気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている | 碧空

気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている


(ノルウェー、スバールバル諸島北東島の氷冠から滝のように流れ出る融解水。北極圏は、地球のどこよりも温暖化の進行が速く、氷が急速に解け出している。【10月6日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【予測の計算はAIで可能。しかし、なんのために予測するのか、予測をふまえてなにをするのか。それを考えるのは人間】
パソコンで作業していると、おそらく私の閲覧履歴をもとに私の好みを予測したと思われる「おすすめ商品」が提示されます。うるさいぐらいに。

なかには、思わずクリックしてしまうものもあれば、どうしてこんな広告がでるのだろうと不思議に思うことも。

昨日から旅行に出ていますが、今日は時折小雨もぱらつく天気。目的地にでかけるのは何時がいいか雨雲レーダーで予報を確認しながら行動しました。

また台風が日本に向かっているようですが、予想進路に幅があり、私の暮らす地域に影響があるのか、ないのか、肝心なところが判然としません。

上記は予測に頼る生活、その予測の限界を示すほんの一例です。

****あらゆるものを予測する時代 「何のため?」をどこまで考えているか*****
ビッグデータの時代。人工知能(AI)の時代。そんなふうに呼ばれる現代は「予測」の時代でもある。私たちに身近な天気予報をはじめとして、自然災害からギャンブルまで様々な分野で予測技術が使われている。もはや、予測は現代社会に欠かせないインフラになりつつある。

最も予測されているのは、私たちの行動かもしれない。ウェブサイトを開けば頼みもしないのに「おすすめ」が続々と現れる。ネットに流れ出た膨大(ビッグ)なデータから、AIが「あなたはこれが好みでしょ」と予測しているのだ。(中略)

AIは、どこまで予測できているのだろうか。
そんな疑問を胸に訪ねたのは、日本有数の統計研究機関、統計数理研究所(東京都立川市)。所長の椿広計さん(62)は製造業、公共政策などさまざまな分野で予測を手がけてきた統計家だ。

「人間は、難しいですよ」と椿さんは言った。「Aを買ったひとが100人いれば、うち80人はBを買う」といった確率は予測できても、「XさんがBを買う」と決定的に予測するのは難しいという。

人間がなにをもとに行動を決めるのか、まだよく分かっていないからだ。

■「ラプラスの悪魔」と「バタフライ効果」
いにしえの「予言」や「占い」に始まり、人類は有史以来、未来を予測することに血道を上げてきた。「科学」も、その営みの一つと言えるかもしれない。
 
現在、科学的な予測は大まかに二つある。一つは物理法則などによる決定的な予測だ。たとえば日の出の時刻は、何年後でもほぼ予測できる。

ニュートンをはじめとした科学者たちは、次々にこうした「覆らない予測」を見つけてきた。フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラス(1749〜1827)は、すべての原子の位置と運動量を知る悪魔がいるとしたら、未来は完全に予測できると考えた。世に言う「ラプラスの悪魔」である。

私たちに身近な天気予報も、この延長線上にある。「日射が気温に与える影響」「地球の自転が風に与える影響」など、物理法則にもとづいた膨大な計算式を積み上げて天気をモデル化し、スーパーコンピューターを使って計算して予報のもととなる数値をはじき出すのだ。

だが、いまでは大気の運動ではわずかな初期値の差が大きな結果の差になることが分かっている。「ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスの竜巻を生む」という比喩で語られる「バタフライ効果」だ。

長期の天気予報では、初期値がわずかに変わるだけで結果が異なる。(中略)「バタフライ効果」で、時間が経つほどばらつきは大きくなる。実際の長期予報では決定的な予測は使わず、こうした差を取り込んで確率的な予報にしている。

実際のところ、天気は先になればなるほど予報は難しい。気象庁の場合、降水の有無についての例年(1992〜2018年)の的中率は、翌日で83%、3日後で75%。これが7日後には67%まで下がる。

