何処の誰なのか
現在も過去も
何も知らず行き合った
その人の
しとどに濡れた髪を伝う赤い滴
師走の街に這い出した
断末魔の野獣みたいだ、って
マリコはすぐに引いたけど
腕に残る古い傷痕も
歪な 両の拳に触れた時も
怖くなかった
救急通報する手から
携帯を叩き落とそうと
私を睨み上げた
その眼は
理不尽な死を前に
吐血しながら臨終を迎える
私の夫の
肉体の限界と 生への執着が
ふたつに引き裂かれる
怒りと悲しみを一杯に湛えた
同じ「眼」だった
胸を抉られるような
声にならない悲鳴!
聴いた
マリコは戸惑いながら
救急隊員と警官に 応えていた
何も出来ず
夫の
ベッドの傍らで立ち尽くし
ただ涙を流すだけの私が
其処にいた
「まだ、あの人と付き合ってんの
雨はとっくに止んでるのに
いつになったら傘、畳むの?
あの人と付き合ってても
何もいい事ないと思うよ」
そう …
マリコは
忠告してくれるのだけど …