こうして私は、タイムスリップ二日目にして・・・本物の合戦を目の当たりにすることになった。

(帰りたい・・・・・・!今すぐ帰ってべッドに飛び込んで全部夢だったことにしたい!)
本陣と呼ばれる司令室のような場所で、私はひざを抱えて震えていた。
天幕一枚隔てた向こうから、馬の駆ける音、大勢の武士の大声、そして・・・刀で打ち合う金属音と銃声がひっきりなしに聞こえてくる。

信長「ゆう、貴様はなぜさっきから隅で丸まっている?」

「私のことは構わないでください・・・!」

床几(しょうぎ)と呼ばれる椅子に腰を下ろし、信長様が興味深そうな目を私に向ける。

信長「この程度で怯えていて、よく俺の命など救えたものだ」

(命を救ったって・・・本能寺の変の時のことだよね)

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信長「っ・・・・・・?誰だ、お前は」

「自己紹介はあとでします!立って、今すぐ!」
(何がなんだか分からないけど逃げなきゃ!この人、殺されちゃう・・・っ)

「私の手に掴まってください!」

信長「・・・・・・」

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「あの時は、とっさに身体が動いただけです」

今思うと、暗殺犯の前に飛び出せたのが自分でも不思議だ。

「信長様こそ、どうして平気な顔で笑っていられるですか・・・?」

信長「それを、この俺に聞くか」

鼻で笑い、信長様が目を細めた時・・・

家臣1「申し上げます!敵の城の虎口(こぐち)を突破、一番槍が飛び込みました」

(え・・・・・・?)
天幕の中へ駆け込んできた家臣が、意気揚々と信長様の前に膝をつく。

信長「手を緩めるな。そのまま二の丸(にのまる)を打ち破り火を放て」

家臣1「御意(ぎょい)」

(ええっと、今のは・・・門を壊して敵の城の中に入ったってことであってるかな?)
飛び交うわけのわからない単語を、解読しようと頑張ってみる。
(もっと攻めろって指示したってことは、こっちが有利なんだ)
信長様はそれからも、戦況の報告を受けては矢継ぎ早に指示を飛ばした。
顔色ひとつ変えず、淡々と。
(兵の数はこっちが圧倒的に少ないのに。負けるなんて少しも思ってないって顔してる。”織田信長”って、本当にすごい人だったんだな・・・)
妙に感心してしまった時、また本陣に知らせが届いた。

家臣2「御館様、敵将が城の外へと馬で姿を表しました・・・!」

(敵将が・・・・・・?)

信長「籠城(ろうじょう)して死を待つより、命懸けで勝負に出たか。良い度胸だ。気に入った」

信長様は立ち上がって腰の刀に手をかけた。

信長「俺かみずから幕引きをしてやる」

「みずからって、信長様が相手をするってことですか・・・?」

信長「他に何がある?貴様もそこでうずくまっていてはつまらんだろう。来い。そばで見物でもしろ」

「えっ、私は遠慮し・・・」

信長「この女を馬に乗せろ」

家臣2「はっ」

(嫌だって言ってるのに!)
抵抗も空しく天幕から引っ張りだされ、家臣の馬に乗せられて・・・私は信長様と一緒に、戦火の平野へと飛び出した。
(っ・・・・・・うわ・・・・・・)
護衛の兵達の頭越しに、休みなくぶつかり合う槍や刀が見える。お腹の底に響くような武士達の声に、改めて恐怖が湧きあがった。(お願い、夢なら覚めて・・・)
手に力が入らなくなって、走る馬上で身体がぐらりと揺れる。

「きゃ・・・・・・っ」

信長「・・・・・・」

私は馬から滑り落ち、地面にどさっと倒れこんだ。
(痛っ・・・・・・。なんで・・・・・・私がこんな目に遭わなきゃならないの)
拳(こぶし)をぎゅっと握りしめた、その時だった。

敵将「狙うは信長の首ひとつ!矢を放て!」

ひゅ、と風を切り、敵陣から火矢が放たれた。燃える矢の先は狙いを外れ、私めがけて飛んでくる。
(嘘・・・・・・?!)
声もなく身構えた瞬間・・・
(っ・・・・・・!)
目の前で、矢が真っ二つに切り飛ばされた。
(何が、起きたの・・・・・・?)

