碧空
2007年12月1日までの記事は「孤帆の遠影碧空に尽き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze )にアップしています。
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フランス  極右忖度・依存の少数内閣 短命は必至の状況

(フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。写真は演説するルタイヨー内相。パリで23日撮影【925日 ロイター】)

 

【「極右・国民連合の監視下」にある少数政権】

今朝TVを観ていたら、フランスメディアのニュースで、閣僚のひとりが首相(?)から叱責されたというものがありました。その閣僚は、多くの右派勢力とは協議していくが、極右は排除する・・・みたいな主旨の発言したことが叱責の理由。

 

これに対し、極右・国民連合(RN)を実質的に率いるルペン氏は、「閣僚の中には、内閣の方針を理解していない者がいるようで・・・」と余裕のコメント。

 

現在の極右の意向を忖度せざるを得ない少数与党政権と極右勢力の力関係を反映したものとして印象的でした。

 

フランスでは「マクロンの賭け」と評された総選挙の結果、98日ブログ“フランス 新首相決定も、少数与党 左派「選挙が盗まれた」 極右「新首相は自勢力の監視下にある」”でも取り上げたように極左が中心の左派、マクロン大統領与党の中道、ルペン氏率いる極右の三すくみ状態となり、マクロン大統領は左派の切り崩しに失敗、中道右派の共和党と連立してバルニエ首相の少数内閣が発足しました。

 

バルニエ新政権は右派支持層、極右勢力・国民連合を意識しながらの少数政権です。

 

****フランス新内閣発足 移民強硬派を内相に マクロン大統領、少数内閣で不安な再出発****

フランスで21日、バルニエ首相(73)が率いる新内閣が発足した。マクロン大統領を支える中道与党連合に、これまで野党だった中道右派「共和党」が加わる「相乗り内閣」になった。内相には、移民受け入れ削減を求める共和党強硬派が起用され、右派色の強い陣容となった。

 

フランスは67月の下院選で与党連合が第2勢力に転落し、政治空白が続いていた。マクロン氏は、共和党のバルニエ元外相を今月5日に首相に任命。21日に閣僚名簿を発表した。

 

新内閣は、下院で過半数の議席を持たない少数政権で、外相には与党連合からジャンノエル・バロ欧州担当相(41)が就任した。経済・財務相はアントワヌ・アルマン下院経済委員会委員長(33)。国防相はセバスチャン・ルコルニュ氏(38)が留任した。

 

内相となったブリュノ・ルタイヨー氏(63)は共和党の上院議員団長。欧州連合(EU)のルールに縛られず、フランスが独自に移民対策を強化するよう主張してきた。共和党からは農相も入閣した。

 

新内閣は来年の予算編成が喫緊の課題。バルニエ氏は101日、下院で施政方針演説を行う。下院第一勢力の左派連合は、不信任案提出の構えを見せる。

 

新内閣は極右野党「国民連合」の動向に配慮せざるを得ず、マクロン氏は政策実行の手足を大きく縛られた。EUの大国フランスの政治不安は、欧州経済やウクライナ支援にも陰を落とす。

 

下院選は左派連合、与党連合、国民連合の三つどもえの結果となり、いずれも議席の過半数に達しなかった。アタル前首相は7月に辞任し、パリ五輪は暫定内閣で乗り切った。

 

マクロン氏は左派連合が擁立した首相候補を退け、下院第4勢力の共和党との相乗りで、公約だった債務削減を進める姿勢を示した。【922日 産経

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選挙で第1位の勢力を獲得したにもかかわらず政権から排除された左派は新政権への対決姿勢を強めています。

 

一方の極右勢力は左派の倒閣には同調せず、しばらくは静観の構え。その裏には「バルニエ氏はRN(極右国民連合)の監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」という自信があります。

 

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****

フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

 

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

 

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。

 

バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

 

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【98日 時事】 

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こうした新政権の極右依存傾向を社会党・オランド前大統領は批判。

 

****新内閣は「極右に依存」=前大統領、不信任に賛成****

7月のフランス総選挙で下院議員に返り咲いた左派・社会党のオランド前大統領(70)は9日、バルニエ新首相が樹立する内閣は「存続を極右の善意に頼る」ことになると批判し、下院に不信任案が提出されれば賛成すると表明した。公共ラジオのフランス・アンテルで語った。【99日 時事】 

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一方、極右のマリーヌ・ルペン氏は新政権への圧力を強めています。

 

****極右RNルペン氏、国民投票実施で政局打開を マクロン氏に呼掛け****

フランスの極右政党「国民連合(RN)」を実質的に率いるマリーヌ・ルペ)氏は8日、エマニュエル・マクロン大統領に対し、移民など重要問題をめぐり国民投票を実施するよう呼び掛けた。直接投票で民意を反映させることで、不安定化している政局の行き詰まりを打開できる可能性があると示唆した。

 

ルペン氏は、極右の拠点である北部エナンボーモンで演説し、マクロン氏に対し、移民、医療、安全保障などの重要な問題について国民投票を実施するよう要請。RNとしては、「国民に直接決定権を付与するためのあらゆるアプローチを無条件で支持する」と述べた。【99日 AFP

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【極右忖度で移民規制強化方針 国外命令を受けていたモロッコ人によるレイプ事件で更に規制は強化か】

新政権は極右への配慮もあって、移民規制強化の方針を示しています。

 

****フランス新内相、移民規制強化の方針示す 極右政党に配慮示唆****

フランスのルタイヨー新内相は一連のメディアインタビューで、社会の広範な右傾化の流れを踏まえ、移民規制や治安対策を強化する考えを表明した。議会運営の鍵を握るとみられる極右政党「国民連合(RN)」への配慮をにじませた。

ルタイヨー氏は中道右派・共和党の重鎮でかねてより移民受け入れに消極的な立場を示してきた。仏紙フィガロに対し、数週間内に新たな移民対策を打ち出す考えを示し、「立法措置の強化をためらってはならない」と述べた。

「不法入国に歯止めをかけ、特に不法滞在者の出国を増やすことを目指している」とした。

また、24日はニュース専門局「Cニュース」のインタビューで、RNの幹部らの発言に同調し、フランスと欧州の同志国が協力して欧州連合(EU)に移民対策関連法の強化を促すべきだと述べた。

仏テレビTF1のインタビューでは、北アフリカの諸国がフランス滞在の許可なく同国に向かう市民の出国阻止を強化するよう交渉すると確約。法違反者の厳罰化を望むとも述べた。

「イスラム教礼拝所を閉鎖したり、憎悪の説教師を(国外に)追放するのに、私の手が震えることはないだろう」とフィガロに語った。【925日 ロイター

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こうした状況のなかで、過去にレイプで有罪となり国外退去命令を受けていたモロッコ人男性が再び19歳女子学生をレイプ殺害するというショッキングな事件が。

 

****フランスで外国人による女子学生レイプ殺人事件 内相「国民守る」と明言****

仏パリで19歳の女子学生がレイプ・殺害され、遺体を公園に遺棄された事件で、容疑者のモロッコ人の男がスイスで逮捕されたのを受け、保守派のブルーノ・ルタイヨー内相は25日、「フランス国民を守る」ために新しい規則を導入すると明言した。

 

消息筋によると、容疑者は22歳のモロッコ人の男で、検察によれば、過去にレイプの罪で有罪となり、国外退去命令を受けていた。

 

フランスでは今週発足した右派政権が移民の取り締まりを計画しており、この事件によって政治的緊張がさらに高まる見通し。

 

ルタイヨー氏は「忌まわしい犯罪だ」「フランス国民を守るための法整備を行う必要がある」「規則を変える必要があるなら、変えよう」と述べた。

 

ルタイヨー氏は先に、法と秩序の強化、移民法の厳格化、有罪判決を受けた外国人の強制送還の容易化を約束している。

 

検察によると、容疑者の男は未成年だった2019年に犯したレイプの罪で、2021年に有罪判決を受けた。 服役後、今年6月に釈放され、入管施設に収容された。  裁判官は9月、定期的に当局に出頭することを条件に、男を仮放免した。

 

AFPが確認した判決の写しによると、仮放免の決定は、男が難民認定申請を行わず、出国命令に異議を唱えなかったという事実に基づいていた。 また、入管施設でも、威嚇的態度は示していなかった。

 

だが、学生をレイプして殺害する直前、仮放免の条件に違反したため手配されていた。

 

この事件を受けてフランスでは怒りの声が巻き起こり、極右だけでなく左派の政治家らも厳しい措置を取るよう求めている。

 

極右政党「国民連合」のジョルダン・バルデラ党首はX(旧ツイッター)に「女子学生の命は、出国命令を受けていたモロッコ人によって奪われた」「わが国の司法制度は緩く、国家は機能不全に陥っている。わが国の指導部は国民を人間爆弾と共生させている」と投稿。 「政府が行動する時が来た。率直に言って、フランス国民は怒っている」と訴えた。

 

左派・社会党のフランソワ・オランド前大統領も、出国命令は「速やかに」執行されなければならないと指摘した。

 

フランスは定期的に出国命令を出しているが、執行されているのは7%にすぎず、欧州連合全体の30%よりも低い。 【926日 AFP

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これで新政権の移民規制は更に強化の方向に向かうでしょう。

政局的には、国民の反移民感情が刺激され、その受け皿としての極右・国民連合の存在感が更に強まり、政権への影響力も強まることが想像されます。

 

【短命は必至 来年また総選挙か】

いずれにしても、左派提出の不信任案に極右が賛同すれば、いつでも内閣は倒れる、また、極右勢力の賛同なしには重要法案が通せない・・・という状況では、短命に終わるのは避けられないでしょう。

 

再び解散・総選挙となれば、現在の左派との対立状況から、前回のような決選投票での左派・中道の候補者調整で極右当選を阻むという戦略も使えず、極右の更なる伸張が予想されます。

 

****フランス新政権の短い命と極右次第の解散総選挙 法案審議のたびに不信任投票にさらされる必然****

(中略)

内相は「移民への強硬姿勢」という配慮

(中略)

内相には移民に対する強硬姿勢で知られる共和党のルタイヨー氏が就き、これには大統領支持会派から反発の声も聞かれた。

 

議会の過半数を確保していないバルニエ内閣が存続するためには、政権奪取の機会を奪われた極右政党・国民連合(RN)が左派会派の提出する内閣不信任案に賛成しないことが必要となる。ルタイヨー氏の内相就任は、移民規制の強化を訴える極右勢力に配慮した側面が大きい。

 

政権発足の機会を奪われた形の左派会派は、バルニエ政権を極右に支えられた正統性を欠く政権であるとして対決色を強めている。

 

921日には早速、フランス各地で左派が主導する大規模な抗議デモが行われた。政権発足に先駆けて、左派会派に加わる極左政党は、マクロン大統領の弾劾手続きを開始した。

 

弾劾には上下両院で3分の2以上の賛成が必要で、こうした試みが成功する可能性は低い。ただ、左派会派は101日に予定される夏季休暇明けの国民議会でバルニエ政権に対する内閣不信任案を提出することを示唆している。

 

左派会派と極右勢力の合計議席は335議席と議会の過半数(289議席)を上回り、両勢力がお互いの内閣不信任案に賛成票を投じれば、政権打倒がいつでも可能な状況にある。

 

解散総選挙は1年に1回、「いつやるか」

憲法の取り決めにより、国民議会の解散・総選挙は1年に1回しかできない。現時点で政権を倒しても、マクロン大統領がバルニエ氏に代わる新たな首相を任命するだけに終わるうえ、政局混乱を招いたと批判されかねない。

 

極右勢力はひとまず政権発足を容認する構えだが、マクロン大統領にとって最も政治的な打撃が大きいタイミングを見計らっているのだろう。

 

議会の過半数を握っていないバルニエ政権は難しい議会運営を迫られる。与党が提出する法案の多くに、左派連合や極右勢力が反対票を投じることが予想され、通常の立法手続きで法案を成立させるのは困難を極める。

 

2022年の国民議会選挙で議会の過半数を失った大統領支持会派と同様に、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法493項)を使って法案を通そうとするだろう。

 

議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。

 

つまり、今後の法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされることになる。

 

極右勢力が無条件でバルニエ政権の存続を支持することはない。極右が新政権に突きつける条件のうち、今後の政局展開にとって重要となるのが選挙制度改正だ。

 

国民議会選挙は任期前解散の場合を除き、5年ごとの大統領選挙の直後に行われ、577の選挙区で、2回投票制の小選挙区制で争われる。初回投票で過半数の支持を集めた候補が勝利し、過半数の支持を得た候補がいない場合、上位2名と有権者の12.5%以上の票を獲得した候補が決選投票に進み、決選投票で最多票を獲得した候補が勝利する。

 

「選挙制度の壁」を崩したい極右

極右勢力はこれまで選挙制度に阻まれることが多かった。今回の国民議会選挙でも、極右勢力は初回投票で圧倒的にリードしたが、決選投票では左派会派と大統領支持会派が候補者を一本化したことで、多くの議席を落とした。

 

選挙制度と反極右票の一本化に阻まれて第三勢力に転落した極右勢力だが、決選投票での得票率は37.1%と、左派会派の25.8%、大統領支持会派の24.5%を上回っている。

 

極右の主張通り、比例代表の要素を盛り込んだ選挙制度改正が実現した場合、次の選挙で極右の政権奪取を阻止するのは従来以上に難しくなる。

 

むろん、今回の左派会派のように、極右が次の選挙で第一党になったからと言って、単独で過半数の議席を確保しない限り、極右勢力から首相を任命する必要はない。

 

だが、極右勢力に今以上に多くの議席が配分されれば、単独過半数が難しいにしても、左派会派と大統領支持会派が手を組む以外になくなる。

 

左派会派が政権入りした場合、極右政権誕生時よりも拡張的な財政運営となる恐れがあり、こちらも金融市場の動揺を誘うことになろう。

 

また、極右が主張する選挙制度改正が実現しない場合も、次の選挙で極右の台頭を阻止できるかは予断を許さない。最大勢力となりながら政権発足の機会を与えられなかった左派連合が、次回も大統領支持会派との選挙協力に応じるとは限らないためだ。

 

このように、新たにフランスの舵取りを託されたバルニエ首相はどうにか政権発足にこぎつけたが、議会運営は困難を極め、極右勢力に政権の命運を握られている。

 

危うい予算成立、確実な来年の解散総選挙

101日に再開される国民議会では、法案審議のたびに内閣不信任案にさらされる異例の事態が待ち受ける。政権発足の遅れで議会の審議日程もタイトとなり、脆弱な議会基盤とあいまって、年内の予算成立を危ぶむ声も浮上している。

 

政治空白の長期化で財政再建の遅れが意識され、金融市場に再び動揺が広がる事態は回避されたが、不安定な政治環境が続くことは避けられない。短命政権に終わり、来年にも議会の解散・総選挙が行われるのはほぼ確実とみられる。

 

今回の政権がマクロン大統領による院政と受け止められれば、行き場を失った反マクロン票が極右勢力や左派連合にさらに流れる恐れもある。史上最大の選挙イヤーを通過した来年もフランスの政局不安が払拭されることはないだろう。【925日 田中理氏 第一生命経済研究所

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法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされる、左派と極右が連動すれば不信任案が成立する・・・・これでは少数内閣はもたないでしょう。いずれ極右・レペン氏は“攻め時”と判断した時点で政権を見限り総選挙に誘い込むでしょう。

 

もう1回選挙をやれば、極右政権への道が開けるのか、現在のような三すくみ状態が続くのか・・・・???

