眼瞼 | 皮膚科専門医試験勉強されている方、皮膚病、皮膚に関心のある方のためのブログ!!!

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眼瞼


I.眼瞼の構造
II.炎症性病変
III.腫瘍性病変

眼病理総論  結膜 http://www.med.niigata-u.ac.jp/oph/pathology/lid.html

I.眼瞼の構造 眼瞼構造詳細

眼瞼は体表面から、眼瞼皮膚、眼輪筋、瞼板、瞼結膜の4層からなる。

    眼瞼皮膚は、全身の皮膚のうち最も薄く、瞬目の速い動きに対応している。通常眼瞼縁に沿って一条の皮膚雛襞があり、いわゆる「ふたえまぶた」を形成している。この雛襞は、眼瞼挙筋腱膜の一部が眼瞼皮膚真皮層に結合していることから形成される。この位置により、見た目上の「ひとえまぶた」「ふたえまぶた」「おくぶたえまぶた」などの差が生じる。当然眼瞼挙筋麻痺が生じた場合には消失するので、眼瞼下垂の治療の参考となる。白人と東洋人の上眼瞼の形態の違いには、「眼瞼の脂肪の量の差」とする説と、「眼窩隔膜の付着部位の差」とする説がある。眼窩上縁の張出しと眼窩隔膜にその理由があるように思われる。
    睫毛は、上下眼瞼縁にほぼ2列に配列され、上眼瞼で100ないし150本、下眼瞼で50ないし70本あるといわれる。体毛と睫毛の違いは立毛筋が存在しないことである。眼瞼縁と睫毛の中間に瞼板腺の開口部がほぼ1列に並んで存在する。上眼瞼の中央部付近では2列であることも多い。上眼瞼には約40、下眼瞼には約30の開口部を持つ。

    眼輪筋は、眼瞼縁を中心に同心円状に配列し、収縮により閉瞼運動が生じる。通常完全弛緩することはなく、上下眼瞼の形態保持に重要な役目を持つ。顔面神経麻痺で、下眼瞼外反が生じることでその役割がわかるであろう。同様に上眼瞼も眼瞼弛緩とともに内反症を生じるが、これも重力に拮抗していた眼輪筋の作用を失ったことによる。

    瞼板は線維性組織であり、眼瞼の形態の保持が主な役割である。ヒトの場合は通常軟骨組織は含まれない。(動物腫によっては線維軟骨ないし硝子軟骨である) 上眼瞼で横約25mm、縦約10mmの大きさで、内端は内嘴靱帯、外端は外嘴靱帯、上端はミュラー筋と付着している。下眼瞼は横約25mm、縦約4mmの大きさで、内端は内嘴靱帯、外端は外嘴靱帯、下端は下眼瞼牽引筋が付着している。瞼縁の対側は眼窩隔膜に結合し、眼窩の蓋を形成する。瞼板内には瞼板腺 ( Meibomian gland ) があり、結膜側からは垂直方向に走る黄色のひも状の構造物にみえる。前述のとおり開口部は上眼瞼で約40、下眼瞼で約30である。[付記]

    瞼結膜は瞼板と強固に癒着しており、物理的(手術的に)にはがすことは困難である。重層円柱上皮からなり、ところどころに杯細胞が存在し、涙液にムチンを供給している。眼瞼縁で眼瞼皮膚に移行し角化重層扁平上皮となる。反対側は円蓋部結膜に連なる。 (→結膜 の項参照)

    涙丘は内眼角に存在する丘状の隆起で、発生学的に下眼瞼に属する。通常非角化重層扁平上皮で覆われているが、部分的に角化することもある。皮膚附属器が豊富で、毛根、脂腺が多くみられる。眼瞼結膜に生じる病変は、全て涙丘にも生じうる。


II.炎症性病変

霰粒腫  chalazion霰粒腫詳細

瞼板腺 ( Meibomian gland ) の慢性肉芽性炎症 ( deep chalazion )、または毛嚢腺 ( Zeis sebaceous gland ) の慢性肉芽性炎症 ( superficial chalazion )。無痛性で表面平滑な球状の腫瘤として触れる。通常、脂質を炎症中心 ( nidus ) とする "zonular granulomatous inflammation" に相当する組織像を示す。異物型巨細胞が出現することも多い。生体にとって異物である脂腺から分泌される脂質が、腺管の閉塞など何らかの機序により腺外の組織に入り込み、異物として処理される結果の肉芽腫と考えられる。
深部(結膜側)霰粒腫の一部は(特に小児では)、肉芽腫ごと娩出され、pyogenic granuloma を形成し、脱落する。生体の異物排除機構と思われる。
治療は、「異物肉芽腫」であると考えれば、自ずと解答が得られる。つまり「異物除去」+「消炎」である。完全摘出されれば、そのままで治癒する。完全摘出でなければステロイドを局注するのがよい。完全摘出が最善と思うが、それをめざして眼瞼変形をきたすよりはある程度切除し、掻爬して、ステロイド局注の方が患者にはいいかもしれない。
なお癌年齢の患者では、悪性腫瘍特に脂腺癌 との鑑別が臨床上困難なことがあるため、できる限り病理検索した方がよい。

