政宗「なーにやってんだ」
「っ・・・!政宗!」
仰ぎみるとそこには、尾行していはずの政宗がいて・・・------
「どうして・・・・・・」
政宗「ばればれだ。お前、間諜には向かないな」
驚きに目をみはる私に、政宗がにやりと笑いかける。
(光秀さんとおんなじこと言ってる・・・って光秀さんは⁉︎)
「光秀さん⁉︎」
はっとして、振り向いた時にはもう光秀さんの姿はなかった。
(いつの間に・・・⁉︎)
政宗「さーて?」
路地の壁に片手をついた政宗に、私の退路は完全に奪われた。
政宗「事情を話してもらおうか」
政宗が首を傾げるようにして、私の顔を覗き込んだ。
「っ・・・・・・こそこそつけたりしてごめんね。ちょっと気になっちゃって」
近くに迫る愉しげな笑みにどきどきしながらも、謝罪を口にする。
政宗「まあ・・・大方検討はついてる。光秀にそそのかされたってとこだろ」
すると、政宗が私の耳元に顔を寄せて・・・
(っ・・・あ)
政宗「だが・・・・・・そんなに構って欲しかったなら、俺に直接言えばよかっただろ」
?そう言ったら、政宗が光秀さんと公務っていったんじゃない。。。
低く甘い声でささやかれて、うるさいくらいに鼓動が騒ぎだす。
「それは・・・・・・昨日教えてくれなかったから」
恥ずかしくてうつむこうとした私の顎を、政宗が壁についていない方の手で掴み、くいっと持ちあげる。
政宗「光秀とはいえ、お前が他の男といるのは面白くないな」
「っ・・・!」
間近で視線が絡まった次の瞬間、唇を奪われていた。顎に触れていた手が離れ、そのまま私の手首を捕らえる。政宗は、私を壁に押さえつけるようにして、唇を貪っていった。
「ん・・・ぁ・・・・・・」
(やきもち、妬いてくれたんだ)
強引なのに、甘やかすようなキスが続き、次第に力が入らなくなってしまう。
「・・・・・・政、宗」
立っていられなくなった私に気づいて、政宗が腰を抱き寄せてくれた。
政宗「黙ってて、悪かったな。不安にさせたか?」
不安だよ。だって、光秀さんと公務って、嘘ついたじゃない。。。
優しい瞳が、私を愛おしげに見つめる。
「ううん、そんなことない・・・・・・ただ気になっちゃっただけ。私の知らない政宗がいるのかなって」
素直に打ち明ける私に柔らかく微笑みかけ、政宗は戯れのようなキスを一つ落とした。
政宗「帰ったら、今日何してたか、ちゃんと教えてやる」
------
御殿に帰ると、『準備がある』とどこかへ行ってしまった政宗を、私は一人部屋で待っていた。少しすると、襖(ふすま)が開いて・・・------
政宗「出来たぞ」
部屋に戻ってきた政宗が持っていたのは小さな土鍋だった。気になって、お鍋の中を覗き込む。
(おかゆ?)
