新型コロナ、ウクライナでかすむ環境・温暖化の議論 ウクライナで問われる「脱炭素」の進め方 | 碧空

新型コロナ、ウクライナでかすむ環境・温暖化の議論 ウクライナで問われる「脱炭素」の進め方

(アタカマ砂漠に積み上がった衣類の山(17日、チリ北部アルトオスピシオで)=淵上隆悠撮影【323日 読売】)

 

【砂漠に廃棄衣類の山 廃棄物で水路が詰まり溢れる湖 地道な取り組みも】

ここ2年余りの新型コロナ、そして今年のウクライナ問題で、人々の意識から吹き飛んでしまった感もある環境問題や温暖化の問題。当然ながら、コロナやロシア軍侵攻にかかわらず事態は進んでいます。

 

環境問題に関わる最近の記事をいくつか。

 

****ファストファッションの広がりも影響、砂漠に広がる「衣類の墓場」****

南米チリの砂漠に、世界中から着古した衣類が集められて不法投棄され、「衣類の墓場」とも呼ばれる光景が広がっている。荒涼とした大地に積み上がった衣類の山は、大量生産・大量消費を見直し、「持続可能なファッション」を目指すことの必要性を訴えている。

 

10万トン

太平洋とアンデス山脈の間に、南北約1000キロ・メートルにわたって年間降水量が10ミリにも満たないアタカマ砂漠が広がる。砂漠の北部に位置するアルトオスピシオの貧困地区を抜けると、砂とは異なる「山」が姿を現す。

 

ジーンズ、シャツ、セーター、靴下――。高いところでは5メートルを超える「山」の正体は大量の衣類ゴミだ。一帯のゴミの量は約10万トンにもなるという。強い日差しに照らされて布地の色は落ち、辺りにはプラスチックが燃えたような不快な臭いも漂う。

 

市によると、砂漠に衣類が投棄されるようになったのは6、7年前からで、隣接する港湾都市イキケから運び込まれるという。

 

イキケは1970年代に政府が「自由貿易地域」に指定し、輸入時の関税が免除される。自動車や機械などにとどまらず、売れ残ったり寄付されたりした衣類が欧米やアジアなどから運び込まれる。

 

港に近い問屋が集中する地区では、ビニールで梱包こんぽうされた衣類を運ぶトラックが行き交う。韓国の古着を専門に扱う業者の女性は、倉庫で仕分けしながら「この服はボリビアやペルーにも行く」と教えてくれた。

 

しかしアルトオスピシオで環境部門を担当するエドガル・オルテガさん(33)は「イキケに来るのはゴミ同然の衣類ばかり。穴が開いているような不良品も多く半分以上が売れ残る」と嘆く。

 

多くの衣類は化学繊維が素材に使われており処分に手間がかかる。売れない衣類は夜間、トラックで砂漠に運ばれる。

 

国連の2019年の報告などによると、衣類の年間生産量は14年に1000億着に達し、00年から倍増した。急増の原因の一つとされるのが、手ごろな価格で流行を取り入れたファストファッションの広がりだ。大量生産によって製造コストを下げる一方、大量の売れ残りや短期間での廃棄につながっている。

 

世界の温室効果ガス排出量を業種別にみると、ファッション業界は8%を占める。さらに毎年約50万トンもの極細の化繊「マイクロファイバー」が結果的に海洋へ投棄されているという。

 

こうした現状に「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げる国連は「ファッションの流行を追うことは値札にある価格をはるかに上回るコストがかかる」と指摘し、使い捨ての文化を絶つべきだと訴えている。

 

ファッション業界も欧米メーカーが中心となり、19年に環境への負荷を減らす国際的な協定を結ぶなど、衣類の廃棄を減らす取り組みを強化している。【323日 読売

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****自宅で子どもが流される事態も アフリカ第2の湖で記録的な水位上昇****

ブルンジにあるアフリカ第2の湖、タンガニーカ湖近隣の住民アミッサ・イラコゼさんは、湖を怖いと思ったことなどなかった。

 

だが20204月、予想だにしなかったことが起きた。シングルマザーのイラコゼさんが畑仕事を終えて帰宅すると、家が水没し、10人の子どもたちがいなくなっていたのだ。

「子どもたちは流されたのです。でも、近所の泳げる人たちがボートで救出して、私のところに連れて来てくれました」。子どもは奇跡的に全員助かった。

 

2年たった今も洪水は引かず、湖の水位は過去数十年で最高水準を保ったままだ。地球温暖化による異常降雨のせいで冠水が広がり、湿地と化す地域も増えてきている。

 

