まさかね~
ぐうたらの私にこんな力があったなんて。
夕方の電話一本で、
私は着替えるのももどかしく、
いつものスーパーに行く格好で、ベタ靴をはいて、
yahooで検索した路線図を片手に、
彼女の携帯番号を殴り書きした銀行の封筒だけは、
忘れてはならないと肝に命じ、
自転車に乗って、20分に一本しか電車が来ない駅に向かって急いでた。
こんな田舎町なのに、はじめて行く他県のその大都市には、たった一度の乗り継ぎで行けるなんて。
私ははじめて、このバカ高い鉄道のことをほめてあげたのだった。
時間帯もラッキーで都心から来る電車はそれなりに人を運んでいたけれど、
私は家にはないクーラーの効いた、ゆったり車内でくつろぎながら・・・ドキドキしてた。
だって、彼女に会うのは初めてだもの。
お友達の紹介で知り合った彼女。
でも肝心のお友達は彼女に会ったことは残念ながら1度もない。
ネットの時代だというのに、同じ世代の彼女と私のやり取りは、遅々として進まなかった。
だから、遠いところに住む彼女が帰ってしまったら、
再会までには何年もかかってしまうかもしれないんだもの。
だから、きっと、その思いが私を突き動かした。
電車に乗ってから気がついた。
長い車中に読むべき本を持ってくることを。
しまった!と思ったけれどね、そんなの必要なかったよ。
ドキドキしっぱなしだったから。
本を読む余裕なんてなかったからね。
一時間半の道中は、無事にたどり着けるのか。初対面に成功するのか。
頭の中は休むことなく緊張してた。
せっかくの大都市なのにこんな格好で電車に乗り込んだ自分を、後悔する余裕は生まれたのだけれど。
2人きりのオフ会を無事に終え、
帰り道を急ぐ私。
地下街に下りて、目についたガードマンに立ち止まらずに声をかけた。
『駅はどっちですか』
彼があわてる私を心配して大声でゆっくり指示してくれた。
『とにかく、真っ直ぐ行きなさい』
関東に住んでいるというのに、まったくのおのぼりさん状態だった私は、
恥も外聞もなくとにかく走った。
だって、駅員さんに教えてもらった帰りの電車の時間に間に合わなかったら、どうしよう!ってことで頭がいっぱいだったから。
ベタ靴を履いていたことに感謝した。
慣れないサンダルなんて履いてたら、主婦の私は挫折してただろうから。
3分前、私は駅員さんに教えられたホームに立っていた。
出会えた余韻をかみしめながら、
ほって置いて来てしまった子供に電話を入れる。
ちょっとした冒険だった。
とんぼ返りのようにあわただしかったけれどね。
凝縮された出会いはそれはそれで満足だった。
夫がいないからできたこと。
帰宅したのは午後11時をすぎたぐらい。
こんなに遅い帰宅は主婦になってはじめてかもしれない。
深夜だというのに、街は起きているんだね。
私の目は好奇心でいっぱいだった。