政宗「なーにやってんだ」

愛しいその人の声が耳元で響き、どきっと鼓動が高鳴った。

「っ・・・!政宗!」

笠を取り上げた政宗が、後ろから強く私を抱きしめる。その光景を見て、一緒に尾行していた光秀さんが、にやにやと笑って見ていた。

光秀「お前にしては気付くのが遅かったな」

政宗「ったく・・・・・・余計なことしやがって」

(政宗?)
政宗の腕に、わずかな力がこもる。

光秀「珍しいな。妬いているのか」

政宗「何とでも言え」

面白がる光秀さんに、にやりと笑みを返す政宗はいつも通り飄々として見える。
(でも・・・・・・こんな風に見せつけるなんて、ちょっといつもより、余裕がないような気がする)

光秀「尾行は失敗だったな。また間諜ごっこがしたくなったらいつでも言え」

ひらひらと手を振ると、光秀さんは帰って行ってしまい、政宗との間に、気まずい沈黙が落ちる。
(ええっと・・・・・・どうしよう)

私を抱きしめたまま、何も言わない政宗をそっと振り返った。

「・・・・・・怒ってる?」

政宗を見上げ、緊張しながら返事を待っていると・・・・・・

政宗「怒るわけないだろ」

ふっと笑った政宗が、私の髪を撫でた。

政宗「こんなことされたって、可愛いだけだ」

やっぱりね。。。政宗らしいね〜❣️包容力っていうのかな、これ。

それから、政宗は小さく苦笑いをこぼす。

政宗「途中でばれて、格好つかねえとは思ったけどな」

「そんなことないよ。政宗はいつだって格好いいから」

(本当に・・・------いつだって、ずるいくらいかっこいい)

政宗「お前の前だけだろ」

「っ・・・・・・もう」

政宗「この後、時間あるよな」

不意に問いかけられ、私はぱっと顔を上げた。

「政宗と逢う約束をしてただけだから、特に予定はないよ」

政宗「なら、ちょっと付き合え」

「・・・・・・?うん」

首を傾げる私の手を引いて、政宗は歩き出した。

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(ここ・・・・・・)
連れて来られたのは、政宗が寄ったお香のお店だった。

政宗「ここで、お前らの尾行に気付いた」

「あ・・・・・・」

ここに来た時のことを思い出す。


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「何するんですか・・・!」

光秀「声をあげれば、政宗に尾行が気付かれるだろう?」

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(あの時、やっぱり気付かれちゃってたんだ)
思い返していると、政宗が私の手を引き、店内へと足を踏み入れた。

女主人「あら、政宗様。何か買い忘れでも?」

政宗「まあそんなところだ」

肩をすくめた政宗に笑みを向けた後、女主人が私の存在に気付く。

女主人「そちらの方は・・・・・・もしかして噂の?」

(噂?)
二人のやりとりに目を瞬かせる私を、政宗が女主人に紹介するように前に押しやった。

政宗「ああ、俺の大事な女だ」

(っ・・・・・・大事な女って)

「初めまして。ゆうといいます。あの・・・・・・噂っていうのは?」

政宗「おい、余計なこと言うなよ」

「余計なことって?」

政宗「それは」

女主人「政宗様からいろいろお伺いしてます」

政宗「・・・・・・」

女主人「お針子のとても愛らしいお嬢さんと恋仲でいらっしゃるって。いつも惚気ていかれるので、どんなお嬢さんか気になっていたんですよ」

「えっ」

女主人「お仕事に熱心なあなたのために、『優しい香りがして安眠作用のあるものを至急用意してほしい』って、文をいただいて。先ほどはそれを受け取りにいらっしゃったんです」

(寝不足なのは、政宗のことだと思ったのに私のためのお香だったんだ)

政宗「余計なこと言うなって言っただろ」

(政宗が照れてる・・・・・・)

女主人「余計なことなんかじゃありません。とても大切なことだと思いますよ。もっとお教えしましょうか?政宗様が普段どんな風にあなたの話をしていくか」

「・・・・・・!ぜひ、聞きたいです!」

政宗「こら、調子に乗るな」

「っ、あ・・・」

ぐいっと肩を引かれ、女主人から引き離される。

政宗「お前をここに連れて来たのは、秘密にしてたことを教えるためだけだ。これ以上は・・・・・・」

女主人「ふふっ、仲がよろしいことで。そんなに想い合ってるお二人には、この香りがぴったりかと」

そう言って、女主人が小さな包みを私に手渡してくれる。

女主人「いつも政宗様にご贔屓(ごひいき)にしていただいているお礼なので、お代は結構です。よかったらまたお二人でいらっしゃってください」

人のいい笑みを向けられ、私もつられて笑顔になる。

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」

女主人「政宗様はもともと、このお店のお得意様だったのですが、あなたと出逢われてから、ずいぶんとお変わりになりました」

(えっ・・・)

女主人「優しいお顔をするようになられました。あなたを本当に大切に想ってらっしゃるからでしょうね」

(そう、なんだ・・・・・・)
人づてに聞かせてもらった政宗の想いに、一気に体温が上昇した。ぽんと頭に心地いい重みがして仰ぎみれば、政宗が困ったように微笑んでいて・・・・・・

政宗「ちなみに、最初に行った飲み屋は、お前に作ってやりたい料理を習いに行っただけだ。反物屋は・・・・・・もうわかってんだろ」

「全部・・・・・・私のため?」
 
突然の告白に、驚き以上に嬉しさが隠せなかった。

政宗「そういうことだから、これ以上秘密はない。わかったか」

「うん」

光秀さんと公務。。。確かに嘘をついたわけだから、心配させたからこそ、ちゃんと安心させるために、わざわざ、連れて行ってくれたんだね。政宗のこういうところが、優しいよねー。

 政宗の愛に満たされながら、繋がれた手に引かれて、お店をあとにした。

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すっかり陽も落ちた帰り道を、二人で手を繋いで帰っていた。

政宗「こんなはずじゃなかったんだがな」

不満げにぽつりと零す政宗が愛しくて、つい頬が緩んでしまう。

政宗「こら、何笑ってる」

「嬉しいなって。それに、こんな政宗が見られるなんて思ってなかったから」

(今日はいろんな政宗を知ることが出来た気がする)

政宗「ったく・・・・・・」

ぼやいた政宗が、繋いでいた手を引き寄せて・・・------

「・・・・・・っ」

不意に、唇が重ねられる。

「ん・・・・・・」

音を立てて唇が離れると、政宗がにやりと笑った。

「っ・・・いきなりすぎるよ・・・・・・」

政宗「やられっぱなしは性に合わない」

目元を和らげ、優しく見つめる政宗の視線に、どきりとする。
(------私だけに向けられるこの優しい瞳は私しか知らない秘密なのかもしれない)

「政宗、ありがとう。今日一日、すごく嬉しかった。こんな幸せな秘密があるんだね」

政宗「・・・・・・幸せな秘密、か」

政宗の手が、昨日と同じように優しく私の頬に触れる。

政宗「お前に、今日の計画がばれたのは予定外だったが、その笑顔が見たくてしたことだから、作戦は成功だな」

困ったように笑う政宗に、胸の奥が音を立てる。再びそっと近づく唇に、目を閉じた。
(私だけが知っている政宗は・・・------この先もずっと、私だけの秘密のままがいい)

甘く続いていく優しいキスを、月だけが見ていた。