―20100810―
銀魂界の快男児、高杉晋助さんの生誕に捧ぐ。
~かぶき町銀 デレラ~
善と悪、また酔と狂――
うつつ世の清濁を併せ呑む町、かぶき町。
悲喜交々の染み渡るこの町に、今日も日本の夜明けがやってくる。
*
「なんだい朝っぱらから辛気臭いね、クダ巻くなら他所でやっとくれ」
かぶき町の一杯飲み屋、スナックお登勢の女将、お登勢は、まだ暖簾のあがらぬ暗い店内で、カウンターに突っ伏したまま顔をあげようともしない銀色のつむじを見下ろして、やれやれといった体で溜息をついた。
「どこ放っつき歩いてたんだか知らないけど、珍しくあんた一人でやって来たと思ったら」
お登勢はちらりと目をやるが、男はぴくりとも動かない。傍らに置かれたコップ酒だけが、男のそれまでを語っていた。
「そう強くもないくせにサ、まったく」
無理すんじゃないよ、お登勢はそう言うと、櫛の形に切り揃えられた大根を、手際よく鍋へと流し込んだ。白い湯気がのぼり始め、次いで、まろみのある醤油の香りが店を満たす。
酔いつぶれてしまったのか、二階の居候の背中はゆるく上下を繰り返すのみであったが、お登勢はこの男の性質(タチ)を十分に承知していたのだ。
「逃げ打ってたって仕方ないだろ、覚悟を決めるんだね」
青菜の小鉢が鮮やかな色を放ち、銀の曲毛の先に置かれる。くるりと醤油をさしてやると、死んだように押し黙っていた男は、のろのろと顔をあげ、カウンター越しのお登勢を恨めしそうな目で睨んだ。
「ふん、情けない顔してらァね。顔でも洗って、シャキっとしといで」
磨り硝子の引き戸からは、活気を帯びだした通りの声が漏れ聞こえ、かぶき町に本格的な朝がやってきたことを知らせている。
八月十日。
かぶき町に、八月十日の朝がやってきたのだ。
*
その前日―――
「―――おう、……いや、今のところ別に用事はねぇよ、まだ分かんねーけど。……ああ、気が向いたらな」
チン、と軽い音がして受話器は置かれ、銀時は腰掛けた椅子をぐるりと回転させた。新八は、何も言わずに椅子を揺らしているだけの銀時を不思議そうに見やると、淹れたばかりの湯飲みを机に置いた。
「誰からだったんです?」
「あ?」
「いえ、今の電話」
「なんでもねえよ、間違い電話だ」
「え、だって……」
どう見たって誰かと会話してたじゃないですか、新八がそう口に出すのを一瞬ためらった隙に、銀時は立ち上がった。
「ちょいと出てくらぁ。新八、遅くなるかもしんねーから、神楽には戸締りして先に寝とけって伝えといてくれ」
「えっ、ちょっと銀さん」
呆気にとられる新八を尻目に、銀時の姿は引き戸の向こうへと消えていった。新八は暫くの間、主の消えた玄関先を呆然と眺めていたが、やがて諦めたように溜息をついた。
「……銀さんのちょっとは当てにならないからなぁ」
どこか悩ましげな様子で受話器を握る横顔が脳裏に浮かぶ。新八は、もう一度溜息をつくと、机に置かれた湯飲みに目を落とした。
手の付けられなかったそれから、白い湯気が静かに立ちのぼっていた。
*
「銀時ではないか」
聞き覚えのある声がして、銀時は顔を上げた。
「ヅラか」
「ヅラじゃない、桂だ」
夕暮れ時のかぶき町は忙しない。家路を急ぐ者、あるいは、これから花開かんとする夜の蝶たち。喧騒の中、ひとり涼やかな面立ちでプラカードを握る長髪の男は、白い奇妙な生き物と並んで、蝶ネクタイ姿で立っていた。
「何してんだテメー」