麦粒腫 hordeolum

瞼板腺の急性化膿性炎症(内麦粒腫)ないし、皮膚附属腺(汗腺、脂腺)、毛嚢腺(Zeis gland)の急性化膿性炎症(外麦粒腫)。眼瞼局所の発赤、腫脹、疼痛を症状とする。大量の好中球の浸潤と組織の浮腫、および炎症に伴う壊死物からなる。

ウイルス性疾患

  • Molluscum contagiosum 伝染性軟属腫
  • Verruca vulgaris 尋常性疣ぜい(「やまいだれ」に贅;字がでません)
  • Herpes virus infection

III.腫瘍性病変

眼瞼皮膚に生じる腫瘍性病変の鑑別は、まず良性か悪性かの判断が重要で、易出血性、睫毛の脱落の2点が特に有用である。クレーター状の、浸潤を伴う深い潰瘍も悪性を疑わせる所見である。腫瘍表面の「平滑」「粗造」はあまり良性悪性の参考にはならない。

嚢胞 "cysts"

嚢胞は、上皮細胞によりliningされた袋状の腫瘍性病変である。間質内に液状物などが貯留し、嚢胞様であるが上皮細胞でliningされていないものは偽嚢胞peudocystとよばれる。特に嚢胞を偽嚢胞と区別する場合は真性嚢胞true cystとよぶ。
皮様嚢胞、表皮様嚢胞は分離腫choristomaであり、眼瞼・眼窩内のものは前頭骨と涙骨ないし頬骨との縫合部から生じるのがほとんどである。
皮様嚢胞、表皮様嚢胞は時に破裂し、急性炎症を起こす。霰粒腫や特発性眼窩炎症との鑑別が必要となる。

(細かいようだが、cystは通常「嚢胞」と訳されるが、「嚢腫」と呼ばれることもある。しかしcystは通常neoplasmではないため、嚢胞と呼んだ方がいいと考える人が多い。neoplasmが嚢胞状になったものは嚢腫と呼んでも差し支えないと思うが、このへんは洋名にも混乱がみられる。)

  • 皮様嚢胞 dermoid cyst
    分離腫。眼窩内に生じるものと同様、皮膚と附属器からなる嚢胞。内部に角質、毛、脂腺分泌物およびそれらの変性物を含む。

  • 表皮様嚢胞 epidermoid cyst
    分離腫。皮様嚢胞との違いは皮膚附属器をもたないこと。内部は角質とその変性物のみ。

  • 表皮嚢胞 epidermal cyst
    外傷、手術、虫刺症などで皮膚の一部が皮下に移植されて生じる二次性の嚢胞。組織学的に表皮様嚢胞と区別できない。

  • 外毛根鞘嚢胞 pilar cyst
    sebaceous cyst, trichilemmal cyst ともいう。毛嚢の閉塞による貯留嚢胞と考えられる。内部は角質、脂腺分泌物である。睫毛部に生じ、黒褐色のことが多いが、色素を持たないものもあり、その場合は次の汗腺由来嚢胞との鑑別が必要である。また、まれに基底細胞癌が嚢胞状になることがあり、病理組織診断が必要である。

  • 汗腺由来嚢胞 hidrocystoma
    apocrine hidrocystoma と eccrine hidrocystoma に分類される。いずれも水様成分(時に油状)を含み、透明感のある球状の腫瘤を形成する。大きさは1~3mmのものが多く、apocrine hidrocystomaはまれに10mmをこえる。眼瞼皮膚のどこにでも発生しうるが、瞼縁が多いようである。"cyst"ではなく"cystoma"という名称であるが、腫瘍(細胞増殖を伴うもの)かどうかは疑問。

  • 稗粒腫 milium
    表皮下にできる小さな嚢胞で、表皮嚢胞の小さな、ごく限局したものと思われる。組織学的には表皮嚢胞と同一である。

  • ductal cysts
    副涙腺(gland of Wolfring, gland of Krause)、その他の腺管の閉塞によって生じる嚢胞で、2層の円柱上皮により裏打ちされている。

