「っ・・とにかく、くまたん以外の物もよくご覧ください。この時代にはない機械や道具が入ってるでしょう?」

信長「・・・・・・そのようだな。だが、貴様の話が事実だとして、どうやって五百年の時を超えて来た?」

(それは、ええっと・・・・・・)
「事故みたいなものなんです。私にも詳しい原理はわからないんですけど・・・ワームホールというものが突然現れて、時空が歪んで・・・・・・ええっと・・・・・・」

信長「・・・・・・」

「とにかく!辺りがぱっと真っ白くなって、くらっときて、それからぐにゃっと目まいがして・・・っ」

信長「・・・・・・」

(っ・・・まずい、タイムスリップ理論の説明なんて私にはハードルが高すぎる!)
身ぶり手ぶりを加えて言葉を重ねるけれど、信長様の表情はどんどん険しくなる。
(これ、ちゃんと伝わってるのかな・・・っ?助けて佐助くん!)
しゃべり続けながら、現代人仲間の名前を胸の中で叫んだ時・・・

信長「成程、大だいたい理解した」

「えっ、理解できたんですか?今ので・・・?」

信長「おぼろげながらはな。”わーむほーる” という自然界の異常現象のせいで、貴様は時代を超えた、ということだろう?」

「は、はい、そうです」

信長「その事象は、貴様のいた五百年先の世では ”たいむすりっぷ” と呼ばれている。架空の事象だと考えられていたが、実際に貴様は巻き込まれた。この解釈であっているか?」

「あってます・・・」

冷静に語る信長様を私はまじまじと見つめてしまった。
(現代人の私でも、初めは夢だとしか思えなかったのに・・・)

「私が言ってる事、信じてくださるんですか?」

信長「信じるかどうかの問題ではない。事実なのだろう?」

信長様はバッグから私の携帯電話を取り出し、しげしげと見入っている。

信長「鋳型(いがた)に何かを溶かし入れて作ってあるようだな、これは。鉄でも錫(すず)でもない材質だ。今の世に、このような物を作る技術はない」

(ものすごく冷静に分析してる・・・・・・)
「どうしてそんなにあっさり納得できるんですか・・・?時代を超えたんですよ、私」

信長「貴様は俺に理解して欲しいのかして欲しくないのか、どちらだ」

「それは、理解していただきたいですけど・・・っ」

信長「西洋に ”時間” という概念があることは、南蛮の使者から聞いたことがある。そのものは ”世界は球体の形をしている” とも言っていたな。理屈も納得できるものだった」
(戦国時代の人なのに、地球が丸いってことまで知ってるんだ・・・・・・)

信長「南蛮に比べ、日ノ本の学問は遅れているのだ。俺の知らぬ世の理(ことわり)は海の外にいくらでも転がっている。五百年先の世であれば、なおのことだ。”たいむすりっぷ” のような事象も起こり得ないとは言い切れん」

(信長様ってもしかして理系?しかも、ものすごくIQ高いんじゃ・・・)
正座をして信長様と向かい合いながら、驚きが深まっていく。目の前にいる人は歴史に名を残す偉人なのだと、今さら実感が湧いてきた。

信長「それで、貴様は元の世に帰れるのか?」

「あ・・・・・・はい。三ヶ月後、もう一度ワームホールが現れるはずなんです。場所はたぶん、私がタイムスリップしてきた京だと思います」

信長「成程。では・・・」

脇息に深く持たれると、信長様はにやりと笑った。

信長「三月(みつき)後、ここを去り京へ行きたければ、俺と賭けをしろ」

(賭け?急に話が飛んだな・・・)

信長「貴様、囲碁は知っているか?」

「知ってますけど・・・・・・やり方はわからないです」

信長「ならば教えてやる。俺の気が向いた時に、貴様を呼び出す。囲碁で貴様が俺に一度でも勝てば、三月(みつき)後、京へ送り届けてやる」

「本当ですか・・・・・・?」

こんな親切な申し出を受けるなんて予想外で、一瞬嬉しくなるけど・・・
(待って。私が勝てばってことは・・・・・・)

「あの、負けた場合はどうなるんでしょうか」

信長「俺が勝つごとに貴様の身体のどこかをひとつ、俺が奪う。触れようが口づけようが、自由にする、という意味だ」

(っ・・・え・・・)