「ふっ、志貫かんとすれば物要りであろう。何事も尊き攘夷のため、……!あっイイね!お姉さんイイね君!君ならすぐウチのナンバーワンになれちゃうよ!どう?!」
首から下げた看板に『ハメっ娘倶楽部☆タレント募集』という文字が、いかがわしいピンク色で揺れている。銀時は無言で踵を返した。
「待て、どこへいく」
背後からがしりと肩をつかまれて、銀時は足を止めた。
「なんだよ。悪いが客引きならご免だぜ、俺ァ積極的な女は好かねーんだ」
「誰が客になれと言った。貴様ならすぐウチのナンバーワンに…」
ゴッ
「相変わらずの腕だな、銀時」
桂は地面から身を起こすと、鼻血の垂れる顔を、ふっと不適に歪ませた。
「てめー本物のヅラになりてーか」
「まあ待て、そう気色ばむものでもなかろう」
引き抜かれた木刀が自分に向けられることに構う様子もなく、桂は膝の土を払いながら立ち上がり、何かを含めるような目で銀時を見つめた。
「銀時、明日はkこの界隈の祭りだそうだな」
「……らしいな」
「ふん、惚けおって」
「何が言いてーんだ」
「ヤツと会うのであろう」
銀時は黙った。
町ゆく人々はそれぞれの場所へと帰っていく。空は茜色に焼け、桂の真っ直ぐな目が自分を見ていた。銀時は、がりがりと頭を掻くと、目をそらした。通りを駆けてゆく子供たちが、明日の祭りのことを興奮気味に話すのが聞こえてくる。
「因果なものだな、銀時」
子供たちの後姿を見送る銀時の目線を追いかけて、桂が言った。
「今も昔も、変われぬものがあるということか」
「そんなんじゃねぇよ」
銀時の頬を、昼の熱を帯びた風が撫でていった。
「昔のことだ。俺は、もう忘れちまったよ」
ほとんど呟くように、銀時は答えた。少し、また少しと暮れてゆく景色の中に、銀時の姿は溶けていくかのようだ。いつの間にか青年になった幼馴染の姿に、ふと、出会った頃の面影が重なった。あの日も、お社を祀る小さな村祭りがあった。懐かしい緑の畦道を走るのは、師の背を追う小さな自分と、銀髪の少年と、そして――――。
*
ぽむぽむ、と、肩を叩かれる感覚に、桂は意識を引き戻した。
「エリザベス」
気がつくと、エリザベスがプラカードを片手に自分を覗き込んでいる。手にしたそれには、『銀時さん、行っちゃいましたよ』と書かれていた。
「そうか……」
エリザベスは、言葉少ない桂を案じているのか、しきりにプラカードを書き換えては桂の顔を覗き込んでいる。桂はそれを気に留める様子もなく、銀時の去ったであろう道の向こうを眺めていた。
「変われぬもの、か」
桂はつぶやいた。
「人というものは、変われぬものだな」
誰に聞かせるともなく話す桂の言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだ。
「俺はな、あいつらが、鬼ごっこに興じる童子(わらし)のように思えてならぬのだ」
エリザベスは、ついぞ見せたことのない主人の感傷的な様子に、新しく書き換えたプラカードを掲げて見せた。桂はそれを読み終わると、やがて、かもしれんな、と言って微笑んだ。
「ふたりとも鬼では埒の明かぬというものだ。なあエリザベス」
プラカードには、恋に似ていますね、と書かれていた。
*
――――高杉から電話があった。
先ほどから銀時の脳裏をめぐるのは、受話器越しに耳元に響く、高杉の声だった。
つづく
残念ながらここまでが精一杯!
ごめんね高杉!
お前さまのハニーとご対面まで辿りつけなかったよォォ
でもきっちりイチャラブさせる気まんまん。
遅刻でお祝いするよ!
高杉、おたおめ!銀時さんと幸せにね!
