信玄様にそっと声をかけようとすると------
信玄「・・・・・・」
空に浮かぶ月を見上げる横顔が寂しげで、声を呑み込んだ。
(信玄様・・・・・・?もしかして、小太郎くんのお母さんのことを考えてるのかな。どんな女性で、どんな関係なんだろう・・・・・・)
そう思うよね。。。
信玄様のことは、揺るぎなく信じている。それでも、どうしても気になって胸の内側がざわめいた。
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数日後------
澄んだ青空の下に広がる花の上に、布を敷きお弁当を広げる。
「さあ、召し上げれ」
天気のよい今日は、小太郎くんを連れ花畑に遊びに来ていた。
小太郎「おいちそー」
信玄「ああ、ゆうの作った飯はどれも美味いぞ。小太郎、何から食うか?取ってやろう」
小太郎「や・・・・・・っ」
(あっ、逃げちゃった)
世話を焼こうとする信玄様から、小太郎くんは私の後ろに隠れた。
信玄「うーん、嫌かー」
少しやきもきしつつ、振り向いて小太郎くんを抱っこする。
「ほら、こっちで三人で食べよう?」
信玄「そうだぞ。みんなで食べると楽しいし美味いぞ」
小太郎「いやーだー」
信玄「俺は小太郎と食べたいんだけどなあ。寂しいなあ」
(寂しいって・・・・・・小太郎くんと喋ってる信玄様が可愛い)
子ども目線での喋り方に、つい頬が緩む。
小太郎「ぼく、ゆうがいー」
小太郎くんが、ぎゅっと私に抱きついてくる。
信玄「そうか、小太郎はゆうが大好きなんだな。俺もゆうが大好きだぞ」
(えっ)
信玄「だから、小太郎がくっついていると少し妬けてしまうな」
(また、そんなこと言って・・・・・・っ)
自分でも頬が赤くなるのがわかって、誤魔化すようにおにぎりをふたりに差し出す。
「さ、早く食べましょう!どうぞ」
信玄「ありがとう。いただきます」
小太郎「いただきましゅ!」
信玄「うん、美味い。こんなに美味しいのは、君の愛情がたっぷりこもっているからかな」
「た、ただのおにぎりですよ」
(もう、息するみたいに甘い言葉を言うんだから・・・・・・)
三人でお弁当を食べていると、目の前をひらりと蝶が舞った。
「あ、蝶?」
小太郎「ちょーちょ!」
小太郎くんはおにぎりをもったまま立ち上がり、蝶をおいかけようとする。
「あ、ダメだよ、小太郎くん」
私も追いかけようと立ち上がった時、ヒュウッと風を切る音がし、黒い影が横切った。
(え、トンビ⁉︎)
鋭い爪が小太郎くんめがけて襲いかかろうとして------
(危ない・・・・・・!)
「小太郎くん!」
とっさに小太郎くんを守ろうと抱きつき、きゅっと目をつぶる。
トンビに襲われる覚悟をしたけれど------
(・・・・・・痛くない?)
恐る恐る目を開けると、信玄様が私たちに覆い被さっていた。
信玄「っ・・・・・・、ふたりとも大丈夫か?」
ゆっくりと身体を離し、信玄様が私たちに尋ねる。
(信玄様が守ってくれたんだ・・・・・・!)
「はい、小太郎くんも大丈夫みたいです」
信玄「よかった。握り飯を狙われたみたいだな」
「信玄様は------・・・」
「っ・・・!」
尋ねる途中で、信玄様の腕に鮮血が滲んでいることに気づいて息を呑む。
「腕が・・・・・・!」
信玄「ああ・・・・・・これなら擦り傷だから大丈夫だ。舐めときゃ治る」
信玄様は、まるで何でもないことのように悠然と笑う。
「大丈夫じゃないですよ!」
信玄「俺のことよりも・・・・・・小太郎、よく泣かなかったな。偉いぞ、さすが男だ」
信玄様が嬉しそうに表情を崩し、小太郎くんの頭を撫でた。
(あっ、触っちゃった!泣いちゃうかも)
信玄「あ・・・・・・」
信玄様もそこでハッと気づき、ふたりで覚悟するけれど・・・・・・
小太郎「・・・・・・」
(あれ・・・・・・?)