バタフライ効果により、どこまで技術が進んでも決定的な予測には限界があるという指摘もある。大気の状態を予測する数値モデルが完全でないことに加え、観測誤差をなくすのは不可能だからだ。

気象庁数値予報課の計盛正博・数値予報班長(47)は「米国などの研究では、技術が進んでも日単位で予測するのは2週間程度が限界という説があります。台風のときなど、大気が不安定なときほど小さな誤差が予測結果を大きく変えることがあります」と話す。

小さなできごとが、将来をまったく変えてしまう。そんなバタフライ効果は、さまざまな分野でみられ、長期の決定的な予測を難しくしている。

科学的な予測のもう一つの道が、「経験的な確率」による予測だ。過去のデータから「Aが起きるとBも起きる」といったつながりを調べ、未来を予測する。

AI技術の中心とされる「機械学習」も、このやり方だ。データ量の増加とコンピューターの進歩のおかげで精度が上がってきた。バタフライ効果があって長期の予測が難しい場合には、こちらのほうが予測できる可能性がある。

もちろん、確率的な予測にも限界はある。まずデータがなければ予測はできない。たとえば「食欲」データを使いたくても、計測は難しい。「食べた量」など、目に見えるデータを「代理変数」として使っていくことになる。

さらに過去のデータから確率をはじき出すことの限界もある。AIが強力なのはデータを大量に分析し、人間では見つけられなかったデータ間のつながりを見つけることがあるからだ。だが、過去のデータを使う以上、まったく分かっていないことを予測するのは難しい。

そして「Aを買ったひとが100人いれば、うち80人はBを買う」という話と同じように、確率は、あくまで確率でしかないという難しさもある。「あすの降水確率70%」とは、同じ状況が100回あれば70回は雨や雪などが降る、ということだが、あすが本当に雨かどうかは分からない。あたり70個、はずれ30個のくじを引くようなものだからだ。

実際の予測モデルでは、決定的な予測も確率的な予測も、さまざまに組み合わせて使われている。

■「予測」と人間の飽くなき欲望
結局、世の中すべてをデータ化したり、モデル化したりして予測することは、できない。
「大事なことは、なんのために予測するかなんです」。椿さんはそう言った。

たとえば、自治体が少子化対策のために出生率を予測したとする。「晩婚化」「人口」……。自治体にはどうしようもない要因だけから予測しても、できることはあまりない。でも、「保育園や学校の数」「社会保障予算」など、自治体が動かせるデータも含めて予測できれば、政策を考えるのに役立つ。アイデアや努力次第では、将来を変えられるかもしれない。

「予測の計算はコンピューターでできます。しかし、なんのために予測するのか、予測をふまえてなにをするのか。それを考えるのは人間です」

そうなのだ。欲望のないAIに予測はデザインできない。予測とは「明日を知りたい」という人間の欲望そのもの。そして、それは「未来を変えたい」という欲望にもつながっている。問われているのは、私たちがどんな未来を生きたいか、なのだ。【10月6日 GLOBE+】
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【気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている】
様々な予測があるなかで、今人類にとって最も深刻な予測が温暖化・気候変動に関する予測です。

****解説:気候変動、IPCC最新報告書の要点は?****
気候変動の影響はいたるところで表れ始めている。上昇する海水温。崩落する氷床。それが国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新レポート「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書(SROCC)」が明らかにした現実だ。
 
9月25日に公開された900ページに及ぶレポートは、数千もの研究結果をまとめ、地球の海と氷にすでに現れている影響を描き出し、将来何が起こるかを予測している。
 
気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっていることを科学は証明している。人間の活動による地球温暖化のために、海、極地の氷冠、高山の氷河はすでに限界近くまで熱を吸収しており、人間が依存しているシステムそのものが崩壊の危機にさらされている。
 
例えば、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランのイタリア側にあるプランパンシュー氷河は、いつ崩壊が始まってもおかしくない状態にある。このため道路は閉鎖され、近隣の施設には退去命令が出された。
 
