平成18年(ワ)第475号 損害賠償等請求事件

原 告 

被 告 株式会社ユアースポーツ他4名

千葉地方裁判所松戸支部民事部い係 御中

平成18年2月1日


準備書面(7)

第一 原告の主張
1請求原因 第二 事案
被告らによる通信の秘密の侵害、著作権侵害、プライバシーの侵害、個人情報保護法違反行為について
ア 私人間における通信の秘密と一方当事者の同意・承諾
大阪弁護士会 弁護士 服 部 廣 志 2000年7月12日 作成のレポートより引用する
第一 問題の所在
 
一 「通信の秘密」を侵してはならないことは、憲法その他の諸法令で認められている(憲法21条、電機通信事業法等)。
二 通信の秘密については多数の論説等がなされており、その多くは「通信当事者双方の同意・承諾がない場合」を取り上げている。
 しかしながら、電気通信技術等の各種通信手段の開発、進化と各種電話及びパーソナルコンピューター等各種通信手段の爆発的な普及は、「通信の秘密」という問題に多角的かつ多面的な検討を要請せざるを得なくなってきている。
 「通信当事者双方の同意・承諾がない場合の通信の秘密」について、現在及び将来の電機通信手段の発達等に則した形で今後も議論、検討がなされる ことが必要であることは言うまでもないところであるが、他面、「通信当事 者の一方の同意・承諾等」が「通信の秘密」という問題において、どのような意味を有するかということについては、十分な議論はなされていないようにも思える。「一方当事者の同意・承諾がある場合と通信の秘密」という問題を検討しておく必要がある。
 この論点を検討しておくことが、「通信の秘密という問題」全体の検討、議論を整理をし易くするものと思う。
1 通信当事者双方の同意・承諾なくして、例えば通話の傍受等を公権力が行えば、これが憲法の保障する「通信の秘密」を侵害することとなることは当然である。
 
2 しかしながら、通信の一方の当事者の同意・承諾を得て、例えば通話の傍受等を捜査機関等の公権力が行っても、その同意・承諾をした一方当事者の相手方に対する責任はさておき、捜査機関等公権力の責任は生じないとする考えもある(関西学院大学教授平松毅・別冊ジュリストNO・130、128頁以下)。
 右の考え方は、通信当事者一方の同意・承諾がある場合には「通信の秘密を侵害してはならない」という憲法規制から、解除、解放されており、「通信の秘密の侵害という問題はない」という考え方である。
 この考え方は、後記のとおり、通信の秘密についての保護法益に関する捉え方にも問題があり、また、このように少なくとも公権力がかかわる局面についても私人間の場合と単純に同一視し、「一方当事者の同意・承諾の存在は、通信の秘密の問題から解放する、と考えること」は著しく不当であると 考える。
 後記のとおり、人類の長年にわたる流血と闘争の結果、勝ち得た表現の自由、思想良心の自由というような精神的自由権の根幹にかかわり、かつそれらの自由権を実現する手段とも言える通信の秘密の保護は、国家権力等公権力が関与する局面においては、「一方当事者の同意・承諾が存在しても、通信の秘密の問題から解放しない」と考えるべきである。何故なら、公権力が 関与する局面においても「一方当事者の同意・承諾は、通信の秘密の問題から解放する」と考えれば、通信当事者は常に通信相手の背後に存在するかも知れない公権力等に怯え、真の意味における通信の自由、そして畢竟、表現の自由、思想良心の自由の保障が危うくなる危険性があるからである。
 
