(ここが、上田城・・・)
長旅を終えて馬を降り、どっしりと構える城門を見つめる。

幸村「よーやく着いたか」

私の隣で、馬から飛び降りた幸村が大きく伸びをした。

「ここが幸村の故郷なんだね」

幸村「おー」

(綺麗なところ・・・・・・)
緑はいきいきと色濃く、咲く花は匂いたっている。私は澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

幸村「ぼけっとしてねーで、ほら」

幸村の大きな手のひらが、私の方へと差し出される。

1. 駆け寄り腕に飛びつく

2. 指先をそっと握る

3. 手と手を重ねる      ♡

私はその手に、そっと自分の手を重ねた。

幸村「これからは毎日、こうしてお前と手ぇつないで、歩けるな」

「そうだね。あ、でも・・・・・・幸村はこういうの、照れくさい?」

幸村「全然?むしろ便利だ。お前がもう勝手にどっか行かねえように、この先ずっと、こうして歩く」

(幸村・・・・・・)
笑みを交わし、並んで石畳を歩きだす。

(今日から私はここで暮らす。幸村と一緒に生きていく・・・・・・)
そのことに迷いがなくなった一方で、少しの不安が私の胸に居座っていた。必要最低限の荷物を詰めたバッグを、ぎゅっと胸に抱きしめる。

幸村「なあ、その中に入ってんの、よっぽど大事なものなのか?こっちの時代に着いてからずっと手離さないよな、お前」

「っ・・・うん、お針子の道具とか、色々ね」

(嘘はついてない。でも、もっと別のものも入れてきたんだよね・・・)
バッグの底には ”イケメン武将トラベルガイド” を詰め込んである。

『・・・・・・このような活躍で猛将として名を馳せた幸村ですが、後年は恵まれず・・・・・・戦に敗北し故郷を追われ、武家の娘である妻や、子ども共々と紀伊へ流されました。晩年、不利を承知で出陣した合戦に負け、自害して命を絶ちました。』

ガイドブックに書かれていた幸村の悲しい行く末が頭にこびりついている。私が戦国時代に戻ったことで、あれからさらに歴史は変わっているはずだけれど・・・
(こっちに戻ってからは、読むのが怖くてあのページをめくってない。幸村に・・・・・・私がこっちに戻ろうと思ったきっかけ、話した方がいいのかな)

決心がつかないまま、私は幸村と上田城の城門をくぐった。

(わぁ、綺麗・・・・・・)
幸村に案内され美しい城内の庭園へ足を踏み入れると・・・

佐助「・・・・・・!ゆうさん」

「あっ、佐助くん!」

駆け寄ってきた佐助くんと、手を取り合う。

佐助「よかった。無事にこっちに戻って来られたんだな」

「うん・・・!全部、佐助くんのお陰だよ。でも・・・・・・よかったの?現代に戻らずに、佐助くんまでここで暮らすなんて・・・」

佐助「ああ、いいんだ。こっちの方が。研究はここでも続けられるし、忍者の仕事は性にあってる。それに・・・ここには、君もいるから」

(え・・・・・・?)
握手する手に、佐助くんがぎゅっと力を込めた時・・・

幸村「・・・・・・そろそろいーだろ」

「え?あっ」

私と佐助くんの手を、幸村が手刀でピシリと切り離した。

佐助「・・・・・・」

「急に何するの?」

幸村「別に、何となくだ」

佐助「幸村、その素直じゃない態度は改めた方がいいっていつも言ってるはずだけど」

幸村「・・・・・・ほっとけ」

(あれ、もしかして・・・)

「やきもち・・・?」

幸村「・・・・・・!なに寝ぼけたこと言ってんだ。この程度で誰が妬くかよ」

佐助「どうせ顔に出るんだから、誤魔化すことないのに・・・」

幸村「っ・・・佐助、お前はいちいち見透かすのやめろ」

佐助「やめない。感動の再会を邪魔されたし」

幸村「邪魔はしてねーだろ。ただ俺はな・・・」

言い合いをするふたりを前に、少し呆気にとられてしまった。
(幸村と佐助くんって、性格正反対に見えるけど・・・)

