前回のお話↑


 決断マスターなるべく海外一人旅へ


そんな中で、自分の決断力をさらに鍛えていくために、私はアブダビ一人旅を決行する。


きっかけは「40歳になった節目に」ということだったけれど、もっと決断力を上げて、堂々と世界の人と渡り合えるメンタルを持ちたいという野心を秘めていた。より大きな器の人間にならなければ、会社と私の未来、両方を動かしていくことはできないと思ったのだ。その頃には意識的にもはっきりと決断マスターになろうと目指していた。

 

と言っても、誕生日だし、本当はもっと気楽に楽しくワイワイと旅行に行きたかったというのが本音。でも、残念ながら一緒に行ってくれる人がいなかった。元々アラビアンな雰囲気の国が大好きだったので、ここは40歳記念に思い切って行ってみようと思ったのだけど、「イスラム圏に行くのが怖い」と言って誰も付いてきてくれなかった。

仕方がないから一人で行くことにして、行き先を練り直した。本当は昔から憧れのトルコやモロッコに行きたいところだけど、女一人で強烈な客引きに立ち向かえるかは自分でも不安だった。そして、イスラム圏で外国人女性が狙われる事件は確かに多い。

 

私は悩んだ末に、イスラム圏でも比較的安全なUAEに行くことにした。お金持ちが集まるドバイでは強烈な客引きはいなさそうだし、アブダビには世にも美しいグランドモスクがある。ドバイはパリピ感があるのでちょっと好みとは違う気もするけれど、グランドモスクは一生に一度は行ってみたいと思っていた場所だ。よし、グランドモスクを第一目的としたアブダビ発着の旅にしよう。そんなこんなで、私は行き先をUAEに決めたのだった。


アブダビのグランドモスク


 

 次々と試される決断力


中身は永遠に子供である私が、決断マスターを目指して、鎧を何枚も装着しながら決行したアブダビ一人旅。確かに始めから決断の連続だった。


出発する少し前に中東の別の国でテロ組織がモスクを攻撃するという事件が起こり、義母には「本当に行くの?」と大変心配された。だもんだから、外務省から「武装勢力がアブダビにミサイルを発射する声明を出した」というメールが来たことは誰にも言わなかった。ちなみに、そのメールには「過去にも同じような声明が何度も出されているが、実際にミサイルが発射されたことは一度もない」と追記されてあって、「起こらないとは思うけど可能性はゼロじゃないから自己責任で行ってね」という意味だなと思った。


不安にはなるけれど、それが行かない理由にはならないなと思っていたら、出発数日前に夫から風邪をもらってしまった。この数日で絶対に治すぞと心に決めたものの、結局風邪は治らず最悪のコンディションで出発することになってしまった。夜になると咳がひどくなり、機内とホテルではずっと咳をしていた。コロナ前だったからまだ大丈夫だったけれど、コロナ後だったら追い出されていたんじゃなかろうかと思うくらい、ひどい状態だった。


 

 どこまで行っても孤独


振り返ってみれば、この頃の私はずいぶん自分に厳しかったなぁと思う。

藻掻いて藻掻いて自信を失っては、何かにチャレンジをして自信を取り戻そうとする。そんな抵抗を繰り返していた。表向きには華やかなチャレンジをしているようで、自分が欠けているから上手くいかないんだと、ずっと自分を責めていた。絶対埋もれてなるものかと必死だった。

 

海外一人旅なんて私の性格上本当は寂しくて寂しくて楽しいはずがないのに、一人で楽しめるような人間になろうと無理をしていた。チャレンジ精神もさることながら、趣味嗜好の部分でも仲間となる人が身近に見つからず、何をするにしても私は結局一人だった。


一体どこに行けば仲間に出会えるのだろうか。

ドバイの宿泊先のホテルのめっちゃムーディーなプールバーで、西洋人カップルに囲まれながら、可愛いピンク色のカクテルを手にして、私は一人そんなことを思っていた。せめて酔えれば良かったのだけれど、ダイエットで食事改善をした私はアルコールがほとんど受け付けない体になっていて、その一杯すら飲み干すことができなかった。そして、またしても咳が悪化してきて早々にプールバーから退散したのだった。


実際の写真キメてる

 



果たして孤独な旅人は異国の地で決断マスターになれたのか。

実際のところは分からない。なにしろ、UAEの旅は風邪と寂しさで散々だったので、正直楽しい感覚は少なかった。第一目的のグランドモスクは確かに美しかったけれど、自分は豪華さよりももっと歴史を感じるモスクの方が好きなんだなということが分かり、帰りのアブダビ空港までのタクシーでは運転手さんに「なんで一人で来たの?」と、友達いないの?的なニュアンスで言われ、上手く答えられずにいたら「日本人って英語喋れないんだね(もういいよ)」と一蹴された。全く以て堂々とは渡り合えていない。



夜のグランドモスク。この後、タクシー乗車拒否される泣き笑い



 

それでも、この年の私のフットワークは飛び抜けて軽くなった。月に一度は東京に行き、新しい情報を吸収したり、ネット上で「この人に会ってみたい」と思った人に約束を取り付け、ハワイまで会いに行ったりもした。ついでに古希を迎えた母を一緒に連れて行ったら大変喜ばれた。裏方以外の仕事もちょこちょこ作ったりしていた。

よし、この勢いで進んでいけば何か突破できるかもしれないと希望を感じていた矢先、始まったのが新型コロナウイルスの流行だった。ディスタンスできない美容室を運営する者としては責任の重さが跳ね上がり、またしても私は自分のことに集中できなくなるのである。


《つづく》