 
第二 保護法益等について
 
一 通信の秘密の保護法益
  
1 通信の秘密は、憲法上表現の自由と同一条文に規定されている(憲法21条)。
 
2  右のような規定の仕方等から「通信の秘密は、隔地者間における表現の自由を保障したものとの構成も可能である」が、通信の秘密が表現の自由とは別個に保障されているのは、それが表現の自由とは異なった法益である「通話当事者間の秘密」すなわち「当事者間のプライバシーを保護すること」にある。そして、プライバシーの限界は、原則として対立する公益との比較衡量によって判断されるから、通信の秘密の限界についても、同様の判断基準が採用されるべきであることとなる」とする考え方がある(前記平松参照)。
3 「通信の秘密の保護法益」について、その直接的な保護法益に関しては「当事者間のプライバシーを保護することにある」と解して別に差し支えはないものの、通信の秘密は歴史的にみても思想良心の自由、そして表現の自由と 密接な関係を有しているものであることは明らかであり、「通信の秘密」を保障しない「思想良心の自由」及び「表現の自由」は、場合により、その手足等を剥奪されたものとなる可能性もある。「通信の秘密」は、「通信当事者 間のプライバシーを保護するものである」とし、その限界論理として「原則 として対立する公益との比較衡量によって判断される」局面があることは否定し得ないと考えられるものの、他方、これが「思想、良心の自由」及び「表現の自由」と関係する局面においては、これら精神的自由権の実現ないし表 明の根幹をなす場合もあり、このような場合における通信の秘密の限界を考 えるについては、前記の平松教授の主張するような「原則として、対立する公益との比較衡量によって判断される」というような判断基準は採用するべきではない。
 表現の自由の限界論理として一般的に妥当とされている「明白かつ現在の危険の法理ないしこれに準じた法理」が採用されるべきである(宮沢俊義・ 憲法II、有斐閣法律学全集374頁以下参照)。
 平松教授の前記理論は、「通信の秘密」という憲法上保障された権利が「思 想、良心の自由、そして表現の自由と密接な関係を有していることを軽視するもの」であり不当である。
 通信の秘密の限界論理については、「対立する公益との比較衡量によって判断される局面」と「明白かつ現在の危険の法理ないしこれに準じた法理」が適用されるべき局面」があると考えるべきである。
 勾留されている者についての刑事訴訟法81条、同法100条1項、監獄法46条、同法47条1項、同法50条、同施行規則130条、破産法19 0条のような場合は、前者の局面であるとも理解できよう。
 但し、刑事被告人の場合には後者の局面であると考えるべきである。「刑事被告人の信書の発受を差し止め、信書に抹消・削除を加えることは法の許容するところではない・・・例外として、ごく限られた範囲においては、差し止め、削除、抹消の許される場合がある。それは「明白かつ現在の危害」の理論の導入によってである。その文書をそのまま発受することを認めると、拘禁及び戒護に、明白かつ現在する危害がつくり出すような状況における通信や、そのような危害を生ずることが必至に予見される内容を持つ通信は阻止されなければならない。」(前掲宮沢375頁及び大阪地裁昭和33年8月20日判決・判例時報159号参照)。
4 「通信の秘密」の保護法益は、「通信当事者間のプライバシー」、「通信当 事者の私生活の平穏」及び「思想、良心の自由や表現の自由の手段等としての機能としての利益」等精神的自由権ないし人格権的利益をも包含するもの と考えるべきであり、その限界論理は2記載のように一律に考えるへきものではなく、少なくとも二種類の限界論理の使い分けが必要である。
 鬼頭元判事補のニセ電話事件に関する最高裁昭和56年11月20日第三小法廷決定(新聞記者による無断録音)、松江地裁昭和57年2月2日判決・判時1051号(私人による会話の無断録音)

 
第三 保護法益の放棄
 
一 憲法ないし法令により保護されている保護法益の放棄が認められるか否かは、当該「保護法益の種類、内容」と「憲法を頂点とする全法秩序が構成する公序良俗等」との関係により決せられる。
 
二 例え個人的な保護法益であったとしても、その放棄が公序良俗に反する場合には、その放棄が認められないことは論ずるまでもないことである。
 前記のとおり、思想、良心の自由、そして表現の自由と密接な関係を有している「通信の秘密」が守ろうとする保護法益に関し、「事前の包括的な放 棄」は許されるべきではない。それは、思想、良心の自由、表現の自由そして幸福追求の権利の放棄へと結びつき、人類が「流血と戦いにより確保」してきた「天賦の人権」の放棄へとつらなっていく危険性があるからである。

 
三 通信の秘密の放棄は、「個別的かつ具体的な放棄」のみが許されるものと考えるべきであり、その要件は、「事前の放棄の場合には厳格に」、「事後の 放棄の場合には、事前の放棄と比較して、緩やかに」認められることとなる。
 
