○ 同・玄関(夜)


  チャイムが鳴る。


  小百合が玄関に出迎え、ドアを開ける。


  スーツ姿でビジネスバックを持った橋口通(31)が、入って来る。


橋口「ただいま」


小百合「おかえりなさい」


橋口「あれ、優希は?いつも、抱き付いてくるのに」


小百合「部屋にいるわ」


橋口「今日は来てくれないのか、寂しいな」



○ 同・ダイニングキッチン(夜)


   テーブルの上に橋口と優希の分の夕食が置かれている。


   橋口、カバンを椅子に置き、スーツの上着を脱ぎ背もたれに掛ける。


橋口「優希は、ご飯食べてないのか?」


小百合「ご飯よ、って呼んでも部屋から出て来ないのよ」


橋口「どうしたんだろうな?ちょっと見てくる」


   橋口、優希の部屋に向かう。


橋口「優希、ご飯食べないのか?どうしたんだ?」


   ドアを開け中に入る。



○ 同・優希の部屋(夜)


   暗い室内、ドールハウスが置かれた机、ベッド、オモチャを入れた箱、
   カバーの掛けられた電子ピアノがある。


   床に蹲っている優希。


橋口「優希?」


   橋口、優希の近寄り、抱き起こす。


優希「・・・(鼻を啜る)」


   優希は左頬を赤く腫らし、泣きながら、血で染まったハンカチで指を押さえている。


橋口「怪我してるじゃないか。傷を診せて」


   橋口、優希の手を取り傷を見る。指先が切れていて、血が溢れ出てくる。


橋口「病院に行って、治療してもらおう」


   優希を抱き上げて部屋を出て行く。





○ 同・ダイニングキッチン(夜)


   虚ろな目で立ち尽くしている小百合。


   橋口、優希を抱っこしてやって来て、背広を取る。


橋口「優希が、怪我してるのに、どうして何もしないんだ!」


   小百合、うろたえて、


小百合「あ・・・、あの・・・」


   橋口、優希を抱っこしたまま玄関に向かう。



○ 駐車場(夜)


   橋口、自動車の助手席に優希を乗せ、運転席へ乗り込む。


橋口「直ぐ付くからな。優希、もう少し我慢してくれ」


   エンジンをかけ、自動車を発進させる。



○ 市立病院・救急外来(夜)


   橋口、優希を抱っこして、受付に掛け付けて来る。受付には誰もいない。


橋口「すいません、誰かいませんか?」


   奥の部屋から女性が出てくる。


橋口「娘が、怪我をしているんです。早く診て下さい」


受付の女性「医師を呼びますので、お待ち下さい」


   椅子に座って待たされる橋口と優希。橋口、時計を見る。


橋口「もう直ぐだからな」


優希「・・・うん」


奥村の声「橋口さん、診察室にお入り下さい」


   橋口、優希の手を引いて診察室へ。




○ 同・診察室(夜)


   橋口と優希が入って来る。


   白衣姿の奥村康司(44)、奥の部屋から看護師に処置の指示をしながら入って来る。


奥村「お待たせしました、席へどうぞ」


橋口「先生、お願いします。優希、ここに座って」


   橋口、優希を、椅子に座わらせる。


   奥村、優希の頬を見て不審がる。椅子に座り、優希の顔を見て、


奥村「優希ちゃん、切った所を診せてくれるかな?」


   優希、手を奥村の方に出す。人差し指に2cmぐらいの切り傷。


   橋口、優希からハンカチを受け取る。


   奥村、優希の手を見て、


奥村「指の所を切っちゃったのか」


   奥の部屋の方を向いて、


奥村「看護師さん、テープと消毒液、ガーゼと包帯持ってきてー」


橋口「先生、傷の具合は?」


奥村「これ位だったら、縫わないでも大丈夫です。医療用のテープで止めて、
 包帯で圧迫していれば、直ぐにくっ付きますよ」


橋口「そうですか」


   奥村、机に向かい怪我の状態をカルテに記入する。優希に向き直って、


奥村「優希ちゃん、頬が腫れてるけど、これはどうしたのかな?」


優希「・・・」


奥村「橋口さん、ご存知ですか?」


橋口「いいえ、私が帰って来た時には、部屋で泣いていたので・・・」


奥村「橋口さん、傷の処置をしますので、外でお待ち頂けますか?」


橋口「あ、はい」


   橋口、ドアを開け外に出ようとする。


   優希、不安げに橋口を見る。


橋口「直ぐに帰れるから、先生の言う事、ちゃんと聞くんだよ」


   橋口、外に出てドアを閉める。