 

フィリピン・ミンダナオ島  イスラム教徒の多い地域で自治政府樹立に向けて来年5月に議会選挙

(バンサモロ自治地域【ウィキペディア】)

 

【ミンダナオ島のバンサモロ自治政府樹立への動き】

フィリピンに関しては、南シナ海で続く中国との緊張が注目されていますが、その件はまた別機会に。

フィリピンの内政問題に目を転じると、南部ミンダナオ島に多いイスラム教徒の分離独立運動が長年フィリピンの問題としてあり、歴代政権が対応に苦慮してきました。

 

モロ・イスラム解放戦線(MILFなどの武装勢力との軍事的衝突も続きましたが和平合意になんとか漕ぎつけ、紆余曲折はあったものの、自治政府樹立へと動いています。

 

****バンサモロ自治地域*****

イスラムミンダナオ・バンサモロ自治地域(BARMM)は、フィリピンのミンダナオ島西部からスールー諸島にかけて広がるムスリム(イスラム教徒)の多い地域である「バンサモロ」に2019に成立した自治地域。

 

1990に成立したイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)に代えて、「バンサモロ自治地域」を作るという提案は、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線の間で2012に調印された和平合意準備である、バンサモロ枠組み合意に基づくものであった。

 

この地方は、フィリピンの地方の中では唯一、独自の「政府」を持つ。またキリスト教国のフィリピンの中では独特の歴史・文化を持っているが、経済的には最も貧しく、治安も安定していない。バンサモロに相当する地域の人口は、2015年国勢調査で約378万人。(中略)6州とコタバト州の一部から構成される。(中略)

 

第二次世界大戦前のミンダナオ島

フィリピンの歴史において、ミンダナオ島、特に西部地区は他の地域とは異なった国家を長年にわたり構えており、独自の文化とアイデンティティを育んできた。(中略)

 

アメリカ植民地政府やフィリピン・コモンウェルスの下で、ミンダナオ島全体にルソン島やビサヤ諸島のキリスト教徒が入植し、ムスリムはミンダナオでも少数派となっていった。

 

イスラム教徒と政府の衝突、ARMMの創立

第二次世界大戦後フィリピンが独立すると、フィリピン政府は国民を統合し単一国家を作ることを目指したが、慣習的なムスリム法のもとで暮らしてきたこの地のモロ人たちはこれを同化政策と見て反発した。(中略)

 

1970年代からはフィリピンからの分離独立を求めるモロ民族解放戦線(MNLF)とフィリピン国軍との間の武力衝突が続発した。

 

1986のエドゥサ革命で、ミンダナオへのキリスト教徒の移民を推進しMNLFとの内戦を行ったマルコス政権が倒れた後、フィリピン政府はムスリム共同体との話し合いやMNLFとの和平協議を進め、1989に「自治基本法」が成立しミンダナオにムスリム自治区を設ける憲法上の根拠ができた。

 

政治的対立や混乱の中、ミンダナオ島西部・南部一帯の州と市で、新設される「イスラム教徒ミンダナオ自治地域」(ARMM)への加入に賛成するかどうかの住民投票が行われた。(中略)

 

しかしARMMへの加入に賛成多数だったのはラナオ・デル・スル州、マギンダナオ州、スールー州、タウィタウィ州の4州だけであった。不完全な自治にすぎないというMNLFによる反発の中、ARMMはこの4州だけで1990116に発足した。式典は自治地域の首都とされたコタバト市で行われた。

 

フィデル・ラモス大統領のフィリピン政府と、ヌル・ミスアリ率いるモロ民族解放戦線(MNLF)の間では、19977月に和平協定が成立し、和平工程が開始された。

 

和平に反対するモロ・イスラム解放戦線(MILF)の勢力の増大、2000のジョセフ・エストラーダ大統領による和平協定破棄、フィリピン国軍とMILFの武力衝突など、和平に逆行する動きが続いた。

 

2001年、以前の住民投票でARMM入りを否決した州や市へARMMを拡大するための新法が成立したが、マラウィ市とバシラン州(イサベラ市を除く)だけがARMM入りを希望した。

 

イスラム教徒との和平プロセスと、バンサモロ自治地域の創立

(中略)

2014327日、政府側のアキノ大統領とMILFのムラド議長に加え、仲介役を務めたマレーシア首相ナジブ・ラザクなどの立会いの下、マラカニアンでバンサモロ包括合意が調印された。この中で、バンサモロの法的地位を定めるバンサモロ基本法の制定などが目指されている(中略)

 

バンサモロの成立

2018726、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「バンサモロ基本法」に調印、2019121ARMM住民に対してバンサモロ基本法の成立を問う住民投票が行われ(中略)、投票の結果、バンサモロ自治地域を成立させるバンサモロ基本法は批准され、同時にコタバト州の西部の町村に属する63のバランガイがコタバト州に属したままバンサモロ自治地域に編入されることが決まった。

 

222にはバンサモロ暫定自治政府(バンサモロ暫定移行機関)が発足、226日にイスラム教徒ミンダナオ自治地域はバンサモロ自治地域へと移行した。【ウィキペディア】

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まっすぐに事態が進んできた訳でなく、多くの反発、逆行する動き、中断などもありましたが、そのあたりの話は煩雑になるので省略しました。

 

上記の動きについては、このブログでも断片的に取り上げてきましたが、バンサモロ基本法の成立を問う住民投票の頃については、2019122日ブログ“フィリピン・ミンダナオ島 イスラム自治政府発足に向けた住民投票 重要な課題も”などでも取り上げたところです。

 

対応にあたったドゥテルテ大統領はミンダナオ島出身で、イスラム教徒住民の事情、合意の必要性を熟知していることもあって、ドゥテルテ大統領主導で自治政府樹立の実現に向けて前進しました。このあたりはこれまでのルソン島出身大統領とは違います。

 

【来年5月の議会選挙で議院内閣制の自治政府を樹立】

暫定とはいえ、自治政府の誕生は、長年にわたり紛争の絶えなかった同地域の和平の実現の大きな一歩となります。

正式なバンサモロ政府は、2022年の選挙を経て樹立されるとされていました。

 

当初は2022年ということでしたが、選挙に関する経緯は把握していませんが、議院内閣制の自治政府を樹立する議会選挙は来年5に行われることになっています。

 

長年政府と武装闘争を展開し、和平合意に向けても主導的な役割を果たしたモロ・イスラム解放戦線(MILFは、選挙を通じて自治政府の実権を握ることを当然としてしてきましたが、選挙情勢はそうしたMILFの思いとはやや異なり、劣勢も予想されていす。

 

ただ、ここにきて少し“追い風”も。

 

****イスラム勢力が劣勢挽回も フィリピン最高裁決定、選挙影響****

フィリピン最高裁が11日までに南部ミンダナオ島の和平合意に基づくイスラム自治政府の領域からスールー州を除外すると決めた。

 

議院内閣制の自治政府を樹立する来年5月の議会選挙で、かつて政府軍と戦ったモロ・イスラム解放戦線(MILF)の政党は苦戦が予想されていたが、ライバル弱体化で追い風を受けそうだ。

 

選挙に参加する政党のうち優勢とみられていたのは、各地の有力な氏族が集まりスールー州のタン知事を首相候補に推す「大連合」。最高裁決定により、大連合は同州の票田を失い、タン氏も出馬できなくなった。「政治的な決定」との見方も出ている。

 

マルコス大統領は和平プロセスが順調に進んでいると強調してきた。だがMILFは最終段階の武装解除に応じておらず、選挙で大敗すれば治安悪化を招く恐れがある。

 

自治・統治研究所のバカニ所長は「大連合は過半数を取る可能性が高かった」が、同州除外で「選挙戦は互角になった」と分析。「大統領が(和平の)成功を宣言しており、波風を立ててはいけないが政府の立場だ」と解説する。【911日 共同

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イスラム自治政府の領域からスールー州を除外するという最高裁判断は今後に大きな問題を生じさせる可能性があります。

 

****「スールーを除外」 BARMMから、最高裁が判断****

最高裁がスールー州をMARMMから除外する決定を下す。関係者からはバンサモロ分断の懸念も

 

最高裁は9日、2019年のバンサモロ基本法(BOL)承認の可否を問う住民投票を経て発足したバンサモロイスラム自治地域(BARMM)から、スールー州を除外する決定を下した。同決定は直ちに法的効力を持つ。

 

スールー州は19年のBARMMへの参加に関する住民投票で反対票が上回っていたが、同州が属していた旧ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)全体として賛成多数だったためBARMMの構成州に編入されていた。

 

判断文を書いたのは、2012年の政府・モロイスラム解放戦線(MILF)の枠組み合意で政府首席交渉官を務めたマービック・レオネン首席陪席裁判官。この判断には関係者からは当惑の声が上がるとともに、来年に自治政府発足に向けた選挙を控えるなかバンサモロの分断につながる懸念も表明されている。

 

最高裁は、スールー州をBARMMから除外する理由を、「ARMMの構成州・市を一つの地理的まとまりとして取り扱えるというBOLの解釈は、憲法1018条の『住民投票に賛成した州、市、および地理区域のみが自治地域に含まれる』という条文に反する」と説明。

 

一方で、BOLとBARMMの設置自体については合憲と判断。「同地域をフィリピンから切り離すものではなく、外交権や主権を与えるものでもない」と指摘し、「より大きな自治権が与えられていることは、中央政府からの分離を意味しない」とした。

 

BOLに対する違憲審査請求は、スールー州のアブドゥサクル・タン知事が「ARMMを廃止するためには改憲が必要だ」などとして2018年に提出していた。

 

BARMM解体の懸念

BARMMのナギブ・シナリンボ前自治大臣は「この判断は、BOLに明示されていない脱退の選択肢を導入したのと同じ。他の州や市がスールー州に続く可能性もある」と懸念を表明。「あらゆる植民地主義に抵抗してきた13のイスラム教民族・言語グループの結束というバンサモロ概念の『死』につながる恐れもある」とした。

 

バシラン州選出のムジフ・ハタマン下院議員は、BOLの合憲判決については歓迎しながら、「バンサモロはスールー州なしでは完成しない。この地域の結束と包摂を促進するわれわれの努力に対する手痛い一撃だ」とした。(後略)【911日 日刊まにら新聞

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イスラム勢力に対抗して「大連合」を率いてきたスールー州のアブドゥサクル・タン知事が自治政府に関してどのような立場なのかは把握していません。

 

【長年政府との闘争、和平合意を主導してきたモロ・イスラム解放戦線(MILFの気になる対応】

一方、モロ・イスラム解放戦線(MILFは選挙前の武装解除に応じていません。

 

****比、和平合意の武装解除拒否 イスラム勢力の元交渉団長****

フィリピン南部ミンダナオ島で、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の交渉団長として政府と和平合意をまとめたモハゲル・イクバル氏(77)が24日、共同通信と単独会見した。

 

議院内閣制の自治政府を樹立する議会選を来年5月に控え、現状では元戦闘員の最終的な武装解除に応じられないと説明。対抗勢力との間で武器を保持したままの選挙戦になると指摘した。

 

政府軍と戦闘を続けてきたMILF2014年、中央政府と包括和平合意を結び、武装解除に同意した。日本政府も和平を仲介してきた。

 

議会選ではMILFの政党は、各地の有力氏族の政治家らが結集した「大連合」に苦戦しそうな情勢だ。【925日 共同

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議会選でMILFの政党が負けた場合、ひと波乱ありそうな雰囲気も。

 

 

イギリス  経済再建の重圧を担う労働党スターマー首相 国民支持は急落

(【76日 FNNプライムオンライン】 諸問題への国民の不満から、政権交代が起きたイギリスですが、政権の座についた労働党スターマー首相に問題改善の重圧がかかっています)

 

【パンク寸前の刑務所 受刑者を早期釈放】

刑務所がパンク状態のため受刑者を早期釈放する・・・といったニュースを目にすれば、犯罪多発の中南米のどこかの話かとも思うのですが、イギリスの話。

 

****英 刑務所パンク寸前で受刑者1700人釈放 増設が間に合わず****

過密状態となっているイギリスの刑務所で受刑者の早期釈放が行われました。

10日、イギリス政府はイングランドとウェールズの刑務所から一部の受刑者を釈放しました。 比較的、刑が軽く刑期の40%を終えた受刑者が対象で、およそ1700人に上るということです。

ロンドン西部にある刑務所前では混乱を避けるため多くの警察官が警戒にあたるなか、出所した受刑者が出迎えの友人らと抱き合う光景がみられました。

出所した受刑者 「5日早く出所した。(刑務所では)更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい」

イギリスでは犯罪の厳罰化に伴って刑期が長期化する一方、刑務所の増設が間に合わず、収容人数が限界に近付いています。

また、7月末から各地で発生した反移民などを訴える暴動で多くの実刑判決が出され、さらに受刑者が増え問題となっています。

イギリス政府は家庭内暴力や性犯罪、4年以上の刑期で服役する受刑者を除き、来月末までにおよそ5500人を釈放する予定です。

地元メディアによりますと、麻薬の密売や強盗などで服役していた受刑者も含まれていて、専門家や市民からは再犯を懸念する声も上がっています。【911日 テレ朝news

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“英国は今月、移民排斥の暴動で数百人が逮捕されたことをきっかけに刑務所の過密状態が危機的水準に達し、スターマー新政権は、容疑者を警察署で留置する期間を延ばす緊急計画「夜明け作戦」を発動させた。

 

ただ、刑務所のパンク状態を抜本的に解決するには、インターネット環境を改善して社会復帰のための教育環境を整える道が必要との指摘も出ている。”【825日 ロイター

 

イギリスの刑務所の多くはビクトリア朝時代に建てられて老朽化している上、予算の制約もあり、デジタル時代に取り残されているとのことですが、通信教育で教育課程を履修した受刑者は、そうでない受刑者よりも再犯の可能性も頻度も低いので、国内の刑務所にブロードバンドインフラを設置して教育環境を整えれば・・・という指摘です。

 

ただ、そうした指摘が目指すところと、冒頭記事の“更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい”という現状の間にはかなりの落差もあるようです。

【救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く NHS(国民保健サービス)の逼迫】

どこの国も、日本もいろんな問題を抱えていますが、イギリスも・・・といったところでしょう。

 

イギリスで特に緊急の課題となっているのが、かつては福祉国家モデルともてはやされた医療保険制度の問題。

 

*****救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く...「揺りかごから墓場まで」福祉国家イギリスに何が起きている?*****

<人員や資金の不足などによりNHS(国民保健サービス)が逼迫。がんを早期発見できたキャサリン妃はまだ幸せとすら言える英国の惨状とは>

 

原則無償で医療サービスにアクセスでき、かつては「揺りかごから墓場まで」の福祉国家モデルともてはやされた英国のNHS(国民保健サービス)が逼迫し、昨年、長い待ち時間が原因で週268人以上のA&E(救急救命センター)の患者が死亡したと推定されている。

 

英国ではコロナ危機で232000人超の死者が出た。世界に先駆けてコロナワクチンの集団接種を展開したものの、ワクチン接種と自然感染を組み合わせた集団免疫(人口の一定割合以上の人が免疫を持つと感染拡大が収まる状態)を目指した代償と後遺症は大きい。

 

昨年3月時点で英国の人口の2.9%に相当する推定190万人がコロナ後遺症を報告した。うち130万人は1年以上、762000人は2年以上症状が続いた。一般的な症状は疲労(患者の72%)、集中困難(51%)、筋肉痛(49%)、息切れ(48%)で、英国の労働力不足に拍車をかける。

 

コロナ対策に医療資源を集中させたため、他の患者は後回しにされ、大量の積み残しが出た。欧州連合(EU)離脱派はEUを離脱すれば「NHSに投入できる資金を増やせる」と唱えたが、EUからの新規看護師はゼロ近くに減少、歯科医師の採用も長期にわたって減り続けている。

 

150万人以上の患者が12時間以上待たされる

英国の王立救急医学会によると、昨年、150万人以上の患者が12時間以上待たされ、そのうち65%が入院待ちの患者だった。「標準死亡率」を使って死者数を推定すると、入院前に812時間の待ち時間を経験した患者72人ごとに1人が死亡している。

 

12時間以上に及んだ待ち時間に関連した超過死亡は14000人近く、死者は週268人以上にのぼったと推定される。英国政府とNHSイングランドは昨年1月から救急救命医療サービス改善のため病院のキャパシティーや医療従事者数を増やして待ち時間を減らす計画に取り組む。

 

しかし病院のベッド稼働率は常に平均94%以上と依然として高いまま。余裕のある稼働率85%を達成するにはさらに11000床以上のベッドが必要だ。今年2月、A&E(緊急治療室 アメリカで言うERの待ち時間を4時間にする目標を達成した患者の割合は56.5%で、昨年1月に比べ1.5ポイントも低下した。

 

入院患者数は1年後に10%増加すると予想されている。しかし最新の数字では退院決定後も入院している患者は1日平均13690人で、昨年1月より275人減っただけだ。王立救急医学会のエイドリアン・ボイル会長はこう言って唇を噛みしめる。

 

「死亡の1つひとつが単なる数字ではない」 「これらの死亡の1つひとつが単なる数字ではなく、愛する人や家族のものであったことを忘れてはならない。もし状況が違っていたら、もしシステムが本来の機能を果たしていたら、もしA&Eでの待ち時間が目標時間よりも長くなかったら...」(ボイル会長)

 

「このような困難で受け入れがたい状況の中で、可能な限り最善の医療を提供しようとする現実に対処しなければならない臨床医を取り巻く環境もひどい。関連死の数字が注目されるのは当然だ。政府の改善計画は効果的でなく、結果も出ていない」(同)

 

「必要なのは困難な状況に陥っているシステムと闘う臨床医と、多額の投資と救急救命医療を蘇生させるコミットメントだ。このようなケアの不平等、本来なら回避できたはずの診療の遅れ、膨大な関連死を放置することはできない」(同)。

 

王立救急医学会は次の勧告を掲げる。

医療・社会ケアシステム内にさらなるキャパシティーを構築する長期計画を実施(2)病院のベッド稼働率が85%を超えないよう有床診療所を増設(3)病院のパフォーマンスを向上させるため各病院の数値を公表(4)インフルエンザ、コロナのワクチンプログラムを改善する。(後略)【42日 木村正人氏 Newsweek

