映画感想「ボヴァリー夫人とパン屋」(再掲載) | 大TOKYOしみじみ散歩日記

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お独り様となった50路男の、ぶらぶらノンビリンの東京物語

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そして大切な母ちゃんとの想い出も時おり混ぜ合わせて

書き留めてゆきたいなと、思います


『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014)


フランス、ノルマンディー地方
小さな村で父親の跡を継ぎ、パン屋を営むマルタン
かつては都会で硬い内容の本を出した事もあると語る彼の現在の楽しみは

フローベルの(ボヴァリー夫人)を読み返す事

しっかりものの妻と、何を考えてるか分からない呑気そうな息子と暮らしながらマルタンは
時おり、想像とも妄想ともつかない想いを馳せる事で、単調な日常をやり過ごしていたのです

そんなある日、自宅の側の空き家へ

イギリスから夫婦が越してきます

チャーリーとジェマは直ぐにマルタンとも打ち解けて、彼の店にも買い物に来てくれる仲に


けれど、この時からマルタンの心はざわつきます
美しく艶やかなジェマの姿に

彼はボヴァリー夫人を重ね合わせ始めていました
なにしろ、夫婦の姓が(ボヴァリー)では、もう彼の妄想を止める手立ては無かったのです

しかも
仕事で忙しいチャーリーのいない時に
ジェマは

法律の勉強にと避暑に来ていた青年と関係を持ってしまい
それをマルタンは知ってしまったのでした

ダメだダメだダメだ!
このままではジェマは本当に(ボヴァリー夫人)のように不幸になってしまう!

そう思い詰めた彼は、ある行動を起こします……


面白かったです

主人公のマルタンは16才でフローベルの原作を読んだと言っていました
私も大体そのくらいで読みましたが、マルタンほどには入れ込まなかったな

巧いなと感じるのはマルタンを主人公にしながら決してジェマのプライベートに深入りさせない展開で
彼はもうひたすら、悶々としながら前半はボヴァリー夫婦の行く末を見守るのですね

下心が全く無いわけではないのに、そこを抑制して人妻と打ち解けてゆく至福に酔うマルタンの姿は

ユニークさと同時に、私くらいの年齢の男達なら心のどこかにしまい混んでいる(危険大好き)な感情を呼び醒まされた人も、現れるかもしれません

想像・妄想をしていたマルタンの前に繰り広げられるリアルな人間ドラマは
逆に生々しく私たちに迫ってきて、歓迎しきれない怖さすら匂わせてクライマックスへと雪崩れ込みます

フランス映画らしいアンニュイな空気がピタリと映像にマッチして

素敵な大人の映画です
(2017.8.17より転載)