海では漁場が移動して漁獲が落ち込んだところが増え、数万ドル規模の漁業ビジネスから個人操業の漁師までを圧迫している。

海洋熱波の発生回数は、わずか30年前と比べて2倍に増加した。地球の人口の27%が住む沿岸地域は、海面上昇と巨大化した嵐の脅威にさらされている。
 
そして「世界の給水塔」である高山の氷河や氷原に依存する多くの人々は、ひどくなる一方の洪水や干ばつに苦しめられている。
 
各国が温室効果ガスの排出を抑えるために直ちに対策を講じなければ、状況は悪化するばかりだ。しかし、強い決断力と行動力によって最悪のシナリオを回避することはまだ可能であると、レポートは主張する。(参考記事:「地球温暖化、目標達成に残された道はギャンブル」)

パリ協定以降に判明した2つのこと
2015年、フランスのパリで世界の首脳は、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えるという目標を立て、さらに1.5℃未満に抑える努力をすると合意した。
 
当時、2℃は「安全な」目標とされていた。経済や社会制度、自然環境には重い負担がかかるが、最悪の事態は避けられると考えられた。
 そ
れから現在までの間に、2つのことが明らかになった。
第1に、地球の平均気温が、産業革命前より1℃以上高くなった年がもう現れた。北極圏など一部地域の上昇は、その4倍以上にもなる。

第2には、1.5℃の上昇であっても、一部の気候には絶大な負担がかかり、環境や社会、経済に壊滅的な影響がもたらされるという証拠が次々に出てきたことだ。
 
1990年以降、IPCCは気候変動に関する証拠を世界中の科学者から集め、5本の包括的評価レポートを作成してきた。そして現在、6本目を作成中だ。また、トピックごとに焦点を絞った特別レポートも作成し、過去1年間だけで3本が公開された。(中略)

これらのレポートをすべて合わせてみると、1.5℃であろうと2℃であろうと、いかに達成が困難であるかが日増しに現実味を帯び、暗澹とした未来像ばかりが見えてくる。

気温の上昇を1.5℃未満に抑えるには、2050年までに温室効果ガスの排出を「正味ゼロ」にしなければならない。だが、現在人類はまるで違った方向へ邁進している。今のままでは、今世紀末までに地球の平均気温は3.5℃以上上昇するという。

台風は強力になり、サンゴは死に、魚は減る
今回のレポートは「海」と「氷」というふたつの重要な要素に焦点を当てている。気候変動はすでに、そのどちらも大きく変えてしまった。
 
その負担の大半を引き受けている海は、1970年以降、大気中の過剰な温室効果ガスに蓄えられた熱の90%以上、そして、二酸化炭素の20〜30%を吸収している。

つまり、今のところは海水が緩衝材となって、陸上生物は最悪の影響を免れていると言える。もしそうでなければ、大気の平均気温は現在の1℃よりもはるかに高くなっていた。(中略)

緩衝材としての海は多大な犠牲を払い、その兆候は、科学者だけでなく自然界に注意を払っている者なら誰の目にもはっきりと見て取れる。
 
暖かい海はハリケーンや台風を強大にし、嵐の雨量を増大させる。だが、人間には見えない影響もある。海表面が温まると、海水は軽くなり、その下にある冷たくて栄養に富んだ海水と混じりにくくなる。すると海面近くの水の動きが鈍くなり、酸素の量が減り、海洋生物に必要な栄養が不足する。
 
また、海水に取り込まれる二酸化炭素が増えて酸性化が進み、微小なプランクトンからカキ、巨大なサンゴ礁に至るまで、酸に弱い炭酸カルシウムで殻を形成する生き物に負荷がかかる。
 
全体的には、海洋生物への影響は目に見えて明らかだ。(中略)

「証拠はもう山ほどあります。何十年にわたる観測の結果、気候変動は本当に多くの種に影響を与えていると自信をもっていまは言えます」と、カナダ、マギル大学の海洋生物学者であるジェニファー・サンデー氏は言う。
 