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イギリスでは物価高から22年末に看護師ストライキが行われ、医療体制に更なる重圧ともなりました。

 

****英国民保健サービスの看護師が初のスト、インフレ進行受け****

英国民保健サービス(NHS)の下で働く看護師らでつくる労組の「王立看護協会(RCN)」が15日、インフレが進行する中での待遇改善を求めて全国規模のストライキに突入した。こうしたストは、結成から106年が経過したRCNの歴史で初めて。20日にストが予定されており、既にひっ迫している英国の医療体制に一層重圧が懸かる事態が懸念される。

NHS傘下の病院76カ所で推定10万人の看護師がストを行い、診察予約や手術など7万件の手続きが取り消される恐れがある。

RCNを率いるパット・カレン氏はBBCの取材に応じ「看護業務や患者たち、この社会とNHSにとって悲劇的な1日だ」と語った。ただRCNによると、家計のやりくりに苦しんでいる看護師のためにはストをするしかないという。

 

看護師側は、もう10年にわたって実質所得の目減りに見舞われ、低賃金のため常に人手も足りず、患者のケアが脅かされていると主張し、物価上昇率プラス5%の賃上げを要求している。これは19%の賃上げ率に相当するが、政府は今のところ交渉を拒否。カレン氏は、このままでは来年にかけてストが拡大する局面が想定されると述べた。【20221216日 ロイター

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日本も高齢化に伴い医療保険制度が資金的に行き詰まるのでは・・・という問題を抱えています。

 

政権交代した労働党・スターマー英首相は、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明しています。

 

****英首相、向こう10年で国家医療制度の抜本改革に取り組む方針****

スターマー英首相は12日に行う演説で、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明する。首相官邸が事前に演説内容を公表した。

NHSについては、既に政府が委託した外部報告書で危機的状況にあると指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックや選択的な手術執行の遅れ、労働争議などの問題からなかなか立ち直れないためだ。

保守党の前政権は長時間の診療待ち問題に十分対処できず、NHSの下で働く看護師らの賃上げストを非難していた。

7月の総選挙で大勝したスターマー氏はこの争議解決を最優先事項として掲げているほかに、高齢化が進展する中で医療費が跳ね上がる事態に増税なしで対処するには、場当たり的でないNHSの「大々的な外科手術」が必要だと強調している。

スターマー氏は今回の演説で「働く人々にはこれ以上支出を増やす余裕がないと分かっている」と述べ、NHS改革が必須だと訴える見通し。

また医療ひっ迫は経済に悪影響を及ぼしており、280万人が長期にわたり病気を患っているために経済活動に参加できていないという。

スターマー氏は、NHSのデジタル化や、病院よりも地域社会でのケア重視、病気予防活動の強化などを推進する考えだ。【912日 ロイター

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【緊縮財政で財政の健全化を目指すスターマー首相 国民不満で支持率急落】

刑務所にしてもNHS(国民保健サービス)にしても“カネがない”というのが根底にある問題。

イギリス財政全体が悪化していますが、スターマー英首相は経済成長で収入を増やす一方で、緊縮財政で支出を削減する計画です。

 

****英国、緊縮財政へ 前政権の予算は「4兆円の財源不足」****

英国のリーブス財務相は29日、スナク前政権が編成した2024年度予算に220億ポンド(約43000億円)の財源不足が見つかったと明らかにした。暖房代補助の削減やインフラ計画の中止などの緊縮策を始める。今後の増税の布石との見方が出ている。

 

14年ぶりの政権交代で労働党のスターマー政権が5日に発足した。リーブス氏が財源の裏付けのない歳出などを財務省に洗い出させ、29日の議会演説で結果を示した。

 

保守党のスナク前政権が3月に編成した24年度予算よりも実際の歳出が大きく膨張する見通しだという。「前政権は実態を隠蔽していた」とまくし立てた。

 

例えば、英仏海峡を渡る不法入国者数の予算上の見積もりが過少だったため、対策費用が想定より膨らむ。職員のストライキなどで収益が減る鉄道会社への支援金を十分に計上していなかった。ウクライナに対する軍事支援の準備金も不十分だと訴えた。

 

緊急の歳出削減策として、年金生活者への冬場の暖房代補助を縮小する。所得の低い人に絞る。保守党政権が決めた40の新病院建設を見直すほか、一部の道路や鉄道計画を取りやめる。外部コンサルタントへの委託費など不要不急の歳出の停止を各省庁に求めた。

 

それでも帳尻が合わないため、10月に示す秋季予算案で増税を打ち出すとの観測が広がっている。リーブス氏は「財政ルールを順守するために難しい決断を迫られる」と述べた。

 

労働党は総選挙の公約で所得税、国民保険料、付加価値税、法人税を引き上げないと宣言した。投資収益にかかるキャピタルゲイン課税や相続税、年金課税などが増税の候補になると英メディアは予想している。

 

表明済みの外国人富裕層への税制優遇の廃止や私立学校の授業料に対する付加価値税の課税はすでに使い道が決まっているため、新たな財源が必要になる。

 

英国の政府債務残高は国内総生産(GDP)とほぼ同規模。GDP2倍を超える日本ほど悪くないが、英国としては歴史的な高水準にある。財源の裏付けのない減税表明で市場が混乱した22年のトラス・ショックの教訓もあり、新政権は財政規律を重視する。

 

リーブス氏は歳出の実態について「財務相に就任するまで知らないことがあった」と強調した。

保守党のハント前財務相は「(影の内閣の財務相だった)リーブス氏は財務省の事務次官とでも面会できる立場にあった。必要なことは何でも知ることができたはずだ」と疑問を呈した。

 

選挙戦で触れなかった緊縮策を政権獲得後に急に打ち出したことに批判もある。

 

財務省は29日、公立学校の教員や公的医療の従事者らの賃金を平均5.5%引き上げると発表した。2%まで落ち着いたインフレ率を大幅に上回る賃上げでストライキに終止符を打ちたい考えだ。労働者への分配を優先する新政権の姿勢が鮮明になってきた。【730日 日経

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しかし、緊縮財政というのは基本的に国民からは嫌われる・・・ということで、スターマー首相の支持率は急落したいます。

 

****英労働党大会で財務相が演説 不人気の財政緊縮策を正当化 首相の支持率低下鮮明に****

7月の英総選挙で14年ぶりに政権の座に返り咲いた労働党の年次党大会が22日、中部リバプールで4日間の日程で始まり、リーブス財務相が23日に基調演説を行った。

 

リーブス氏は有権者から反発を浴びている政権の財政緊縮策について「正しい決断をした」と強調。スターマー首相は緊縮財政に加え、支援者からの多額の利益供与で人気が下落しており、党大会を求心力回復の機会としたい考えだ。

 

リーブス氏は演説で、保守党のスナク前政権が組んだ予算に220億ポンド(約41千億円)の財源不足が見つかったと指摘し、事態打開に向け今後の財政政策で「厳しい決断を下す必要がある」と警告した。

 

リーブス氏は729日、年金生活者への冬場の暖房費補助の削減や、保守党政権下で決定された病院や道路、鉄道の建設計画の見直しといった事実上の財政緊縮策を打ち出した。

 

このうち暖房費に関しては約1千万人が補助の対象外になるとみられ、世論は強く反発。党を支える複数の有力労組も今月22日、補助削減の方針を撤回するよう政権に要求した。

 

リーブス氏は演説で、一連の政策は緊縮財政ではないと反論し、新たな産業政策などを通じた雇用の創出で経済を成長軌道に乗せていくと強調した。

 

政権が1030日に公表する予算案では「労働者への増税はしない」と明言した。ただ、専門家の予想では投資収益への課税増や将来的な企業増税、歳出削減が見込まれている。

 

一方、スターマー首相をめぐっては妻のビクトリアさんが労働党上院議員の富豪から高級な衣服を贈られていたことが党の内外で問題視されている。

 

英メディアは富豪からスターマー氏らへの利益供与に関する報道を展開。過去5年間の贈答品は、米歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートのチケットなどを含め計10万ポンド以上相当に上るとされている。

 

こうした寄付や贈与は申告すれば違法でないが、清廉潔白を売り物にしてきたスターマー氏のイメージを傷つけたのは明白だ。中道路線を掲げるスターマー氏に不満を抱く党の左派勢力が一連の問題で対決姿勢を強める事態も予想される。

 

英調査会社オピニウムが今月20日に発表した世論調査ではスターマー氏の支持率は24%で、不支持50%を大きく下回った。7月の政権発足直後の調査では支持38%、不支持は20%で、有権者のスターマー氏離れが鮮明になっている。【924日 産経

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「労働者への増税はしない」緊縮財政で財政を健全化させる一方で、NHS(国民保健サービス)など行き詰まった諸問題を改善する・・・・なかなか至難のわざです。

 

これまでの延長線上にない新たな発想が必要になりますが、そうした発想は労働者の権利を守るという労働党の党是とのバッティングも懸念されます。

 

【ブレグジットの悪影響 政治的にはEU復帰はタブーか

イギリス経済はインフレ、エネルギー危機、生活費の高騰、交通機関や病院のスト、食料不足、貧困と格差の拡大、ウクライナ戦争の影響、そして忍び寄る不況の影・・・多くの問題を抱えていますが、背景にあるのはEU離脱の悪影響。

 

“ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。”【213日 Newsweek

 

国民の間では「後悔」の念も強まっていますが、ブレグジットを推進した保守党はもちろん、労働党もブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていません。

 

アメリカ  「移民がペットを捕まえて食べている」 偽情報拡散の構図

(Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。【921日 NHK】)

 

【トランプ氏 司会者の警告をさえぎって「移民がペットを捕まえて食べている」と主張】

アメリカ大統領選のテレビ討論会で、トランプ前大統領が「移民がペットを捕まえて食べている」という“デマ情報”と一般的には見られている内容を、司会者の警告にもかかわらず主張し、注目されました。

 

****「移民はペットを食べている」? 米大統領選討論会、両候補の発言ファクトチェック****

米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ前大統領は10日夜、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領との初のテレビ討論会で、移民による犯罪、インフレ、後期妊娠中絶について複数の虚偽発言を繰りかえした。

 

一方、ハリス副大統領も、トランプ政権下での雇用喪失について誇張された主張を行ったとしてファクトチェック警告を受けた。 

 

CNNのファクトチェック担当記者ダニエル・デールによると、討論会の中でトランプは少なくとも33回にわたり虚偽の主張を行い、そのうちいくつかは壇上でABCテレビの司会者によって誤りを正された。 

 

ハイチ移民がペットを食べている? 

トランプ氏は、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が「犬を食べている。猫を食べている。連中が食べているのは、そこに住んでいる人々のペットだ」と発言した。

 

これは、共和党の副大統領候補J.D.ヴァンスと複数の右派議員や右派コメンテーターが広めた虚偽の主張だ。 スプリングフィールドの警察当局はこの主張をはっきりと否定しており、フォーブスの取材にも「移民によってペットが傷つけられたり、けがをしたり、虐待されたりしたという信憑性のある報告や具体的な訴えはない」と答えている。 

 

トランプの発言を受け、司会者のデービッド・ミュアーがスプリングフィールド当局者の話を引き合いに出してただちに事実確認を行ったが、トランプは「テレビで」「私の犬が連れ去られ、食用にされた」と言っている人々の声を聞いたと改めて主張した。 

 

トランプはまた、民主党が大統領選で不法移民に投票させようとしているという根拠のない主張を繰りかえした。この点について専門家は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団を含むさまざまな情報源のデータを引用し、米国の選挙で外国人(外国籍者)が投票する事例は「非常にまれ」であり、不法移民が投票することは「さらにまれ」だと指摘している。 

 

米国のインフレ率についても、トランプは「おそらく米国史上最悪だ。(中略)21%だった」と述べたが、これは事実と異なる。インフレ率は2022年半ばに9.1%と40年ぶりの高水準まで上昇したが、1980年代には14%、1974年には11.1%を記録している。 

 

妊娠中絶問題 

妊娠中絶の問題では、トランプは民主党を「急進派」として印象づけようと試み、ハリスの副大統領候補ティム・ウォルツが「妊娠9カ月での中絶はまったく問題ないと言っている」「出生後に殺してもOKだと言っている」などと虚偽の主張をした。即座に司会者のリンジー・デービスが「生まれた赤ちゃんを殺すことが合法な州は米国にはない」と訂正した。(中略)

 

ハリスの主張にも虚偽の指摘 

一方のハリスは、トランプが「大恐慌以来最悪の失業率を残した」と誤った主張をした。米国の失業率はトランプ政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後、1930年代の世界恐慌以降で最悪の14.8%に上昇した。しかし、トランプの任期中に失業率は低下し、ジョー・バイデン大統領が就任した際には6.4%だった。 

 

ハリスはまた、水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発(フラッキング)について、自身の考えを「2020年に明言した」と述べたが、これは完全には正しくない。(後略)【912日 Forbes

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【情報拡散の発端となった女性「こんなことになるとは思ってもみなかった」】

この種の根拠のないデマはどのようにして広がったのか?

 

****“移民がペットを食べている”根拠ない情報はどう広がったか****

(中略)

情報の発端は

否定されたにも関わらず、「移民がペットを食べている」とする主張はいまも広がり続けています。この根拠のない情報はどこから来たのか。

最初に広がったのはアメリカの右翼団体などが多く使うとされるSNSGab」だったとみられています。

7月下旬に画像掲示板サイトに投稿された、黒人の男性がガチョウの死体を運んでいる画像に、「ハイチ人は公園のガチョウやアヒルを無料の食事だと思っている」とする情報が書き込まれて投稿されました。

この画像はスプリングフィールドで撮影されたものではなく、さらに男性がハイチからの移民だという情報はありません。

また、スプリングフィールドの警察も、この時点でアメリカの公共ラジオNPRの取材に対して、「『ハイチからの移民が公園でアヒルを殺している』といった報告を受けているが、そのようなものは現認していない」と否定しています。

 

舞台となったスプリングフィールドとは

 オハイオ州のスプリングフィールドは人口6万人近く。生活費が安く、工場などでの労働者が足りず仕事が得やすいという情報がハイチ人コミュニティーに広がったことで、ここ数年ハイチなどからの移民が急増し、その数は周辺を含めて15000人ほどとされています。

ハイチの人たちは、ハイチで不安定な情勢が続き、安全が確保されていないとして、アメリカ政府が滞在を認める措置をとっていて、スプリングフィールド市はハイチからの移民は不法滞在ではないと説明しています。

 

近所の人の友人が

スプリングフィールドでは、827日にもインフルエンサーを名乗る住民が市の委員会で「ハイチ人が公園でアヒルを切りつけて食べている」と根拠不明の主張を行いました。

さらに9月上旬には地元住民のフェイスブックのグループに、「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」といううわさ話が書き込まれました。

この投稿はXで拡散し、さらに最初に広がった「ガチョウの死体を持つ黒人男性」の画像をつけたものも広がりました。

しかし、投稿を書き込んだ女性はロイター通信の取材に対し、「近所の人から聞いた」と答え、その「近所の人」も「友人が友人から聞いた」と明かしています。 もとの投稿自体、「誰かに聞いた」という伝聞で根拠が不明な情報でした。(中略)

 

副大統領候補も イーロン・マスク氏も

この情報は根拠不明にもかかわらず、多くのフォロワーを持つ政治家なども加わって、さらに拡散されました。

99日には共和党の副大統領候補、バンス上院議員がXに「報告によると、この国にいるべきではない人々にペットが誘拐され食べられた」などと投稿、920日正午までで1100万回以上閲覧されました。

 

さらにトランプ氏に近い極右のインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏や実業家のイーロン・マスク氏らも同様の情報を投稿し、なかには5000万回以上閲覧されたものもありました。

地元の当局が重ねて否定しても拡散は収まらず、バンス氏は「これらのうわさがすべて嘘であることが判明する可能性もあります」としながら、猫についての話を広げるよう呼び掛けました。

 

イーロン・マスク氏の投稿それを受けて、Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。

 

地元当局 必要ない恐怖や分断が

そして、910日に開かれた大統領候補の討論会での発言を受けて、この情報はさらに拡散することになりました。

地元スプリングフィールド市の当局者は、NHKの取材に対して「移民の人たちがペットに危害を加えたといった確たる情報はない」としています。

 

スプリングフィールド市内の小学校市内では、ハイチ出身の人たちの子どもも通う学校などに爆破予告の脅迫もありました。それにも触れて、次のようにコメントしています。

 

「誤った情報が拡散し、私たちのコミュニティーに大きな影響を与え、必要のない恐怖や分断をもたらしていることを深く懸念している。私たちは言論の自由を支持するが、事実にもとづかない言葉は深刻な影響を伴う可能性がある。すべての人に対し、情報を共有するにあたっては十分に注意し、責任を持って対応することを求める」

 

否定されても拡散

地元の警察やオハイオ州知事も発言を否定しましたが、拡散は収まる気配がなく、討論会後の914日には「移民が実際にオハイオ州で猫を食べている」とする動画が拡散し、2600万回以上再生されました。

投稿した人物は、スプリングフィールドから40キロほど離れたオハイオ州デイトンでコンゴからの移民を撮影したと主張しています。

デイトンの警察は「移民コミュニティーを含むいかなるグループもペットを食べる行為に関与していることを示す証拠はまったくありません」とする声明を発表しました。

 

なぜここまでの拡散が?

