最初は嫌いだった。
年齢の割に毒舌で。
おばさんとか呼んで来るし。
絶対にこいつとは仲良くなれない、そう思っていた。
なのに。
たまに見せる笑顔が愛しくなって。
たまに見せる優しさに惹かれていって。
何時の間にか、恋をしていたんだ。
「あ、おばさん」
心臓の音が響く。
「ひ、ヒビヤ君…」
変な顔になってないか、
変な声じゃないか、そんな事ばかり考えていた。
……らしくないなぁ。
「おばさん、ちょっといいかな」
そう言ってヒビヤ君は私の服の裾を掴んだ。
いつもより素直で何だか可愛い。
「何?どうしたの」
「…僕、…の友達が死んだ事は、知ってるよね?」
――ヒヨリちゃん。
知っているに決まっている。
それが理由で、ヒビヤ君はメカクシ団に入ったんだから。
「う、うん」
少し唾を飲む。
「…後悔、してるんだ」
「え?」
聞き返した。
後悔、そんな言葉がこの少年から出るなんて。
「あの時…僕が、…助けてあげられれば、とか…そんな事ばっか思うんだ」
ヒビヤ君は真剣だった。
私はうん、うん、と相鎚を打つ。
「…怖いけど、代わりに死ぬとか考えた事もある。大切なんだ」
嗚呼、解ったよ。
「ヒビヤ君はヒヨリちゃんの事、好きなんだ」
淡々とした口調で、私はヒビヤ君にそう言った。
「お、おばさ…」
何時の間にか涙が頬を伝っていた。
悔しい。
羨ましい。
そんなに想われているなんて。
所詮私はちっぽけなアイドル。
どうでもいい人の目は奪えるのに、
「好きなのに見てもらえないなんて…嫌な、体質だなぁ」
涙が大粒になって垂れて来る。
耐えられないよ。
「ごめんね、」
私はその場から走って、逃げた。
*
「嫌われちゃったかなぁ」
どさくさに紛れて好きとか言っちゃったし、絶対に気持ち悪がられている。
どうせ実んない恋なんてわかっていたのに。
勝手に好きになった私が悪い。
なのに。
「ごめん、おばさん」
――またそうやって期待させるんだね。
ヒビヤ君に抱きしめられた。
「ひ、ヒビヤ、君は…ヒヨリちゃん、が…好きなんでしょ?」
泣いたせいで鼻が詰まって悲惨な声で話しかける。
「ばーか」
そういって意地悪く笑うヒビヤ君に、心臓が高鳴った。
「僕は、おばさんのことが、…好きだよ」
ヒビヤ君はヒヨリちゃんが好きなんじゃないの?
どうして、何で?
「確かにヒヨリのことは好きだった。でも、それは恋愛感情じゃなかったんだ」
「いいの?」
と聞くと、ヒビヤ君は顔を赤らめた。
「あんたが、いいんだよ…」
少し小さめの声だったが、はっきりと聞こえた。
自分がみるみるうちに耳まで赤くなっているのがわかる。
「え、えと…」
どうやって反応していいかわからずにいると、ヒビヤ君が言った。
「これからよろしくね、…モモさん」
そう言うヒビヤ君は照れくさそうで、
少し嬉しそうだった。