ずっと母を憎んでいた
二人きりになると目も合わせず
話しも出来なかった
母を奪った男を心の中で何度も消した
自分にもあの女の穢らわしい血が
流れているのだと思うと
自分さえも消してしまいたかった
様々な事情の中で今 母も年を取り
車椅子生活を強いられ
姉夫婦と同居している
お正月は家族が集まるので
私は姉の手伝いに 年末から来ていた
島に帰る日の朝 母は
歩き始めた子のように 伝い歩き
支度する私の側に来て 髪を撫でた
「髪が傷んじょるね
ひとりでも台所に立って
ちゃんと食べな いけんよ」
そっと … そっと 慈しむように撫でる
母の細い指先が私の首筋に当たる
あんなに嫌悪した母の手が
この時ほど優しく
懐かしく感じた事はない
どうしていいか 分からなくて
泣きそうになるのを 笑ってごまかし
玄関から出るまで 母の方を
振り向く事が出来なかった
複雑な大人社会の事情を知らない子供は
子供(私) の目線でしか 物を見れず
取り残され 孤立する中で 自分だけの
歪んだ世界を造り出していた
父も母も感情を持つひとりの
「人間」だったのだ
駅までの道を歩きながら
堰き止めていた涙が急に溢れ出た
おかあちゃん!
人目も憚らず 叫びたかった