アメリカ政治や政治のコミュニケーションに詳しい慶応大学の烏谷昌幸教授に聞きました。

 

烏谷教授 「反トランプやリベラル系の人たちからは、『また非常識なことを言っている』と見えるが、支持者の側から見ると不法移民がアメリカの小さな町を乗っ取ってしまうという、彼らが一番恐れていることを非常に生々しく伝えるエピソードになっている」

「トランプ氏が話題を設定していて、うそか本当かということが必然的に二の次になるようなものなのだと思う。ただ、今回も市の施設に爆破予告がされるなど暴力的な行動を結びつきやすくなっていて本当に深刻な問題だ」(後略)【921日 NHK

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上記記事にもある「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」と9月上旬に地元住民のフェイスブックのグループに書き込んだ女性は・・・

 

*****「まさかこんなことになるとは」トランプ氏の虚偽発言、発端はある女性の投稿か。後悔を口に****

(中略)Facebookに投稿した女性本人は、 NBCニュース の取材に対し「こんなことになるとは思ってもみなかった」と語った。

 

「ハイチ系住民のコミュニティに同情します。もし私がハイチ出身だったら、たしかに怖いです」

「彼らが愛しているものを傷つけていると思われても仕方がない。でも私が意図していたこととはまったく違うんです」

 

女性の発言は、NBCの番組内でも紹介された。女性は「私が間違っていた」と後悔と謝罪の言葉を口にしている。

SNSでは女性に対し、「自分の発言に責任を持ってほしい」と厳しい意見が上がっている。【922日 BuzzFeed

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【支持者の不安を具現する「情報」 候補者は意図的に拡散】

ただ、烏谷教授が指摘しているように、トランプ支持者にとっては心中の不安を的確に示した情報であり、非常に安易に飛びついてしまうことになります。

 

****「移民がペット捕食」 トランプ氏支持者の過半数が陰謀論信じる****

米中西部オハイオ州スプリングフィールドでハイチからの移民が「ペットの犬や猫をさらって食べている」との陰謀論について、共和党のトランプ前大統領の支持者の計52%が「間違いなく本当」「おそらく本当」とユーガブ社の世論調査に回答した。

 

この陰謀論は今月に入ってソーシャルメディアで徐々に広がり、共和党副大統領候補のバンス連邦上院議員が9日にX(ツイッター)で言及したことで拡散。トランプ氏が10日の討論会で言及したことで波紋がさらに広がった。

 

1112日のユーガブ社の調査では、9%が「間違いなく本当」、17%が「おそらく本当」と回答。11月の大統領選で「トランプ氏に投票する」と答えた人に限定すると、22%が「間違いなく本当」、30%が「おそらく本当」と回答した。

 

スプリングフィールドでは過去数年間にハイチからの移民が集住するようになり、学校や病院などの対応が困難になっていた。しかし、「ペットをさらっている」との情報は確認されておらず、移民に対する差別感情をあおっている。

 

米メディアによると、討論会後には爆破予告が相次ぎ、市庁舎や学校が閉鎖を余儀なくされた。学校は再開に当たって警備を強化した。マヨルカス国土安全保障長官は17日、「爆破や暴力の脅迫があり、コミュニティーは非常に脅威を感じている」と懸念を示した。【918日 毎日

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一方、候補者側からすれば、事実であろうがなかろうが、これほど支持者にアピールする話もないので、意図的に流布することにもなりがちです。

 

****ヴァンス氏、ハイチ移民が「HIVなどの感染症を増やしている」新たな差別的主張****

(中略)トランプ氏やヴァンス氏は発言を撤回、謝罪することはなく、むしろ新たな差別的虚偽情報を拡散させている。

 

ヴァンス氏は9月、ハイチ移民のせいで、スプリングフィールドではHIVや結核などの伝染病が増加している主張を繰り返しXに投稿した。

 

この主張に対し、州保健局のブルース・バンダーホフ局長は、州内で「重大あるいは認識できるような病気の増加は見られない」と否定している。 また、保健局は州内の感染症などのデータをウェブサイトに掲載しているが、目立った増加は見られない。

 

開発途上国では感染症が発生・流行する割合が高い。それは十分な医療環境が整っていないためであり、一定の国の人が病気を感染させやすいわけではない。

 

ヴァンス氏の「ハイチ移民が感染症を増やしている」という主張は、社会的に最も弱い立場の人たちを利用して支持を集めようとするだけではなく、世界の暗い歴史を繰り返す行為だ。

 

ドイツ・ナチス政権は「ユダヤ人がチフスを流行させている」という主張をプロパガンダとして使用し、医師らも加担した。(後略)【919日 HUFFPOST

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【選挙戦術的に見て、デマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか  極めて微妙な選挙戦状況】

選挙戦術的に見て、このようなデマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか・・・よくわかりません。

コアな支持者に強烈にアピールするのは間違いないですが、中間的な立場の人々にあっては、眉をひそめる者も少なくないでしょう。

 

今回大統領選挙はどちらが勝利するのかわからない極めて微妙な戦いとなっています。

 

トランプ前大統領はネブラスカ州の選挙人5人の配分を巡り、一部を下院選挙区ごとに割り当てる現行方式から州全体の勝者総取りに変えるよう求めています。

 

ほとんどの州は“勝者総取り”ですが、ネブラスカ州は例外。現行方式ならハリス氏が選挙人を1名獲得する可能性がありますが、勝者総取りになればすべてトランプ氏が獲得すると見られています。

 

僅か選挙人1名ではありますが、“ハリス氏が優勢な州・首都の選挙人は225人。激戦7州のうちペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン各州の計44人を抑え、ネブラスカ州の1人を獲得すれば、ちょうど勝利に必要となる270人に達する。”【923日 読売】ということで、もし勝者総取りになればハリス氏は更にもう1州で勝利することが必要になり、選挙戦略が変わってきます。

 

変更を決定する州議会では共和党が決定に必要な3分の2を占めているということで、その対応が注目されています。

 

また、民主党でも共和党でもない“第3の候補”として、ハーバード大を首席で卒業した元医師の環境活動家、スタイン氏の存在が注目されています。イスラエルを批判し、気候危機対策で急進的な政策を標ぼうしています。

 

同氏の得票自体は極めて僅かで勝利は望めませんが、その支持層は民主党左派に重なります。もし1ポイントでもハリス氏からスタイン氏に票が流れると、選挙戦の結果を左右しかねません。

 

このように選挙人1名、得票率1ポイントはが勝敗を分けるかも・・・という微妙な選挙戦にあって、デマ情報拡散がどのような影響を与えるのか?

 

少子化  子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化が示す問題

(【220日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】)

 

【子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化】

今更ではありますが、日本が抱える最大の課題は少子化・人口減少でしょう。

 

日本の少子化対策の手本とされていたのが北欧フィンランド。2010年頃、日本の合計特殊出生率が1.31.4だったのに対し、フィンランドは1.81.9の高い数値を示していました。

 

しかし、その後フィンランドの出生率が急減し、近年では1.26と日本と同レベルとなっています。

 

****子育てしやすい国、フィンランドで出生率の低下? 要因は「将来への不安」「価値観の変化」 少子化どう向き合うか****

「子育てがしやすい国」として知られる、フィンランド。子どもを迎える家族に国から贈られる育児用品などが詰まった「育児パッケージ」や、保健師や助産師が出産前から出産後まで切れ目のない支援を行う「ネウボラ」など、日本の一部自治体で取り入れられている制度も少なくない。

 

しかし、近年出生率の低下が続いている。北欧各国の出生率は、2010年ごろまで高い水準を維持していたが、近年は各国で低下傾向に。特にフィンランドは1.26と、日本に近い水準にまで低下している。

 

主な原因について、東洋大学の藪長千乃(やぶなが ちの)教授は「2008年の金融危機に一つは原因があり、経済状況が出生率に影響を与えている部分は否めないだろうと言われている」と説明。

 

別の要因として考えられているのが「価値観の変化」だといい、「研究の中で、子どもを持つことに対する新しい文化が生まれているのではないかと指摘されている。子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」と述べた。

 

必ずしも自分が産んだ子どもでなくてもいいという考え方も広まっており、国際養子縁組で子どもを迎えるカップルもよく見られるという。

 

出生率低下の改善策はあるのか。藪長教授は「出生率を上げるために何かを変えていくことは、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することになってしまうので、それはできるだけ避ける。個人の意思選択、これが最大限に尊重される社会ではないか」と答えた。

 

一方で、自ら子どもを持ちたい人を支援するため、育休制度の改正などが進められている。個人の選択を最大限に尊重しながら出生率の低下に対応する難しいかじ取りを迫られているフィンランド。

 

藪長教授は「出生率を無理に上げることが適切ではないのであれば、人材を他に確保しようと高齢者、特に前期の高齢者たちの能力や労働力として活用する。アクティブエイジング(活動的な高齢化)や、移民を受け入れる方向に転換している」と話す。

 

こうしたフィンランドの現状や取り組みから、日本はどんなことが学べるのか。「日本はできることがたくさんある。おそらく一番重要なのは労働文化じゃないか。無理なく定時に帰れるような社会が育成できれば変わっていくと思う」との見方を示した。

 

日本でもフィンランドでも「将来への不安」が子どもを持つことを諦める一因になっていることに、藪長教授は「若者自身がこれから順調に生活を維持していける、そして家族を養うことが可能だと女性も男性も思えるように、そういった将来展望を持てる社会にしていくことが、とても重要なのではないかと思う」と述べた。【922日 ABEMA Times

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【子育て支援では出生数の増加にはつながらない】

このフィンランドの数字が示す事実は、いわゆる子育て支援策(保育所の受け入れ枠拡大、男性の育児休暇取得促進など)の限界です。(意味がないという話ではなく、子供を持とうとする者への助けにはなりますが、それだけでは大きな流れを転換させることはできないということです)

 

****「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化****

子育て支援では出生数の増加にはつながらない。

この話は、もちろん私の感想ではなく、当連載でも何度もお話している通り、統計上の事実であるわけだが、この話は特に政治家にとっては「聞いてはいけない話」なのか、まったく取り上げようとしない。

 

これも何度も言っているが、子育て支援を否定したいのではない。子育て支援は、少子化だろうとなかろうとやるべきことだが、これを充実化させても新たな出生増にはならないのである。

 

日本における事実は、2007年少子化担当大臣創設以降、家族関係政府支出のGDP比は右肩上がりに増えているが、予算を増やしているにもかかわらず出生数は逆に激減し続けていることはご存じの通りである。2007年と2019年を対比すれば、この政府支出GDP比は1.5倍に増えたのに、出生数は21%減である。(中略)

 

家族関係政府支出を増やしても出生数には寄与しないことは韓国でも同様である。

 

北欧を見習え?

そうすると、「見習うべきは子育て支援が充実している北欧である」という声が出てくるわけだが、その北欧の一角であるフィンランドの出生率が激減している現状をご存じなのだろうか?

 

フィンランドの合計特殊出生率は、2023年の速報統計で1.26になったという発表があった。過去最低と大騒ぎになった日本の2022年の出生率と同等である。

 

フィンランドの出生率の推移を見ると、特にここ最近の2010年以降で急降下していることがわかる。

コロナ渦中の2021年だけ異常値が発生しているが(これは欧州全体で発生した)、フィンランドと日本はほぼ同等レベルになったといっていい。むしろ、2018-19年には2年続けてフィンランドの出生率は日本より下だったこともある。

 

フィンランドには、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度があることで有名である。保育園にも待機することなく無償で通える。また、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、子育て支援は充実していると言われている。

 

が、そうした最高レベルの子育て支援が用意されていたとしても、それだけでは出生数の増加にならないばかりか、出生数の減少に拍車をかけることになる。

 

家族支援政策の限界

フィンランドの家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べており、これは正しい事実認識であるとともに、日本においても同じことが言える。

 

フィンランドでこれだけ出生率が急降下しているのは、特に20代女性の出生数が激減しているからである。

フィンランド統計より、2010年と2022年の各年代の出生数を比較すると、20-24歳で58%減、25-29歳で43%減である。間違いなく20代の出生が減っていることが全体の出生率を下げていることになる。

 

20代の出生減とは、言い換えれば20代で第一子が生まれてこない問題と同じである。第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そして、20代とはいわないが、若いうちに出産をしないまま過ごすと、出産が後ろ倒しになるのではなく、「もう子どもを産まなくてもいい」と結果的に無子化になる。

 

日本の女性の生涯無子率は世界一の27%だが、フィンランドも20%超えである。そして、この20代出生数の減少は日本も韓国も台湾もまったく一緒だ。

 

逆にいえば、下がっているとはいえかろうじて出生率をそこまで激減させていないフランスは20代の出生数がまだまだ多いからだ。

 

ジェンダー平等や育休で出生数は増えない

日本の出生率があがらないのは「ジェンダーギャップ指数が125位だから」「男性の育休が進まないから」などという声もあるが、ジェンダーギャップ指数でいえばフィンランドは2023年調査で世界3位である。男性の家事育児参加や育休取得レベルも北欧はいつも日本との比較で出されるくらい多い。それでも出生は減るのである。

 

ジェンダー平等にしろ、男性の育休にしろ、子育て支援の充実にしろ、それ単体としては進めればよいと思うが、それらを改善すれば出生があがるなんて因果はどこにもないし、別立てで考えるべきである。むしろ、それらを一緒くたにまとめて因果推論をすることが問題の本質をわかりにくくしているのである。

 

どこにも通用する普遍的な「少子化解決の魔法の処方箋」などあるわけがないが、起きている現象には先進諸国共通のものがある。

 

ひとつは、ゼロ年代までは通用した家族支援は効果を生まなくなっていること。もうひとつは、「子どもがコスト化し、裕福でなければ、そもそもパートナーも子どもも、そうしようとする意欲すら持てなくなっている」ということである。

 

そろそろこの問題に向き合わなければならないだろう。日本だけではなく。【220日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース

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【経済・雇用環境の改善が少子化に歯止めをかけるために重要】

各国に共通する少子化の原因の一つは子育てが高コスト化する一方で、若い子育て層の経済状況が悪化していることでしょう。

 

*****「子育て先進国」フィンランドの出生率が急低下のワケ*****

欧州の子育て先進国も政策効果の一巡後は出生率低下に直面している。持続的な向上には、良好な経済・雇用環境も欠かせない。(中略)

 

政府は、10年代に保育所の受け入れ枠を拡大し、待機児童はおおむね解消した。その後も男性に育児休暇取得を促すなど、子育て支援や少子化対策に注力してきたが、少子化に歯止めはかかっていない。政府は、「こども未来戦略」を策定して児童手当の拡充や保育環境の充実などを図る予定であるが、それらが少子化反転につながるかどうかは予断を許さない。(中略)

 

大幅低下のフィンランド

欧州には、先進的な少子化対策を導入し、高い合計特殊出生率(TFR)を実現してきた国が少なくない。しかし、少子化対策のモデルとされてきたフランスや北欧諸国で、近年TFRが低下している。一方、少子化対策に後れを取り、以前はTFRが低かった国の中には上昇に転じた国もある。(中略)

 

少子化対策先進国において、特段政策メニューが変化したわけではないにもかかわらずTFRが低下傾向にある一因に、政策による効用が限界的に逓減していることがある。優れた少子化対策も、それがスタンダードとなった後では、目新しさがなくなり、再び少子化が顕在化したとみられる。

 

逆にドイツなど、10年にTFRが低かった国の一部には、上昇傾向がみられた国もある。少子化対策に後れを取った国の一部で、先進国で成果が上がったと目される政策を後追いで導入したことが奏功していると考えられる。(中略)

 

独は賃金・雇用改善に連動

00年以降横ばいであったドイツのTFRは、10年以降は明確に上昇トレンドとなった。ドイツは、10年をはさむリーマン・ショックから欧州債務危機に至る時期の経済・雇用環境が、欧州諸国の中で最も良好に推移した国である。とりわけ失業率の改善は明らかで、その効果は実質賃金に明確に表れている。

 

ドイツの実質賃金は、10年までの横ばいから一転上昇傾向となった。子育ての中心的な若い世代の経済・雇用環境が急速に改善したことが、TFRの押し上げに寄与したと考えられる。

 

