(政宗・・・)
顔を上げると、安心した面持ちで政宗が私を見つめる。
政宗「なあにいっちょまえに立ち向かってやがる。慣れないことするな」
「う、うん・・・」
(政宗が来てくれて・・・・・・本当によかった)
今しがた起きた情景を思い返しながら、心から改めてそう感じた。するとその時、ひとりの男性がこちらに駆け寄ってくる。
三成「政宗様、ご無事ですか?」
政宗「ああ、三成か。こっちは心配ない」
三成「よかった、見当たらなかったから心配しました」
(・・・この人、タイムスリップした時、本能寺で会った織田軍の・・・)
武将らしからぬ柔らかな物腰と整った顔立ちは、一度見たらそう簡単に忘れられない。
三成「あなたは・・・ゆう様」
私の顔を見た三成さんの目が、驚いたように瞬きする。
(あの時は着替えの着物を用意してくれたり、すごく親切にしてくれたよね。織田軍から逃げた挙句、まさかこんな形で再会することになるなんて・・・・・・)
「あ、どうも・・・・・・お久しぶりです」
三成「これはご丁寧に・・・。こちらこそ」
少し気まずい思いで頭を下げる私に、三成さんは律儀に挨拶を返す。
政宗「なんだ、お前ら。知り合いか?」
三成「はい。以前、信長様が本能寺で襲われた時に、命をお助けした女性がいたとお話しましたでしょう?」
政宗「ああ・・・俺と秀吉がその後で散々探したのに、さっさと逃げたまま見つからなかった女か。・・・・・・で、その女がゆうなのか?」
「う、うん。まあ・・・」
三成「驚きました。こんな偶然もあるのですね」
政宗は珍しく呆気にとられたような顔をしたあと、盛大に吹きだす。
政宗「信長様を助けたり、春日山城の姫だったり、かと思えば戦場にいたり・・・・・・お前、本当わからない女だな」
「う・・・・・・政宗に言われたくないよ」
心底おかしそうに笑う政宗に、胸が静かに疼いた。
(あの時、逃げた先で佐助くんたちに出逢わなかったら、政宗と私は同じ陣営にいたのかもしれないな・・・そうなったとしても、私はやっぱり政宗に恋をするんだろうな)
あり得たかもしれない未来に、少しだけ切なくなった。
三成「ところで、上杉軍の忍びがゆうという名の女性を探して回っていると聞きましたよ。覚えのある名前だとは思っていたのですが、ゆう様、あなたのことだったのですね」
(あ・・・きっと佐助くんだ。私が戻らないから心配してるよね)
政宗「色々と聞きたいことはあるが、今は後回しだな。ゆう、俺の馬に乗っていけ」
「え、政宗の馬に?」
政宗「春日山城まで送ってやる。三成、俺のことは適当に信長様に伝えといてくれ」
三成「それは構わないのですが・・・単独で敵の領土に踏み込むのは、いささか危険では」
政宗「気にするな、俺がそうしたいんだ。お前も文句ないな?」
(送ってくれるのは確かに有難いんだけど、三成さんの言う通り、万一のことがあったら・・・)
「でも・・・やっぱりいいよ。こっちは、政宗にとっては敵地でしょ?」
政宗「関係ない。仕掛けられたらやり返すだけだ。もっとも講和を結んだ以上、向こうだってやみくもには襲ってこないだろうが」
「そういうものかな・・・?」
政宗「小言はこれくらいにして、俺についてくればいい。とにかくお前をひとりで帰す方が心配だ」
「う、うん。わかった・・・ありがとう」
(政宗・・・気にしてくれてるんだ)
戸惑いと共に嬉しさが胸に広がり、つい素直に首を頷かせてしまう。
三成「政宗様がそこまで仰るなら・・・くれぐれもお気をつけて。ゆう様も、どうかお元気で」
「はい、三成さんも・・・」
三成「『三成』と呼び捨てにしていただいて結構ですよ。またお逢いできる機会があるとよいのですが」
三成さんは輝くような笑顔を私に向ける。
(戦場に天使がいる・・・)
政宗「・・・・・・それにしても、三成、よくゆうのこと覚えていたな。興味のない人の顔や名前は、いつもすぐ忘れるくせに」
三成「信長様に盾突いた女性なんて初めて見ましたし、ゆう様はとても可愛らしい方なので、印象に残っていました」
「えっ・・・」
政宗はごく当然のことのように、私の肩を引き寄せる。
(わ・・・っ)
政宗「これは俺のだ。惚れてもやらねえからな」
三成「政宗様の恋仲のお相手に、滅相もありません」
(恋仲・・・・・・⁉︎)
政宗「まあ、ゆうが可愛いのには同意しておいてやる」
(普通に会話してるけど、私との関係、否定しなくていいの?)
戸惑う私をよそに、ふたりは楽しそうに話している。三成さんが去ると、政宗は変わらない様子で私に顔を向けた。
政宗「さて、行くか」