絢音side 

「…ん…絢音さん」


「…!何ですか?」


「あの……注文は?」


「ぁ…カレーで」


「はい、かしこまりました…失礼します」


「……あのっ、鈴木さん」


「…はい」


「あの時助けて下さって…ありがとうございました」


「いや…うん」


「それで……あの」


「ん?」


「もし…良かったらなんですけど」


「うん…」


「……連絡先教えて欲しい…です」


「…っ、私なんかで良かったら」


「ありがとうございますっ!」

嬉しそうにしちゃって……ホント可愛いなぁ

「私、実は飲み会の時にアルハラとかセクハラされたんです……」


「うん…それはひどいね」


「ですよね……ちょっと、男性が苦手になっちゃいましたよ笑」


「…そっか。私も会社の男性と付き合いとか一切思わないな」


「鈴木さんは好きな人…とかいるんですか?」


「…ゞ(´ε`●) ブハッ!!……何で?」


不意にそんな事聞かれたから吹いちゃったよ


「どうなのかなぁ~って」


「いや…いないけど」


「そうですか…」


「怜奈ちゃんは、どうなの。好きな人はいるの?」


「好きな人…ではないですけど、気になる人ならいます」


「…そう」


今…泣いてないよね。深く深く私の鋼のメンタルがやられた……これ、結構重症かも


「…でも、その人は私の事なんか気にしてないのかも知れません。多分、片想いで終わると思います」


「…告白しないの?後悔する前に自分の気持ち伝えればいいんじゃない?」


「……でも」


「まっ…どうするか自分で決めなさい。頑張って…応援してる」


そう言って、店を出る。彼女に背を向けている。泣いているみっともない姿を見せたくなくて、立ち去る


彼女の恋を応援しようではないか……私なんか恋が実る筈がない

「待って…!」


ガシッ…息が乱れてる。顔が真っ赤になって、肩で息をしている。きっとここまで走ってきたんだろう


「…何?」


「私、覚悟決めました。どう思われたって構いません…鈴木さん貴方のことが大好きです。あの時からずっと……」


「……私?」


「はい、私は本気です…」


「……本当なの?」


「はい、嘘じゃないです…」


いつもふにゃふにゃしてたのに今は違う…胸のトキメキが止まらない


「あ……」


「雨…降っちゃいましたね」
    

二人とも傘を持っていなかった…急いで、タクシー乗り場に行き乗った


「怜奈ちゃん…そういえば電車の時間」


「…ぁ!もう過ぎちゃいました…」


「…もぉ、しょうがないわね。今日だけ泊まっていきなさい」


「ありがとうございます、助かります」


何でよりによって雨が降るのよっ!空気読め空気!!


「おじゃまします…」


「先お風呂入ってきなさい、」


「はい」


はぁあああ……もぉ、一体どうしたらいいのよ。好きになった人が私の家に来て更にお風呂にも入っている

「落ち着け私…クールにクールに」


「…お風呂、ありがとうございました」


「ぁ…う、うん…」


……待って、超どストライク。まだ少し乾いていない髪…紅潮した顔……全部可愛い

「絢音さん……あの…さっきの返事は」


「…


「ぇ?」


「私も怜奈ちゃんの事…好き


恥ずかしくなって、俯いてしまう……怜奈ちゃんの反応が怖くて見たくない


「へへ…嬉しいです…」

近付くと優しく抱き締めてくれた……怜奈ちゃんから匂う髪は私が使っているシャンプーの匂いがする


私の方が年上なのに……何だか悔しくて、ソファーに座らせて膝に乗っかる


「っ!絢音さん…」


「目そらさないで…瞑って」


人生で初めてのキスは甘くて酸っぱかった


「…っ///」


「ほら、寝るよ…」


「うんっ!」


緊張のあまり中々寝付けなかったけど、怜奈ちゃんの規則正しい呼吸に段々と瞼が重たくなってくる。私は素直に、眠気を受け入れた


久し振りに良く眠れそうだ…


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怜奈side 

「…おはよ、怜奈」


「…!おはようございます」


初めて私を呼び捨てしてくれた…朝から絢音さんを拝見出来るなんて、貴重な日だ


「朝ごはんできてるよ」


「ありがとうございます…頂きます」


( ̄・ω・ ̄)ジッー…


「…あのっ、そんなに見詰められたら食べづらいです…」


「…ぁ…ごめん。それ、美味しい?」


「はい!全部美味しいです…羨ましいですよ、こんなに美味しい料理作れるなんて」


「良かった……頑張った甲斐があった」


あっという間に全部完食した…


「ぁ…そうだ、怜奈」


「はい、何ですか?」


「…私達付き合ってるんだから敬語無しね」


「それは……ちょっと」


「何、嫌なの?」


「いや…先輩ですし」


「私は使って欲しくないけど……」


「ぅ~じゃ、怜奈さんと二人っきりの時は敬語は使いません」


「…分かった、私といる時に敬語使ったら罰ゲームね」


「…はい」


私と絢音が付き合ったあの日から早2年が経った…仕事にも慣れ、成果を少しずつ出せられるようになり段々上司の方に褒められることが増えていった


仕事の方は順調なのに、家に居る時は不調になる……怜奈の対応が冷たくて困っている


例えば……


「絢音~」ギュッ


「暑い…離れて、今仕事してるから」


「ぶっ~」ε٩(๑>ω<)۶зプンプン


「チュ~したい……だめっ?」


「…だめ、明日仕事あるから」


とか、私に構って欲しい……私の事嫌いになったのかなぁ~私と絢音との心に溝を感じてしまう


これが所謂"倦怠期"なのか……考えれば考えるほど分からなくなる


「日奈子ぉ~どうしたらいい?」


「私に聞かれてもさぁ…」


「他の人の事好きになったんじゃ…ぅう」


絢音の事を考えると涙が勝手に溢れてくる…


「そうだ…怜奈ももう20歳になったんだし、今日ご飯連れていってあげるよ」


「本当?!」


「うん…私の大事な友達だもの、協力する」


「ありがとう~!」


日奈子に相談して少しだけ心が軽くなった気がした


~店~


「押してダメなら引いてみたらどう?」


「引くって、例えば?」


「例えば、ハグするのを控えたり適度にツンツンしてればいいの」


「それで余計嫌われたら…」


「やり過ぎたら嫌われる…怜奈の加減次第かな?成功するのか、はたまた失敗するのか」


「怖いよ…それじゃ、ギャンブルと一緒だよ」


「恋愛はギャンブルってよく言うしね」


「ぅう…頑張るしかないのか」


「応援の意味を込めて奢ってあげるから沢山食べて、元気出しなさい」


「ありがと~日奈子」


日奈子が私の背中を押してくれたお蔭で、前を向ける自信がついた


その日から絢音の態度を変えた…すぐに抱きつきたいのを我慢。少しだけ声のトーンを下げて話した


メールも絢音から来ない限りしないようになった。まだ絢音と同棲していないから、そんなに気まずいとは感じないけど…そろそろ我慢の限界が近い


気が付くと絢音に電話をしていた…


「…もしもし」


「どうしたの、珍しいね」


「…会いたい、、」


「…明日私の家においで?」


「うん…」


「明日帰ってくるの遅いけど、もしあれだったら先に寝てもいいからね」


「…うん…」


「おやすみ…」


「…おやすみ…」


久し振りに聞こえた絢音の声は優しくて心が温かくなったのと同時に申し訳なくなった。絢音を傷付けるようなマネをしてしまった


「明日…ちゃんと謝ろう」


まだ絢音の匂いが微かに残っている毛布を抱き締めて眠りについた



続く!