信長「この女が俺に見えるとは、敵の弓取りは使いものにならんらしい」

馬を進めて、私を敵から隠し、信長様が私を見下ろす。
(信長様が、助けてくれた・・・・・・?)
おそるおそる立ち上がり、顔を上げる。
白刃を抜き放つ信長様の鋭い横顔が、戦火に照らされ輝いて見えた。

信長「貴様、怪我は」

「・・・・・・平気です。かすり傷だけです」

信長「ならば良い。京での拾い物を、やすやすと敵にくれてやる気はない。貴様は俺に守られていれば良い」

かすかに笑ったあと、信長様は冷たい目で敵陣を睨み据えた。

信長「貴様らの相手はこの俺だろう。ゆめゆめ間違えるな」

・・・・・・

よく通る低い声が戦場に響き渡って、敵兵たちはびくっと身を縮めた。
(すごい迫力・・・・・・)

信長「貴様はそこでじっとしていろ。ただし、目はつむるな」


1:どうして
2:分かりました ♡
3:言われなくても 

「わかりました、じっとしてます。でも・・・怖くて目を開けてはいられないなも・・・」

信長「俺に逆らうな。最後まで見届けるのも、戦のうちだ。すぐに終わらせる。そこで待て、ゆう」

「は、はい・・・!」

余裕めいた笑みを向けられて、どくっと胸が音を立てた。信長様は馬の手綱を強く引き、矢のように前方へ飛び出していく。
(行っちゃった・・・・・・)
遠ざかる背中からなぜか目が離せない。胸がどきどきして、今この時、信長様が世界で一番頼もしいと思えた。
(っ・・・・・・何考えてるんだろう、私。相手はホトトギス殺すタイプの人なのに)

家臣「ゆう様、誠に申し訳ございません・・・!」

「え?」

私を馬に乗せてここへ連れてきた家臣が、真っ青な顔で馬上へ引き上げてくれる。

家臣「おそばについておりながら、大事な姫君を危機にさらすとは・・・」

「ひめぎみ?何のことですか?」

家臣「信長様より伺っております。ゆう様は、織田家ゆかりの大事な姫君だと」

(私が姫君⁉︎ あっ、そういえば・・・・・・)

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信長「案ずるな、表向きはどこぞの姫として扱ってやる。化粧(けわい)でも花札でも貝合わせでも、好きなことをしていろ」

・・・・・・

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(たしかそう言ってたっけ。家臣の人達に、もう伝わってるんだ)

家臣「申し開きするつもりはございません。城に戻りましたら、死してお詫びを・・・」

「えっ、やめてください!」

思い詰めた顔をするなんて家臣の男性に、慌てて叫ぶ。

「私が勝手によろけて馬から落ちたんです。むしろご迷惑をおかけしてすみません」
(面倒を見てもらってる私の方こそ申し訳ないよ。だいたい本当は、私は姫でもなんでもない、ただの会社員だし・・・・・・)
「お手数おかけしますが、戦が終わるまでよろしくお願いいたします。」

私は恐縮しながら、馬上で彼に頭を下げた。



信長様が、助けてくれた?

信長様が、ゆうの姿を敵から隠してくれた?

信長様が、馬から滑り落ちたゆうの身を心配してくれた?

信長様が、俺に守られていればいいって言った?


そんな事言われたら〜〜

信長様から目が離せなくなるよね。。。

胸がドキドキしたよ〜‼️

確かに信長様が、世界で一番頼もしいと思えるわ〜〜

信長様・・・頼もし過ぎる