「ヨーロッパアルプスの前山」
 
ヨーロッパアルプスの山形は、高山景観の見本です。
常に氷雪で覆われたその鋭い岩峰は、人の心を魅了し続けます。
このアルプスと平野の間には、次第に高度を低くしながら下る谷があります。
石灰岩を刻む深い峡谷や硬い氷河が流れ下った幅の広い谷。黒々とした森林におおわれた山。
そして明るく開けた牧草地が点在し、そこには親しみやすい自然が存在します。
アルプスの主要部の核をなす岩石は深成岩や変成岩ですが、
その周縁は石灰岩アルプスと呼ばれる石灰岩質の山体が際立つ山地となります。
現在ここに着生する氷河は小さいけれども、かつて氷河期には谷に沿って氷河が広がり、
山麓の平野まで及んでしました。
浸食によって生じた谷の地形や石灰岩特有の浸食地形が褶曲を示し、その山麓を特徴づけています。
アルプスの前山はさらにその外側にあり、山の岩石や地層の時代も外側へと、だんだん新しくなっていきます。
 
アルプスの前山は、日本の中部地方の3000メートル級の高山とよく似た山形を呈しています。
しかし、高さは2000メートルに及びません。
比較的高緯度にあり、過去の氷河期には日本アルプスの高い山稜部と同じような気候条件にあったため、
同様な規模の氷河と浸食を受けたと推測されます。
山腹の上の方には小型のカールが並び、その底に青く澄んだ池をたたえているものもあります。
日本アルプスと比べて起伏が小さいので、荒々しい自然ではなく、
あのアルプスの少女ハイジを彷彿とさせるなど、メルヘンの舞台を連想させます。
 
アルプスのある前山に目を落とすと、谷底の海抜は700メートル位で、
日本でいえば丹沢山地を思い出させます。
主部から離れるにつれて岩石は新しくなり、谷壁には海底の堆積物に由来した水成岩が現れます。
その一方で氷河期にアルプス主要部からあふれ出た氷河が、山麓を埋めていきました。
その水量は日本の雨量に比べれば少なく、日本の谷ほどは著しくはありません。