ドイツにおける経済・雇用環境の好転は、ドイツ人のTFR押し上げに寄与したほか、移民の増加を通じて出生数増ももたらした。1990年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、その後外国籍の親から生まれる子どもが増えた。(中略)

 

なお、ドイツへの移民といえば難民が注目されがちだが、10年以降の移民の半数以上はEU(欧州連合)内の他国から流入したものである。

 

しかし、ドイツのTFRが低下に転じた17年と時を同じくして、外国人のTFRが低下に転じた。その背景には、経済要因のほか、10年代中ごろからの移民に対する排斥の動きが広がった影響があるとみられる。

 

シリアからの難民が急拡大した15年ごろからドイツ国内で移民排斥の動きが顕著となり、そうした社会情勢も、外国人のTFR急低下の一因となったと考えられる。

 

フィンランドの少子化は、首都ヘルシンキへの人口の集中など、多様な要因が指摘されるが、最も大きな影響を及ぼしたのは、経済・雇用環境の悪化である。ドイツとは正反対に、リーマン・ショック以降失業率は高止まりし、00年代に着実に上昇していた実質賃金も横ばいに転じた。

 

欧州の少子化対策先進国においても、近年TFRの低下が顕著であるように、保育所の充実など、従来の対策を続けているだけでは、TFRの低下圧力に抗しきれなくなる。保育所整備や男性育休推進などの子育て環境整備を生かすのも、良好な経済・雇用環境あってこそだ。

 

日本では、春闘において大幅賃上げが実現したものの、実質賃金がプラスとなるにはもうしばらくの時間を要するとみる専門家が多い。

 

若い世代が将来に向けて豊かになっていくという実感を持つことが、少子化に歯止めをかけるために最も重要な処方箋である。企業や業界団体には、今後さらなる賃上げや処遇改善などに取り組むことが望まれる。【516日 藤波匠氏 週刊エコノミストOnline

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【子供をあまり希望しないという価値観の変化を前提にした政治・経済・社会の仕組み】

少子化が止まらないもうひとつの根本的な問題は、そもそも子供を持ちたいという希望自体が低下していることです。

 

****フィンランドで理想子ども数ゼロの人が急増:出生率低下の原因か****

(中略)

フィンランドの出生率は急減しており、日本と同じレベルの出生率になっている。その大きな要因は、子どものいない人口(無子)の増加と言われている。

 

新しい研究によって、まだ子どもがいない男女ともに2割以上の人が理想子ども数を0人と答えている、と報告した。つまり、フィンランドの出生率の減少は、意図して子どもを産まない人の増加が関係していそう。

 

日本でも同様に、理想子ども数を0人と答える人は増加しているものの、まだ8%と少ない。他国と比べても高い無子割合は、意図したものではなさそう。【202394 茂木良平氏 note】

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「子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」という「価値観の変化」には子育て支援策はほとんど効果を持ちません。

 

「夫婦は子供を産むのが当然だ」という伝統的価値観に沿って、産みたくないという国民を政策的に出産へ誘導するのは、、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することにもなります。

 

であれば、子育て支援策などで一定に緩和はできるものの、基本的に少子化は避けられないという前提にたって、少子化であっても経済・社会が回るような仕組みに政治・経済・社会を適応させていく努力が必要でしょう。

 

それは、非嫡出子の扱い、同性婚の養子、移民の問題など伝統的価値観とは衝突するところが大きいでしょうが、避けて通ることはできないのではないでしょうか。

スリランカ・カンボジア  中国による港湾軍事拠点化の現況

(20245月に撮影された衛星写真で、リアム海軍基地に中国のコルベット艦2隻が停泊している様子が確認できる【918日 毎日】)

 

【スリランカ 中印の「冷戦」状態のハンバントタ港】

中国の「一帯一路」を議論する際に、“債務の罠”の代表事例として必ず言及されるのがスリランカのハンバントタ港です。

 

債務返済できなくなったスリランカ政府が2017に運営権を中国に事実上譲渡したハンバントタ港の現況がどうなっているのかを示したのが下記記事。

 

中国と、中国に対抗するインドの間で“相互監視”状態にあるようです。インドは港に近いマッタラ・ラジャパクサ国際空港の運営権を獲得するようで、ハンバントタ港の中国による軍事利用を牽制する効果があるとか。

 

同空港運営にはロシアも参加するとのことで、スリランカからすれば、ロシアも含めることで中印の対立が先鋭化するのを抑制したい狙いのようです。

 

****「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態****

スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。

 

中国と間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。

 

現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。

 

「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。

 

セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。

 

ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。

 

同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。

スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。

 

同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。

 

中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。

 

中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。

 

このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。

ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。

 

「旅客便が最近到着したのが511日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。

 

同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。

 

中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。

 

スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。

スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。

 

現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。

現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。

 

また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。【921日 産経

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その大統領選挙は今日投票が行われ、先ほどから開票が始まっています。事前の世論調査では野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首がリードしています。

 

****スリランカ大統領選挙 きょう投票 日本主導の債務再編に影響も****

深刻な経済危機の影響で、2022年、事実上のデフォルト=債務不履行に陥ったスリランカで21日、大統領選挙の投票が行われます。

 

経済の立て直しに向け、現政権が推し進めてきた緊縮政策に対しては、国民の反発も強く、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

 

インド洋の島国スリランカは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足に陥り、急激な通貨安やインフレに見舞われました。

21日投票が行われる大統領選挙には現職の大統領のウィクラマシンハ氏、野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。

 

このうち、経済危機後に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、IMF=国際通貨基金から4年間でおよそ30億ドルの金融支援を取り付けた上で増税や国有企業の改革などに取り組み、経済の立て直しに道筋をつけたとして実績を訴えています。

一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。

 

現地の研究機関が今週公表した最新の世論調査ではディサナヤケ氏が48%と支持を伸ばす一方、プレマダーサ氏は25%、ウィクラマシンハ氏は20%と伸び悩んでいて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【921日 NHK

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日本なら出口調査ですぐにおおよその結果がわかるのですが、スリランカですので、この記事のアップ時点ではまだ傾向は判明していません。

 

【カンボジア  リアム海軍基地の中国側の動向に神経を尖らせるアメリカ】

中国の軍事拠点化ということでは、もう1箇所注目されるのが中国と緊密な関係にあるカンボジアのリアム海軍基地。

 

****中国艦船、新たに2隻入港 カンボジア基地、拠点化か****

中国の支援を受けて拡張工事が進むカンボジア南西部のリアム海軍基地で、昨年12月ごろから寄港していた中国海軍の艦船が帰国し、別の中国艦2隻が新たに入港したことが27日、複数のカンボジア軍関係者への取材で分かった。中国軍の海外拠点化に向けた新たな布石とみられ、今後の動向が注目される。

 

カンボジア軍関係者らによると、中国艦はローテーションを組んでリアム海軍基地への停泊を一定期間続ける予定だ。中国の影響力拡大に米国は懸念を強めている。

 

カンボジアと中国は530日までの合同軍事演習で初めて海上演習を実施した。【627日 共同

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上記中国艦船はコルベット艦(フリゲート艦より小さい規模の航洋艦)とのこと。

 

そしてカンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにしています。

カンボジアが艦船を欲しがるのは、隣国タイとの国境問題などがあるためのようです。

 

中国によるリアム海軍基地の軍事拠点化については、アメリカが神経を尖らせています。

 

****中国のカンボジア「軍事拠点化」を懸念 艦船供与「見返り」で 米国****

カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。

 

中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。

 

英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。

 

リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。

 

19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。

 

ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が2312月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。

 

6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。

 

カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。

 

中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。

 

一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。

 

欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。

 

政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【918日 毎日

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フン・マネット首相が、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む・・・・そうした西側との関係強化の事例に関するニュースはまだ目にしていませんが、中国との更なる関係強化に関するものなら・・・。

 

****カンボジアに「習近平大通り」 経済・安保、取り込み加速****

カンボジアのフン・マネット首相は28日、首都プノンペンや近郊を通る主要道路を中国の習近平国家主席の名前を冠し「習近平大通り」と命名すると表明した。

 

中国は国際的な影響力を強化するため経済支援で途上国の取り込みを加速し、カンボジアとは外交・安全保障を含む、あらゆる分野で関係が緊密化している。

 

中国国営通信新華社は29日、カンボジアの発展に対する習氏の「歴史的貢献」が感謝されたと報じた。

 

カンボジアメディアによると、習近平大通りは全長約50キロ。首都から地方都市に延びる複数の国道をつなぐ重要な道路で、中国企業が建設工事を請け負った。【529日 共同

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中国  深セン日本人児童刺殺事件への中国政府・世論の反応

(中国人らが次々と献花に訪れた深圳日本人学校(20日、中国・深圳で)=大原一郎撮影【920日 読売】)

 

【中国政府「単独犯の偶発的事件」 日本との関係悪化や社会の不安定化を回避する意図】

周知のように、6月に江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡した事件に続いて、18日には広東省深セン市で日本人学校に登校中だった日本人男児(父親が日本人、母親が中国人)が、学校から200メートルほどの位置で男(44)に刺され亡くなりました。

 

相次ぐ日本人学校・日本人が標的となる事件が起きたこと、事件発生の918日が満州事変につながった柳条湖事件が起きた「国辱の日」であったことなどから、「反日」を背景にした日本人を狙った犯行ではないかとの憶測がある一方で、中国政府は微妙な日中関係への影響を最小限に留め、社会不安を抑止する意図があるようで、事件の背景には言及しない形で「単独犯の偶発的事件」として処理する姿勢です。

 

*****「単独犯の偶発的事件」=中国深センの日本人男児襲撃を地元紙詳報当局、社会不安警戒****

中国南部・広東省深セン市で日本人男児が刺されて死亡した事件で、地元有力紙・深セン特区報は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」とSNSで伝えた。44歳の男による単独の犯行で、容疑を認めているという。日本政府の情報提供要請を受け、中国当局が同紙を通じて事件の詳細を公表した形だ。

 

中国では6月、東部の江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡する事件が発生。その時も中国当局は「偶発的事件だった」と説明した。

 

同紙によると、容疑者の男は定職に就いていない。2015年に公共の通信設備を壊して警察沙汰になったほか、19年には公共の秩序を乱したとして深センの警察に拘束された。

 

日本人を狙った犯行なのかや殺意があったのかを含め、動機は不明。同紙は容疑者について「刃物で児童を傷つけた行為を認めている」とし、「さらに調べが進められている」と報じた。

 

中国当局は今回の事件によって、経済を中心に日本との関係が悪化する事態を望んでいない。類似の事件が相次いで中国社会が不安定化することも警戒している。同紙はSNSで論評記事も配信し、「犯行を強く非難する」と表明。「この容疑者の暴力行為は一般の中国人の素養を代表するものでは決してなく、社会全体の状況を反映するものでもない」と強調した。(後略)【920日 時事

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44歳の容疑者の男は定職についておらず、2015年には電信設備の破壊、2019年にはデマで公共秩序を乱したとして拘束されていたようです。

 

中国の主要メディアは沈黙を貫いており、中国国内での報道は規制されているようです。

SNS上では多くの事件を批判し、被害者への哀悼の意を示す多くのメッセージがよせられる一方で、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの反日感情を露わにする声もあります。

 

****深圳の日本人男児殺害、中国主要メディア沈黙 SNSは「批判」と「反日」が混在***

中国広東省深圳(しんせん)市で日本人学校の日本人男子児童(10)が男に刺殺された事件で、中国の主要メディアは沈黙を貫いている。当局から情報統制が敷かれているもようだ。

 

情報が飛び交う交流サイト(SNS)には「国の恥だ」と批判する声も多いが、事件の遠因が「日本にある」との〝異常〟な意見もあり、度を越えた「反日分子」の存在が浮き彫りとなっている。

 

「心から謝罪」「日本に原因」

地元紙「深圳特区報」は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」と伝えた。男は容疑を認めている。日本政府の要請を受け、当局が同紙を通じて詳細を公表したとみられる。

 

ただ他のメディアの記事は皆無だ。18日に一報を伝えたメディアの記事は現在、削除されている。模倣犯の発生や政権批判への転化を避けたい狙いとみられる。

 

事件が発生した18日以降、中国の短文投稿サイト、微博(ウェイボ)には多くのコメントが書き込まれた。「深圳人として心から謝罪する」「子供は無実。あらゆる暴力行為を非難する」などと事件を批判する書き込みも少なくない。

 

満州事変につながった柳条湖事件の918日に事件が起きたことに反応するコメントも数多かった。「国恥の日に子供を殺した男は国の恥だ」との見方もある一方、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの声も散見された。

 

悲劇悼む動きも

NHKラジオ国際放送で尖閣諸島を「中国の領土」と発言するなどして解雇され、帰国した中国人男性とされるアカウントも事件に反応。

 

在中日本人や在日中国人の生活を揺るがす元凶は「安倍晋三政権が推進してきた歴史修正主義路線だ」とし、日本が一方的な姿勢を続ければ「両国で非理性的な傷害事件を引き起こすことになる」などと警告した。

 

事件の背景に反日教育が関係している可能性もゼロではないが、「抗日教育を中傷する者は犯人と同じく卑劣な人間だ」との投稿も。

 

在中国日本大使館のアカウントには中国人から多数の謝罪や追悼が寄せられるが、中国人が日本で犯罪に遭った際に同様の光景を「見たことがない」として、「中国人の命は日本人よりも軽いのか」とする書き込みもあった。

 

一方、X(旧ツイッター)には、男児が通っていた日本人学校前に献花に訪れた男性が「(中国の)長期にわたる憎悪教育が招いた結果だ」と話す動画が拡散。19日には東京都内で在日中国人有志が追悼集会を開くなど、悲劇を悼む動きも広がっている。【920日 産経

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【「亜人事件」など、根深い反日感情も】

中国社会に反日感情が根深いのは事実でしょう。最近話題になった事件としては・・・

 

****円明園で日本人観光客らが難癖付けられる、警備員まで「小鬼子」と加勢する異常事態中国****

中国・北京市の円明園で日本人観光客らが中国人インフルエンサーから難癖をつけられる動画が中国のSNS上に投稿され、反響を呼んでいる。

 

報道によると、騒動は今月7日に起きたとみられる。日本人観光客の男女と中国人通訳が円明園で記念撮影をしていたところに男性インフルエンサーが現れた。撮影していた通訳が「フレームに入ってしまうから」と男性インフルエンサーに移動を頼むと、男性インフルエンサーは「日本人か?」などと確認。「そう、日本人だよ」と言われると、「円明園というこの場所で、日本人のためにどけというのか」などと怒り、難癖をつけ始めた。

 

通訳が「どこの国かは関係ない」と言うと、男性インフルエンサーは「俺は関係あると思うぞ」と応じ、さらにまくしたてる。話が通じないと思った通訳は「あなたが関係あると思うならもういい」とあしらい、日本人観光客2人と共にその場を後にするが、男性インフルエンサーは後を追い回して撮影。

 

それに気づいた日本人観光客の男性が「通報するぞ」と言うと、男性インフルエンサーは「日本人が中国で警察に通報するのか」「俺は日本人のために場所を譲る気はない」などと個人的な主張を続け、通訳に対しても「日本人を守るのか」などと罵声を浴びせた。

 

その後、警備員がやってきたが、警備員は「日本人と聞いたが。はっきり言えば(日本人を円明園に)入れることはない」と説明。通訳が「それは管理所としての意見ですか?それはちょっと違うでしょう」と反論すると、警備員は「去年も日本のツアー客は入れなかった」とした。

 

通訳が「チケットは購入しているし、管理所は(彼らを)中に入れた。あなたは管理所の意見を代表しているのですか?」と質問すると、警備員は「(管理所を)代表してはいないが、あなたはわれわれを尊重しなければならない!」と語気を強め、日本人の蔑称である「小鬼子」という単語を交えてまくし立て、男性インフルエンサーの言動に賛同する意思を示した。

 

あまりにも理不尽な言いがかりに中国のネットユーザーからは「このインフルエンサーが故意に難癖をつけているように感じる」「単なる言いがかり」「日本人観光客に何か落ち度があったようには思えない。もしわれわれが日本に旅行に行ってこのようなことをされたら?」「そもそも円明園が日本人と何の関係があるんだ」「円明園を焼き討ちし、略奪したのは英仏軍だろう」「そんなことなら、なぜ日本人を入国させたんだと中国の税関に文句を言えよ」といった声が上がり、「彼はどうすればトラフィックが稼げるか理解している」「今のインフルエンサーはみんな愛国を掲げて金を稼いでいるが、実際は国に泥を塗っているだけ」といった声も寄せられた。(後略)【99日 レコードチャイナ

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このインフルエンサーは「亜人(アジアンマン)」の名で活動する中国のインフルエンサーで、中国政府は「いかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」としています。

 