子どもの権利保護団体「セーブ・ザ・チルドレン」のブルンジ支部代表によると、避難を余儀なくされている湖畔の住民の65%は子どもだ。

 

その大半は通学もできないどころか、あらゆる教育の機会を失い、家族を支えるために働き始めている。世界銀行による世界国内総生産ランキングで、ブルンジは最貧国グループに入っている。

 

専門家によれば、タンガニーカ湖の水位が上昇している原因は、年間降水量の増加だ。だが、元環境相でタンガニーカ湖の環境保護を推進するアルベール・ムボネラネ氏は、別の要因もあると指摘する。

 

同氏によると、タンガニーカ湖への流入河川に投棄されるごみの量が急増した結果、唯一の流出口であるコンゴ民主共和国側の水路が詰まり、湖の水位が低下しないのだ。

「あらゆる固形廃棄物が川に投げ込まれ(中略)、湖はまるで汚物を吐き出しながら『一体、どうしろって言うんだ?』と言っているようです」とムボネラネ氏は訴えた。 【51日 AFP

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地域に根ざした地道な取り組みも。

 

****チュニジア・サハラ砂漠 オアシス復活プロジェクト****

チュニジアの砂漠のあるオアシスが、何十年にもわたる農業用水の乱用によって枯渇してしまった。だが今、「エコロッジ」と呼ばれる環境配慮型の宿泊施設を中心とするプロジェクトの一環で、オアシスの復活が試みられている。

 

水を大量消費するナツメヤシの大規模農園に代わり、基本に立ち返った持続可能な方法で、かつてサハラ砂漠を往来したキャラバン(隊商)の伝統とその中継地を復活させるのが狙いだという。

 

オアシス復活の試みが行われているのは、 首都チュニスから車で7時間のところにあるネフタ。農民のモハメド・ブガアさんは「ヤシの木の間では、何でも育ちます」と話す。「野菜、果物、必要なものは何でもあります。ピーマン、トマト、ニンジン太陽と水があれば、何だってできます」

 

だが、そのネフタのオアシスは、特産であるナツメヤシ栽培のためのかんがいで、20年前に枯渇してしまった。

 

適切な規模ならば、ナツメヤシ農場は持続可能な方法で運営できると語るのは、エコ観光ロッジ「ダーハイ」を営むパトリック・アリエルウアルギ氏。

 

自然の生態系を模倣した有機的な栽培方法は持続型農業の理想的な形態で「ヤシの木が果樹を保護し、果樹が野菜畑を保護する。オアシスでは自然なことです」と言う。

 

エコロッジの「ヤシ研究所」では、技術者、建築家、アーティストらがオアシスの保存方法について話し合っている。

 

甘味料を開発

「ダーハイ」からさほど遠くないところでも、オアシスから新たな価値を創り出す人がいる。以前は北部スースに住んでいたという米国人のケビン・クレイさんだ。南部を訪れた際にナツメヤシのとりこになったと話す。

 

そうした中であることに気が付いた──ナツメヤシの無駄な破棄だ。「2030%が小さな傷のせいで使われずに、捨てられていたのです」

 

 クレイさんはナツメヤシ数キロを購入して種を取り除き、乾燥させてコーヒーグラインダーにかけた。その結果、「白砂糖の5分の1のカロリー」の甘味料が出来上がった。

「大きな需要があります。特に私たちの主な市場である米国では」とクレイさんは語った。【51日 AFP

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【「脱炭素」の流れに急ブレーキをかけたウクライナ侵攻 省エネ・再エネ重視か「脱炭素モラトリアム」か】

環境問題の中でも温暖化については、新型コロナパンデミックによる生産活動低下は一時的に温暖化ガス輩出には抑制的に作用したと思われますが、エネルギー確保の問題を露わにしたウクライナ侵攻の方は「脱炭素」の流れに急ブレーキをかける深刻な影響を与えています。

 

****ウクライナ戦争ですっかり忘れ去られた「脱炭素」の緊急性その深刻さと「3つの処方箋」****

IPCCが気候変動対策の提言を発表

2019年までの10年間のCO2の排出量は人類史上で最悪だった」――。  国連の機関である「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」は44日、気候変動問題のうち、対策の提言を担当する「第3作業部会」の8年ぶりとなる評価報告書を公表した。 

 

現状について、増加ペースこそやや鈍っているものの、依然として人類のCO2排出は拡大を続けており、すでに地球の平均気温が産業革命前と比べて1.1℃上昇したうえ、このままでは20年後に1.5℃を越え、2100年には3.2℃も上がると予測。各国がパリ協定で合意した「2℃未満、できるなら1.5℃にとどめる」という目標は達成できないとの強い危機感をあらわにした。  

