アメリカ  大統領選挙の争点となる気候変動対策 爆弾サイクロンでトランプ支持層でも高まる関心 | 碧空

アメリカ  大統領選挙の争点となる気候変動対策 爆弾サイクロンでトランプ支持層でも高まる関心


(3月末にパキスタン・フンザを旅行した際に、カラコルムハイウェイ沿いから見たパスー氷河先端)

【進む氷河・氷床の融解】
温暖化・気候変動の影響と思われる氷河・氷床の融解に関しては、頻繁に報道を目にしますが、たまたま昨日、そうした記事がいくつか重なっていましたので、今日はそうした温暖化・気候変動関連の話。

まず、ヒマラヤ、北極、グリーンランドに関する異なる、しかし、意味するとことは同じ三つの記事。

****ヒマラヤの氷河融解、今世紀初めの2倍速に 米研究****
ヒマラヤ山脈の氷河の融解速度が、今世紀初頭の2倍になっているとする研究結果が19日、米科学誌「サイエンス・アドバンシーズ」に掲載された。研究には米国が冷戦時代に衛星を使って撮影し、最近、機密解除された写真が使用されている。
 
研究の結果、気候変動の影響でヒマラヤ山脈の氷河が解け、南アジア一帯に住む数億人のための水の供給を脅かしている最新の兆候が明らかになった。
 
同研究論文の筆頭著者で、米コロンビア大学博士候補生のジョシュア・マウアー氏は、「これはヒマラヤの氷河がこの期間のうちにどれほど速く融解しているのか、そしてなぜそれが起きているのかをこれまでで最も明確に示す研究だ」と述べた。
 
研究者らは、インド、中国、ネパール、ブータンにまたがる全長約2000キロに及ぶ地域を40年にわたって撮影した衛星写真を精査し、2000年以降、毎年45センチ相当のヒマラヤ山脈の氷河が消滅していることを発見した。2000年以降に融解した氷河の量は、1975年から2000年の間に融解した量の2倍に達している。
 
研究は、氷河融解の最大の要因は気温の上昇だと結論付けている。気温は地域によって異なるが、2000年から2016年の平均気温は、1975年から2000年の平均気温と比較して1度上昇している。
 
研究者らはその他の要因として降雨量の変化を挙げ、雨の減少が氷量の減少につながっていると指摘。また化石燃料の燃焼から生じる煤煙が雪で覆われた氷河の表面にかぶさり、太陽光を吸収して融解を促進していることも一因だと説明した。 【6月20日 AFP】
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“冷戦時代に衛星”とありますが、もっとはっきり言えばアメリカの「スパイ衛星」KH-9ヘキサゴンが、1973年から1980年にかけてこの地域を撮影した画像が機密解除されて分析できるようになった成果です。
スパイ衛星も、思わぬところで役立っています。

ジョシュア・マウアー氏によれば、過去40年間でヒマラヤから4分の1もの氷が失われたとのこと。

“平均気温が1℃上昇”ということで、わずかな変化のように思えますが、最終氷期の最中でさえ、年間平均気温は現在よりわずかに3℃低かっただけだそうですから、その影響は甚大です。【6月21日 NATIONAL GEOGRAPHYより】

ヒマラヤの氷や雪は、インダス川、長江、ガンジス川、ブラマプトラ川といった大河の水源となっており、南アジア一帯に住む数億人の生活を支えています。

氷河融解の加速によって洪水の発生、また、氷河湖が決壊して壊滅的な洪水を招く危険性も増しています。すでにネパールでは被害も出ています。

長期的には大河の水源が失われて、水不足を招きます。
“今のところは、暖かい季節に雪解け水が増えている。だが、氷河が消失するにつれて、雪解け水は数十年以内に次第に減ってゆくと予測される。”【6月21日 NATIONAL GEOGRAPHY】

この水不足は人間の生活・経済活動にとって致命的で、現在の石油をめぐる争い以上に深刻な国家間の対立・紛争を生むものと推察されます。(現在でも国際河川の水利用をめぐっては東南アジアでも南アジアでも深刻な対立がありますが、数十年後はその危機は現在の比ではなくなることが懸念されます)

「アジアは、極端な熱波とヒマラヤからの水の不足という、未曾有の災害に直面しているのです」(シェーファー氏)【同上】

話が少し横にそれますが、熱波が出てきたところで、インドの熱波の件。先日、ひとつの列車内の暑さで4人が死亡したという話題も取り上げましたが、半端ない暑さと水不足に襲われているようです。

“酷暑続くインド、北東部の州では1日だけで49人死亡”【6月16日 AFP】
“インド 最高気温45度超 厳しい熱波で200人超が死亡”【6月18日 NHK】
“インドの水危機が深刻化、抗議デモで500人以上逮捕”【6月21日 CNN】