****円明園で日本人観光客らに難癖、中国外交部「われわれは特定の国を差別しない」****

(中略)9日の外交部定例会見で騒動について聞かれた毛寧(マオ・ニン)報道官は「具体的な状況については把握していない。個人の言動については論評しない」としつつ、「中国はオープンで包容的な国。われわれはいかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」と強調した。

 

中国のネット上では「亜人」と見られる人物が2019年に米国で性的暴行や脅迫の容疑で逮捕されていたとの情報が流れており、靖国神社に落書きをして最近中国の警察当局に別件で拘束されたインフルエンサーのアイアンヘッド(鉄頭)こと董光明(ドン・グアンミン)容疑者と同類だとの批判が寄せられている。【910日 レコードチャイナ

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【中国世論の多くは事件を批判 特に子供を狙った犯行には反発】

日本人としては、この種の反日に凝り固まった言動に接すると気分も悪くなりますが、一方で多くの中国人はそうした「反日」的なものとは一線を画しています。

 

特に、子供を対象とした犯行には批判の声が多いようです。

 

****中国SNSに書き込まれた“異例の反応”とは? 「日本人学校10歳男児刺殺事件」に猛反発の声****

(中略)

「この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」

 6月に蘇州で日本人学校バス襲撃事件が発生した際、「デイリー新潮」は中国SNSにあふれる「日本人学校に物申す」系動画の存在を報じた。旧知の通り、中国SNSでの「反日」は再生数稼ぎに最適のテーマであり、日本人学校も数年前からその1つとなった。

 

ただし、靖国神社動画のような破壊行為でなく、「学校の数が多すぎる」「中国人が入学できないのはおかしい」「なぜ警備が厳重なのか」といった疑問を提起するスタイルが大半だ。

 

配信者が校門前でお決まりの疑問を繰り返し、時には守衛と言い争うが、そもそもその疑問は中国国内でもネット検索で答えが得られる内容ばかりだ。

 

そうしたお手軽な「愛国」動画が登録なしで確認できる中国SNSとして、TikTokの中国版・ドウインがある。今回の事件についてもいち早く動画が公開され、様々なコメントが飛び交った。容疑者の動機に対する関心が深いのは日本と同様だが、これまで公開された「反日」動画の影響からか、多くのユーザーは「愛国」が動機だと考えているようだ。

 

「彼らが宣伝した悪がついに花開いた」 「我々の同胞の多くが日本にもいるという事実を考えてほしい」 「少しの前の亜人事件も然り、この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」 「法に基づいて厳罰に処すべきであり、この風潮が傲慢になりすぎてはならない」

 

「亜人事件」とは今月7日、北京の名所・円明園でインフルエンサー「亜人」が日本人観光客2人とガイドに執拗に絡み、暴言を吐いた事件を指す。この件も議論を呼び、「良い愛国」と「悪い愛国」の線引きを進めたようだ。香港メディアのオピニオン記事によれば、亜人を支持したのは一部の「脳なしの愛国主義者」だけだったという。

 

「このままでは中国が孤立する」

深圳の事件に戻ると、SNSコメントからはもう1つ猛烈な反発を招いている要素が浮かび上がる。「子供を狙った」という点だ。

 

「容赦のない厳罰を」 「子供は無実。暴力反対」 「何があっても子供を攻撃してはならない」 「とても理不尽。子供たちと何の関係がある?」

 

「事件の全体像がわからないと何とも判断できない」という声には「10歳の子供のどこに非があるのか?」というレスがついている。近年は薄れてきているとはいえ、家族や一族の絆を重要視する中国の一般家庭では「子供と老人」に配慮する傾向がある。

 

もちろん、事件を非難する声ばかりではない。中国ポータルサイト大手・捜狐(ソウコ)のアカウントが日本のニュースを引用し、「憎しみから弱者を攻撃するのは愛国心ではない。行き過ぎた感情は中国に孤立をもたらすだけだ」と訴えた動画には、「捜狐はどこの会社ですか?」というレスがついた。

 

だが、「このままでは中国が孤立する」という声は他ユーザーからもこのように寄せられている。

「歴史を念頭に置くと、より重要なのは自らを強くして、国家の自信を高めること。肉切り包丁を手に取って同じことをすれば、世界はあなたから離れていく」【920日 デイリー新潮

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****日本人学校に千束超える献花 中国人ら男子児童に哀悼の意****

中国広東省深センで日本人の男子児童が刺殺された事件で、男児が通っていた日本人学校に20日までに計千以上の花束が贈られたと学校側が明らかにした。ほとんどは現地の中国人が贈ったもので、哀悼の意を示す人が後を絶たない。

 

「天国で安らかに」などとメッセージが添えられたものもある。インターネット上では事件を巡り反日的な書き込みも少なくないが、市民は子どもが犠牲となった事件に衝撃を受けている。(後略)【920日 共同

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【「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」】

今回のような日中関係に影響する事件で、国内にある反日的な意向を意識する中国政府が表だって「偶発的事件」云々以上に踏み込むことは困難に思えますが、そうした表の話とは別に、現在ネット上で垂れ流されている虚偽も多く含んだ反日的な情報に対し、これまで以上に厳しい対応をとるように働きかけることが今後の日中関係を改善していく上で重要だと考えます。

 

****3カ月で2度の日本人襲撃事件、「個別事案で国の発展を阻害してはならない」と香港メディア****

2024919日、香港メディア・香港01は、中国で3カ月以内に2度発生した日本人襲撃事件について「極端な個別事案で国の健全な発展を阻害してはならない」とする記事を掲載した。

 

(中略)「国辱を忘れないことと、今回の日本人小学生に対する暴行事件は、まったく別問題であることをはっきりさせておかなければならない」と主張した。(中略)

 

3カ月前の624日に蘇州のバス停で起きた日本人親子襲撃事件にも言及しつつ「2つの事件はそれぞれ個別の事案であり、日本人を標的にした一連の事件であることを示す決定的な証拠はなく、事件の背景を民族憎悪のレベルにまで昇華させることはできない」と主張。

 

その一方で、ネット世論では近ごろ排外主義や外国人排斥を主張する書き込みが確かに多いと指摘し、「中国は国を発展する中で狂乱的なポピュリズム(大衆迎合主義)が入り込む余地を与えないよう警戒する必要がある」と指摘している。

 

そして、民族国家を競争単位とする国際秩序において、適度なナショナリズムは正常な現象であるものの、「他者を誹謗(ひぼう)中傷したり、悪意を持って攻撃するような行動に発展したり、アクセス数や利益を稼ぐために過激な言動をすることは国と国民を誤った方向に導く行為だ」とも指摘。「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」と断じた。

 

記事は、蘇州と深センで発生した事件について再三「個別事案」であることを強調した上で、「個別事案が中国のイメージと日中関係に悪影響を及ぼすのを防ぐために、中国社会は有力な措置を講じて悲劇の再現を防ぎ、狂乱的なポピュリズムとは一線を画すとともに、さらなる改革開放の中で世界に向けて『狂乱的なポピュリズムは中国社会を代表するものではない』ということを示すべきだ」と結んでいる。【920日 レコードチャイナ

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こういう事件に対しては、日本国内でも「正論」を主張する強気の大きな声が表に出てきがちですが、日本政府も日本の声はしっかりと中国側に伝えつつも、中国政府の状況・立場も踏まえた賢明な対応をとってほしいと思います。いたずらに相手を硬化させるだけの対応は、自己満足にはなっても、事態を悪化させるだけかも。

 

****中国の危険情報「レベル0」維持 外務省「見直しは検討していない」子供連れには注意喚起****

中国・広東省深圳市の日本人学校に通う男子児童(10)が刺殺された事件を受け、外務省が出す渡航・滞在の「危険情報」が注目されている。

 

中国の危険度は、新疆ウイグル、チベット両自治区を除き「レベルゼロ」。インドは全土がレベル1以上、ロシアはレベル2だ。外務省は「現段階では見直しの検討はしていないが、中長期的な観点から総合的に判断する」としている。

 

中国では6月にも江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人母子が刃物で切りつけられる事件が発生。日本国内でも靖国神社での落書き事件など「反日」が理由とみられる事件が続いており、日本政府が具体的な行動を取らないかぎり邦人の安全は守れないとの指摘も出ている。

 

一方で、外務省は男児が死亡した19日、日本人の安全に関わる重要な事件が発生した際に速報する「スポット情報」で「凶悪犯罪に対する注意喚起」を出し、「特にお子さん連れの方は、十分注意して行動してください」などと呼びかけた。(後略)【920日 産経

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【日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意】

なお、日中間では懸案事項であった日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意したことが明らかになっています。

 

****中国、日本の水産物輸入を段階的に再開へ=中国ネット民の反応は****

中国が日本の水産物の輸入を段階的に再開することで合意したことが分かった。日中のメディアが20日に報じた。

 

報道によると、岸田文雄首相は同日、中国側が安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開することで、日中両国が合意したと明らかにした。国際原子力機関(IAEA)の枠組みの中で行われている処理水のモニタリングを拡充し、中国を含む各国の専門家による水のサンプリング採取や分析機関による比較などを追加で行い、その結果をもって輸入再開が決定されるという。

 

この情報は中国メディアも速報した。鳳凰網は「日本政府は福島原発の汚染水の海への排出を一方的に開始した。中国は利害関係国の一つとして、この無責任なやり方に断固反対している」と強調する一方、「同時に、われわれは日本側に国内外の懸念に真剣に応え、自らの責任を確実に履行し、効果的かつ長期的な国際モニタリングに全面的に協力するよう、また中国側の独立したモニタリングに同意するよう促してきた」と説明した上で、日本側と4点の共通認識に達したと報じた。(後略)

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“鳳凰網の投稿には多数のコメントが寄せられているが、反発の声が大きいためかコメント閲覧ができない状態になっている。”【同上】と、ネット世論では批判が多いようです。

 

中国外務省は記者会見で、「日本による一方的な海への放出には断固反対していて、この立場に変わりはない」「中国がただちに日本の水産物の輸入を全面的に再開するわけではない」とも。苦渋の決断のようです。

インド  ウクライナ問題でみせるしたたかなモディ外交

(ロシアのウクライナ侵攻開始後初めてキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(左)と抱擁を交わすインドのモディ首相=23)【823日 北海道新聞】)

 

【注目されたモディ首相のウクライナ・ロシア仲介外交】

インドはウクライナの問題では、ロシアとウクライナ双方と関係を維持する姿勢をとっています。モディ首相は7月にモスクワを訪問してプーチン大統領と会談、8月にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談・・・ということで。その「仲介外交」が注目されました。

 

インドのこうした外交姿勢の背景には、武器輸入などロシアとの強いつながり、アメリカにおける「もしトラ」を見据えた動き、そしてライバル中国への意識があると指摘されています。

 

****インド・モディ首相のウクライナ訪問、なぜ今なのか?その狙いと苦悩****

インドのモディ首相が823日にウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。モディ首相は、ゼレンスキー大統領に、友人として平和に協力する用意があることを伝えたようだ。7月にはモスクワを訪問してプーチン大統領に会ったばかり。モディ首相は何の理由があって両国を訪問したのだろうか。

 

モディ首相のウクライナ訪問が注目されるわけ

まず、なぜモディ首相のウクライナ訪問がそれほど重要なのか。ウクライナは戦時下だが、すでに多くの欧州諸国の首脳が訪問し、アジアからも、インドネシアに続いて、日本の岸田文雄首相も訪問している。その点から言えば、モディ首相が訪問しても、特に新しい側面はない。

 

ただ、インドがそれを行う場合、他の国とは違う側面がある。なぜなら、インドはロシアと非常に強いつながりがあるからだ。

 

197090年代、インドは非同盟政策を掲げていたにもかかわらず、実際には、ロシア(ソ連)と正式な同盟関係にあった。

 

1971年にインドとソ連が結んだ印ソ平和友好協力条約の第9条は、両国が第3国に対して軍事的に協力することが書かれているから、これは同盟関係の定義に該当する。そのため、インドはソ連から大量の武器を輸入するようになり、武器の修理部品や弾薬の供給をめぐって、現在でも、ロシアに大きく依存している

 

そのため、20222月にロシアがウクライナ侵略を開始したとき、インドはロシアを非難しない姿勢をとってきた。ウクライナのブチャで虐殺が明るみになった時も、インドは国連でその行為を激しく非難したが、「ロシア」という国名を出さないように配慮していた。

 

そして、日本を含め西側諸国がロシアに経済制裁をかけている最中でも、インドはロシアから原油輸入を増やし、制裁の効果を減殺してしまっていた。

 

ただ、インドは、相当、苦悩の末に、このような決断に至っていたようである。それがわかるのは、西側諸国にも数多くの配慮をみせてきたからであった。

 

まず、西側諸国による、対ロシア経済制裁に関して、中国は西側諸国を非難しているが、インドは非難していない。ウクライナに対する人道支援も行っている。

 

ゼレンスキー大統領に対しても、昨年、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に会ったことも含め、対面・電話両方で、繰り返し会談している。そして、モディ首相がプーチン大統領に会った際は、「今は戦争の時代ではない」と直接伝え、戦争に反対であることを明確に示したのである。

 

このような行動の結果、インドに対して、一つの期待が生まれた。それはインドが、ロシアによるウクライナ侵略において、両方の指導者と直接やり取りできる、仲介者になれるのではないか、という期待である。

 

だから、モディ首相がモスクワを訪問した次の月にキーウを訪問したことは、注目されるのである。実際にモディ首相は会談でそのような姿勢を示したようだ。

 

なぜ今、仲介なのか

ただ、ロシアのウクライナ侵略が始まったのは、222月で2年半も前だ。それまで仲介がうまくいっていないのに、なぜ今、インドの仲介外交が、注目されるのだろうか。おそらく背景には、米国の大統領選挙がある。

 

(中略)トランプ前大統領は、繰り返し、ロシアのウクライナ侵略を終わらせ、ロシア対策から中国対策へと、政策をシフトさせることを主張している。しかも「電話一本で終わらせる」とまで豪語している。

 

そのため、もし仮に11月に選挙で勝利したら、1月の就任を待たず、トランプ大統領がロシアとウクライナの停戦交渉に着手する可能性がある。

 

そのため、各国とも動き始めている。すでにゼレンスキー大統領はトランプ前大統領と会談しているし、ウクライナの隣国ポーランドの大統領もトランプ前大統領と会談した。

 

ウクライナの軍事作戦も変わった。ロシアから奪われた領土の奪還だけでなく、一部地域でロシアに積極的に攻め込んでいる。もし停戦交渉が行われるなら、奪い取った領土を交換することも考えられ、11月までにできるだけ交渉カードを得ておきたいからだ。(中略)

 

こうした行き来で、遠距離では伝え難いメッセージを、直接送ったり、有力人物と会ってコネを作っておくことは、トランプ前大統領が勝利した際の停戦交渉においても、インドが貢献するかもしれないことを意味している。

 

もし貢献したら、「米国が行う停戦交渉は、実はインドのおかげで成功した」と外交的成果をアピールできる。そのためには、今、先手を打って、動いておかなければならないのである。

 

ただ、インドの動きには、もう一つ懸念事項がある。中国の動きだ。プーチン大統領だけでなく、ウクライナのクレバ外相も中国を訪問しており、中国による仲介外交にも注目が集まっている。

 

もし仲介外交で中国が成果を上げれば、中国の影響力はますます高まる。インドは、中国に負けたくないのである。(後略)【826日 WEDGE

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“ウクライナ訪問を終えたインドのモディ首相は、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、対話の重要性を改めて強調しました。モディ氏は、アメリカのバイデン大統領にも和平に向けた支援を伝えるなど、積極的な仲介の姿勢もみせています。”【827日 TBS NEWS DIG

 

【戦争状態をうまく利用して「漁夫の利」を狙った動きとも】

よく言えば、ロシア・ウクライナ両国との関係を活かした仲介外交とも言えますが、悪く言えば両国の戦争状態をうまく利用してインドの利益を最大とする「漁夫の利」を狙った動きとも。

 

西側制裁を利用したロシア産原油の“買いたたき”はこれからも続けるようです。

 

****インド、安価なロシア産原油の購入を継続へ=石油・天然ガス相****

インドのプーリー石油・天然ガス相は17日、安価なロシア産原油の購入を継続する方針を示した。米ヒューストンで開催されたイベントでロイターのインタビューに応じた。

 

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシア産原油の上値は抑えられてきた。

プーリー氏は「制裁対象外であれば、最安値で販売する企業から石油を購入するのは当然だ」とした上で、欧州各国や日本企業もロシア産原油を購入しており、インドだけではないと強調した。(後略)【919日 ロイター】

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一方で、インドはウクライナに砲弾を提供しており、ロシアの抗議も無視する構えです。

 

