油のついた手で香水のビンをつかんだから、
夫の手からそれはこぼれた。
家中に広がる強い香水の匂い。
”こうなる運命だったんだね・・・”と彼は言い訳をした。
俺が病気になったのは、お前のせいだと言ったこともあったよね。
母の糖尿病はそんなにひどくないらしい。
それでも治らない体の不調。
異常なしの診断は彼女を余計に不安に陥れる。
日本人の女医は言った。
更年期障害ですよ。
日本では一般に知られているそれが、母たちには初耳のようだった。
母より年長の女医は教えた。
体重を減らすための運動を。
母はそれがうれしくて、ありがとうを繰り返した。
けれど、母がその運動をすることは一度もなかった。
母は突然泣き出した。
周囲のものはおろおろした。
母の望むとおり、嫁いだ娘の家に住まわせることにした。
数日後、母は再び大泣きした。
家に帰りたいと。
住む場所の問題なんかじゃないってことに、
誰も気がつかないのかな?
彼女の心の中にこそ平安がないってことに。
体調不良の彼女はラマダーン月の断食をやっぱりあきらめない。
ソシテ ワタシタチハ カノジョニ フリマワサレル。