{DD17BC47-D31A-4186-A353-D1B7643003E2}

秀吉「ゆうに、勝手に触れんじゃねえ」


「秀吉さん・・・」

小さく呼ぶと、秀吉さんは視線はは六助から外さないまま、腕に一層力を込める。

秀吉「・・・大丈夫だから、ちょっと待ってろ」

胸元に押しつけられるように抱きしめられて、不安が一気に吹き飛んでいく。

六助「気に入らねえなぁ・・・」

緊迫した空気が濃くなり、秀吉さんは私の耳にそっと囁く。

秀吉「・・・下がってろ」

秀吉さんは、私を庇うように背中に隠し、腰の刀をすらりと抜きはなった。それに応えるように、六助も短刀を構える。

秀吉「この女に手を出したこと、今すぐ後悔させてやる。・・・行くぞ」

低い声が響いたのと同時に、秀吉さんの足が地を蹴った。

六助「く、っ」

重い一撃を六助は短刀でなんとか受けるが、押されるように後ずさる。

六助「この、野郎・・・っ!」

ガキン、という耳障りな金属音を立てて秀吉さんの刀が跳ね上がった。けれど、それはすぐに再び振り下ろされる。白刃が空気を裂いて音を立てる。

六助「ぐっ・・・!っ、くそ!」

焦れたように、六助が短刀をがむしゃらに振り回す。

秀吉「------終わりだ」

斜め下から振り上げられた秀吉さんの刀が、六助の手元を打ってその短刀が宙に飛ぶ。

六助「ぐ・・・っ」

その場に崩れ落ちた六助の鼻先に、秀吉さんが刀の切っ先を突き付けた。
(っ・・・・・・息するの、忘れてた・・・・・・)

森が静まりかえり、私はようやく息をついた。

六助「く、くそ・・・・・・っ」

悔しげに吐き捨てた六助は、すぐにその口元をいやしげに歪める。

六助「っ・・・・・・うつけの犬にしては、やるじゃねえか、秀吉」

秀吉「昔のよしみだ、二度と顔を出さないなら見逃してやる」

顔を歪めた六助が、秀吉さんの後ろにいた私の方へと視線を向けてきた。

六助「・・・そんなに、この女が大事か」

秀吉「・・・なに?」

六助「あいつに血を見せたくないとでも言うつもりか?」

秀吉「・・・お前には関係ない」

低く呟いた秀吉さんが、刀を握り直す。

秀吉「お前も知ってるだろ。俺は気が長いわけじゃない。もう一度言うぞ。さっさと失せろ」

秀吉さんの眼光に押され、六助が震えながら立ち上がる。

六助「・・・お優しいことだ。偉くなったらしいが、せいぜいボロが出ないように気をつけるんだな」

吐き捨てるように、言った六助は、そのまま林の奥へと走り去って行った。
(っ・・・・・・助かった・・・・・・)

秀吉さんは、無言のまま刀を一度振ってから鞘へと納めた。その横顔は、まだ険しいままだ。
(昔の知り合いに会ったせい、なのかな・・・・・・やっぱり、秀吉さんにとって過去は、触れられたくないタブーなのかもしれない・・・・・・)

「・・・秀吉さん」

秀吉「・・・・・・ん」

秀吉さんは、その表情から険しさを消して振り返る。

秀吉「・・・・・・巻き込んで悪かった、ゆう」

「そんなこと・・・」

何か言葉を返したいと思うのに、うまく声が出てこない。そんな私の肩を、秀吉さんがそっと押した。

秀吉「帰ろう、ゆう」

------

秀吉「よく来たな」

「お邪魔します・・・」

数日後、私は秀吉さんの御殿へと招かれていた。部屋で向かい合いながら、落ち着かない沈黙に包まれる。

(『怖い目にあわせた詫びをしたい』って言われて招いてもらったけど・・・)
振る舞われたお茶をゆっくりと喉に落としながら、私はそわそわと言葉を探した。

秀吉「ゆう」

「・・・うん?」

秀吉「この前は、済まなかった。俺の責任だ」

「違うよ!私が・・・」

秀吉「つまらない話だけど、俺の昔の話、聞きたいか?」

「え・・・?」

秀吉「あいつ・・・六助との出会いとか、俺がどんな生まれの人間か、とか」

(聞きたくないって言ったら嘘になる。明かされていない歴史の謎のひとつだし・・・・・・。でも・・・・・・)
秀吉さんは静かな瞳で、じっと私を見つめている。穏やかな表情だけれど、本当は秀吉さんが話したくないと思っているのがなんとなくわかった。

(無理に、話してほしくない。だったら、出自の話より・・・私には、他にももっと、知りたいことがある)

「それなら、秀吉さんがどんな子どもだったか、聞かせて?」

秀吉「え?」

「転んだ子どもを助けた時に言ってたでしょ?俺も悪ガキだったって」

秀吉「・・・ああ」

「想像つかないから聞いてみたいな」

秀吉「ゆう・・・・・・」

秀吉さんは、私の顔をじっと見つめてから、ふっと微笑んだ。

秀吉「わかった。教えてやる。他のヤツには内緒だぞ?」

「うん!」

秀吉「そうだなぁ・・・とにかく、悪戯をたくさんしたな。言った通り。筋金入りの悪ガキだったよ。周りのヤツらを先導して悪さすんだから、大人からしてみれば厄介なガキだったろうな」

「昔から、面倒見が良かったってことだね」

秀吉「そんないいもんじゃない。ただのガキ大将だ」

「・・・・・・嬉しいな」

秀吉「ん?」

「知らなかった秀吉さんのこと知れて、嬉しい」

秀吉「・・・そうか」

(もっと知りたいな、秀吉さんのこと・・・・・・)

秀吉「------お前は優しいんだな。それに大人だ」

「・・・そんなことないよ」

秀吉「あるだろ」

(気づかれてるかな・・・。秀吉さんが話したくなさそうだったことから、話題そらしたこと)
それでも何も言わず、こうして話をしてくれた秀吉さんの方が優しくて大人だと思う。そんなことを考えていると、大きな手のひらが、ゆっくりと私に近づいて・・・・・・

秀吉「お前のこと見くびってた。妹同然だなんて、もう言えないな」

(え・・・・・・?)
伸びてきた秀吉さんの手がそっと私の頭に触れ、優しく撫でた。

(っ・・・なんか、いつもと、違う・・・・・・)
くしゃくしゃと頭を撫で、子どもをあやすような手つきとは、何かが違う。

甘い心地を導き出されて、鼓動が速くなっていく。

「今の、どういう意味か、聞いてもいい・・・・・・?」

(妹同然だなんて、言えないって・・・・・・)

秀吉「駄目だ」

「えっ?」

秀吉「お前は、これからも俺に甘やかされるってことだけ、わかってればいい」

(そんなの・・・・・・ずるいよ)
目を細めるようにして微笑む秀吉さんの表情は、どこか色気をはらんでいて、私の胸は一層大きく鳴る。

(どうしよう・・・なんだか胸が苦しい・・・・・・)
恥ずかしいのに目をそらすことはできなくて、私たちは静かに見つめ合った。

(過去は謎のままだけれど、もっと知りたい謎ができた。秀吉さんが私をどう思ってるか・・・・・・今はそれが、すごく知りたい)
秀吉さんの指は、まるで慈しむように私の髪を梳いていく。じっとそれを受け入れながら・・・・・・二人の間の何かが変わる予感が、私の胸に、確かに広がっていった------。