****インド製弾薬、欧州経由でウクライナへ ロシア抗議でも規制の兆しなし****

欧州企業がインドの軍需企業から購入した砲弾や弾薬がウクライナにわたっていることがインドと欧州の当局者の話で分かった。ロシア政府はインド側に抗議したが、インド政府は取引停止の措置を取っていないという。

インドの武器輸出規制は、武器の使用を申告した購入者に限定し、無許可の転売などがあれば取引停止にすると定める。インド外務省報道官は1月の記者会見で、インドはウクライナに砲弾を供給・販売はしていないと述べた。

当局筋によると、ウクライナに供給されているインド製砲弾薬は、国有軍需企業ヤントラなどが製造したもの。取引は1年余り前から行われており、税関の記録によるとイタリア、チェコなどからウクライナに輸出されている。

元ヤントラ幹部は非上場のイタリア防衛企業MESが同社の最大の海外顧客だと述べた。MESは、ヤントラから中身が空の砲弾を購入し、爆発物を詰めてウクライナに輸出しているという。

ロシアは事態を深刻視し、7月の外相会談を含め少なくとも2回、インド側に対応を求めた。インド当局者によると、政府は状況を監視しているが、欧州向け輸出を制限する措置は取っていないという。

関係者は、ウクライナが使用する砲弾薬でインド製が占める割合はごくわずかと指摘。ロシアによる侵攻開始後にウクライナが輸入した武器全体の1%以下と推定されている。

キングス・カレッジ・ロンドンの南アジア安全保障の専門家、ウォルター・ラドウィグ氏は、比較的少量の弾薬の移転はインド政府にとって地政学的に有益とみる。インドはロシア・ウクライナ戦争について、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピールできると指摘した。またロシアはインドの決定に対してほとんど影響力を持たないと述べた。【919日 ロイター

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“インド側には、長期化するウクライナ侵攻を軍需産業の好機と捉える見方があるとしている。”【919日 共同】とも。

 

比較的少量の弾薬をウクライナへ輸出することで、ロシアと決定的に対立することなく、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピール・・・なかなか“うまい”と言うか、したたかな戦略です。

 

ただ、こうした“どっちつかず”で“漁夫の利”を狙う動きは、どっちからも本当には信頼されないということもありますので、注意が必要です。

 

いずれにしても、いんどのある意味“身勝手”の行動に対し、ウクライナ・ロシアだけでなく、中国を意識するアメリカもインドをつなぎとめて起きたい思いから、あまり強くは出られない・・・といったところです。

アフリカ  中国をはじめ多くの国から“求愛”を受けながらも貧困から脱却できない事情

(6日、アンゴラ・ルアンダで中国海軍病院船「平和の方舟」の中国人医師の診察を待つ患者ら。【914日 新華社】)

 

【習近平主席 「中国とアフリカの関係は新時代の『全天候型運命共同体』にレベルアップする」】

93日ブログ“中国 中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催 変化するアフリカ向け融資”でも取り上げたように、中国の対アフリカ支援に近年“バラマキ”から“収益性重視”という変化が見られます。

 

****中国、「ばらまき」から収益性重視か-曲がり角の対アフリカ融資****

中国は10年以上にわたり「一帯一路」構想を通じ1200億ドルを支援

「債務のわな」や搾取、汚職といった批判がつきまとう

 

中国の習近平国家主席がアフリカ各国の首脳を北京に今週迎える際、習氏はアフリカ側への貸し付け規模を縮小し、中国が引き換えに何を求めているのかをより明確に示すとみられる。つまり、リターンの向上とトラブルの減少だ。(後略)【93日 Bloomberg

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****中国の対アフリカ開発融資、最盛期の6分の1 撤退した分野とは?****

中国が2023年にアフリカ諸国向けに決定した開発融資は総額約46億ドル(約6700億円)で、最盛期のおよそ6分の1だった。米ボストン大グローバル開発政策センターの集計で判明した。経済が停滞した新型コロナ禍以降では初めて上昇に転じたが、中国がある分野からは手を引いたことがうかがえるという。

 

中国は00年代以降、巨大経済圏構想「一帯一路」に沿って、豊富な天然資源を有するアフリカへの進出を強化してきた。エネルギー・資源開発や、道路や空港・港湾といった輸送インフラ整備、防衛、農業など分野は多岐にわたり、ピークの16年には計288億ドル(約42300億円)に達した。

 

ただコロナ禍では、経済基盤が弱いアフリカ諸国の国家財政は大きな打撃を受け、対外債務の返済が厳しくなるケースが続出。中国も不良債権化を恐れて新規融資を抑えるようになり、22年には融資総額が10億ドル(約1470億円)にまで落ち込んだ。

 

23年にはこういったコロナ禍のダメージからの回復傾向が見られる。同センターによると中国は23年、ナイジェリアでの鉄道網整備マダガスカルでの水力発電所の建設アンゴラでのインターネット網整備――など8カ国と13件の融資契約を結んだ。

 

一方、中国が最近アフリカで融資を行っていないのが、石炭火力発電所計画だ。習近平国家主席は地球規模の気候変動対策の一環として、219月の国連総会で「石炭火力発電所の新たな輸出はしない」と発言した。同センターの集計でも、19年以降は新規の石炭火力発電所融資は確認されていない。中国がアフリカでも「脱炭素」にかじを切っていることが読み取れる。

 

中国の海外開発融資は「外交機密」を理由に詳細が公表されないケースがある。また中国の企業や人材を利用することが前提の「ひも付き」の融資が大半だ。支援を受ける側が返済に窮し、資産などを差し押さえられてしまう「債務のわな」に陥るリスクが高いと国際的に批判されてきた。

 

同センターによると、中国は近年、アフリカ輸出入銀行(エジプト・カイロ)やアフリカ金融公社(ナイジェリア・ラゴス)といった国際的な開発金融機関を通じた融資にも力を入れている。中国政府が前面に出ることがないため、融資に伴うリスクや批判を回避できるメリットがある。

 

中国が0023年に行ったアフリカ向け融資は、49カ国と七つの開発金融機関などに対して計約1823億ドル(約27兆円)だった。中国は今後、従来の「重厚長大」から「量より質」を重視する路線にかじを切りつつ、アフリカへの影響力を維持・拡大していく狙いとみられる。【平野光芳】

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そうした支援・融資の質・量の変化はあるものの、中国は毛沢東時代から一貫して対アフリカ外交を重視しており、そのことは今も変わりません。

 

****中国が6年ぶりにアフリカ諸国と首脳会合 グローバルサウスを取り込みへ 北京で6日まで****

中国とアフリカ諸国が参加する「中国アフリカ協力フォーラム」の首脳会合が4日、北京で開幕。2018年以来6年ぶりの開催となる。

 

習近平国家主席は会合出席のため訪中した各国首脳と相次いで会談し、グローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)の取り込みを図った。

 

2000年に発足した同フォーラムには50カ国以上が参加している。6日まで開かれる今回の首脳会合について、中国メディアは「中国が近年主催した外交行事中で最大規模」と強調する。(中略)

 

習氏は4日までに20カ国以上の首脳と個別に会談し、南アフリカやナイジェリアなどと2国間関係の格上げを宣言した。ロイター通信によると、4日にはタンザニアとザンビアを結ぶ鉄道の改修に向けた合意文書の署名に習氏も立ち会った。

 

中国としては、米欧との対立激化も念頭にグローバルサウスとの関係強化を進める狙いとみられる。習氏は2日に行った南アフリカのラマポーザ大統領との会談で、「国際情勢が複雑になるほど、グローバルサウス諸国はますます独立自主、団結、協力を堅持し、国際的な公平や正義をともに守る必要がある」と発言した。【94日 産経

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****習主席「運命共同体だ」関税ゼロに200億円の食糧援助会議にアフリカ50カ国超が参加****

中国が主催し、アフリカの50以上の国の首脳らが参加する会議が北京で開かれ、習近平国家主席が「中国とアフリカは運命共同体だ」とアピールしました。

中国 習近平国家主席 「中国とアフリカの関係は新時代の『全天候型運命共同体』にレベルアップする」

「中国アフリカ協力フォーラム」の開幕式で習主席は貿易や農業など10分野での協力を打ち出しました。
貿易では発展途上国33カ国の製品の関税をゼロにする優遇措置を取るほか、食糧援助として10億元、約200億円を提供するとしています。

また、安全保障分野でも同じく10億元を無償援助し、アフリカの軍人などの育成に協力するとしました。

中国はこれらの援助を通じ、「グローバルサウス」と呼ばれるアフリカ諸国への影響力を高めたい考えです。

アフリカ記者 「中国はウガンダに友好的なローンを提供してくれる。多くのインフラのメガプロジェクトが役に立つ」

会議にはアフリカ各国から多くの記者も招待され、各国に成果を強調する狙いもあります。【95日 テレ朝news】

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****対アフリカで7兆円支援へ=「米欧との違い」アピール中国主席****

中国の習近平国家主席は5日、北京で開催中の「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合で基調演説を行った。アフリカ諸国首脳が一堂に会する中、今後3年間で3600億元(約7兆3000億円)の資金援助を実施することや、軍事協力の強化を表明した。

 

首脳会合は4〜6日の日程で、中国外務省によると、50以上のアフリカ諸国・機関の首脳らが出席した。習氏は5日の演説で「中国とアフリカの関係は史上最良だ」と強調。

 

対立する米国を念頭に「西側諸国は近代化の過程で多くの発展途上国に苦難をもたらしたが、中国とアフリカは絶えず歴史の不公平を正そうとしてきた」と述べ、米欧との違いをアピールした。【95日 時事

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また、経済・安全保障だけでなく、医療支援といったイメージアップ活動も行っているあたり、明確な国家戦略が窺えます。

 

****中国海軍の病院船「平和の方舟」、コンゴ共和国訪問へ****

海外医療支援任務「和諧使命−2024」を遂行中の中国海軍病院船「平和の方舟」が11日、アンゴラでの7日間にわたる友好訪問を終え、同国のルアンダ港を離れて7カ所目の訪問先となるコンゴ共和国に向かった。【914日 新華社

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また、国家レベルの支援だけでなく、人的レベルでの交流も盛んに行われています。

 

****中国の若者はアフリカ就職を目指す 年々深まるアフリカとの関係 習主席「歴史上もっとも良い」背景に失業率や激しい競争****

近年、中国とますます関係を深めているのがアフリカの諸国です。こうした中、今、国では就職先としてアフリカを目指す若者が増えています。(中略)

中国で始まった中国アフリカ協力フォーラム。習近平国家主席は今後3年間で7兆円を超える規模の資金を拠出すると表明しました。

中国 習近平 国家主席 「中国とアフリカ諸国の関係は現在、歴史上、最も良い時期にある」

習主席が強調するように、中国とアフリカの関係は年々深まっています。現在、中国とアフリカの貿易額は過去最高を記録。ここ10年だけでもおよそ1.5倍に拡大しました。農業やインフラ建設に加え、最近は電気自動車やIT分野での経済的な結びつきが顕著です。

こうした中、今、就職先としてアフリカを目指す中国の若者が増えています。

劉さん 「私は今、ナイロビにいます。このような決断をするとは思っていませんでした」

ケニアの首都・ナイロビで半年前から不動産関連の企業で働く劉さん(23)。なぜ、アフリカで就職しようと思ったのでしょうか?

劉さん 「中国の深センで働いていましたが 仕事は好きではありませんでした。競争が激しく、残業が当たり前で、給料もよくなかったからです」

彼女のように激しい競争を避け、アフリカを目指す若者が、ここ数年、増えているといいます。また、若者の失業率が高いこともアフリカへの就職に拍車をかけていると中国メディアは伝えています。

今ではケニアでの暮らしに満足しているという劉さん。

劉さん 「来る前はアフリカは貧しく、安全ではないという情報ばかりでしたが、来てみたら良かったです。アフリカには、まだ多くのチャンスがあります」

今後、新たな活躍の場を求め、新天地を目指す若者はますます増えそうです。【95日 TBS NEWS DIG

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日本では“アフリカでの就職を目指す”若者・・・まず見ないですね。このあたりが、アフリカに対する姿勢に関する日中の違いでもあります。その姿勢・認識が変わらないと日本がTICADでいくらカネをバラまいても余り効果も上がらないかも。

 

【中国をはじめ多くの国から“求愛”を受けながらも貧困から脱却できないアフリカ 債務問題と内戦等による人道的危機の問題が重大な制約に】

“グローバルサウス”重視の昨今、中国だけでなく、日本や欧米、更にはインドや中東湾岸諸国をはじめとする多くのミドルパワーがアフリカへの働きかけを強めていますが、“21世紀はアフリカの世紀”と言われつつも、アフリカの現状は芳しくありません。

 

****<“ミドルパワー”から求愛されるアフリカ>盛んな投資を受けるも貧困から脱却できない複雑な背景****

フィナンシャル・タイムズ紙(FT)の8月30日付社説‘The middle-power competition in Africa’が、アフリカにおいて湾岸諸国等のミドルパワーの影響力争いによりもたらされている成長の機会をアフリカ諸国が無駄にしている、と論じている。要旨は次の通り。

 

アフリカが世界の主要議題となることはほとんどない。しかし、このような明白な経済的、戦略的影響力の欠如にもかかわらず多くのアフリカ諸国は、トルコ、ブラジル、ロシアなど様々な国から求愛されている。

 

このような「ミドルパワー」の関心は、アフリカの指導者たちに投資と戦略的パートナーに関する多くの選択肢を提示している。

 

このような多様な選択の可能性を巧みに利用すれば、各国が貧困から脱却できる機会になるかもしれない。重要なインフラ・プロジェクトに関しより良い取引ができ、一次産品取引に原材料の国内加工を伴うことを主張することもできる。アフリカ大陸自由貿易地域を加速させるべきであり、それだけで分断された経済を魅力的な単一市場に変えることができる。

 

英、仏といった旧植民地大国は長年にわたり、アフリカ大陸に生産的に関与しようと苦闘してきたが、かえって反発を招いてきた。

 

米国は、冷戦後、冷淡になった。投資家は、アフリカとの距離と厳しい贈賄防止法によって意欲をそがれた。ワシントンはアフリカをほとんど安全保障の観点からしか見なかったが、バイデン大統領のもとで、戸惑いながらも再関与の兆しを見せている。

 

米国と欧州の影響力の相対的な低下による空白を最初に埋めたのは中国である。その後にインドや湾岸諸国をはじめとする多くのミドルパワーが加わった、アフリカは国連に人材と票を提供している。

 

長期的には、アフリカには市場が約束されている。2050年までにアフリカの人口は25億人に達しその半分は25歳以下である。彼らがそこそこの生活水準に達するだけで、それは大量の消費者となる。また、コバルト、リチウム、マンガン、銅などのエネルギー転換鉱物をめぐる競争も激化している。

 

アフリカから見れば、この新たな関心は選択肢を意味する。タンザニアはドバイが運営する港を、ガーナとニジェールはトルコが建設する空港ターミナルを、中央アフリカとマリはロシアの傭兵を選んだ。

 

選択肢にはコストが伴う。欧州のアフリカへの投資は、中国にはない国内的な精査を受けることになる。しかし、中国からの借金の累積は、ザンビアからエチオピアに至るまで、債務不履行の波につながっている。

 

無用の長物のような投資が多すぎるのだ。ケニアに建設された40億ドルの中国鉄道は、経済の生産性向上よりも、政治家の取り巻きのために建設された。

 

ミドルパワーは、新たな安全保障上の絡みをもたらしている。スーダンの内戦へのアラブ首長国連邦(UAE)の介入は、世界最悪の人道的大惨事を長引かせている。金やダイヤモンドで報酬を得るロシアの傭兵は、経済的、社会的発展の面では何も提供しない。

 

ケニアの抗議者たちが指摘しているように、アフリカの指導者たちは、国家の発展のためではなく、自分たちの利益のために行動することがあまりにも多い。

 

アフリカにおける競争は、より多くの成長、より多くの製造業、そしてより多くの雇用の拡大が期待できるが、提供されている新たな関与のパターンによる機会を、今のところ、ほとんどのアフリカの政府が浪費している。

 

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アフリカの発展へ考慮すべき点

上記の社説の、ミドルパワーのアフリカへの関心を効果的に利用すべきだとの指摘は、現状の一面において的確な指摘ではあるが、アフリカの発展について論ずるのであれば、社説中に簡単に言及のある、債務問題と内戦等による人道的危機の問題が重大な制約となっていることを無視することはできず、これらの面を合わせて考慮しなければバランスが取れない。

 

8月28日付ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙の解説記事によれば、アフリカの対外債務は昨年末で1兆1000億ドル以上に達し、20カ国以上が過剰債務を抱え、外国債権者の数と多様性が従来になく際立ち、解決を困難にしている。

 

対外債務はナイジェリアで400億ドル、ケニアで350億ドル、ウガンダで120億ドルに達し、債務返済のための増税に反対する大規模な抗議活動やインフレ、極度の貧困の下での反政府デモが頻発している。

