土曜日に

視力を失って2ヶ月経った、彼女に会った。

ご夫婦が息子を亡くしてから、3ヶ月。


来日して、翌日の彼女は、I と共に病院に行っていた。

彼女の手術をしたパキスタンの医師の技術はすばらしかったそうだ。

訪れた病院の医師は驚いたという。

彼女の脳の手術はとても危険で、最悪は命を失う危険もあったし、あるいは寝たきりになることだってありえるほどのむずかしい手術だったらしい。

けれど彼女の視力に関しては、

治療のしようがないということだった。

視神経の問題らしい。

自然に回復するかもしれないし,しないかもしれない。


それでも、I はあきらめず、彼女の検査をしてくれる病院を見つけたらしい。

日本に彼女を呼んだのは、彼女の視力を取り戻すためだと、私は今思っている。


先日市役所へ出かける用事があった。

私にできること・・・

障害福祉課を訪れて、彼女の受けることの福祉について聞いてみようと思ったから。


出掛けに夫に聞いた。

「彼女の名前なんだっけ?」

私は彼女を名前で呼んだことはない。

だから、うろ覚えの名前が間違っているのではないのかとちょっと心配になったから。

夫が口をすべらした。

「○○○ちゃん」

はぁ~~~~~~?という顔をする私に彼はあわてて言い直した。

「○○○だと思うよ・・・」

I の若くてかわいい奥さんをチャンをつけて呼んだ夫を

少しの嫉妬とあきれた視線で私は射った。


私にはチャンをつけて呼んだことなんてあったけ???っていうことではなくって、


ああ・・・・パキスタンの男は(I とかうちの夫のような横暴なタイプの男という意味)こういう女性が好きなんだろうな・・・・って。


だって、

彼女はまるで人形のようだもの。

彼女の意思がどこにも感じられない人だから。


子供を亡くした時も、狂ったように泣くわけではなく、どうしようもない大きな不幸の中に、抗うことなく悲しみに沈んでいただけだった。

静かに痛々しく呆然と泣いていた。


視力を失ってしまったなんて可哀想過ぎるぐらいの大きな瞳を長いまつげを彼女。

視力を失ってすぐの彼女が取り乱したのか、わめいたのかそんなことは知らないけれど、

彼女は淡々と、たまにふと見せる悲しい表情はあるものの、いつもやさしく微笑んでいる感じ。


とってもおとなしい彼女だから、

彼女にお水の入ったコップを差し出したら、

彼女は何回にも分けながら、コップの水を空にした。

そんなに一度に飲むことないのに・・・・と傍らで戸惑ってしまった私。

「もういらない」って言えなかったんだよね、彼女・・・

私の手を煩わせたくないと思ったんだろうね。

だから、食後の紅茶だって、彼女は飲み干すまで手からカップを離さなかった。


ある意味、本当の意味で、彼女は強い人なんだと思う。

自分の受けた不幸をアッラーから来たものだから・・・と受け入れる姿勢。

大きな流れに身を任せてる。

弱く見えて、実は強いと思ったよ。


でも、

私はそうではない。


あがいてる、もがいてる、苦しんで、不満をぶちまけてる。


見苦しいんだけれど、

私はそんな自分が好き。


きっと私が彼女のようになれたら、夫は喜ぶと思うんだろうけれど、でもそうは問屋がおろさないヨ。

だって、私には私の意志があるから。


夫が怖くって、夫の言いなりなっていた私。

傍から見たら、それこそ彼女のようなお人形さんだったかもしれないけれど、

言えなかった恨みがどろどろに渦巻いていたんだから。

そこいらのお人形さんとはわけが違うの。


彼女の生き方を批判するつもりなんて全然ない。

夫の家族の女王さまを思い出した。

けっこう女王さまも苦しんでるんじゃないのかな?

お人形さんもありだけれど、女王さまあり・・・なんだ・・・。



そして、

罪深くて、往生際の悪い私なんだけれど、


私は、私が好き。