政宗「薬膳料理だ。今日最初に行った場所で教わってた」
お酒が飲めない政宗が、飲み屋の調理場から出てきたのを思い出す。
政宗「あそこの主人が、薬膳料理の知識に長けてるって有名でな」
「そうだったんだ。でも、どうして薬膳料理を?」
政宗「お前のためにきまってるだろ」
なんでもないことのように言い、政宗が土鍋を鍋敷きの上に置く。
政宗「昨日逢った時、顔色が良くなかったからな」
得意げな笑みを浮かべた政宗が、私の隣に座り、鍋からおかゆを取り分けてくれる。
政宗「ほら、食っていいぞ」
美味しそうな香りが、湯気とともに匂い立つ。
「ありがとう。いただきます!」
政宗の気持ちが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
(わ、本当だ。全然苦くないし、すごく・・・・・・)
「優しい味がする。政宗の気持ちが伝わってくるからかな」
政宗「・・・・・・お前な」
「え?・・・・・・っ」
唐突に顔を覗き込まれ、そのまま唇を絡めるように奪われた。
政宗「あまり可愛いこと言うから、口づけたくなった。飯は中断で、このまま続けても良いが、どうする?」
「・・・・・・思ったこと、言っただけだよ」
ぼっと火が出るように頬が熱くなり、慌てて政宗の胸を押し返した。
政宗「冗談だ。いいから早く食え」
不敵な笑みを浮かべ、政宗はあっさりと身を引いた。
(せっかく作ってくれたんだし、あったかい内にいただこう。つい、続けてほしい・・・・・・っていいそうになっちゃったけど)
恥ずかしさを誤魔化すようにれんげを手に取り、美味しくおかゆをいただいた。
------
しばらくして、政宗が食器を片づけて戻ってくる。
(あれ?何か手に持ってるみたいだけど・・・・・・)
「政宗、それは?」
政宗が包みを手渡す。
政宗「お前への贈り物だ。受け取れ」
「え・・・っ、ありがとう」
わくわくしながら、そっと包みに手をかける。
(あ、これって・・・・・・)
おそらく最後に立ち寄った反物屋で買ってくれたのだろう。立派な裁縫道具一式が入っていた。
「わぁ、素敵・・・・・・ありがとう、すごく嬉しい・・・!でも、お祝い事でもないのに、どうしていろいろしてくれるの?」
政宗「お前が努力してるのを聞いて応援してやりたくなっただけだ。大した秘密じゃなかっただろ」
何でもないことのように告げられたけれど、政宗が反物屋からなかなか出て来なかったことを思い出す。
(きっと、すごく悩んで選んでくれてたんだ)
政宗の底なしの愛情が、胸の中を優しく満たしていった。
(政宗はいつだって、私のことを大切にしてくれてる)
溢れる想いのまま、気付けば自分から政宗に抱きついていた。
政宗「・・・・・・!」
突然のことに少し驚いている政宗に、笑いかける。
「ありがとう。政宗の秘密を知って、もっと好きになったよ」
政宗「後ろめたい秘密がなくて安心したか?」
悪戯っぽく告げた唇が近づいて・・・------
「っ・・・ん・・・・・・」
ついばむように、何度も焦れったいキスが落とされる。
「政宗・・・・・・なんで」
(焦らされてる・・・・・・よね)
政宗「ん?なんだ、言いたいことがあるなら言えばいいだろ」
全部お見通しのような政宗に、頬が熱くなる。
「・・・・・・政宗・・・・・・もっと」
根負けして、政宗の着物をぎゅっと握った。
政宗「お前、本当に可愛いな」
満足げな笑みが降ってきて、唇が再び塞がれる。次のキスは甘く深く、吐息を奪っていった。
政宗「・・・・・・ゆう」
必死に応えていると、優しく名前を呼ばれて・・・・・・気付けば押し倒されていて、着物の合わせに手をかけた政宗に、はっとする。
「あ!」
とっさにその手を制するように掴んだ。
政宗「ん?どうした?」
「政宗、寝不足なんでしょう?」
(よく眠れるお香を買ってたくらいだから)
「政宗こそ、疲れてるなら無理はして欲しくないなって・・・・・・」
(やめてほしくない・・・・・・気持ちもあるけど)
政宗「ああ、香のことか」
政宗は少しの間考え、思いだしたように言った。
政宗「今日は必要ない」
「え・・・・・・ぁっ」
にやりと口角を上げた政宗がそのまま、首筋に舌を這わせていく。耳元にたどり着くと、熱い吐息混じりにささやいた。
政宗「今夜は眠る間もないくらい、お前を愛してやる」
「っ・・・・・・」
(政宗のこと、全部知ってるつもりだったのに、知れば知るほど・・・・・・もっと好きになる)
ぎゅうっと抱きつくと、大切なものに触れるように頬を撫でられる。とめどなく愛しさを与えられて、乱されていく。精一杯の仕返しをするように、自ら口づけた。
「惚れ直しちゃった・・・・・・大好き」
政宗「・・・・・・ったく」
そんな私に、政宗は小さく息をつき、額を重ねる。
政宗「一つだけ、お前にばらしてない秘密がある」
「なに・・・・・・?」
政宗「お前が可愛くて仕方ない」
「・・・!」
(なに、それ・・・・・・)
政宗「お前が想うよりもずっと・・・------お前に惚れてる」
(私だって負けないくらい好きだって思う。でも今夜は・・・------政宗の想いに溺れてしまいたい)
・・・------誰にも言えない、秘密の甘い夜が始まる。
