電話の彼女の声には力があった。
子供を連れ去られた彼女はこうも言った。
”(元夫は)悪意があってした事じゃないから・・・”
そうだね。
彼女は受け入れようとしているようだったし、
子供が帰ってくることへの期待だって捨てていない。
まるで子供が無邪気に、計画性もなしに、周囲を困らせてしまうようなことだものね。
私たちの会話は始終明るい調子だった。
でも、ひとりになった私の中で言葉が渦巻く。
悪意がなかったら、いいのかな?
人を苦しめちゃっていいのかな?
許せる側がいつも許しちゃうから、こうなっちゃったんじゃないのかな?
許してしまう側にはそんなに余裕があるわけじゃないのに。
まともにダメージを受けて、それをなかったことのようにしなければならないなんて。
風邪で寝込んだ夕方に
インスタント珈琲が飲みたくなった。
台所には今朝の残りのミルクティーがそのままだったけれど。
少量のお湯を沸かして、
出来上がったキャラメル色のコーヒーは、
病んだ身体においしかった。