「こりゃあ面倒ってだけじゃ済まなそうだぜ…」
大きくため息と愚痴をこぼしたのは長谷部だ。エリカ、リヒト、長谷部の3人はヴァリアーズのユニフォームに身を包み、メディアたちの誘導を行おうとしていた。
「やるしかあるまい。」
いつも毅然としているエリカ班長も、この混雑のしようを見せつけられてぐうの音を漏らしていた。
「ご丁寧に支部長がマイクまで用意してくれたんだ。やらないわけにはいかないだろう。」
と言いつつ長谷部は右手に持っていたマイクをリヒトにパスした。
「うげっ!長谷部さん、押し付けないでくださいよ!」
「何事も経験だよ、少年。」
もっともらしい(らしくないが…)理由をつけた長谷部。やれやれという様子で2人を見るエリカ。が、リヒトを助けるつもりは毛頭ないようだ。
「…もしマスコミが激怒したらどうするんです?」
「我らがリヒト君はその程度では死なんよ。」
「完全に仕事を放棄したな!」
もっともだ。
「リヒト、さっさと始めてちょうだい?」
追い打ちをかけるエリカ。
「そーだそーだ。早くしねえとマスコミの移動時間もなくなってさらに怒られるぞ。」
「…ええい…もうやけだ…」
大きく一歩前に出たリヒト。皇居の扉の前に集まる人々の背中から、いざ
『こちらはヴァリアーズ東京支部です。先ほど、天皇陛下よりヴァリアーズに通達がありました。出発される門を変更なさるとのことです。つきましては、大変ご迷惑と存じますが、陛下が出発なさる西門へと移動をお願いいたします。』
マイクのボリュームは予想以上に大きかった。門前の人々が一斉に振り返る。外国メディアは言葉の理解に時間を要したのか反応が鈍かったが、それ以外は別だ。
「なんだと?!」
「早く移動するぞ!」
「2日前からの場所取りが…!」
思い思いに愚痴を吐きながらカメラは器具をまとめてダッシュで移動を始めたマスコミ。幸い、リヒトたちに食ってかかる者はいなかった。そんなことをするよりまずは移動だ。といった雰囲気である。
「ご苦労。」
後ろから歩み寄ってきた長谷部が右肩を叩く。
「まったく…なにがご苦労で…!」
言葉を止めたリヒトは、振り返ろうとした首を無理やり正面のマスコミに戻した。いや正確に言えば、マスコミの向こうの門に、である。
門が、開いた。
嘘だ。
天皇は出発場所を変更して西門から出るはず。しかも、出発予定時刻は10時。まだ1時間近くもあるではないか。
ならなぜ門が開いた。
なぜ開いた門のところに、パレード用の大型車がある。
なぜ大型車に、まだ中年の男が乗っている。
「しまった!」
エリカが脱兎の如く地面を蹴り前へ出た。
「は、班長!?」
「リヒトもこい!長谷部さんは前計画で予定されていたビルの上へ!」
エリカが何を言っているのかわからなかった。舌打ちをしてエリカと反対方向に走る長谷部。これは一体…?
リヒトの思考回路は迷走を続けていた。
エリカが叫ぶ。そこ声の意味するものが、リヒトを現実に引き戻した。
「ゼノだ!逃げろ!!」
時間の流れが止まったかのようにスローで感じた。マスコミや市民に向かって叫ぶエリカ。マスコミたちはリヒトたちヴァリアーズに騙されたと思いまたカメラを用意している。目の前の大型車に乗った男を撮影するために。同時に、大型車に乗っていた男は両手を空へ振った。手から放たれたのは、火花を散らす円柱形のもの。
(どうなってるんだ?)
瞬間、リヒトは飲み込まれた。爆音と熱風、そして光に。