銀魂界の快男児、高杉晋助さんの生誕に捧ぐ。
~かぶき町銀 デレラ~
善と悪、また酔と狂――
うつつ世の清濁を併せ呑む町、かぶき町。
悲喜交々の染み渡るこの町に、今日も日本の夜明けがやってくる。
*
「なんだい朝っぱらから辛気臭いね、クダ巻くなら他所でやっとくれ」
かぶき町の一杯飲み屋、スナックお登勢の女将、お登勢は、まだ暖簾のあがらぬ暗い店内で、カウンターに突っ伏したまま顔をあげようともしない銀色のつむじを見下ろして、やれやれといった体で溜息をついた。
「どこ放っつき歩いてたんだか知らないけど、珍しくあんた一人でやって来たと思ったら」
お登勢はちらりと目をやるが、男はぴくりとも動かない。傍らに置かれたコップ酒だけが、男のそれまでを語っていた。
「そう強くもないくせにサ、まったく」
無理すんじゃないよ、お登勢はそう言うと、櫛の形に切り揃えられた大根を、手際よく鍋へと流し込んだ。白い湯気がのぼり始め、次いで、まろみのある醤油の香りが店を満たす。
酔いつぶれてしまったのか、二階の居候の背中はゆるく上下を繰り返すのみであったが、お登勢はこの男の性質(タチ)を十分に承知していたのだ。
「逃げ打ってたって仕方ないだろ、覚悟を決めるんだね」
青菜の小鉢が鮮やかな色を放ち、銀の曲毛の先に置かれる。くるりと醤油をさしてやると、死んだように押し黙っていた男は、のろのろと顔をあげ、カウンター越しのお登勢を恨めしそうな目で睨んだ。
「ふん、情けない顔してらァね。顔でも洗って、シャキっとしといで」
磨り硝子の引き戸からは、活気を帯びだした通りの声が漏れ聞こえ、かぶき町に本格的な朝がやってきたことを知らせている。
八月十日。
かぶき町に、八月十日の朝がやってきたのだ。
*
その前日―――
「―――おう、……いや、今のところ別に用事はねぇよ、まだ分かんねーけど。……ああ、気が向いたらな」
チン、と軽い音がして受話器は置かれ、銀時は腰掛けた椅子をぐるりと回転させた。新八は、何も言わずに椅子を揺らしているだけの銀時を不思議そうに見やると、淹れたばかりの湯飲みを机に置いた。
「誰からだったんです?」
「あ?」
「いえ、今の電話」
「なんでもねえよ、間違い電話だ」
「え、だって……」
どう見たって誰かと会話してたじゃないですか、新八がそう口に出すのを一瞬ためらった隙に、銀時は立ち上がった。
「ちょいと出てくらぁ。新八、遅くなるかもしんねーから、神楽には戸締りして先に寝とけって伝えといてくれ」
「えっ、ちょっと銀さん」
呆気にとられる新八を尻目に、銀時の姿は引き戸の向こうへと消えていった。新八は暫くの間、主の消えた玄関先を呆然と眺めていたが、やがて諦めたように溜息をついた。
「……銀さんのちょっとは当てにならないからなぁ」
どこか悩ましげな様子で受話器を握る横顔が脳裏に浮かぶ。新八は、もう一度溜息をつくと、机に置かれた湯飲みに目を落とした。
手の付けられなかったそれから、白い湯気が静かに立ちのぼっていた。
*
「銀時ではないか」
聞き覚えのある声がして、銀時は顔を上げた。
「ヅラか」
「ヅラじゃない、桂だ」
夕暮れ時のかぶき町は忙しない。家路を急ぐ者、あるいは、これから花開かんとする夜の蝶たち。喧騒の中、ひとり涼やかな面立ちでプラカードを握る長髪の男は、白い奇妙な生き物と並んで、蝶ネクタイ姿で立っていた。
「何してんだテメー」
「ふっ、志貫かんとすれば物要りであろう。何事も尊き攘夷のため、……!あっイイね!お姉さんイイね君!君ならすぐウチのナンバーワンになれちゃうよ!どう?!」
