穏やかな夕暮れ時のこと・・・------

廊下を歩きながら、寝るまでにしなければいけないことを考えていた。
(あ・・・!)

反対側から歩いてくる政宗の姿に気付き、駆け寄る。

「政宗、お疲れ様!お仕事で来てたの?」

政宗「ああ。お前も仕事の帰りか」

「うん」

(お互い忙しかったから、政宗の顔見るのも久しぶりな気がする)
偶然の鉢合わせが嬉しくて、自然と頬が緩んだ。

政宗「なんだその顔は」

「え?」

指摘され、とっさに頬を押さえた私の顔を、政宗がさらに覗き込んだ。

政宗「顔色が悪いな。ちゃんと食べて、ちゃんと寝てるのか?」

「・・・ここのところ、ちょっと忙しかったから」

政宗「ちょっと、か。お前はつかれてても正直に言わないからな」

「最近、注文が少し増えたの。いいものを作るためにも、裁縫道具を新調したいなって思ってるの。せっかく新調するなら、質のいいものがいいし・・・・・・もっとがんばらなくちゃ」

これ以上心配をかけないようにと笑って見せる。

政宗「欲しいものがあるなら言えばいいだろ。買ってやる」

「ありがとう。でも、目標があった方が頑張れる気がするから」

政宗「お前らしいな」

ふっと優しく目を細めた政宗が、私の方へと手を伸ばして・・・------

政宗「そういうことなら、応援する」

私の頭をくしゃっと撫でた。

政宗「お前の努力家なところは認めてるが、無理はするなよ」

「うん、ありがとう。気をつけるね」

(政宗のこういう見守ってくれるような優しさ、すごく好きだな。あ・・・そうだ)

「明日には少し仕事が落ち着くんだ。もし政宗がお休みだったら、逢いたいな」

(逢瀬もしばらく行けてないし・・・)

政宗「あー・・・・・・悪い。明日は仕事だ。光秀と公務がある」

ばつが悪そうに謝る政宗に申し訳なくなり、慌てて言葉を足す。

「全然気にしないで。いきなり誘ったりしてごめん。政宗も、無理しすぎないでね」

政宗「ああ」

そう答えると、政宗か小さく口元に笑みを浮かべた。

政宗「仕事と言っても、夜には終わる。城まで迎えに来るから、それまでゆっくり休んでおけ」

「うん・・・・・・!」

(明日の夜、また逢えるんだ)
沈みかけた気持ちが晴れて、笑顔がこぼれる私に、政宗も目元を和らげた。

政宗「イイ子にしてろよ」

「っ・・・・・・」

ちゅっと音を立て、額にキスを一つ落とされる。

(不意打ちはいつものことだけど・・・・・・いつまでたっても慣れないな)
頬を熱くする私に手を振り、政宗がその場をあとにした。

いちいちかっこいいのよねー。政宗 

------

その夜・・・------

寝る前に水を飲みに行こうと部屋を出た。
(あれって・・・・・・)

「光秀さん、こんばんは。遅くまでお疲れ様です」

通りかかった後ろ姿に声をかけると、光秀さんが私に気づいて振り返る。

光秀「ああ、お前か」

「政宗から、明日は光秀さんとお仕事って聞きました。気をつけて行ってきてくださいね」

光秀「・・・・・・?」

光秀さんが、不思議そうな顔で私を見る。
(あれ、変なこと言ったかな?)

目を瞬かせる私に、光秀さんが告げる。

光秀「何を言っている?そんな予定はないが」

「え・・・?」

それから、廊下の縁側で、私は光秀さんに夕方の政宗との会話の内容を話していた。

光秀「ほう・・・では、俺と公務があると言っていたということだな?」

「はい・・・・・・でも、そんな予定はないんですよね?」

光秀「政宗がお前に嘘をついたことになるだろう」

「でも、どうしてそんな嘘を・・・?」

驚きを隠せない私に、光秀さんが意地悪な笑みを向ける。

光秀「お前に言えないような秘密があるのかもしれないな。気になるか?」

(気にならないと言えば、嘘になる。でも・・・・・・)

「私は、政宗を信じてますから」

(きっと何か理由があるんだと思うし)
自分に言い聞かせるように答えた私に、光秀さんは思案するように黙り込んだ後、話を切り出す。

光秀「お前、明日は暇を持て余していると言ったな」

「はい。そうですけど・・・・・・」

光秀「ちょうどいい。明日、少し付き合え」

待ち合わせ場所だけを告げると、光秀さんは意味ありげな笑みを残し、御殿へと帰って行った。

------

そして翌日・・・------

光秀さんとの待ち合わせの場所に向かうと・・・・・・

「えっ・・・」

見なれた背中が視線の先に映り、驚きに声を漏らす。
(政宗⁉︎ どうして、ここに・・・?)

その時、不意に肩を叩かれて・・・

「・・・・・・!」

慌てて振り向くと、そこには光秀さんが立っていた。

光秀「待たせたな。政宗は・・・・・・あそこか」

光秀さんはわずかに目を細めて、前方を行く政宗を確認する。

「光秀さん、これは一体どういう・・・・・・わっ」

事情を聞こうとする私の頭に、ぽすっと大きな笠をかぶせられた。

光秀「政宗を尾行するための変装だ。お前の場合、似合わなすぎて、かえって怪しまれそうだが・・・・・・」

(尾行⁉︎)

光秀「お前ま気になるんだろう。政宗の秘密が」

(う・・・・・・それは)

「気に、なります・・・・・・けど」

(確かに、今までこんな嘘をつかれたことないし、どこへ行くかすごく知りたいけど)

光秀「政宗は察しがいいから、充分気をつけろ。安心しろ。尾行の技を伝授してやる」

「っ、わかりました」

光秀「では行くぞ。ついてこい」

------

いつも通り、城下の人々と挨拶を交わしながら、政宗が市を歩いて行く。そうして、政宗はあるお店の前で足を止めて・・・・・・
(飲み屋さん?政宗はお酒が飲めないのに)

慣れた仕草で店内へと足を踏み入れた。

光秀「こんな昼間から飲み屋か。下戸(げこ)が何の用事だろうな。心当たりは?」

少し離れた物陰から、政宗の様子を眺めながら光秀さんが問いかけてきた。

「・・・・・・ありません」

光秀「ならば直接確かめるしかないか」

「え」

光秀「店内に入る」

(中に⁉︎)

「でも、ばれちゃうんじゃ・・・・・・」

戸惑う私に、不敵な笑みが向けられる。

光秀「懐に入ってみないことには前進しないからな」