話を戻して、次は北極。

****北極で記録的高温、進む氷の融解 1日37億トンの消失も****
北極圏のデンマーク領グリーンランドでは既に観測史上最高気温が記録されているが、2019年は北極にとって再び「ひどい年」となる可能性があると、科学者らは指摘している。グリーンランドの巨大な氷床の融解が進行すると、いつの日か世界の沿岸地域が水没する恐れがあるという。
 
デンマーク気象研究所の気候学者、ルース・モットラム氏は「2012年に記録された北極の海氷面積の史上最小値(中略)とグリーンランドの氷床融解量の史上最大値の両方が、更新される可能性がある」と警告した。「今年は気象状態に非常に左右されている」

DMIの科学者ステファン・オールセン氏は13日、グリーンランド北西部で通常より早く氷が解けて、犬が明るい青空の下、雪のない山々を背に水の上を歩いているように見える印象的な様子を撮影した。この写真はネットで拡散した。
 
オールセン氏は係留型の海洋気象ブイと気象観測所の調査中で、写真は自身が乗るそりを引く犬たちがフィヨルドの海氷が解け、数センチ水がたまっている中を進む様子を捉えていた。(中略)

モットラム氏によると、オールセン氏の調査旅行に同行した地元の人は「海氷がこれほど早く解け始めるとは予想していなかった。通常は氷が非常に厚いのでこのルートを通るが、海氷の上にたまった水がだんだんと深くなり前に進めなくなったため、引き返さざるを得なかった」と話していたという。
 
この写真が撮影された日の前日12日に、カーナークにある最も近い気象観測所が気温17.3度を記録した。これは2012年6月30日に観測された史上最高気温をわずか0.3度下回っていただけだった。

「冬に降雪が少なかった上、最近は暖気と晴天、日照(がある)。これらはすべて、氷がいつもより早く溶けるための前提条件といえる」と、モットラム氏は説明した。

■狩猟やホッキョクグマにも影響
(中略)

■1日で37億トンの氷を消失
(中略)デンマークの気象学者らは、氷の融解時期が通常よりほぼ1か月早い5月初めに始まったと発表している。
 
氷の融解が5月上旬よりも前に始まったのは、データの記録が開始された1980年以降で2016年の1回だけだ。
 
グリーンランドの氷の融解は、年間約0.7ミリの海面上昇の原因となっている。融解が現在の水準で続くとこの値はさらに増加する可能性がある。
 
また、グリーンランドの氷河の融解による海面上昇は、1972年以降で13.7ミリに達している。 【6月20日 AFP】
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次の記事もグリーンランドに関するもので、より長期的な話題。

****グリーンランドの氷、1000年後には完全融解? より正確な新モデルで予測****
温室効果ガスの排出が現在のペースで続けば、北極圏のデンマーク領グリーンランドの氷床は1000年後には完全に解けてなくなってしまうと示唆する研究結果が、米科学誌サイエンス・アドバンシズに発表された。
 
グリーンランドの氷床には、完全に融解すると世界の海面を7メートル上昇させるほどの氷が存在するとされる。(中略)

この最新モデルによると、現在のペースでグリーンランドの氷床が融解すれば、今後200年のうちに世界の海面は48〜160センチ上昇し、従来予測よりも80%高くなる可能性があるという。 【6月20日 AFP】
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数十年後が危惧されている状況では“1000年後”の話はあまり現実味もないので、大幅に省略しました。(人類が生き残っているかさえ定かではありませんから)
最後の部分で、200年後に海面上昇が48〜160センチの可能性ということは、より現実的な話として100年後は100センチ内外といったところでしょうか。

【温暖化対策を後退させるトランプ大統領】
この種の話は枚挙にいとまがありませんが、世界の将来に大きな影響力を持つアメリカ・トランプ政権の対応は相変わらずのようです。

****米、CO2規制を大幅緩和 温暖化対策後退、批判も****
トランプ米政権は19日、発電部門の温室効果ガス排出を削減するためにオバマ前政権が定めた厳しい規制に代わり、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電を存続しやすくするなど大幅に規制緩和する政策を最終決定した。米メディアによると30日以内に導入される予定で、温暖化対策の後退と批判の声が出ている。
 
トランプ政権は地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明するなど温暖化対策に消極的で、化石燃料産業の優遇姿勢が改めて鮮明になった。【6月20日 共同】
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トランプ大統領のこうした姿勢は、オバマ前大統領のレガシーをひっくり返したいという衝動と、石炭産業労働者の支持票目当てという側面がありますが、現実にはトランプ政権下でも経済的優位性を失った石炭火力発電は全く増加していません。

****米国の石炭火力発電所、トランプ政権下で50か所閉鎖 新設わずか1か所****
2017年1月にドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任して以降、米国内で50か所の石炭火力発電所が閉鎖されていたことが分かったと、環境保護団体シエラクラブが9日、明らかにした。