首から下げた看板に『ハメっ娘倶楽部☆タレント募集』という文字が、いかがわしいピンク色で揺れている。銀時は無言で踵を返した。
「待て、どこへいく」
背後からがしりと肩をつかまれて、銀時は足を止めた。
「なんだよ。悪いが客引きならご免だぜ、俺ァ積極的な女は好かねーんだ」
「誰が客になれと言った。貴様ならすぐウチのナンバーワンに…」
ゴッ
「相変わらずの腕だな、銀時」
桂は地面から身を起こすと、鼻血の垂れる顔を、ふっと不適に歪ませた。
「てめー本物のヅラになりてーか」
「まあ待て、そう気色ばむものでもなかろう」
引き抜かれた木刀が自分に向けられることに構う様子もなく、桂は膝の土を払いながら立ち上がり、何かを含めるような目で銀時を見つめた。
「銀時、明日はkこの界隈の祭りだそうだな」
「……らしいな」
「ふん、惚けおって」
「何が言いてーんだ」
「ヤツと会うのであろう」
銀時は黙った。
町ゆく人々はそれぞれの場所へと帰っていく。空は茜色に焼け、桂の真っ直ぐな目が自分を見ていた。銀時は、がりがりと頭を掻くと、目をそらした。通りを駆けてゆく子供たちが、明日の祭りのことを興奮気味に話すのが聞こえてくる。
「因果なものだな、銀時」
子供たちの後姿を見送る銀時の目線を追いかけて、桂が言った。
「今も昔も、変われぬものがあるということか」
「そんなんじゃねぇよ」
銀時の頬を、昼の熱を帯びた風が撫でていった。
「昔のことだ。俺は、もう忘れちまったよ」
ほとんど呟くように、銀時は答えた。少し、また少しと暮れてゆく景色の中に、銀時の姿は溶けていくかのようだ。いつの間にか青年になった幼馴染の姿に、ふと、出会った頃の面影が重なった。あの日も、お社を祀る小さな村祭りがあった。懐かしい緑の畦道を走るのは、師の背を追う小さな自分と、銀髪の少年と、そして――――。
*
ぽむぽむ、と、肩を叩かれる感覚に、桂は意識を引き戻した。
「エリザベス」
気がつくと、エリザベスがプラカードを片手に自分を覗き込んでいる。手にしたそれには、『銀時さん、行っちゃいましたよ』と書かれていた。
「そうか……」
エリザベスは、言葉少ない桂を案じているのか、しきりにプラカードを書き換えては桂の顔を覗き込んでいる。桂はそれを気に留める様子もなく、銀時の去ったであろう道の向こうを眺めていた。
「変われぬもの、か」
桂はつぶやいた。
「人というものは、変われぬものだな」
誰に聞かせるともなく話す桂の言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだ。
「俺はな、あいつらが、鬼ごっこに興じる童子(わらし)のように思えてならぬのだ」
エリザベスは、ついぞ見せたことのない主人の感傷的な様子に、新しく書き換えたプラカードを掲げて見せた。桂はそれを読み終わると、やがて、かもしれんな、と言って微笑んだ。
「ふたりとも鬼では埒の明かぬというものだ。なあエリザベス」
プラカードには、恋に似ていますね、と書かれていた。
*
――――高杉から電話があった。
先ほどから銀時の脳裏をめぐるのは、受話器越しに耳元に響く、高杉の声だった。
つづく
残念ながらここまでが精一杯!
ごめんね高杉!
お前さまのハニーとご対面まで辿りつけなかったよォォ
でもきっちりイチャラブさせる気まんまん。
遅刻でお祝いするよ!
高杉、おたおめ!銀時さんと幸せにね!