ミツ者「恐れ入ります、信玄様。ご報告が・・・・・・」

信玄「どうした?」

ミツ者「はっ、小太郎の母親が見つかりました」

信玄「そうか」

その報告に、息を詰める。

ミツ者の人は信玄様の傍に寄り、何かを耳打ちした。

信玄「わかった。連れてきてくれるか」

ミツ者「かしこまりました」

一度部屋を下がったミツ者の人は、少し経ってひとりの女性を連れてきた。
(この人が、小太郎くんのお母さん?)

信玄「・・・・・・」

小太郎「おかーしゃん!」

小太郎くんが女性を見た途端、弾かれたように駆け寄り、抱きついた。女性も、小太郎くんを愛おしそうに強く抱きしめ返す。


女性「小太郎・・・・・・!ごめんね、ごめんね・・・っ」

抱きしめ合う母子を見て胸が締めつけられるような想いになっていると、信玄様がぽつりとこぼした。

信玄「・・・・・・やはり、離れたくて離れたわけではなかったんだな」

(あ・・・・・・信玄様はやっぱり女性のことを知っているんだ)
問うように隣を見上げた私に、信玄様は一拍置いて口を開く。

信玄「彼女は、戦死した家臣の妻だ」

「信玄様の家臣の・・・・・・?」

信玄「ああ」

信玄様は私に頷いた後、女性に向き直り、優しい声で尋ねた。

信玄「聞かせてくれないか。愛する息子を手放し俺の元に託そうとした理由を」

女性「っ・・・、はい・・・・・・夫が亡くなってから、後妻として嫁いだ先が潰れてしまい・・・・・・」

生活苦に陥り、自分がどうなっても、せめて子どもだけでも立派に育って欲しいと感じた女性は、人柄の良さを夫から聞いて知っていた信玄様に、身を切る想いで小太郎を託したのだという。

信玄「そういうことだったのか」

女性「本当に、申し訳ございませんでした・・・・・・!」

女性「斬り捨てられてもおかしくないようなことをいたしました。ですが、どうかこの子だけは・・・・・・っ」

女性は畳に頭を擦りつけ、震えながら謝罪の言葉を述べる。

(信玄様は怒るような人じゃない・・・・・・周囲に誤解されても小太郎くんのお母さんのことを言わずにいたのは、きっと追い詰めないためだから)
そう考えながら信玄様の方を見るととても厳しい顔をしていた。

信玄様「顔を上げるんだ。謝るのは俺の方だ」

深い声とともに、信玄様は女性に頭を下げた。

女性「え・・・・・・?」

信玄「あいつが亡くなってから大変な生活を送らせてしまったんだな。家臣の家族を守ることも将としての務めなのに、気づかずに君たちを苦しめた」

女性「そんな、信玄様は何も悪くありません!どうかお顔をお上げください・・・・・・!」

そこで信玄様は頭を上げる。

信玄様「せめて当面の援助と働き口の紹介をさせてくれ」

女性「大変なご迷惑をらおかけした上に、そんなことをしていただくわけには・・・・・・」

信玄「あいつがいてくれたから、いま俺はこうして生きてる。俺と国を命がけで守ってくれたあいつが一番守りたいはずの人に、俺もできることをしたんだ」

そう告げる瞳には、優しさと強さが滲んでいる。

女性「・・・・・・ありがとうございます」

信玄「小太郎とあいつはよく似ているな。少しの間だったが、とても楽しかった。小太郎、ありがとう」

信玄様が、柔らかな笑みで小太郎くんの頭を撫でる。
(将として責任感が強くて、家臣もその家族も大事にする、優しく懐の深い方・・・・・・信玄様は、やっぱり私の大好きな信玄様だ)

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その後、春日山城のみんなと一緒に、小太郎くんとお母さんを城門まで見送った。

謙信「これで一件落着といったところか。」

母子ふたりの姿が見えなくなったところで、城に戻ろうと歩き出す。みんなにもあの後、小太郎くんの事情は簡単に説明してあった。

謙信「理由が何かあるのはわかっていたが、初めから言えば良かったものを」

幸村「そうです、水くさいですよ!」

信玄「まあ、いいじゃないか」

佐助「でも、そういうところは信玄様っぽいですね」

幸村「俺は御館様を最初から信じてましたけどね。女には甘いですけど、責任取れないことはしないって」

佐助「幸村、いつかそうなると思ってたって言ってた気がする」

↑佐助くん、いいツッコミ〜〜 

いつものように軽口を叩きながら歩くみんなに、くすりと笑う。

信玄「ゆう」

信玄様が私の手をそっと握ってきた。大きな手に突然包まれて隣を見上げると、潜めた声で誘われる。

信玄「このまま、俺に付き合ってくれないか?」

「いいですけど・・・・・・どこに行くんですか?」

尋ね返したところで、唇に長い人差し指が押し当てられた。

信玄「みんなには秘密だ」

悪戯っぽく片目をつむってみせる信玄様と、含んだような言葉の響きに胸が波打つ。
(秘密・・・・・・?)