シエラクラブによると、閉鎖の発表があった51か所のうち50か所の閉鎖が確認できたという。
 
米国では2010年以降、国内の石炭火力発電の容量の4割に当たる289か所の発電所が閉鎖されており、現在も稼働しているのは241か所。トランプ政権下で新たに開設された石炭火力発電所は最近アラスカ州で操業を開始した1か所のみだという。
 
また10年ほど前から水圧破砕法(フラッキング)による天然ガスの採掘が広く行われるようになって以降、石炭は掘削コストの面で不利になってきており、天然ガスが石炭に代わって急成長を続けている。
 
米国のエネルギー発電比率では、2015年には35%を占めていた石炭発電は今年夏までに25%に落ち込む見通し。一方、米エネルギー情報局によると天然ガスは電力供給の40%を占めるという。
 
エネルギーに関する公式統計によると、米国の石炭生産量はピーク時の2008年から3分の1減少しており、炭鉱は2008年から半数以上が閉鎖している。 【5月10日 AFP】AFPBB News
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トランプ大統領の石炭火力発電重視政策は、環境問題への理解だけでなく、経済合理性も欠いているように思われます。

【爆弾サイクロンで、トランプ支持農家でも高まる気候変動への関心
トランプ大統領がこのまま温暖化・気候変動に背を向け続けていられるかと言えば、必ずしもそうも言いきれない事態がアメリカで(トランプ支持層の間で)で進行しているとの指摘があります。

****爆弾サイクロンで農作物が壊滅被害  「トランプ支持」やめる農家も****
「気候変動」が新たな争点に
アメリカのトランプ大統領が、来年11月に行われる大統領選で再選を目指す考えを正式に表明した。新たなスローガンは「Keep America Great(アメリカを偉大なままに)」。今後、選挙戦を本格化させ、自身が掲げた公約実現を強硬に進めるものとみられる。

前回の選挙戦では、メキシコ国境の壁建設などの過激発言で旋風を巻き起こし、劇的な勝利を遂げたトランプ大統領だが、次の選挙の争点は何なのか。

4月下旬にNBCニュースとウォールストリートジャーナルが実施した世論調査によると、移民政策、雇用創出に続く形で注目されるのが気候変動問題だ。日本でニュースになる貿易問題への関心は2%に過ぎない。

■政府が優先的に取り組むべき課題は?(NBC&ウォールストリートジャーナルによる調査)
ヘルスケア 24%
移民 18%
雇用創出 14%
安全保障 11%
気候変動 11%
国家債務・歳出 11%
銃規制 5%
貿易協定 2%

日本ではあまり争点化しない気候変動問題だが、アメリカでは共和党と民主党で大きくスタンスが異なり政治イシューになる。

トランプ大統領は、パリ協定脱退表明以降も、オバマ政権の環境規制を次々と後退させ、環境問題に背を向けている。そのため「気候変動は信じない」と公言する有権者も多い。

一方、民主党側は包括的な環境対策「グリーン・ニュー・ディール」を打ち出すなど、選挙戦の新たな対立軸として積極的に取り組みをアピールしている。

「爆弾サイクロン」の襲撃
実は、この問題で、トランプ大統領の支持基盤を揺るがす新たな事態が起きている。
今年3月、「爆弾サイクロン」と言われる歴史的な暴風雨が中西部ネブラスカ州などを襲った。ミズーリ川が氾濫し、発生から3カ月が経つ今も一帯の大豆、コーン畑は浸水状態となっている。中西部の農家といえば、共和党の伝統的な支持基盤だ。その農家が壊滅的な打撃を受けている。

この洪水被害は、気候変動の影響と指摘されている。ネブラスカ大学で気候変動を研究するマーサ・シュルスキー准教授によると、一帯では、気候変動により、近年冬がより寒く、春に雨量が多い傾向で、大量の雪解け水が発生するようになった。3月には、爆弾サイクロンによって川に大量の氷が押し寄せ、ダムが決壊するという異常事態も発生した。

シュルスキー氏は「このような傾向は今後強まると予測される。気象条件だけをみれば、洪水の可能性はさらに高まる」と警鐘を鳴らす。

トランプの「無策」を批判する農家も
こうした状況を受け、被害にあった農家が気候変動へ関心を寄せ始めているのだ。

ネブラスカ州北部で6代続く農家を営むアンソニー・ルジスカさんの土地には、洪水によって大量の氷の塊が押し寄せ、自宅や畑が壊滅的被害を受けた。古い時代に建てられた屋敷や手作業で作った小屋、飼っていた牛や豚300頭も失った。アンソニーさんは「政治のことは詳しくわからない」と言葉を濁す一方、「気候変動は起きている。振れ幅がひどくなっていて、時に非常に暴力的だ」と語る。

(中略)周辺には、前回の選挙でトランプ大統領に投票したものの、貿易戦争と大雨でトランプ支持をやめると話す農家も多いという。

(中略)次の選挙戦で気候変動が大きな焦点になることは確実だ。トランプ大統領の支持基盤を揺るがす地殻変動につながるのか、注目が集まる。【6月20日 FNN】
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