表皮性角化"epidermal keratinization"と外毛根鞘性角化"trichilemmal keratinization"

角化の仕方には表皮性角化と外毛根鞘性角化がある、といわれる。表皮はケラトヒアリン顆粒(keratohyaline granules)をもつ細胞層である顆粒層を経て角化に至るが、外毛根鞘性角化はこの顆粒層を形成せず、胞体が明るく大型の細胞から直接角質になる。表皮嚢胞と外毛根鞘嚢胞の角化にも当然その違いがあるが、中にはその両方の角化が存在する嚢胞もある。それを"hybrid cyst"という。表皮と外毛根鞘は兄弟のようなものであるので、分化の仕方によってはどちらになってもおかしくはない。皮膚に生じる悪性腫瘍でも、両方の角化がみられることがある。扁平上皮癌とするか外毛根鞘癌とするかはどちらが主体であるかということになるだろうが、区別しなくてはならないものかどうかは検討の余地がある。

脂漏性角化症 "seborrheic keratosis" 脂漏性角化症詳細

眼瞼皮膚に生じる良性の腫瘍性病変としては頻度が高い。悪性化することはないが基底細胞癌との混在も報告されており、注意が必要である。ときに細菌感染などにより潰瘍を形成したり、出血を伴うなど肉眼的に悪性腫瘍に類似することがあり、疑わしい症例では生検が必要となることもある。

<組織所見>

基底細胞層が極性を失わずに増殖することが脂漏性角化症の病理組織の基本である。("basal cell papilloma"という別名もある。)それに有棘層の増生や過角化が臨床像を多様化する。悪性腫瘍と異なり皮膚外方へ向かって増殖する。皮下組織への浸潤無く基底細胞が増殖するため、基底細胞層が波を打ったように複雑に入り組むことになる。
主に次の三型に分けられるが、単独であることは少なく、混合型の方が多い。

  • hyperkeratotic type
    過角化、乳頭腫症が著明な型で、肉眼的には皮角(cutaneous horn)の形態をとるものもある。

  • acanthotic type
    色素が強く、表皮が肥厚して扁平に隆起していることが多い。表面は顆粒状となることが多い。

  • adenoid type (reticulated type)
    色素性の斑状で、隆起は少ない。

inverted follicular keratosis (IFK) IFK詳細

独立の疾患entityかどうかは議論の余地がある。"irritated seborrheic keratosis"と病理学的所見は同様である。毛包follicleとは関係なく、命名間違いである。"basosquamous cell acanthoma"という別名もあるが、一般的でない。squamous eddieを形成することが多く、病理組織上扁平上皮癌と鑑別を要し、その意味で重要な疾患といえる。

pseudoepitheliomatous hyperplasia PEH

・keratoacanthoma詳細

急速に進行する特徴的なドーム型の腫瘤で、中央部に角化物が詰まっている。基底細胞癌や扁平上皮癌と誤診されやすい。基本的に自然治癒するとされているが、生検を含め手術の適応となることが多い。
最近ではlow grade malignancy (squamous cell carcinoma?)と考えている病理医もいるようである。ウイルスの関与も示唆されているが、現時点でその証拠はない。

papillomaってなに?

眼瞼皮膚や結膜によくでき、比較的ポピュラーな疾患「乳頭腫(papilloma)」、切除して病理に出しても診断はpapilloma、やっぱりね、・・でもそれでいいの?
乳頭腫(papilloma)というのは乳頭腫症papillomatosisと過角化hyperkeratosisを特徴とする表皮の増殖性病変の総称で、病理診断名としては守備範囲が広い。脂漏性角化症(seborrheic keratosis)や尋常性疣ぜい(verruca vulgaris)、nevus verrucosus、acantosis nigricans、その他がこの範疇にはいり、実際「乳頭腫」としか診断できないものもあることはあるが、手だてはないのでしょうか?(Yanoff & Fine Ocular pathology にはnonspecific papilloma と書いてある)
臨床的に「乳頭腫」に見えるものには、いわゆる乳頭腫型病変papillomatous type lesionと乳頭型病変papillated type lesionとがある。なかには悪性腫瘍も含まれ、専門医はともかくあまり病理診断名に詳しくない人には紛らわしい。

表皮内癌 carcinoma in situ (CIS)

  • 日光角化症 "actinic keratosis"詳細
    senile keratosis あるいは solar keratosis ともよばれる。乳頭腫型の形態を取ることが多い。扁平上皮癌に準じた治療を要する。