第四 総括

通信の秘密という問題を論じるにあたっては、以下のような整理が有用であると思われる。 
1 通信当事者一方ないし双方の同意・承諾の有無
  事前の同意・承諾か、事後の同意・承諾か
2 保護法益の放棄が許される場合か否か
3 検討局面
  「秘匿された通信の暴露の問題」か
4 私人間の問題か、公権力等との関係か
 イ 本件における通信の秘密の侵害について事実関係
   1 通信当事者一方ないし双方の同意・承諾の有無
      事前の同意・承諾か、事後の同意・承諾か
       送信者である原告は、同意・承諾した事実はない。
受信者であるマシンルーム女性スタッフが、同意・承諾した事実は、立証されていない。
被告らは、マシンルーム女性スタッフから相談を受けて、信書を閲覧したと主張している。
被告らは、マシンルーム女性スタッフから手紙を見る許可を得ていると主張しているが、それが、事前の同意・承諾か、事後の同意・承諾かは、不明である。
2 保護法益の放棄が許される場合か否か
本件において、原告とマシンルーム女性スタッフ間の通信の秘密の保護法益の放棄が許可される場合ではない。
被告らの原告に対する平成17年11月19日の電話、同年11月23日、同年12月5日の主張によると、マシンルーム女性スタッフは、原告から受け取った手紙、映画の鑑賞券をどうすれば言いかという相談をした事になっていた。
また、被告小林の主張によると、「取材させてやったんだから、見て当然だ」「手紙を読まないと相談内容が分からない」等という事であった。信書を読んだ本人から相談を受けたのならば、被告小林が手紙を読む必要性はないと考えるのが妥当である。
さらには、被告成瀬の主張によると、「取材に関連する経緯で、業務上において、上司である小林が、社員から相談を受けてみた」等という事であった。
しかしながら、信書をマシンルーム女性社員から預かったと主張していた被告小林は、原告に信書を返還することなく、違法に占有していた。原告からの返還要求があったにも拘らず、返還したと偽ってその後の占有を続けている。被告準備書面(3)において所有権を主張した事は、被告小林が信書の保管者としての善管注意義務を怠り、業務上横領したことを先行自白した事に他ならない。
マシンルーム女性スタッフ名義の陳述書によると、平成17年11月18日に相談をしたと記載さ入れているが、手紙を被告小林に見せたという記載はない。また、何について相談を行ったのかも記載されていない。
被告らの主張を鑑みても、保護法益の放棄が許される場合だとは、考えられない。
3 検討局面
  「秘匿された通信の暴露の問題」か
原告が準備書面(2)でも主張しているように、信書に記載された内容は、原告の個人的な心情や、原告とマシンルーム女性スタッフの私生活上の事実など、極めて私的な内容であり、プライバシーとして、法的に保護される内容である。
送信者である原告としては、第3者に開示される事を希望しない、秘匿された通信である。そのため原告は、2重に封をした信書の形式をとり、受付スタッフに対して、マシンルーム女性スタッフ本人に渡すよう依頼し、承諾を得たため預けたものである。 信書を預かった社員が、善管注意義務の下、受信者に信書を送付するのは、入会契約に伴うサービスの提供の一部である。
また、原告はマシンルーム女性スタッフに対して、準備書面(2)別紙2記載の会話などから、秘匿された通信に関して、第3者に開示されない充分な信頼を惹起されており、第3者に開示されるとは考えもしなかった。

4 私人間の問題か、公権力等との関係か
本件における原告とマシンルーム女性スタッフ間の信書による通信は、私人間の問題である。
被告らの主張よると、原告のマシンルーム女性スタッフに対する信書は、被告株式会社ユアースポーツの取材協力に関連しているとの事である。
つまり、被告は原告のマシンルーム女性スタッフ間の通信の秘密を原告と被告株式会社ユアースポーツの通信であるとの主張の下、業務上の事として、原告の信書を無断で開封して、閲覧したものである。
しかしながら、原告のマシンルーム女性スタッフに対する信書は、マシンルーム女性スタッフ個人に対する取材のお礼や原告の私的な心情、原告とマシンルーム女性スタッフの私生活上の事実など、極めて私的な内容であり、一般人の感性を基準として、被告らが介入すべき問題ではないと考えるのが妥当である。
信書に記載された私的な心情、原告とマシンルーム女性スタッフの私生活上の事実など、極めて私的な内容などの通信の秘密が開示された場合、社会通念上の受忍限度を超えたプライバシーの侵害になる事は、容易に推測出来る。
被告小林、被告成瀬の主張によると、被告株式会社ユアースポーツは、会員と社員がプライベートな関係を持つ事(男女交際などと考えられる)や会員から金品を受け取る事を禁止する社内規則があるとの事である。
被告らは、この社内規則を理由に、原告とマシンルーム女性スタッフ間の通信の秘密を送信者と受信者双方の同意・承諾なく、もしくは当事者一方の事後の同意・承諾だけで、暴露した可能性がある事を検討する必要性がある。
原告は、当事者照会で被告株式会社ユアースポーツに対して、就業規則・社内規則などの開示、説明を求めたが、現在においても何ら回答がない。被告株式会社ユアースポーツが、就業規則などを任意に開示、説明しない場合は、労基法106条の使用者の就業規則の周知義務に違反し、開示しないのもと判断し、労基署に閲覧を求めます。
② 原告のマシンルーム女性スタッフに対する取材の依頼、被告小林による原告に対する取材協力の申し出について
原告は、本件訴訟を通じて、被告小林の取材協力の申し出に関して、被告の契約違反及び契約内容に関して重大な錯誤があった事が明らかになりました。
また、被告らは、原告のマシンルーム女性スタッフに対する取材の依頼と、被告小林による原告に対する取材協力の申し出に関して、重大な事実の誤認に陥っている可能性がある事が被告らの主張により判明しました。
原告の取材と被告の取材協力に関して問題を提起し、次回期日までに、書面にて提出します。
3 健康質問表の虚偽記載と入会申込み手続きの違法性について
      前回準備書面に記載した内容について、被告らの主張を検討した上で、十分な検討期間の後、書面にて提出します。