夏は苦手

とてもとても暑い日


術後の病理結果を聞きに
退院後、はじめて来院した日の備忘録





いつものように
予約時間30分ほど前に受付を済ませると

予防「ほいこさんすみません、
 今日、真顔先生たいへん混み合っていまして
 ご予約2時間半前の患者さまを
 現在診てる状況です。
 かなりお待ち頂くようになってしまうので...
 外出されますか?」

2時間半前の予約を今診てるということは
2時間半後、ってことね。
外出したいけど外は暑いし、その元気はない...

まぁ混んでない時なんてないし
それでも主治医は
だいたい予約時間通りに診てくれてるし
今日もそんなには待たないかも

ニコニコ「大丈夫です。ここで待ちます」





この広い大学病院には
深刻な病を抱えた方が多く来ていると思う

検査室の場所を聞いてる方

診察室で告知された方

入院について説明を受けている方

ついこの間、私がそうだった


医療従事者という職業は

考えれば考えるほど尊く

たいへんなお仕事だよなぁ


先生お疲れだろうな
でもぜったい疲れた顔なんて見せないんだろうな

先生、乳腺外科の医師になってくれてありがとう
主治医になってくれて本当にありがとう



入院前に受診した、持病の甲状腺

20年来の主治医に言われた言葉を思い出す


「いま医療にかかわる我々は皆、

 患者さんの苦痛を少しでも軽減できるよう

 努力しています。

 私の患者さんにも

 ほいこさんと同じような方いらっしゃるけど、

 元気になってる方とても多いです。

 だから不安に思うことなく過ごして下さい。」


入院中、何度も思い出していた

この言葉は

私の御守りのような御利益がありました


医療従事者のみなさんをはじめ
入院中毎日お世話になって
特に仲良くしていただいた
食事担当の方、お掃除の方、髪を洗ってくれる方
みなさんプロで親切で
至れり尽くせり
快適すぎた入院生活

夏の間、ずっといたいと思ったくらい


初診から検査、検査、検査
マンモトーム生検の局部麻酔が効かなかったこととか←
告知
入院準備
手術
退院...
ここに至るまで
ぼんやり思い出していたら
ちょうど2時間半があっという間に経ちました






ニコニコ「入院中は本当にありがとうございました
 今後ともよろしくお願いします」

真顔「 いやいや...  こちらこそね。
 お待たせしました。
 結果の前に、先お傷診よう」

というわけで、まずは手術痕のチェック



真顔「よし、いいね。
 テープはどうしようかな。
 自然に剥がれる迄そのままつけとこうか。
 

手術は、
自然に溶ける糸で内側を縫っているそうで
傷口表面には医療用ボンドが塗ってあり
消毒や抜糸の必要はないとのこと



真顔「痛みはどう?」


ニコニコ「退院して数日経ってから
 時々ヒリヒリピリピリします。
 それと一日に数回、ズキっと1秒くらいの
 衝撃がきます。
 就寝中にもズキっときて、起きたりします。
 痛みはその都度、1秒で終わります」


ほとんどポーカーフェイスの先生が珍しく
眉をひそめた
ああかわいそうにね、そんな感じの表情


真顔「お薬出そうか」

ニコニコ「1秒で終わるので大丈夫です。
 もしそれが異常な後遺症とかでないなら。
 痛み止め飲むほどではないです」

真顔「うん。それは異常ではないよ。
 でもねそれしばらく続くかもしれない。
 1錠飲むだけで1日効くお薬あるんだよ。
 1秒でもさ、ズキっとならなくなるから。
 それ出そうか」


ふぅん、そんないいお薬あるんだ

ニコニコ「ありがとうございます。でも大丈夫です」



真顔「じゃあ結果いこう。
 ほいこさんは
 摘出した画像は見たくない派だっけ」

プンプン「見たくない派です。
 でももしかしてこの画面下にチラリと見えてるの
 これ私の画像ですか?これなら大丈夫かも」

血みどろの凄いグロテスクなの想像してたけど
違って
意外にも(血液の)赤い色してない

これなら見ても大丈夫そう



真顔「そう?
 大丈夫なら一緒に見ながら説明します」


先生は画像を指して詳しく説明しながら
いよいよ病理結果、告知


真顔「~なので、治療なし。
 抗がん剤ホルモン治療放射線
 ほいこさんの場合、全て必要ありません。
 まぁ今後は経過観察ってやつね」

キョロキョロ「治療なし。なし?」

ニヤニヤ「ああお傷は診せてもらう。
 今日でさよならじゃあないよ。
 治療はなし。ほいこさんは無治療。
 お傷見せにあと何回か来てもらうだけ。
 次、いつにする?2週間後とか。1ヶ月後でも
 ほいこさんの好きな日でいいよ」