 

これらの国の債務の7080%は中国が債権者であるが、中国は、債務救済に消極的で、債務不履行に陥ったザンビアは、債務再編まで4年近くかかった。この債務問題は、アフリカから成長の機会を奪い、社会的不安定を煽るものである。

 

また、人道的危機については、現在、スーダン、マリからナイジェリア北部に至るサヘル地域、中央アフリカ、コンゴ民主共和国東部、ソマリア、リビアといった地域で、内戦や過激派イスラム組織との武力衝突といった状況がある。

 

特に、スーダンでは、1年以上続く内戦で850万人の避難民が生じており、反乱軍を支援するアラブ首長国連邦が紛争終結の鍵を握るとされている。また、コンゴ民主共和国東部ではルワンダが介入する長年の紛争で730万人が故郷を追われた避難民となっているとされる。(後略)【916日 WEDGE

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9月5日、国連のグテレス事務総長は中国アフリカ協力フォーラム首脳会合でアフリカ諸国について、不十分な債務救済や資源の乏しさが社会不安につながっているとの認識を示し、国際的な金融構造の改革を促しています。

 

****国連事務総長、不十分な債務救済がアフリカの社会不安の原因と警告****

国連のグテレス事務総長は5日、アフリカ諸国について、不十分な債務救済や資源の乏しさが社会不安につながっているとの認識を示し、国際的な金融構造の改革を促した。

ケニアでは増税に反対するデモ隊と警察が衝突し、ナイジェリアや ウガンダでは生活費を巡り抗議デモが発生した。

アフリカ諸国は20カ国・地域(G20)が提唱した「共通枠組み」を通じた債務再編を模索してきたが、協議は期待通りに進んでいない。

ザンビアは6月、債務不履行から3年以上を経て、このスキームを活用した債務再編に成功した最初の例となった。

グテレス氏は北京で開催された中国アフリカ協力フォーラム首脳会合で、アフリカの債務は「持続不可能で社会不安の原因となっている」と指摘。

「アフリカは効果的な債務救済を受けることができず、資源も乏しく、国民の基本的なニーズに応えるための資金も明らかに不足している」と述べた。

その上で「時代遅れで非効率的な国際金融構造の抜本的改革」の重要性を指摘し、中長期的な解決策を模索しつつ流動性の提供を可能とする政策の必要性を訴えた。【95日 ロイター

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ミャンマー  徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者 水害で“異例”の国際社会への支援要請

(ミャンマー・ネピドー近郊で物資を運ぶ人たち【914日 共同】 首都ネピドーはいいですが、問題は戦闘が続いているような奥地に支援が届くかどうかです)

 

【徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者】

国軍と少数民族武装勢力及び民主派武装組織との戦闘が続くミャンマーでは、国軍の兵員不足を補うために210日に徴兵制の実施が宣言されました。

 

その内容や時期については二転三転しており、若者たちの人生が翻弄されていますが、同時に就労のための国外出国が禁止になるなどの措置も。

 

周知のように、ミャンマーでは多くの若者が日本での就労を希望して日本語学校で学んできましたが、彼らの道も閉ざされた形になっています。

 

****ミャンマー「徴兵宣言」から半年、苦渋の選択を迫られる日本語学習者たち****

2021年にクーデターを起こしたミャンマー軍事政権は、今年210日に徴兵制の実施を宣言したが、対象者や実施時期に関する発表が二転三転し混乱を招いている。民主化時代に日本企業への就職を目指して日本語を学び始めた若者たちは、不条理な現実と折り合いをつけながらそれぞれの未来を選択している。(中略)

 

ミャンマー人は祝日がころころ変わることなど日常茶飯事と笑い飛ばす。実際、徴兵制度という人の一生を左右するほどの重大事でさえ、猫の目のように内容変更が繰り返されている。

 

▽2024210日に徴兵制の実施を発表。

▽220日に女性の徴兵対象外とする現在は徴兵の対象としている。

特定技能・育成就労など就労目的の出国禁止令を発令撤回現在は男性にのみ就労目的の出国を禁止。

徴兵制は4月下旬からと発表⇒3月末に開始。

 

現在もいつ実施内容が変更されるかわからない状況だ。国軍メディアと独立系メディアの報道が入り混じり、さらにSNSの無責任情報や町中での噂話が混在している。その中に、それらの情報に振り回される個人の現実が存在する。

 

「もう日本には行けない」――授業も希望も捨てた生徒

あるヤンゴンの日本語学校の教師が「まるで防空壕の中で震える人を見ているかと思った。戦争経験などないのに」と話してくれたことがある。210日、軍が徴兵制の実施を発表した日の話だ。

 

日本語教師は前日となんら変わらない朝を迎え、いつものように授業に向かったところ、教室の教え子たちがみな土気色をした顔で表情がないことに驚いたという。昨日と何が違うのか? 重い空気だけが教室に淀んでいる。みな平静を装い受講しているものの、休憩時間にはひそひそ話が始まる。

 

異様な様子に驚いている日本語教師にスタッフが、徴兵制の発表があったのだと説明した。日付が変わった頃からSNSで情報が出回っており、そのスタッフも昨晩は一睡もできなかったという。一方、日本人である教師は、徴兵制がもたらす現実の重みをすぐには理解できなかった。

 

徴兵の対象は男性18歳〜35歳、女性18歳〜27歳。学生、公務員は猶予するという発表だった。ミャンマー報道の難しさに定義の曖昧さがある。年齢を出生時で1歳とする場合(数え年)と出生後1年目に1歳とする場合(満年齢)があり、場合によってどちらを使用するかもまちまちであるため、発表された年齢を正確に把握することができない。

 

ミャンマーの徴兵制は2010年に導入されていたが未実施のままであった。民主派や少数民族武装勢力と軍の攻防が激化し、軍が劣勢になり始めたという情報が飛びかう中での実施発表だった。しかし、発表と同時に疑問の声があがった。

 

投降・脱走などによる兵士不足を補うための徴兵制ということだが、「軍事政権」と「民主派」がもめている状況下、後者の側に立って軍に抵抗する傾向が強い一般の若者たちを徴兵して、軍人にできると考えているのか?

「だから、軍はバカなんですよ」と嬉しそうに耳打ちする人もいる。大声では言えないが言わずにはいられないのだろう。しかし、軍を批判したところで若者が徴兵制に震えていることは事実なのだ。(中略)

 

それぞれの意見・分析がどうであろうと、現政権(軍)の決めたことに抗うことはできない。国民がいうところの「めちゃくちゃ」な内容変更も続く。

 

ミャンマーの海外人材派遣協会(MOEAF)は213日、海外就労に対する求人の情報更新を停止すると発表。在ミャンマーの日本の送り出し機関には労働局から、徴兵条件に当てはまる若者に対しての送り出し中止の通達が届いた。関係者の話によるとこの通達は電子メールなどで各送り出し機関に伝えられ、軍評議会労働省からの公的な正式発表はなかったという。

 

それでも、就労目的のミャンマー人が通う日本語学校が次々と休校(時には閉鎖)しているという話が広がった。事実がどうであれ、軍の思惑に従うポーズは必須と考えるのは事業者として当たり前だろう。

 

逆に、できるだけ早く教え子たちを日本に脱出させる必要を唱える人々もいた。ある日本語学校のミャンマー人校長は「軍の決めたことはすぐに変わる。私の学校は休校にしませんでした。就労目的の授業は普通に行っていますよ。でもね、徴兵制の発表直後にもう日本に行けないと落胆しきった一人の生徒は、授業を放棄して、つまり今までの努力も希望も放り出して田舎に帰ってしまいました。止めるわけにはいきません。私は田舎までの道のりのほうが危険だとは思いましたが…… 徴兵制の実施が発表された2月はこのような混乱が続いていた。

 

留学か就労か、それぞれの選択

(中略)このように大きな混乱を呼んだ徴兵発表の日から、半年がたった。ヤンゴンで日本語を学ぶ若者たちは今何を考えているのか。旧知の日本語教師に教え子を紹介してもらい、今後の人生プランについて聞いてみた。

 

〈介護奨学金で脱出する〉男性・27

A君は日本語能力がN3(日常的な会話をある程度理解できるレベル)、通信大学中退(中退の理由はクーデター)の27歳だ。

 

男性の就労目的の出国は248月現在では認められていない。だから、A君は特定技能や育成就労のような申請で日本へ行くことはできない。そうかといって、自費で学生として留学することなど完全に不可能な経済状況だ。「選択肢は介護奨学金留学生の立場での出国一択になります」という。

 

介護奨学金制度では、介護福祉士の資格を取るための約2年間の学費を介護施設が提供し、その奨学金の返済期間として約5年間の就労が条件となる。7年間の拘束期間が確実となる選択であるが、本人はなるべく早く国を出ることを最優先する選択に迷いはないという。20代後半〜30代半ばという貴重な時期を、自分の意志での進路変更が不可能な環境で過ごすと決めた。

 

A君の友人は「ふた月前はちょっと長めの黒髪のイケメンでしたが、あっという間に白髪が増えたんですよ」と彼の胸中を察していた。「介護奨学金を受けるには日本語能力N3が絶対に必要。A君はのんびり屋さんの印象でしたが、これだけの短期間に日本語学習をしたことをほめてやりたいです」

 

〈大卒でも「特定技能」を選ぶしかない〉女性・20代後半

介護奨学金で渡日することができない例も存在する。Bさんは日本語能力N2(上から2番目のレベル)の大卒。面倒見のいい女性であり、介護分野は自分に向いていると思っていたと話す。しかし、介護奨学金ではなく特定技能の在留資格で渡日を目指すこととした。

 

「私のパスポートはPJなんです」

ミャンマーのパスポートには種類がある。PJとは「パスポート・ジョブ」のことで、就労用パスポートを意味する。コロナ禍前、特に渡航目的を定めずにパスポート申請をしたBさんは、PV(パスポート・ビジット=観光用パスポート。留学も可)より使い勝手が良いかもしれないとPJを選択していた。

 

ところが人によっては、パスポートがPJであるかPVであるかが、ミャンマー出国の成否を分けることになる。就労目的で出国しようとして、パスポートがPVであったため出国できなかったという事例があった。飛行機にチェックインし、いざ出国というときにはじかれたのである。

 

(中略)たまたま選んだパスポートの種類によって、人生の選択肢が絞られてしまったのである。

 

パスポートの新規取得さえ難しくなっている今、PJPVに変更するのにどれほど時間とお金がかかるかわからない。手持ちの条件の中で少しでもマシな人生を選択することが賢明だ。BさんはPJの有効な使い道は特定技能での渡日と判断。14種ある特定技能のうち、介護ではなく宿泊業を選ぶそうだ。(後略)【912日 新潮社 Foresight

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【軍事政権 台風11水害で“異例”の国際社会への支援要請】

台風11号は96()に中心気圧925hPaの非常に強い勢力で中国の海南島に上陸し、その後7()にはベトナムに上陸しました。この台風は戦闘に疲弊するミャンマーにも大雨を降らし、甚大な洪水被害をもたらしました。

 

****ミャンマー軍“大雨による洪水などで死者226人、行方不明者77” 東南アジアで被害拡大 4か国で約500人死亡****

ミャンマー軍事政権は、連日の大雨による洪水や土砂崩れで226人が死亡し、77人が行方不明となっていると発表しました。

ミャンマーでは今月9日以降、大雨による洪水や土砂崩れの被害が各地で相次ぎ、首都・ネピドーでも多くの家屋が浸水しました。

国の実権を握るミャンマー軍は17日、これまでに全土で226人が死亡したほか、77人が行方不明になっていると発表しました。

OCHA=国連人道問題調整事務所は「631000人が被災したと推定される」としたうえで、通信の遮断や道路の寸断などに加え、クーデター以降続いている軍と抵抗勢力の武力衝突で救援活動が妨げられているとしています。

戦闘の長期化で、国内の避難民はすでに200万人を超えており、人道危機のさらなる悪化が懸念されています。

東南アジアでは、台風11号が熱帯低気圧に変わったあとも大雨の被害が拡大していて、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーの4か国で、死者はあわせておよそ500人に上っています。【917日 TBS NEWS DIG

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この種の災害被害に関し、ミャンマー軍事政権には深刻な“前歴”があります。

20085月、サイクロン「ナルギス」によって死者・行方不明者13万人超という甚大な被害を被ったにもかかわらず、軍事政権は大部分の国際支援が入るのを拒否し、新憲法の国民投票実施を強行しました。

 

国民の生命より政治日程を優先させる軍事政権の姿勢は当時国際社会から強い批難を浴びました。

 

*****ミャンマー  国民投票強行、進まない救援活動、物資横流しも・・・****

(中略)

被災地を封印
サイクロン被害の救援活動については、外国・国際機関からの人的支援を拒んできましたが、タイ・インドといった近隣の比較的良好な関係を持つ国々からの支援は認めたものの、その他については以前頑なな姿勢を崩していません。

軍政は被災地の封印を図っているとも伝えられます。【515日 毎日】
ヤンゴンから被災地に向かう道路に検問所を設け、通過車両を1台ずつチェック。外国人が乗っていると、強制的に引き返させています。


被災地に入る援助関係者には事前に「特別許可」を取得するよう求めていますが、国連関係者によると、許可はわずかしか発行されません。


一般市民が食糧など救援物資を直接持ち込むことも禁止し、政権の翼賛団体に寄付するよう求めています。
 
そんななか、国連事務総長から軍政トップの国家平和発展評議会議長に全面的な支援受け入れを求めた3通目の書簡を託された緊急援助調整官室の事務次長が、18日にミャンマーを訪問する予定です。

援助物資横流しも
現地からは、軍政の救援活動の不十分さ、あるいは物資横流しなどの情報が多数報じられています。

「(被災地で)軍による救援活動を一度も見なかった」「援助なんて何も来ていない」「あれだけ軍隊がいるのに、何をやっているのか」「軍事政権は被災地での被害状況調査も一切行っていない」【517日 毎日】

「役人が救援物資の国際援助食糧を質の悪いものにすり替え、被災者に渡しているのを目撃した」
「軍人が小袋の米を1万チャット(約1000円)で売っていた」
ヤンゴン空港に届いた被災地用の発電機が新首都ネピドーに転送されたとの目撃情報もある。【516日 読売】

タイが送った援助用食料が同市内の市場で売られているほか、援助物資として届いた防水シートや蚊帳、即席めんなどが市場の内外に立つ露天で販売されている。【514日 時事】

海外から届いた援助物資に「○○将軍から○○地区への寄付」と書いた紙が貼られていた。【516日 IPS】(後略)【2008517日ブログより再録

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20235月14日にも、猛烈なサイクロン「モカ」が上陸。西部ラカイン州などが大きな被害を受け、500人以上が死亡したと報じられていましたが、国連の支援などを制限、避難民に救援物資を届けようとしたASEAN代表団を乗せた車列が銃撃されるなど、支援活動はうまく進みませんでした。

 

そうした“前歴”を踏まえてのことでしょうか、今回は“異例”の国際社会への支援要請を行っています。

 

*****ミャンマー軍政、台風被害で国際社会に異例の支援要請 32万人避難****

ミャンマーで台風による洪水被害が拡大し、軍事政権が国際社会に支援を求める異例の事態になっている。

 

軍政によると、今月上旬に東南アジアを襲った台風により、国内で少なくとも113人が死亡し、32万人が避難しているという。軍政はこれまで外部の介入を嫌ってきたが、抵抗勢力との戦闘の長期化で疲弊し、支援に頼らざるをえない状況とみられる。

 

国営メディアは14日、ミンアウンフライン最高司令官が「救助や物資の支援を受けるため、外国と連絡を取る必要がある」と述べたと報じた。

 

東南アジアとの関係強化を進めるインド政府は15日、ミャンマーに医薬品など10トンの緊急支援物資を送ったと発表。インドのジャイシャンカル外相は同日、X(ツイッター)にミャンマーやベトナム、ラオスに送る物資を軍艦などに積み込む写真を公開した。

 

ミャンマーでは20235月にも大型サイクロンによる甚大な被害が出た。当時、国連などが支援を申し出たが、国軍は軍の関与なしに物資を市民に届けられないように制限。そのため、復興が難航し、国連人権高等弁務官が国軍を非難した経緯がある。

 

21年にクーデターで全権を掌握した国軍は国際社会から孤立し、内戦の長期化で社会や経済の混乱を招いてきた。国内避難民は既に300万人を超えたとされ、災害が国民生活に追い打ちをかけている。【916日 毎日

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17日発表では死者は226人に。

 

“独立系地元メディア「イラワジ」によると、16日現在で30万人以上が避難している。国軍のほかミャンマーの民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」なども17日、食料や医薬品など物資の提供を国連などに呼びかけた。”【917日 読売

 

支援物資は戦闘によって阻害されることなく速やかに被災地に届くことを願います。

 

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