前を歩くみんなに気づかれないよう、私はそこから連れ出された------

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「ここって・・・・・・」

見渡す限りの薄紅が広がる光景に、目を見開く。信玄様が私を連れてきたのは、満開の桜が連なる美しい丘だった。

「綺麗・・・・・・」

信玄「気に入ってくれたか?」

「はい!でも、どうして急に?」

信玄「俺のことを、何も聞かずに信じてくれたお礼だ。桜が咲くのが楽しみだと言っていたから、君にみせたかった」

(それって・・・・・・)


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信玄「ああ、今日は特に暖かい。そういえば、桜の蕾もずいぶんほころび始めていたな」

「じゃあ数日で花が開きますね。楽しみです」

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信玄「待ち遠しそうに、外を眺めてしたろ?」

「すごく嬉しいです」

信玄「それならよかった」

「でも、信玄様を信じるのは当たり前のことなので、お礼をしてもらうようなことはしていませんよ」

信玄「そんなことはない。君が信じてくれたことが、どれだけ嬉しかったか。小太郎も、君が心から受け入れてくれたから、あまり不安にならず春日山城で過ごせていたんだと思う。せっかくだ、桜の下でのんびりしよう」

にっこり微笑んだ信玄様に手を引かれ、大きな桜の元へと導かれる。信玄様は先に地面に座ると、自分の膝を手でぽんぽんと叩いた。

信玄「おいで」

うー!私、「おいで」に弱いんです。。。 

「で、でも・・・・・・」

信玄「お礼なんだから、たくさん甘やかされてくれ・・・いいだろう?」

(っ・・・・・・、この顔でそんなこと言うなんてずるい・・・っ)
大人の余裕を湛えた笑みに、胸が甘く掴まれる。信玄様は、私を見上げながら両手を広げた。

信玄「さあ」

照れくささを感じながらも、私も信玄様の膝の上で桜を眺めたくて、素直にそこに座った。ふわっと優しく抱きしめられ、その逞しい腕に体身体を預ける。


(ちょっと恥ずかしいけど、こんなふうに信玄様と桜を見るのもいいな)
柔らかな春の色と愛する人のぬくもりに包まれ、幸せを感じる。

(ずっとこうしていたいくらい・・・・・・)

「綺麗ですね」

信玄「ああ。桜の下の天女は、この上なく綺麗だ」

信玄様の指が私の髪をそっとすくい、耳に柔くかけた。ふっと笑みを描いた唇が、ゆっくりと私に近づいてくる。

キスの予感に包まれた時------

「わ・・・・・・!」

強い風が吹きつけて、思わず目をつむる。すぐに瞼を開くと・・・・・・

「・・・・・・!」

視界いっぱいに舞う花吹雪の美しさに、一瞬声を失った。

信玄「・・・・・・これは見事だ」

「すごい・・・・・・こんなに綺麗な光景初めて見たかも。小太郎くんも見たら、きっとすごく喜んだろうなぁ。一緒に見たかったですね」

信玄「・・・・・・そうだな」

信玄様は私に答えながら、降り注ぐ薄紅に目を細めた。ただ静かに、花吹雪を見つめている。

信玄「・・・・・・」

(小太郎くんのこと、思い出してるのかな?すごく可愛がってたから・・・・・・それとも、小太郎くんのお父さんのことかな)

桜を眺める表情がどことなく寂しそうに見えて、思わず信玄様の手に自分の手を重ねた。

「・・・・・・私がいますよ」

信玄「え・・・・・・?」

「信玄様の傍にいますから。寂しくないように、いつも」

重ねている手に、想いを込めて力を入れる。

信玄「ゆう・・・・・・」

信玄様はかすかに目をみはった後------

信玄「君には敵わないな」

「あ・・・・・・っ」

微笑まれた次には、唇が重なっていた。触れては離れ、離れては触れ、戯れるようなキスが繰り返されていく。唇が浮いた隙に、信玄様が囁いた。

信玄「俺も、君の傍にいつもいる。------約束だ」

その誓いを交わすように、幾度も口づけが重ねられる。

(ずっと・・・・・・ずっと信玄様と一緒です)
桜の下で、触れ合う唇に揺るぎない想いを込めていった------