「もう一つの人類」-3(2003年9月頭蓋骨を発見)
 
「このリアン・ブアには、15メートルを超える土が堆積しています。
  その土を掘り、かつて人類がここで暮らしていた証拠を見つけ出すのが私たちの仕事です。」
 
手作業で土を掘り起こし運び上げます。調査が始まって以来、こうして発掘が続けられてきました。
掘り出した土には、過去を知るための貴重な手掛かりが潜んでいます。
水で流しフルイにかけて詳しく調べます。この日もネズミやコウモリ、カエルの骨が見つかりました。
 
地元の研究者と調査を進めるオーストラリアの考古学者モーウッドさんがここへ来た最初の目的は、
ホモサピエンスがオーストラリアに渡ったルートでした。
 
「この島で研究を始めた狙いは、ホモサピエンスがいつここへやってきたのか、それを知るためでした。
  しかし驚いたことに、もっと古い人類がここに住んでいたことを目の当たりにしたのです。」
 
その発見は2003年の9月のことでした。
洞窟の地下6メートルから、人のものと思われる骨が見つかったのです。
それはほぼ完全な形を保った頭の骨でした。骨が見つかったのは、1万8000年前の地層でした。
 
「ホモフロレシエンシスが見つかったのは、どれくらいの深さだったんですか。」
「目の前、ちょうどこの辺りです。この地層は水気を多く含んでいて、
  骨は濡れたビスケットのようにもろくなっていました。
  ハケで土を払おうとするだけで崩れてしまうような状態で、固めるために凝固剤を上からかけ、
  2日置いてしっかり固まってから掘り出したんです。
  とても小さな頭で、最初は幼い子供の骨だと思っていました。」
 
そう思ったのはトーマスさんだけではありませんでした。掘り出された頭の周囲はおよそ41センチ。
調査隊のメンバーは、誰もがホモサピエンスの子供の骨だと思いました。
しかし、下あごに生えそろった歯が思い込みをくつがえしました。
左右とも第三臼歯、つまり親不知が生えていたのです。それは子供の骨ではなく大人の骨でした。