ポワンと夢心地


キョロキョロ「じゃあ1ヶ月後で」

と、言ってみる


真顔「1ヶ月後ね、時間どうする?」


まだポワンの中

キョロキョロ「じゃあ午前中で」

と、答えてみた


真顔「1ヶ月後午前中ね、予約OK!
 何か質問ある?」

キョロキョロ「先生あの、、、
 治療なしということは
 無治療で
 傷口見せて
 あと経過観察、ということですか」

ばかな質問
それさっき先生が全部言ったことよ


真顔「そう。傷口診て、あとはそうだな
 やることないから、、、
 じゃあ世間話でもする?」




非浸潤がん

手術の術式:
全摘術
センチネルリンパ節生検術
再建術なし

病理:
リンパ節転移なし。
エストロゲン受容体0%
プロゲステロン受容体0%
リンパ菅浸潤
整脈浸潤
切除断端
全て陰性。
細胞・組織の悪性度(グレード)
判定不可。

結果:
治療の必要なし



先生はいつものように
やはり疲れた顔は見せずに
淡々と分かり易く詳細説明してくれました

先生の向こうで
いつも厳格なオーラを漂わせてる看護師さんが
万遍の笑顔で何度も頷いて私を見つめてた





その翌日、
いつもの仲間が集まってくれた

一通り報告し終わって
一頻り安堵した後
一人が言った

 「今だから聞くけど、、、
 ほいこは自信があったの?
 だからずっと気丈でいられたの?
 でも本当は違うでしょ
 誰にも見せない弱気とか辛い時
 本当はあったんでしょう」


照れ「みんなに見せてたまま。
 本当にそう。それが全部。見栄も嘘もない

 家族、みんなには心配かけちゃったけど
 本当にありがとう本当に感謝してます

 じゃあ今だから言うけど、、、
 私、生きることに対して
 あんまり執着がないのかもしれない。
 だから 絶対生き抜いてみせる! とかもないし

 悲観したり

 不安とか

 落ち込んで眠れないとか

 そういうの本当になかった


 家族も手術後

 ほいこよく頑張った!って言ってくれたけど

 私は麻酔で寝てただけ。何も頑張ってない


 前にも話したけど、

 手術痕をはじめて見た時

 覚悟してた想像とあまりに違って

 あまりにきれいで感動しちゃって

 主治医の施術が処置が

 その丁寧さが全部先生を物語ってて

 有難くて

 それは本当に泣いた


 親しかった先輩方が抗がん剤で苦しむのを
 たくさん見て聞いてきた。
 たくさん泣いてきた。
 だからもし私自身そうなったら、を考えてきた。
 その頃から漠然と

 そのせいか、実際乳がんの告知を受けて
 まさか自分が、とは思わなかった。
 帰り道も冷静。
 買物とか普通にしたし食べたし眠れたし

 全摘・再建なしはインスピレーション。

 主治医に何回も何回も何回も確認されたけど

 即決して揺らぐ事は1回もなかった。
 今も何も後悔してない

 信頼出来る主治医に出会えたのは大きかった。
 先生が言う通りの治療はしてみようと思ってた。
 やってみて、
 もしあまりに辛くて耐えられそうになかったら
 止めればいいやって。
 そうなったらそれ以上はしないつもりだった。
 それで助からなくなったとしても。
 今までそれなりに生きてきて
 充分幸せで、
 自分が決めてきたことに何も後悔ない。
 愛した人は空で待ってる。
 だからやるだけはやってみる。
 それでもう無理だと思ったなら、
 その時自分で決めればいい。
 それでいいと思った。

 髪が抜けたらカワイイ帽子編んでもらって
 ウィッグはどうしようとか
 今ある服似合わなくなるのかなとか
 今後の生活とか
 そういうのは結構いろいろ考えた

 あ、そういえば、、、
 昨日先生に会ってからズキっがしてない。
 人間の身体ってほんと不思議~」








乳がんの告知を受けて
主治医から受けた説明と
手渡された手引きのような冊子に
軽く目を通した以外
ほとんど検索などしないで
がんについて敢えて不勉強でいました

自分に関することは主治医がいる
それ以外のことで
自分で自分に不安を煽るようなことは避けようと

諸先輩方の闘病を近くで多く見てきて
がん=抗がん剤
のイメージだけは強くありました

術後、無治療のケースがあるということは
全く私の中になくて

というか、知りませんでした


いまもし、まだ何も決定していない段階で
不安の中にいる方がここに来てくださって
無治療になった人もいるんだと、
知っていただけたらと思います


無治療だからといって
この先どうなるかなんてわかりません

なので、
毎日をあたりまえに思うことなく
自分を大切にしながらもっと愛そうと思いますし
病に向き合っている
あらゆるすべての方を心から応援します


来てくれて
ありがとうございました