 

実際のところ、3月の国際エネルギー機関(IEA)の発表によると、直近(2021)CO2排出量は363億トンと過去最高を更新。この背景にあったのは、新型コロナウイルスのパンデミックで落ち込んでいた経済活動の回復だ。中国などで、CO2の排出が多い石炭火力発電の利用が増えたのである。  

 

加えて、今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻の影響は深刻だ。  

 

西側先進諸国に天然ガスから石炭火力発電への回帰を余儀なくさせかねないだけでなく、エジプトで11月に開催される第27回気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で西側諸国、ロシア、中国、インドを含む国際的なCO2排出削減の枠組みを維持できるかさえ危うくしている。カーボンニュートラルの緊急性がすっかり忘れ去られた格好なのだ。  

 

しかし、気候変動は今なお変わることのない地球規模の危機である。今週は、IPCCの評価報告書が示した事態の深刻さと、その処方箋をみておこう。(後略)【412日 現代ビジネス

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****ウクライナ侵攻でかすむ脱炭素 IPCC警告も化石燃料投資の動き****

(中略)ロシアによるウクライナ侵攻で、世界のエネルギー情勢は一変した。ロシアへの経済制裁の影響で原油や天然ガスが高騰。欧州は中長期には脱炭素をめざすとしながらも、当面はエネルギーの安定供給を優先し、化石燃料へ新たに投資する動きを強めている。

 

天然ガス輸入の4割をロシアに依存する欧州では、米国などからの液化天然ガスLNG)の調達を増やそうとしている。

 

天然ガスの55%21年)をロシアに頼るドイツの危機感は強い。325日に公表した今後のエネルギー確保策では、ロシア依存度を24年までに10%に抑える道筋を描き、LNGの貯蔵庫などのインフラ整備を急ぐ。脱原発を進めるドイツでは、ロシアからの天然ガス供給が途絶える事態も想定し、石炭火力発電を増やせるように備える動きが出ている。

 

ロシア産原油の輸入を年内にやめることを決めた英国は、北海油田を有効活用する策を発表。英BBCは英シェルが、いったん撤退を決めた北海のシェトランド諸島沖の油田開発を再検討していると報じた。米国も国内の石油企業に増産の号令をかける。

 

エネルギーの安定供給を重視する動きは日本でも強まる。政府系の日本貿易保険3月末、クウェート石油公社と覚書を交わし、日米欧の金融機関による10億ドル(約1200億円)の融資を後押しする。原油の増産を支援する狙いだ。萩生田光一経済産業相は5日の会見で、IPCC報告書について「化石燃料の利用を一律に排除した内容にはなっていない」と述べた。

 

政府は、ガソリンや灯油などの価格を抑えるため、石油元売り各社に1リットルあたり最大25円の支給も続けている。萩生田氏は「当面の間の緊急避難的な措置で、価格を下げて消費を助長するものではない」と説明。電気自動車EV)の購入補助などの支援策も強化しており、脱炭素の目標は維持するとした。

 

原発回帰の動きも出ている。英紙テレグラフ電子版は2日、ビジネス・エネルギー・産業戦略相のクワルテング氏が同紙に対し、50年までに原発を最大7カ所に新設する考えを明かしたと報じた。英国はエネルギー自給率向上のため、洋上風力発電の設置を急ピッチで進めるとともに、原発も基礎電源として再評価している。フランスも原発依存度を下げる目標を延期し、昨年11月には数十年ぶりに原発建設の再開を表明した。

 

日本では自民党の原発推進派らによる議員連盟が3月、停止中の原発を緊急的に稼働させるよう求める決議を行うなど、再稼働を求める声も強まりつつある。政府は再エネを主力電源と位置づけるが、欧州に比べて普及は遅れている。電源構成に占める比率は約2割で、すぐには増やせない。

 

「技術や安価な対策はすでにある」 遅れる日本

一方、IPCCの報告書は、脱炭素のための技術や安価な解決策はすでにあると主張する。CO21トン減らすのに100ドル以下の対策だけで、2030年に世界の排出量を19年比で半減できるという。

 

鍵の一つとなるのが、エネルギーを使う側の対策だ。今回の報告書では初めて章を立てて紹介した。効果的な政策やインフラ利用、デジタル化など人々の行動変容を促すことで、50年に4070%削減できるという。省エネや電気自動車への買い替えなどだ。

 

日本は住宅など家庭部門で、30年度に13年度比66%減をめざすが、欧米に比べて、節電につながる断熱化など省エネ基準への適合の義務づけが遅れている。

 