  • ボウエン病 "Bowen's disease"
    個細胞角化(dyskeratotic cell)と多核細胞(clumping cell)を特徴とする表皮内癌である。台状ないし乳頭状の形態をとる。眼瞼皮膚を含め露出部には稀とされる。
    (露出部の表皮内癌は日光角化症、非露出部のものはボウエン病、としている病理医もいるようである)

基底細胞癌  "basal cell carcinoma"基底細胞癌の詳細

欧米では、圧倒的に頻度が高い眼瞼悪性腫瘍である。日本では地域差があるようである。転移が稀なため「基底細胞(上皮)腫 "basal cell epithelioma"」と表記されることがあるが、決して良性ではなく、名称にだまされることなく治療をおこなう必要がある。発生部位は、下眼瞼の鼻側から3分の1の部分に多いとされる。内嘴靱帯に浸潤すると骨に沿って容易に眼窩内に浸潤するため、鼻側断端には特に注意が必要である。また、冷凍凝固療法が選択されることもあるが、腫瘍の深さを正確に把握できないと、表面だけきれいに腫瘍が消失したように見えて、深部には腫瘍が残存しており、気がつかないうちに眼窩内浸潤することもあるので、安易におこなってはならない。

<肉眼所見>

大きく分けて結節型、潰瘍型、モルフェア型(硬化型)に分類されるがそれらの混合型も多い。
結節型は、表皮から突出して腫瘤を形成するもので、中央に潰瘍を伴うこともある。(結節潰瘍型) 色素の量は症例によりまちまちで、周囲皮膚とほぼ同程度のものから、悪性黒色腫を疑わせるほど色素の強いものまである。基本的には、小さい色素塊が集属して腫瘤を形成しているように見えることが多い。
潰瘍型は、表皮からの隆起は少なく、クレーター上に潰瘍の周囲がやや隆起し、中央に出血を伴う潰瘍形成をきたしたものである。結節型に比べ、腫瘍浸潤範囲が広いのが特徴である。腫瘍切除の際は肉眼的腫瘍辺縁から安全域をとって切除するだけでなく、切除断端の腫瘍の有無を必ず確認する必要がある。
モルフェア型は、表皮には明らかな腫瘤形成はなく、上皮下にびまん性に浸潤し、硬化した斑状を呈する。診断が遅れやすい。腫瘍境界は睫毛の脱落と色調の変化が参考になるが、肉眼的には判別困難な事も多く、切除時には、凍結切片による迅速病理診断をおこないながら全摘出する必要がある。

<顕微鏡所見>

腫瘍を形成する細胞は、皮膚基底細胞に類似した細胞である。核は類円形ないし長円形で、核小体は小さく1ないし2個みられる。クロマチンは微細で、核は比較的暗い。胞体は少なくグリコーゲンに富むため比較的明るく、円柱状であることが多く、通常の皮膚基底細胞より細長い。細胞配列に特徴があり、基底膜に沿うように"pallisading"と呼ばれる配列を呈する。時に索状、腺房状となり、脂腺癌と鑑別の難しい組織像を呈するものもある。少しでも疑いがある場合は脂肪染色をするべきである。ただし、脂腺への分化を示す基底細胞癌も知られており、注意が必要である。(後述のごとく基底細胞癌が毛包由来であるとすると、脂腺への分化が容易に理解できる)
核分裂像は稀で、細胞異形も少ない。ただし、扁平上皮癌への移行(?)と思われる組織像を呈することもあり、その場合には転移の可能性もあるため、経過観察には注意が必要である。(この様な組織型の場合、「扁平上皮癌」の亜型、あるいは"baso-squamous cell carcinoma"と呼ぶ人もいる。個人的には扁平上皮癌と考えた方がいいと思っている。)
鑑別診断:脂腺癌 、毛包由来の腫瘍

扁平上皮癌 "squamous cell carcinoma"扁平上皮癌の詳細

眼瞼の扁平上皮癌は、眼瞼皮膚と結膜の移行部に発生することがほとんどである。眼瞼悪性腫瘍の中では頻度は低い。他部位に発生する扁平上皮癌に比較すれば予後はよいが、これは単に発見が早いことによる。適切な治療がなされなければ、必ず転移し予後不良となることはいうまでもない。逆に言えば、手術的に完全切除されれば治癒できる。診断が遅れればリンパ行性に耳下リンパ節、顎下リンパ節に転移し予後不良となる。