もし、人間が今のまま炭素を大量に排出する生活を続けるなら、今世紀末までに海の魚の量は20%近く減少すると、科学は示している。すでに、マグロなど遠洋漁業の漁獲高は停滞しているという。乱獲も原因のひとつだが、気候変動によって問題はさらに悪化している。

海面上昇のカギを握る西南極の氷床
温暖化の影響は海だけでなく、高山から極地の氷冠まで、地球のすべての氷にも及んでいる。
 
最新レポートによれば、アンデスやヒマラヤといった高山地域では、数十年前と比較して氷河が後退する速度が約30%速まっている。その影響をもろにこうむっているのが、氷河の近くに住む人々だ。(中略)

高山や極地から遠く離れた場所であっても、影響は免れない。20世紀の間に、世界の海面は平均でおよそ16センチ上昇した。海面上昇の原因はこれまで海の膨張によるとされていたが、最新のレポートによると、今では世界の氷の貯蔵庫であるグリーンランドと南極の氷の融解も主な原因になっている。現在、海面は年間で約3.6ミリ上昇しているが、その半分以上は氷床の融解によるものだという。
 
地球の全ての国が最も厳しい目標を達成させたシナリオでも、極地の氷床融解による海面上昇は2100年までに5〜23センチとされている(山岳氷河と温められた海水の膨張でさらに増加)。一方、現在のままでいけば、今世紀末までに氷床の融解水は11〜55センチの海面上昇を引き起こす。
 
全体として、十分な対策が取られたとしても海面は2100年までに40センチ強、そうでなければ80センチ以上上昇する。
 
IPCCのレポートは、最近の研究による証拠を基に、南極が重要な臨界点を超えてしまえば、数字はさらに跳ね上がるだろうと指摘している。暖かい海水は、繊細な西南極の氷床にじわじわと近づいている。もしそれが到達すれば、融解に歯止めが利かなくなり、広範囲での氷床の融解につながりかねない。

 NASAのゴダード宇宙飛行センターの氷河学者ブルック・メドレー氏は「滅亡へのシナリオとも言うべき事態です。いったん始まってしまえば、止めることはほぼ不可能です」と警告する。
 
レポートはその可能性についてはっきりと言及しているが、2100年までに起きることの予測では扱われていない。

世界はつながり、循環する
西南極の氷は海の変化に反応し、海は氷の変化に反応する。気候はそのようにして循環しているものだと、米アラスカ大学氷河学者でレポート著者のひとりでもあるレジーン・ホック氏は指摘する。全ての現象は互いに関連しており、世界のどこかで起こったことは、そこだけで終わるものでは決してない。
 
そして、世界のある地域で人間が下す選択もまた、他の全てに影響を与える。つまり、炭素排出が今すぐ削減されれば、この世界の未来は全く違ったものになることを、レポートは示している。
 
レポートの筆頭著者で米フォート・ルイス大学の山岳科学者ハイディ・ステルツァー氏は言う。「私たちの未来は、私たちが何であるか、ともに何ができるかにかかっています。今こそ、人類すべてが解決に向け手を取り合うべきです」【10月6日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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気候変動予測は、将来の生き残りをかけた「未来を変えたい」という願いでもあります。

しかし、「もはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている」「証拠はもう山ほどあります」という予測に対しても、懐疑的な見方、あるいはあえて確実とも言い難い将来の破局の話より、確実な現在の負担を重視する政治が横行しているのも周知のところです。

「炭素排出が今すぐ削減されれば、この世界の未来は全く違ったものになる」「(滅亡へのシナリオは)いったん始まってしまえば、止めることはほぼ不可能」という現状にありながら・・・・

ということで、グレタ・トゥンベリさん(16)の「How dare you!」(よくもそんなことを!)という怒りにもなります。

現在の負担にとらわれて、将来の破局の危険性から目をそらそうとする対応が民意に左右される民主政治でやむを得ないのであれば、それは民主主義の限界と言えるでしょう。