縫われた小太郎の名を見て、すぐ気づいた。大事な家臣の子どもだ。忘れるはずがない」

周りに詳しいことを言わずに小太郎くんのお母さんを探させたのは、追い詰めないようにするための信玄様の配慮だったのだろう。事情が見えたと同時に、月を見上げる信玄様の寂しそうな横顔も思い出した。
(あの時の寂しそうな顔は、きっと亡くなったその人を偲んでいたから・・・・・・)

女性「息子の名前まで、覚えていてくださったのですね・・・・・・」

信玄「もちろんだ。それから・・・・・・」

信玄様は、女性と小太郎くんの元で膝をつく。これから君たちが不安なく暮らせるように、働き口を紹介させてくれるか?仕事が落ち着くまでは、援助もさせてもらうつもりだ」

女性「っ・・・・・・、ありがとうございます!なんとお礼を言ってよいのか・・・・・・」

信玄「礼など必要ない。当然のことだからな」

信玄様は女性に笑みを見せたあと、小太郎くんの頭にぽんと手を乗せる。

信玄「さっき、母親を守ろうとした小太郎は凛々しかったな。そういう勇敢なところはお前の父親にそっくりだ。これからも、母をしっかり守って行くんだぞ」

小太郎「はい・・・・・・!」

頭を下げる女性と手を振る小太郎くんに少し後ろ髪を引かれながらも、背を向け、信玄様と共に歩き出した。

------

その夜------

寝支度を整えた後、部屋でくつろいでいた。

「小太郎くん、お母さんのところに戻れてよかったですね」

信玄「ああ、そうだな。やっぱり本物の母親の元が一番いいだろう」

「はい。小太郎くんもお母さんも、嬉しそうでした」

そう答えたところで、畳の上の手に、信玄様の手が重ねられた。

信玄「ゆう」

名前を呼ばれ、深い色の瞳にまっすぐに見つめられる。

信玄「何も聞かず、俺を信じてくれてありがとう」

「そんなの当然です。信玄様は嘘をつくような人じゃないですし、私と約束もしてくれたじゃないですか」

信玄「・・・・・・君が、そう思ってくれていたなら、すごく嬉しい。愛する人に心からしんじてもらえることは、こんなにも幸せなことなんだな」

信玄様は、嬉しそうに瞳を和らげた。

「私も今回、改めて信玄様が素晴らしい人だって思って・・・・・・愛する人がそんな方で幸せです」

信玄「素晴らしいだなんて、そんなことはないさ」

「いえ・・・・・・!家臣やその家族も大切にする、将に相応しい立派な方です。国の人みんなに慕われてるのもわかりますし、そんな信玄様を私は誇らしく思ってます」

信玄「それならば君の優しさも、俺には誇らしいぞ。いつも自分のことより人のことを考えて行動する。そんな君の優しさに救われることは多い」

「そんなの、信玄様の方がいつも人のことを考えてると思いますよ」

「いや、思いやりがあって明るくて頑張り屋の君に、俺はどれだけ救われていることか。そんな一面を知るたびに、君をもっと好きになる」

(信玄様・・・・・・)

「そういえば、小太郎くんがいなくなって、部屋が広くなった気がしますね」

寂しい気持ちに浸っていると、後ろから伸びてきた腕に身体を包まれた。とん、と後頭部が厚い胸板に当たり、耳元に唇が寄せられる。

信玄「寂しくないようにしてあげようか。こうして・・・・・・」

片手で顎先が持ち上げられ、唇が重ねられた。隙間から差し入れられた舌が飴玉でも溶かすかのように柔らかく絡められる。
(こんなキスされたら・・・・・・っ)

優しすぎる深いキスに、すぐに身体中が火照っていく。

信玄「妬けるな、他の男のことで寂しいと言う君を見るのは」

艶やかな笑みを湛え、信玄様は私の下唇を指先でなぞる。
(余裕な顔してそんなこと・・・・・・っ)

「こ、小太郎くんは子どもですよ」

信玄「それでも、君の気持ちを掴んでいることは変わらないからな。君の心に隙間があるのなら、俺が全部埋めたいと思っているよ」

(信玄様・・・・・・)

信玄「寂しさを忘れるくらい、俺を感じていればいい」

額に軽く口づけられる。身体を向き合わされると、そのまま布団の上へそっと押し倒された。

「はい・・・・・・感じさせて欲しいです。信玄様をたくさん」

信玄「・・・・・・ああ、覚悟してくれ。嫌というほどあげよう」

熱っぽい瞳で見つめ返された後、ふたたび唇が降りてきて深く重なり合う。触れたところから伝わってくる愛情にそう強い想いを抱きながら、私は身を委ねていった------