本屋さんに、この本が平積みされていても、“感動します”“この本は人を幸せにする力をもっています”“わが書斎の本棚の殿堂入りです”とコメントが書いてあっても、自分では買わなかっただろう。たまたま、娘の友達が誕生日プレゼントにくれたので読んだ。娘が「こういうタイプの本は初めて読んだ。自分では買わないと思う。好みが違うから」と。

美しい家族の物語。絵に描いたような美しい家族。主人公の“僕”のお兄さんは、生まれた時から周りの女の子を釘付けにするほど、美しくハンサム。おまけに記憶力抜群で常に成績もトップ。運動能力も抜群。僕はいつも「はじめくんの弟。長谷川くんの弟」と呼ばれる。

そして、暴力的に美しい容貌と性格の妹。小さい時から、いつも、いつも兄ちゃんにくっついていた妹。どの年齢になっても通り過ぎる人達が「なんて美しい!」と溜息をつくほど美しい妹。人は“美人ね”とは言わない。“美しい”と言うのである。そして「ミキちゃんのお兄さん。長谷川さんのお兄さん」と呼ばれる僕。

世界一幸せだわと言う、美しいお母さん。宇宙一幸せものだと言う、美しいお父さん。そして、その飼い犬の美しくない犬“さくら”

本はその家族と子供達の日常のエピソードが淡々と続いて行く。本当に家族は仲がいい。春、お母さんが設えた花壇が美しく花開いた時、家族と“さくら”の集合写真を毎年撮り続けた。反抗期もなく、美しく年を重ねて行く家族。

ある時、不幸は突然にやって来る。雨の夜、コンビニに買い物に行った、美しいお兄さんが交通事故にあう。下半身をぐちゃぐちゃにされ、美しい顔の半分を削ぎ取られたお兄さん。ここから美しい家族の歯車が狂いだす。すべての人達に賞賛の眼差しを浴び続けてきたお兄さんの日常が、こんどは嫌悪の恐怖の眼差しを浴びる。生きるために車椅子で“さくら”を連れて散歩に出れるようになったが、とうとう自分の命を絶ってしまう。

美しいお父さんが壊れ、痩せこけて小さくなり、とうとう家を出てしまう。美しいお母さんはみるみる際限も無いほどに太り始め、お父さんが愛した細い腰は醜く膨らみ、美しい目鼻立ちはめり込んで記号になってしまう。美しい妹は、恋しい兄ちゃんが死んでしまい、学校にも行かなってしまう。

現実を受け入れ、残された家族が“さくら”を挟んでやっと再生に向かい始める新年で本は終わる。

世の中にはいろんな家族がいる。最初から不協和音だけの家族もいるし、子供が小さい時は楽しい家庭だったが、子供が成長するにしたがい家庭内暴力が始まる家族もいる。そして、今は引きこもり・ニート問題が新聞を賑わす。究極は「人を殺してみたかった」とナイフを持つ。

社会で一番小さくて、そして何よりも大切な家族と言うユニット。たまたま、男と女が好きになり一緒になって子供が出来て家族になる。年月を重ねてそれぞれが成長して行き、どこかで真直ぐの道が分かれてしまったり、曲がってしまったり、行き止まりになってしまったり。

人間の心は決して強くは無い。ちょっとした事で傷つき壊れてしまう事がある。世の中に100%は無いが、たった一つだけ100%がある。それは、この世の生きとし生きる全ての人や生き物に必ず終わりがあると言う事。大富豪でも、権力の頂点にいる人でも、そして私も、その終わりの日に向かい生きて行かなければならない。時間を止める事も、延ばすことも出来ない。そんな事を考えながら、今日の、そして明日の、近い未来の生活を思った。