小太郎くんは涙ひとつ見せず、信玄様にこっくりと頷いた。
(泣かなかった・・・・・・)
驚いて一瞬、信玄様と顔を見合わせる。
(もしかして・・・・・・今ので信玄様は自分を守ってくれる人ってわかって、心を開いたのかも)
信玄「小太郎、来い」
信玄様が、優しい笑顔で小太郎くんに手を差し伸べる。すると、小太郎くんは信玄様の腕の中へと飛び込んだ。
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信玄様の傷の手当てをしてから、三人で仲良くお昼を食べた。おなかがいっぱいになった後は、信玄様と小太郎くんは肩車をしたり腕にぶら下がったりして遊び始める。
信玄「ほら小太郎、高いぞー」
小太郎「たかーい!」
信玄「よし。じゃあこれはどうだ?」
遊んでいるふたりを眺め、頬を緩めた。
小太郎「ゆうー!」
「はーい、今行きますねー!」
(何だかいいな、こういうのって)
そう思いながら、私はふたりの元に駆けていった。
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信玄様と小太郎くんとたっぷり遊んだ後------
「寝ちゃいましたね」
休憩していると、小太郎くんは私の膝の上でいつの間にかすやすやと寝始めた。
信玄「ずいぶん遊んだから、疲れたんだろう。子どもと遊ぶのは、なかなか体力がいるものだな」
「ふふっ、そうですね。私も結構疲れました」
信玄「それなら・・・・・・」
突然、肩を抱き寄せられる。
信玄「こうして俺に寄りかかっていればいい」
信玄様は私の肩を抱いたまま、淡く微笑んだ。
「でも、それじゃあ信玄様が疲れちゃいますよ」
信玄「そんな心配は無用だ。俺なら、君とこうしている方が癒されるからな。だから、このままでいてくれる方が嬉しい」
(・・・・・・っ私が甘えられるように、そんな風に言ってくれてるんだよね。本当に優しいな、信玄様は)
「じゃあ・・・・・・お言葉に甘えさせてください」
信玄「ああ。好きなだけ甘えてくれ」
深い愛情を実感すると、気になっていた小太郎くんのお母さんと信玄様の関係も、どうでもよくなった。
(信玄様にどんな秘密があっても、私の気持ちは変わらない)
そんな強い気持ちが湧いていた。
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眠ったままの小太郎くんを信玄様が背負い、帰り道をゆっくりと歩いていく。
「小太郎くん、よっぽど遊び疲れちゃったのかな?」
信玄「そうかもしれないな。だが可愛いもんだ」
信玄様は背中の小太郎くんにわずかに振り返り、穏やかに目を細める。広い背中で小さな小太郎くんをおぶる信玄様の姿に、顔がほころんだ。
(信玄様との間に子どもが生まれたら、こんな感じなのかも・・・・・・きっと、いいお父さんになるんだろうな)
ふたりを見上げながら歩いていると、不意に信玄様が申し訳なさそうに言う。
信玄「・・・・・・君には迷惑をかけてるな。申し訳ないと思ってる」
「迷惑なんて、少しも思ってないですよ!小太郎くんはいい子で可愛くて、むしろ一緒に過ごせて嬉しいです」
そう告げると、少し硬かった信玄様の表情が緩んだ。
信玄「・・・・・・それならいいが」
「はい。三人でいるのは楽しくて------」
小太郎「おかあしゃん・・・・・・」
「あ・・・・・・」
信玄「小太郎・・・・・・?」
「寝言みたいです」
信玄「・・・・・・そうか」
「こんなに可愛い子を手放すなんて、きっと相当の理由があるんでしょうね」
信玄「・・・・・・そうだな」
信玄様は前を向き、遠くを見ながら答える。茜色の夕日が沈む中、私たちは静かに歩いていった------
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翌日------
小太郎「おいしー」
信玄「うん、美味しいな。小太郎、もうひとつ食べるか?」
小太郎「んっ」
信玄様は小太郎くんの口に、お饅頭をあーんしてあげている。
「ふたりとも、おやつ食べ過ぎですよ」
信玄「じゃあ、あとひとつだけ。な、小太郎?」
小太郎「あとひとちゅー」
「あっ、ふたりでそうやって・・・・・・。本当にそれで最後ですよ?」
信玄・小太郎「はーい」
(すっかり仲良くなったな。何だか本当の親子みたい)
そう微笑ましく思っていた時、すっと襖が開いた。
ミツ者「恐れ入ります、信玄様。ご報告が・・・・・・」
信玄「どうした?」
ミツ者「はっ、小太郎の母親が見つかりました」
信玄「そうか」
(小太郎くんのお母さんが・・・・・・⁉︎)
その報告に、私は息を詰めた------