「仲がいいんだね、ふたりって。知らなかった」

幸村「あ?」

佐助「ああ、仲はいいと思う。ケンカするぐらいには打ち解けてる」

幸村「お前、よくそういうこと真顔で言えるよな・・・」

呆れ顔の幸村を見て、私はふっと吹き出した。
(友だちと話してるときの幸村ってほとんど見たことないから新鮮だな。これからもっと、新しい幸村の顔を知っていくんだろうな・・・)

幸村「ったく、何ひとりでにやけてんだよ、ゆう」

「っ・・・なんでもない」

幸村「ま、お前は笑ってる方がいいけどな」

佐助「それは、俺も同感」

肩を並べて、幸村も佐助くんも柔らかく微笑んだ。

幸村「つーか、これから先いくらでも話せるし、まずは荷物部屋に運ぶか」

幸村「行くぞ、ゆう」

「うん!」

佐助くんと別れて、私の荷物まで軽々運んでいく幸村を駆け足で追いかけた。

「幸村の部屋・・・・・・春日山城の部屋とほとんど変わらないね」

幸村「ん?そうか?」

「うん。物がほとんどないし、飾り気もないし・・・」

荷物を片づけながら部屋を見回し、つくづく幸村らしいと思う。

幸村「あんま部屋に閉じこもってることねーから、自然とこうなった。だけど・・・」

後ろに座って、幸村が私を背中からぐいっと抱き寄せる。

「な、何・・・っ?」

幸村「これからはお前がいる。居心地いいように、少しずつここを変えてく。お前と一緒に」

(幸村・・・・・・)

「うん・・・。そうだね」

振り返って、幸村と見つめ合う。どちらからともなく唇を近づけ、触れ合せたその時・・・

???「幸村様!お戻りになられたのですね」

幸村「っ・・・!」

(だ、誰・・・?)
ぱっと身体を離した瞬間に襖が開いて、大勢の家臣達が詰めかけた。

家臣1「お帰りなさいませ!お待ち申しあげておりました・・・!」

幸村「・・・おー、長い間留守にして、苦労かけたな」

家臣2「そちらがゆう様ですか?文で知らせてくださっていた通り、お美しい・・・」

(え・・・・・・?)
幸村を横目で見るけれど、ばっと目を逸らされる。

幸村「あー・・・・・・俺、そんなこと書いてたか?お前の記憶違いだろ」

家臣2「いえ、たしかに私はこの目で拝読しましたよ」

家臣3「私も覚えております!お会いできるのを楽しみにしておりました」

幸村「っ・・・・・・わかったわかった。今夜、宴でも開いて盛大にこいつを迎えるぞ」

家臣達「はい、ぜひ!」

(幸村、耳、真っ赤だ・・・・・・。家臣の人達の話、本当なのかな)
嬉しいけれど少し気恥ずかしくなって、私まで顔が熱くなる。

家臣1「幸村様。お帰りになられたばかりで心苦しいのですが、今年の税についてご相談が・・・」

幸村「わかった、今から行く。ゆう、あとでな」

「うん・・・」

名残惜しそうに私の頭を一度だけ優しく撫で、幸村は部屋を出ていった。

(幸村は家臣の人達に慕われてるんだな。皆、すごくいい人そう。きっとこれから、ここで楽しく暮らしていける)
そう思いながら片付けに戻り、手が止まる。

空っぽにしたバッグの底に ”イケメン武将トラベルガイド” の表紙が覗いていた。
(読めば、私の不安はなくなるのかな・・・でも・・・・・・)

踏ん切りをつけられず、私はそのままバッグを閉じた。

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その夜は幸村の宣言通り盛大な宴が開かれて、部屋へ戻ってきたのは真夜中だった。

「楽しかった・・・!幸村、歓迎してくれてありがとう」

幸村「他人行儀なこと言ってんじゃねー。ここがこれから、お前の家なんだから」

夜着に着替え、幸村が布団の上にあぐらをかいた。

幸村「こっち来い」

「・・・・・・うん」

肩をぴったりくっつけて、幸村の隣に座る。
(あったかい・・・)

ことんと幸村の肩に頭を乗せると、腕を回され、いっそう引き寄せられた。

幸村「・・・・・・なあ。お前、俺になんか隠してることあるだろ」

「えっ・・・?」

幸村「その反応、やっぱ間違いねーな」

「なんでわかったの・・・?」

幸村「旅の途中も、こっちに着いてからも、お前ちょいちょい浮かねえ顔してたから。俺の目、見くびんなよ?お前のことならだいたいわかる」

どこか得意げに幸村が笑ってみせる。
(幸村には敵わない・・・)