信長「力づくで奪っても、貴様は俺に屈することはなさそうだ。ならば・・・少しずつ、貴様を屈服させ、身も心も蹂躙(じゅうりん)してやる」

(何、それ・・・・・・っ)
「そんな賭け、絶対に嫌です・・・!」

信長「従わなければ、貴様は三月後 ”たいむすりっぷ” の機を逃すことになるぞ。城の牢の奥深く閉じ込め、外へは出してやらん」

「そんな・・・・・・、ひどいです!私に拒否権なんてないじゃないですか」

信長「当然だ。今さら何を言っている」

「どうしてそこまでして、私を・・・っ?」

信長「酌を拒んだ女は貴様が初めてだ。この俺に真っ向から噛みついてきた女もな。俄然、欲しくなった」

(っ・・・・・・)
嗜虐的な笑みを向けられて、どきりと心臓が音を立てる。猛獣が獲物をじっくり追い詰めながらなぶっているような、そんな眼差しを注がれる。

信長「無事に元の世に戻りたければ、己を賭けて俺と戦え、ゆう」

「っ・・・・・・わかりました」
(囲碁なんて習ったことないけど・・・・・・勝負を受けないと現代に帰れなくなる)

信長「では、初戦と行くか」

「今からですか⁉︎私、やり方を知りません」

信長「案ずるな、俺が教えてやる。まずは黒と白、どちらの色で打つか決める」

信長様は上機嫌に碁盤と碁石を用意すると、緊張で固くなる私に、てきぱきとルールを説明した。

信長「・・・・・・要は、一度ずつ交互に打ち、自分の石で囲んだ陣地が大きい方が勝ちだ。理解したか?」

「は、はい、一応は・・・」

信長「では始める」

(もう⁉︎)
黒い碁石が長い指先につままれ、碁盤に置かれる。
(黒が信長様で私が白か。無謀だけど、やるしかない)
震える指先で白い石を取り上げて、こわごわ私も一手を指した。静かな月夜に、ぱち、ぱち、と石を打つ音だけが響き、しばらくして・・・

信長「俺の、勝ちだな」

(こてんぱんにやられちゃった・・・・・・)
盤上に、私の陣地は一目(いちもく)もない。

「初心者なんだから、手加減してくれてもいいじゃないですか・・!」

信長「俺は生まれてこの方、手加減などしたことはない。囲碁だろうが戦だろうがな。では、約束は約束だ。今宵はコレをもらおうか?」

(あ・・・・・・っ)
石を打っていた方の手首を信長様に捕えられ、引き寄せられる。

信長「今宵から、貴様の手は俺のものだ」

私の手を口元に引き寄せ、信長様が指先にキスを落とした。
(っ・・・・・こんなの滅茶苦茶だ・・・・・・なのに・・・・・・どうして・・・・・・っ?)柔らかい唇で、少し荒々しく肌をついばまれるたび、ぴくっと指先が跳ねる。口づけられた箇所から、身体じゅうに火照りがじわりと広がった。
「っ・・・・・・もう、これ以上は・・・」

信長「これ以上は、何だ?」

「んっ・・・」

かすかな刺激が、小指の先に与えられた。甘噛した痕を、信長様の熱い舌がなぞる。

「ん、ぁ・・・・・・」

(嫌、今、声が・・・・・・)
急いで左手で口元を抑える。

信長「悪くない反応だな」

「ち、違います!今のは、その・・・っ」

信長「次にどこを奪うか、考えておいてやる」

私の言葉を無視し、仕上げのように爪に口づけ、信長様は手を離した。
(っ・・・・・・)
急いで自分の胸元に、熱くなった右手を引き寄せる。

信長「俺が貴様を奪い尽くすのと、貴様がここを出ていくのと、どちらが先だろうな」

「わ、私は・・・・・・絶対にあなたの思い通りになんてなりませんから!」

信長「その意気だ。せいぜい囲碁の腕を磨くことだ、ゆう」

「言われなくてもそうしますっ。失礼します・・・!」

言い返して立ち上がり、はっとする。
(いけない、ここに来た目的を完全に忘れてた・・・)

「っ・・・言い忘れてましたけど、今日は命を助けてくださってありがとうございました。」

信長「は?」

「でも、賭けにはこれから私が勝ちますから!それじゃ!」

信長様を直視出来ないまま、背を向けて部屋を飛び出した。

信長「・・・・・・あの女、この俺に礼を告げにここを訪れたのか。怒りながらも礼を言うとは・・・・・おかしな女だ」

・・・・・・

(本当になんて人なの⁉︎あんなふうに・・・・・からかいながらキスするなんて)
廊下を駆け抜けながら、きゅっと唇を噛む。右手に与えられた噛み痕がまだ熱を発していて、甘く疼いている。火照りが引かないのは私があの人に怒っているから、原因なんてそれだけだ。
(必ず勝って信長様を見返す・・・!絶対にここを出て、現代に帰る!)
力いっぱい拳を握って、私は身体の熱をなかったことにした。



指先にキス、小指甘噛み、仕上げに爪に口づけ?された事ない〜‼️どんな感触なわけ〜〜❓