20年度に家庭部門から出たCO2排出量は167億トン。13年度比193%減だが、19年度からはコロナによる「巣ごもり」の影響で49%増えた。政府は25年から新築住宅の断熱化を義務づける法案を今国会に出す予定だったが、「参院選に集中したい参院側の意向」(自民党閣僚経験者)のため、提出が見送られた。新築住宅への太陽光発電の設置義務化も断念した。

 

足踏みする国を尻目に先を行く自治体もある。

京都府京都市12年度から、延べ床面積2千平方メートル以上の建物を新増築する際に再エネ設備の導入を義務化。18年度までに210件、約11千キロワット分を導入した。4月からは対象をアパートなども該当する300平方メートル以上に拡大した。

 

「慎重論もあったが、今は理解が進んでいる。電気代が上がり、自家消費の利点が強まっている」(京都府地球温暖化対策課)という。群馬県が同様の取り組みを今月から始め、東京都も検討している。

 

横浜市は今年度までに、市内五十数校の小中学校に太陽光パネルと蓄電池を設置する計画だ。東京ガスが設備を設置し、学校側が電気を購入する仕組みで初期投資がかからない。市立錦台中学校の屋上には240枚(90キロワット)のパネルが並び、使用電力の3割を賄う。「災害時には、蓄電池にためた電気を防災無線や携帯電話の充電、職員室の照明などに使う」(同市)という。

 

小林光・東京大客員教授(環境経済政策)は、「1970年代の2度の石油危機を経て、日本の産業界は、省エネ技術や環境技術の強みを生かし、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるほどの競争力を手に入れた。ただ、その後、産業構造の転換が遅れた。今後はデジタル技術を活用したり、国際環境税を積極的に後押ししたりすることで、省エネ型の製造業を生かせる可能性もある」と話す。【46日 朝日

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一方で、再生可能エネルギー重視を非現実的とし、化石燃料や原発を重視する「脱炭素モラトリアム」の主張も。

 

****日本のエネルギー政策も「脱炭素モラトリアム」へ****

以上を踏まえると、この「戦時」における日本のエネルギー政策はどう変わり得るか。いまやエネルギー政策の国際的な地合いは完全に変わった。ロシアと欧米の対立は長引く恐れが強い。ロシアは世界市場から締め出されることになり、世界全体で石油・ガスは品薄になり、価格が高騰する。

 

こうしたなか、日本が「脱炭素」「再生可能エネルギー最優先」といった政策を続ければ、欧州同様に、エネルギーの安価・安定な供給が損なわれ、ひいては国の独立や安全すら危機に陥るだろう。

 

「再エネを増やせば化石燃料はいらなくなる」などと主張する人々も多いが、まったく現実的ではない。再エネには化石燃料を一気に代替するような実力はない。いま再エネを増やすことは、足元のエネルギー価格高騰に拍車をかけ、インフレをますます高進させるだけである。

 

従って、再エネを促進するための賦課金やエネルギー諸税の引き下げが起きる。再エネ導入支援やEVの促進などのコスト増になる政策には急ブレーキがかかるだろう。

 

日本は、欧米と共に自滅的な脱炭素政策を止めて化石燃料を復活させるだろう。政府は、石炭火力をフル活用し、原子力の再稼働を進めることになるとみる。

 

この政策は、日本国内のみならず世界のエネルギー価格を下げることに貢献する。そして実はこれこそが、エネルギー輸出に財源を依存するロシアにとって最大の経済制裁になる。世界の窮状を救いつつ、プーチンに打撃を与えることになるからだ。

 

以上のような政策は、「30年にCO213年度比46%削減する」という現行の政府の脱炭素目標と整合しないため、脱炭素についてはモラトリアム(一時停止)となる。

 

脱炭素一本やりの現行の先進国のエネルギー政策によって、独裁政権に力が与えられ、ウクライナが滅ぼうとしている。民主主義防衛のために、諸国はいずれもエネルギー政策の大転換を図るだろう。日本も例外ではあり得ない。

【329日 キャノングローバル戦略研究所“ウクライナ情勢緊迫化で脱炭素は「モラトリアム」に 西側とロシアの緊張関係は当分続く”】

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いささか刺激的な論調ですが、このあたりは国民の選択でしょう。

いくつかの道筋について、そのメリット・デメリット・国民の負担を明らかにした議論が必要でしょう。

国民の方も都合のいい部分だけのつまみ食いではなく、目的のためならどこまで負担増・犠牲を受容できるかという視点からの議論が必要です。

 

国際的にも、エジプトで11月に開催される第27回気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)は難しい議論になりそうです。