明日15日(日)14時~のヤマハ銀座店でのサロンコンサートにあたり、演奏曲の解説文を公開いたします。
コンサート前にお読み頂けましたら嬉しいです!

コンサート情報 はこちらをご覧ください。
http://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/event/igaayumi__salon_concert_20160515.html

~コンサートに寄せて~

コンサートを行うにあたり、ソロ・連弾・室内楽のすべてのジャンルを同等に弾いていきたいという想いから、ベートーヴェンのそれぞれのジャンルからセレクトすることにしました。作品番号順に作曲家の生涯を追っていくのが通常の流れですが、プログラムの最後にヴァイオリン・ソナタの深い精神性と、「不滅の恋人への手紙」を書いた年に書かれた作品としての演出を施したく、この順番にしました。ベートーヴェン晩年の境地、時代を越えた人類へのメッセージを感じて頂ければ幸いです。 <伊賀あゆみ>

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ベートーヴェンとアントーニア、「不滅の恋人への手紙」の直筆


~曲目解説~ 
「不滅の恋人」こそ、今回のプログラム3曲を結びつけるキーワードとなる。「不滅の恋人への手紙」とは、1812年7月にベートーヴェン(1770~1827年)が書いた手紙で、彼の死の翌日秘密の場所から発見され、名宛人不詳のため、文中で使われる「わが不滅の恋人よ」からとって、上記のようによばれている。「不滅の恋人」が誰であるかは諸説あるが、私はアントーニア説に賛同している。

ベートーヴェンが40歳の1810年に、夫と4人の子供を持つ母親でもあるアントーニア・ブレンターノと知り合う。家族ぐるみの付き合いで、とりわけ長女のマクシミリアーネをかわいがっていたという。病気がちなアントーニアのために、ベートーヴェンは慰めの音楽を弾き、やがて無言で帰っていった。こうして2人のあいだに「やさしい友情」が育っていったのだと、40年後に彼女は語っている。

「私の天使、私のすべて、私自身よ。」で始まり、「永遠にあなたの、永遠に私の、永遠に私たちの」で終わる熱烈なラブレター(「不滅の恋人への手紙」)を書くも、結局はアントーニアと一緒に暮らすという夢は絶たれてしまう。当時の心境は、彼の日記にも残されている。「服従、おまえの運命への心底からの服従!それのみがおまえに、奉仕としての……犠牲を負わせうるのだ。おお、きびしいたたかい!……おまえは自分のためだけの人間であってはならない。おまえの芸術の中以外に幸福はない。おお神よ、自分に打ちかつ力を与えたまえ。―このようにして、
A(アントーニア)とのことはすべて瓦解してしまった…。」

手紙から8年後に、「ピアノ・ソナタ30番作品109」が書かれる。この曲で、ベートーヴェンは新しい側面を示した。見かけの美しさだけでなく、精神的なものとなり、一層透明感が増している。優雅さと明るさは一種の成熟を遂げており、懐かしい過去への回想となっている。 第3楽章では、1817年に書かれたアントーニアへの告白のような連作歌曲集「遥かなる恋人によせる」の旋律が一部用いられている。また、アントーニアの頭文字であるA(ラ)音に注目して作品を聴くことで、その想いをより感じることができる。この作品は、既婚者であるアントーニアを気遣い、娘のマキシミリアーネに献呈された。(ロマン・ロランは「ブレンターノのソナタ」と名付けている。)


ベートーヴェンは若い頃から散歩好きであった。耳の障害や、不滅の恋人との別れの後では、自然の中にいることが何よりもの慰めになったのではないだろうか。彼が9番目の交響曲を書こうとした時、もはや従来のスタイルには収まらなくなり、合唱付きの「交響曲第9番作品125」が生まれたのである。第4楽章で歌われるベートーヴェンが感銘を受けたシラーの詩「歓喜に寄す」では、自由と平等、人類、自然への愛が高らかに歌われているが、不滅の恋人への想いも見てとれる。(詩に登場する「天使」や「娘」という言葉は、「不滅の恋人」と重ねているのではないか。「不滅の恋人への手紙」では、彼女を「天使」とも呼んでいる。)また、ベートーヴェンはシラーの詩から抜粋し順番を入れ替えることで、単なる詩の引用でなく自身の言葉にしていった。

本来は、オーケストラと合唱による100人ほどの大編成で演奏される曲だが、4本の手で演奏可能にしたのが、フランスの作曲家アンリ・ラヴィーナである。ショパンと同時期に活躍したラヴィーナは「第九」をピアノ連弾に編曲し、楽譜は1875年に出版された。しかし、その後すぐ絶版となり、現在では幻の楽譜となっている。録音も存在しない大変珍しい楽譜であるが、運よく私たちの手に入ったということに運命的なものを感じる。コンサートでは、第4楽章の208小節目から演奏する。

ラヴィーナ ベートーヴェン 交響曲 連弾 
ラヴィーナ連弾編曲のベートーヴェン「交響曲第9番」の初版(1875年)


歌詞はドイツ語でなくフランス語で書かれている。


後半の「ヴァイオリン・ソナタ第10番作品96」は、1812年12月に完成されたが、第1楽章のみ、正確な作曲年代が分かっていない。第10番がベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの最後の作品となるが、第9番「クロイツェル・ソナタ」が書かれてから10年近く経って誕生した作品である。フランスのヴァイオリニスト、ピエール・ロードの依頼を受け書かれた。ヴァイオリンとピアノがとても親密に書かれており、二重奏の様式としてはこれまでの作風と大きくかけはなれている。全4楽章から成り、第4楽章は変奏曲で書かれている。その主題は、ヨハン・アダム・ヒラーのオペレッタ「愉快な靴屋」からの引用とも言われている。「ピアノ・ソナタ作品109」、「第九」と苦難を乗り越えた作品の後の演奏となるが、ベートーヴェンの繊細で、限られた一部の人にしか見せることがなかった心の内側、不滅の恋人との満たされた時間に想いを馳せながら聴いて頂きたい。

「音楽こそは、人間を包んでいて、しかも人間にはとらえがたい知識の、より高い世界に達するための唯一の入り口であり、形のない入口である。……精神が感覚を通して音楽から受けるものは、つまり具象化した精神的啓示なのです。」(L.v. ベートーヴェン)

<解説:伊賀あゆみ>



おお友よ!こんなコーヒーではない!豆は60粒を数えようではないか、もっと香りあふれる風味で!

明日のオール・ベートーヴェンを前に、ベートーヴェン流に珈琲を煎れてみました。

ベートーヴェンが好んだ深い香りたつよな演奏を目指します!会場でお会いできること楽しみにしております!!