<肉眼所見>

基底細胞癌に比べ、易出血傾向、深部への浸潤傾向が強いが、分化型のものでは結節を形成し、丘状やカリフラワー状に隆起する。

<顕微鏡所見>


増殖している細胞の主体は有棘細胞で、分化型の場合角化を伴い、いわゆる癌真珠を形成する。有糸分裂像も多くみられる。低分化型の場合は特徴に乏しく、異形の強い細胞が不規則に増殖する。脂腺癌と鑑別の困難な場合もあり注意が必要である。

脂腺癌  "sebaceous carcinoma"脂腺癌の詳細

眼瞼悪性腫瘍のなかでは予後はかなり悪い。腫瘍が同一眼瞼内に多中心発生したり、Pagetoid spreadを呈することもあり、肉眼的腫瘍境界が組織的腫瘍境界と一致しないことが多い。眼科受診時に既にリンパ節転移を生じているものもある。通常は肉眼的には霰粒腫に類似する。成人の再発する霰粒腫様腫瘤は要注意である。

<肉眼所見>

霰粒腫に類似の皮下腫瘤として触れる。上眼瞼に多いが、下眼瞼ということで否定の理由にならない。皮膚は正常のことも多いが、腫瘍部の血管は拡張し、睫毛は脱落する。結膜側からみると通常より黄色が強く見え、油滴を伴うこともある。。霰粒腫は大きくなると横長になることが多いが、脂腺癌は縦長になる傾向がある。(眼瞼が翻転しにくくなる) 明らかな腫瘤を形成せずに広がるPagetoid spreadを呈することも、また同一眼瞼内に多発することもあり、注意深い観察が必要である。局所に再発がなくても手術後数年で転移をみることもある。

<顕微鏡所見>

分化度により様々であるが、明るい胞体をもち巨大な核と明瞭な核小体を有する細胞が増殖し、核分裂が著しい。正常のMeibom腺の腺房を置き換えるように増殖しているものは鑑別が容易である。腺組織、瞼板を破壊したものや、Zeiss腺から生じたものは症例により鑑別が困難なものもあり、胞体が明るいため、基底細胞癌、外毛根鞘由来の悪性腫瘍と鑑別が必要である。鑑別診断には脂肪染色が重要である。少しでも怪しいと思ったら躊躇せずに脂肪染色するべきである。

皮膚附属器の腫瘍

毛根組織由来、汗腺由来のの良性・悪性腫瘍が発生することがある。

  • 毛包上皮腫 trichoepithelioma
  • trichofolliculoma
  • 外毛根鞘腫 trichilemmoma
  • 毛母腫 pilomatricoma (calcifying epithelioma of Malherbe)
  • adnexal carcinoma
       皮膚附属器由来の悪性腫瘍は、様々な皮膚附属器への分化を示し、由来細胞が同定困難なことも多い。定義も混乱しており、定説はない。外毛根鞘細胞への分化傾向を示す悪性上皮性腫瘍は外毛根鞘癌(trichilemmal carcinoma)と呼ばれることもあり、外毛根鞘腫の悪性型(malignant trichilemmoma)とする考え方と、proliferating trichilemmal cyst/tumor(PTC)の悪性型(malignant PTC)とみる考え方があるようである。少しずつマーカーが発見されつつあり、いずれ解明されると思われる。

悪性黒色腫  "malignant melanoma"眼瞼結膜悪性黒色腫の詳細

稀であるが、眼瞼皮膚および瞼結膜に悪性黒色腫が発生する。臨床像はそれぞれ皮膚および粘膜の悪性黒色腫と同一である。ぶどう膜悪性黒色腫とは臨床経過を異にし、非常に予後不良である。なお、眼瞼の母斑の悪性化の報告はきわめて稀である。
なお、瞼結膜には良性のmelanosisはほとんどみられないため、瞼結膜に色素沈着をみたら悪性を疑うべきとされている。
[ 関連 →球結膜悪性黒色腫  →ぶどう膜悪性黒色腫  ]

その他の悪性腫瘍

  • Merkel cell tumor メルケル細胞癌の詳細  

    特徴的な表面平滑な赤い腫瘍である。高齢者に多い。非常に進行が早い。検査待ちなどしていると、どんどん大きくなるので、早急に生検を行い、治療を始めるべきである。当科の経験では放射線療法が有効のようである。

  • 悪性リンパ腫 malignant lymphoma、菌状息肉症 mycosis fungoides

    眼瞼皮膚に生じる悪性リンパ腫は稀であるが、T細胞リンパ腫が多く、予後不良である。

IV.加齢性変化

生理的老化

膠原線維と弾性線維の減少がみられる。

光老化

膠原線維の減少と弾性線維の変性と異常増加がみられる。眼瞼皮膚(真皮)には比較的よくみられる老化パターンである。
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