「実は・・・・・・私がこの時代に戻るって決めたのには、きっかけがあったの」

幸村「きっかけ?」

「そう。未来で・・・・・・幸村の行く末がどうなるか、知ったからなの」

幸村「・・・・・・」

ためらいながらも、私は幸村に抱えていた不安を伝えた。私が戦国時代に戻ってくる前に、ガイドブックに書かれていた幸村の未来のことも。幸村は黙って話を聞き終えたあと、あからさまにため息をついた。

幸村「お前・・・そんなことで悩んでたのかよ」

(そ、そんなこと・・・⁉︎」

幸村「 ”いけめん武将とらべるがいど” だっけ?貸してみろ、その本」

「え?いいけど・・・」

バッグからガイドブックを取り出し、幸村に手渡すと・・・

幸村「こんなもん、こーしてやる」

「ああっ」

幸村はためらいもせず、ガイドブックに行燈(あんどん)の火を移した。パチパチと音を立て、未来を予言する本は燃えていき・・・・・・やがて灰になった。
(大胆すぎるよ・・・・・・!)

「っ・・・・・・幸村はこれから先どうなるか、不安じゃないの?私が現代で知った歴史から、今から起きる未来が変わったかどうか、確かめなくてよかったの?」

幸村「おー、必要ねえ」

幸村は、ぐいっと私の手首を掴み・・・

「あ・・・・・・っ」

私を布団の上に押し倒して、鮮やかに笑った。

幸村「運命は変えられるって俺が証明してやる」

(運命を、変える・・・・・・?)

「一体どうやって・・・」

幸村「とりあえず、お前が俺の嫁になるっていうのはどうだ?」

「ええっ?」

目を見開くと同時に、耳にやんわり口づけされた。

幸村「俺がいずれ、武家出身の嫁とかガキとかと一緒に、どっかに流されるって書いてあったんだろ?未来から来たお前が俺の嫁になれば、その一文はなかったことになる」

「そ、その発想はなかった・・・」

(でも、たしかに幸村の言う通りかも・・・)

幸村「まあ、あんな妙な本なくても、同じこと言うつもりだったけどな」

「え・・・・・・」

幸村「で、返事は?」

「私で・・・いいの?」

思わずぽろりとそんな言葉が口からこぼれる。幸村が苦笑いして、私の髪に唇を埋めた。

幸村「あーもーバカだなーほんとにお前は」

「何がバカ・・・っ?」

幸村「全然わかってねーとこ。俺がどれだけ、お前を必要としてるか」

私の身体を、幸村が片腕で包み優しく力を込めた。

幸村「俺は、お前が、いいんだよ」


幸村「お前以外、誰もいらない」

(幸村・・・・・・)
力強い声が耳にそそがれ、私の胸を浸していく。どこまでも強い光を宿し、幸村の瞳が輝いていた。



幸村「だいたいな、先のことなんて元々誰にもわからねーだろうが。だから・・・お前しかありえねえんじゃねーか」

(え・・・・・・)



幸村「お前がそばにいれば、俺は何が起きようが幸せでいられる自信がある。お前は、違う?」

「っ・・・・・・ううん、違わない!」

迷いのない幸村の声が私の不安を吹き飛ばした。私を閉じ込める幸村の腕を、上から抱きしめ返す。

「私も、幸村がいればいい。未来がどうなるかわからなくても・・・・・・幸村だけ欲しい」

幸村「決まりだな。それじゃ・・・・・・今日からお前、まるごと俺のもんな」

(うん・・・・・・)
私は答える代わりに、幸村の頭をそうっと引き寄せ、口づけした。

幸村「・・・・・・生意気」

「ん・・・・・・っ」

仕返しのように、幸村が唇を塞ぐ。深くなる口づけが、私の身も心も、焦がしていく。
(幸村を好きになって、よかった。あなたに出逢えて、恋して、よかった)

今夜、飽きるまで抱き合って、ふたりで夢を見て、目が覚めたそのあとは・・・きっとまっさらにきらめく明日が、私達を待っている。眩しい未来を胸に抱いて目をつむり、私は幸村の温もりに身を任せた。